―― 南部重工川崎造船所 ――
「今さらだけどもよ、だいぶ尻(ケツ)デカになったな。我らがフネは」
新調された乗艦『カミカゼ』を目にした嶋津冴子は、大きく息をついてからポツリと呟いた。
「‥‥‥‥」
嶋津と共にこの場に来た大村耕作以下の『カミカゼ』クルーは言葉こそ発しなかったが、内心の感想は大同小異なのか、艦長(リーダー)の言葉にツッコむ者はいなかった。
目の前に鎮座する『カミカゼ』は、艦体の前端から中央部より少し後ろまでは
「
嶋津の隣から聞きなれた男の声が聞こえる。
「大山‥‥」
大山こと、大山敏郎技術一尉は『カミカゼ』を見上げながら、徹夜続きとは思えない張りのある声で説明を始めた。
「ワープ機能の省略など、可能な限り簡易化したとはいえ、これ以上小型化すると整備性が悪くなっちまうんだ」
「やはりな」
嶋津たちは頷く。
小型化は確かに重要だが、それ以上に肝心なのは、武人の蛮用に耐えうる頑丈さと保守(メンテナンス)の容易さだ。
「とはいえ、波動エンジンの効用は大きい。余剰エネルギーを間接防御やフェザー砲の火力向上に振り向けられるようになるし、推進剤タンクが不要になったから、空いたスペースを防御区画や居住性改善に振り向けられる。
今回の改装は時間がなかったので、主に防御区画と食糧庫・清水槽にした」
「‥‥という事は、飯と水は前よりは良くなると思っていいのか?」
「ああ。どのみちいずれは外惑星圏まで
「今より良くなる分には大歓迎さ」
軽口を叩き合いながら、嶋津たち『カミカゼ』クルーは面目一新した乗艦に乗り込んでいった。
―― 艦橋 ――
艦橋の配置に大きな違いはないが、機器・計器はかなり更新されていた。
特に機関部関係は、波動機関への換装によってほぼ一新されていた。
長岡機関長は機関員を引き連れて機関室に向かう。
「艦長、自分らは機関室に行きます」
「発進は予定どおりだ。頼むよ」
『ヤマト』同様、『カミカゼ』ら改装艦も即日同然の戦力化を求められていた。
しかも、全くの新型艦で実戦経験ゼロの者も少なからず乗っている『ヤマト』が、ぶっつけ本番で波動機関起動から出撃まで一気にこなしたため、後に続く『カミカゼ』ら改装艦も、竣工即進宙はもはや既定路線だった。
故に、
「波動エンジン始動後、『カミカゼ』は直ちに発進、試運転を兼ねて訓練宙域に向かう。総員、船外服着用後配置につけ!」
「はっ!!」
嶋津は艦長席につくや開口一番で告げ、乗組員は各々の配置につき、『カミカゼ』は波動機関起動シークエンスに入った。
船外服着用は不測の事態への保険だ。
造船所の照明が次々と落とされていく。
波動機関起動までは造船所から供給される電力で『カミカゼ』の機能は維持される。
問題は波動機関自体が動き出す時の事だ。
波動機関は始動する時に大量の電力が要る。『ヤマト』の時は日本全域を停電にさせてまで確保した電力でも到底足らず、文字通り全世界を停電させて電力を工面し、ようやく起動→発進にこぎ着けた。
その後、発電用波動機関が設置され始め、電力事情は改善されつつあるが、それでもまだまだ十分とは言えない。
『カミカゼ』等、波動機関搭載の艦船第2陣が竣工したのはその時だ。
これらの艦船は『ヤマト』よりかなり小型なので、始動に要する電力はだいぶ少なくて済むのだが‥‥。
「造船所側の停電準備完了!」
「川崎市全域停電準備完了!」
小型艦用波動機関の始動すら、一般市民を巻き込まないと電力を確保できない状態だった。
何としても一発で始動させなければならない。
「協力停電開始1分前!」
「波動エンジン始動1分前!」
「艦内各部異状なし!」
「艦外各部異状なし!」
カウントダウンが進むにつれ、造船所構内の照明が次々と落とされていく。
「艦外作業員待避完了!」
造船所側の作業員も詰所へ一時待避した。
そして
「市全域の停電開始!」
「ん!‥‥機関長!」
造船所のみならず、川崎市全域の協力停電が始まった。
嶋津は頷き、機関長を見る。
「波動エンジン始動!」
「了解、波動エンジン始動!‥‥フライホイール接続!‥‥室圧70‥‥90‥‥100‥‥エネルギーレベル120%!」
ブリッジクルーは足元から小刻みな振動を感じ取る。
「波動エンジン回転数良好。発進準備完了!」
「よし、離昇場まで移動」
大村からの報告に、嶋津は頷きながら艦の前身を命じた。
『カミカゼ』を含む突撃駆逐艦は、艦底格納式の
『カミカゼ』はゆっくりと離昇場へと移動していく。
地上が汚染されているため、地下基地発着になった地球の艦船は離昇場へ移動してから浮上し発進していく。
「離昇場に到着しました」
「全システム異状なし!」
「地上への扉、全て開放!」
準備は整った。嶋津は艦長席から立ち上がるや号令した。
「離昇‥‥『カミカゼ』発進!」