13.ネズミ? ガンバ??
『我らが愛すべき農耕馬が、駿馬に生まれ変わったぞ‥‥!』
“改”21881式突撃駆逐艦『バシリスク』の公試運転を終えた、イギリス宇宙軍所属のマルセフという駆逐艦長が、帰還後言葉を震わせながら語った一言こそが全てを物語った。
日頃はあまり感情を表に出さない彼だからこそ、その一言が重みを持ったのだ。
ちなみに、数時間前に同じ改装を施された同型艦『カミカゼ』を指揮した、日本宇宙自衛隊所属の若き女性駆逐艦長は
『タマゴタケ、変じてタマゴテングタケ』
とのたまった。
苦笑しつつ、その心は?と問い返した副長に、件の艦長 ――嶋津冴子―― は、
『見た目はよーく似ているが、片や旨い、片や猛毒』
と応じたという。
‥‥両者のコメントの差異はさておき、生まれ変わった乗艦に満足し、期待を持った事には変わりなかった。
機関出力の大幅アップは加速力と最大速力を向上させ、余剰エネルギーによる波動防壁も使えるようになった。
また、従来なら牽制にすらならなかったフェザー砲が、残骸とはいえガミラス艦の外部装甲を切り刻む事も確認された。
これで、雷撃のみならず砲撃でもガミラス艦に脅威になり得る事を示し、関係者は愁眉を開く事ができた。
ともあれ、強化改装艦は、戦艦1・巡洋艦1・駆逐艦6の8隻で、この8隻で国連宇宙軍は第2艦隊を再編した。
戦艦『フソウ』(2200年1月以降竣工予定)
巡洋艦『スラヴァ』
駆逐艦『カミカゼ』『J・G・エバーツ』『ニウエ』『バシリスク』『スルタン・イスカンダル・ムダ』『シロッコ』
ちなみに艦の所属は以下のとおり。
北米:『J・G・エバーツ』
欧州:『Z86』『バシリスク』『シロッコ』
ロシア:『スラヴァ』
極東:『フソウ』『カミカゼ』『スルタン・I・ムダ』
オセアニア:『ニウエ』
但し、2199年中に波動推進化された艦は『フソウ』を除く7隻に留まった。
というのも、残る資材は最初から波動推進を前提とした新型戦闘艦の第1次建造に充当されたからで、それ以上の資材、特に波動エンジンに不可欠なコスモナイトは、土星圏~海王星圏の衛星でないと入手できなかったからだが、そのためには土星圏の制宙権を奪回しなければならなかった。
しかし、それには障害となる存在、太陽系外惑星系に約10隻程度残存していると推定される残存ガミラス艦船があった。
『ヤマト』との戦闘で一大根拠地の冥王星基地が失われ、旗艦爆沈で派遣部隊司令部も壊滅したと推定され、統一した指揮系統は失われたようだったが、“本国”からの増援がいつ行われるかわからないため、速やかに土星圏までのルートは確保しておかなけばならず、新生第2艦隊は1日も早い戦力化が期待された。
そのため第2艦隊は、司令官に留任した鬼竜こと土方 竜の元、ガミラスの侵入が確認されていない水星~金星圏で、12月から翌2200年1月上旬まで、断続的だが厳しい訓練を行った。
全てはささやかなる反攻のために――。
――2200年1月、新横須賀市、国連宇宙軍・宇宙自衛隊横須賀基地――
「艦長、作戦の名称が決まりました」
「そうかい」
乗艦『カミカゼ』整備の打ち合わせを行っている嶋津に、副長兼航海長の大村耕作が歩み寄ってきた。
「‥‥で、何と?」
本来、作戦名自体に関心を持たない嶋津があえて聞き返したのには訳があった。
今次作戦は『ヤマト』によるガミラス冥王星基地殲滅に続く、国連宇宙軍による反攻の鍵を握るものだった。
年明けと同時に、波動機関搭載を前提とした小型戦闘艦の建造が始まっていたのだが、地球に残された資材では4隻分がやっとで、以降の事を考えると、他の惑星系の鉱物資源の確保が不可欠になっていた。
特に波動機関の本体や配管に適している『コスモナイト』系金属鉱物は、土星圏の一部衛星に埋蔵されているものが最高品質とみなされており、艦船や発電プラント用波動機関の増備には、土星圏のコスモナイト採掘と還送が絶対条件だった。
それほどに重要な作戦ゆえ、これまでと同じような作戦名では気運が盛り上がらないと判断した国連宇宙軍は、内部で作戦コードネームを“公募”したが、嶋津はそれに応じていたのだ。
『走れ!ガンバ作戦』
で‥‥。
艦長の問いに対し、副長は至って事務的に
「ミッキーマ○ス作戦です」
とだけ答えた。
「‥‥あ、そ‥‥」
嶋津は作戦名に対する論評はしなかったが、軽い溜め息と共に肩を竦め、空間魚雷を搭載定数以上確保するよう大村に告げ、さらに呟いた。
「‥‥知名度は問題ないだろうけど、著作権者がうるせーだろうなぁ‥‥」
“ガンバ”は、著作権者が日本国内に存在するからすぐ交渉できるだろうが、ミッキー○ウスは著作権に対する認識が厳格なアメリカのキャラクターだ。事前にちゃんと話がつけられればいいがと嶋津は懸念したのだ。
ちなみに、ミ○キーマウスを提案したのは極東軍管区司令部(東京市ヶ谷)勤務の女性下士官で、ネーングの理由を訊かれた時、
『太平洋戦争当時の“トーキョー・エクスプレス”にちなみました。鼠輸送ではセンスが化石じみていると思いまして』
と答えた。
一方、嶋津も鼠輸送ではセンス皆無と考えたらしく、
『ガンバなら前向きだと思って』
と答えたという。
この時点では、“ミッキーマウ○作戦”のネーミングについて、アメリカの著作権者との調整が全くできていなかった事実に気づいていたのは極少数で、これがほどなく市民を巻き込む騒動につながった。