·······いや、待っている人いたかな?
『ニュース速報』
チャイム音とともに、テレビ画面上部に現れたそのテロップに続いて現れたその内容は、遊星爆弾の放射能と闘う地球各地の地下都市を文字通り沸騰させるのに十分な口火だった。
そして、すぐ後のニュース番組はほぼこの報せ一色に染まった。
画面の中で、国連宇宙軍極東管区の広報官が発表する。
曰く、3週間前に地球を発った輸送船団が、土星の衛星から希少鉱物資源還送に成功した事と、阻止に現れたガミラス艦3隻を護衛艦が迎撃し、こちらの損失なく全て撃沈した。
この事実はイスカンダルに向かっている『ヤマト』が、冥王星のガミラス基地と太陽系侵略部隊を撃滅して遊星爆弾の落着が解消された事に続く、国連宇宙軍のクリーンヒットになった。
軍の報道官は告げる。
『今回、輸送船の護衛についた艦は、イスカンダルに赴いた宇宙戦艦『ヤマト』とほぼ同じ構造の波動エンジンを搭載する等の性能強化改造を施しており、既存の艦でもガミラス艦に劣らぬ性能と戦闘力を持つ事が実証されました。
今回持ち帰られた資源は波動エンジンなどに姿を変え、国連軍艦船の改修と追加建造、そして各都市の電力事情改善に振り向けられます········』
この作戦で得られた資源の大半は軍に振り向けられるが、一部は民需用発電装置の増強増設にあてる事で、国連は市民生活を蔑ろにはしないとアピールした。
このプレスリリースを、高町雪菜は中島家で、真理亜夫人と年少の二人の娘たちと共に見た。
テレビには、地球艦の雷撃で火球と化したガミラス艦と、エンケラドゥスでコスモナイトを積み込む特設輸送艦『オーテアロア』、エンケラドゥスを離れる船団、輸送用コンテナを曳航する駆逐艦たちが映り、最後は新横須賀基地に降下してくる『オーテアロア』と『カミカゼ』が映っていた。
2隻とも損傷した様子はなく、真理亜、雪菜ともに胸を撫で下ろす。
「冴子さんたち、これに行ってたのね」
「何はともあれ、成功してよかったです」
夕食を作る真理亜の代わりに、雪菜は彼女の娘たちの遊び相手をしていた。
先祖代々親交があり、かつ亡き姉の幼なじみだった嶋津冴子の被保護者になった雪菜だが、冴子は小型とはいえ一艦の艦長。
家を空ける事が多いため、その都度、同じフロアの中島家で食事を共にしたり、週末には泊まっていた。
画面は変わって『オーテアロア』の前で自らインタビューを受ける土方 竜が映っている。
ガミラスとの戦争では初めて損失ゼロで敵を撃滅し、資源も全量還送という“完全勝利”を収めたにも関わらず、土方はニコリともせずインタビューに応じていた。
今回はあくまで局地戦での勝利。根本的な問題は『ヤマト』が任務を果たして帰還しない限り解決しないのだから、表情が厳しいのも当然だ。
土方と一緒にいた司令部員らしき士官がインタビューの終了を告げ、土方たちがその場を離れようとした時、艦船乗組員らしき一団がすぐ後ろを歩いて通り過ぎようとした。
彼らは土方に向かって次々と旧海上自衛隊式の敬礼をしたが、その一番後ろにいる人物を、テレビカメラはクローズアップする。
その人物は艦長制帽を被った妙齢の女性で、しかも女性としてはかなり長身なのか、周囲の男たちの中に埋没している様子もない。
その女性が一瞬だけカメラの方に顔を向けた。
テレビに映ったその容貌は、男ならば10人中8~9人は
『スッゴい美人』
と評するであろうほど端整で、その所作も颯爽としていたので、カメラマンも思わず彼女を追いかけてしまったのだろう。
それはまさに、掃き溜めに
「ああしてる分には、なまじな女優さんそこのけなんだけどねぇ、冴子さんは」
「はい········」
と苦笑し、隣の雪菜も微苦笑で応じる。
確かに、ああしている彼女·嶋津冴子は、TK塚歌劇団の男役トップスターのような存在感があるのだが、軍服を着ていない時の
その直後、ニュースの最後にアナウンサーは告げる。
「国連宇宙軍本部並びに極東管区は、今回の作戦名及び船団の公式名称を『トムとジェ○ー』とする事を発表しました」
「········」
「········」
発表に、二人はしばらく無言でいたが、真理亜は苦笑して
「発想が完全に20世紀よねぇ」
と言い、雪菜は
「前向きでいいんじゃないですか?········センスが微妙なのは確かですけど」
と返した。
どちらがトムでジ○リーなのかは聞くだけ野暮だろう。
──翌日朝──
『ボヤボヤするな、急げ!!!!』
家主で雪菜の保護者である嶋津冴子の寝室から、野太い男の怒号が洩れ聞こえてきた。
『ボヤボヤするな、急げ!!!!』
『ボヤボヤするな、急げ!!!!』
『ボヤボヤするな、いs‘’バン‘’!!!』
それはさらに2度繰り返し、3度目の途中で止まった。
朝食を並べながらその様を聞いていた雪菜は、やれやれと肩をすくめる。
怒号の主は雪菜も知っていた。宇宙戦艦『ヤマト』艦長の沖田十三だ。
まだ母が元気で、極東管区司令部近くで『翠屋』を営んでいた頃の常連客でもあり、サンタクロースみたいな風貌が印象深かったが、よく一緒に、昨夜テレビで視た土方や山南という提督服姿のおじさんも来ていたものだ。
沖田はともかく、日本刀のような土方や岩石を思わせる山南は、明らかに強面な軍人だったが、雪菜には優しいおじさんという記憶しかない。
もっとも、嶋津にとっては厳しくおっかない教官あるいは上官で、特に沖田と土方から猛烈にしごかれていたようだが、それにしても、
「あの声、どこでどうやって録音したのやら····」
胸元に下がる蒼い宝玉に手をやりながら、感心と呆れを交えて呟く。
今は慣れたものの、あの怒号を初めて聞いた時は耳どころか頭の中まで響いたと思った。
しかし同時に、これを録音し、更に目覚ましアラームに使っている保護者の面の皮の厚みと神経の直径を、真面目に計りたいとすら思ったものだ。
当の保護者は、アラームが途絶えてから3分後、朝食の席に現れた。
昨夜シャワーを浴びたのと、節水のため、朝シャワーはかなり前からしていない。
「おあよ~····」
「おはようございます」
嶋津はジャケット以外は士官の地上用制服姿だ。
「今日も出仕(勤)なんですか?」
「艦長と副長は9時から報告会と
次はガミラスも背水の陣だろうな、と心の中で独語しながらトーストを頬張っていた嶋津だが、ふと思い出して口を開く。
「····小遣いとか足りてるか?」
保護者とはいえ、任務で不在の事が多く、コミュニケーション不足なのではないかと思ってしまいがちなのは無理からぬ事。
そうでなくても雪菜はわがままを言わない。
いい子と言えばそれまでだが、精神衛生上それはどうなのかと思わずにはいられない。
そんな、自称マダオ保護者に対し、雪菜は
「足りてるも何も、私にカード預けっばなしなの忘れてるでしょう、艦長」
「········今思い出した」
「お忙しいのはわかりますけど、利用明細のチェックはして下さいね」
「········(*´・ω・)ショボーン」
(お説教の言い回しが、早くも
慨嘆する嶋津だが、雪菜から更なる
「それはそうと、担任の先生が、早いうちに一度艦長とお会いしたいと言ってました」
「········今日の
「わかりました。早ければ明後日でもいいですね?」
「りょーかい」
言わずもがなだが、保護者になったからには、私生活では被保護者第一でなければならない。
嶋津が翠屋の忘れ形見を引き取った(?)と聞いた土方は、
「軍務以外でも悩ませろ。それがあいつのためだ」
──と言ったとか言わなかったとか。
“凱旋”した嶋津たちだが、
帰還の翌日、土方はTF11の艦長と副長全員を朝9時に召集して、『トムと○ェリー 作戦』の報告及び反省会議を開いた。
土方があの強面で『トムとジェリ○』と口にする様はある意味見物だったが、会議自体は真剣に行われ、各艦長には土方の
ことに、艦長連では若年である嶋津と『J·G·エバーツ』のワイルド·ウィル·ケルソーに対するそれがやや多く、散会後の2人はげっそりしていた
『トムと○ェリー作戦』は残存ガミラス軍の掃討も兼ねて今後も実施される。
鉄は熱いうちに打たねばならないのだ。
──嶋津冴子に新たな人事内示が下されたのは、およそ2週間後だった。
①目覚ましの音声データは、完結編で喝を入れるサンタクロース艦長をイメージして下さい。
②一人、スピルバーグ映画キャラに因んだ人物がいます。