かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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ヤマト発進支援編
1.二重の無念


     

 

       ―― 西暦2199年7月 ――

 

火星軌道と地球軌道のほぼ中間付近。

この宙域に、大小各1隻の宇宙艦が、地球に向けて航行していた。

近づいてみると、2隻とも艦体に破口や欠損が目立ち、素人目でも深傷を負っている事は一目瞭然だろう。

大型艦の艦側に描かれた『きりしま』、小型艦艦側の『ひびき』。この文字が、この2隻の所属先を示していた。

 

 

    ―― 駆逐艦『ヒビキ』艦橋 ――

 

「嶋津艦長」

「何だ?」

 

インカムを左耳に付けたブリッジクルーから嶋津艦長と呼ばれて振り向いたのは、一見すると、この場には似つかわしくない妙齢の、それも20代と思しき女性だった。

 

『私はカモメ』

 

人類初の女性宇宙飛行士、ワレンチナ・テレシコワの地球周回から236年。

人類の版図は太陽系の外惑星圏に及び、宇宙船に女性が乗り組む事は珍しくなくなっていたが、宇宙軍艦、それも第一線の戦闘艦に乗り組む女性はまだ少数派と言ってよかった。

ましてや戦闘艦の艦長ともなれば、文字通りの極少数派。

彼女はその極少数の内の1人だったが、端整なその表情は厳しかった。

 

「‥‥司令からか」

「はい。『重ネテ命ズ。艦ヲ放棄シ、速ヤカニ《キリシマ》二移乗セヨ』です」

「そうか‥‥」

 

嶋津―― 日本国宇宙自衛隊三等宙佐(国連宇宙軍少佐)・嶋津冴子 ――は、帽子の鍔を摘んでしばし俯いていたが、左の拳をギュッと握ると顔を上げ、静かに告げた。

 

「――総員退艦。『キリシマ』に移乗する」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

西暦2191年、太陽系の外からやってきた『大ガミラス帝国』と名乗る侵略軍との開戦から8年。

地球は文字通り滅亡の瀬戸際に追い詰められていた。

 

戦争勃発時、地球はアメリカ・中国・ロシアを始めとする各国が一国、あるいは各国連合による宇宙軍を組織しており、さらに国連安全保障会議の決議により、統合軍としての国連宇宙軍を組織していた。

しかし、特に大規模な宇宙軍を保有していたアメリカと中華連邦(中国+台湾+朝鮮半島北部)は政治・軍事ともに反目し合っており、それゆえに軍事活動もそれぞれが独自で行う有り様だった。

 

米中両国の宇宙軍が国連宇宙軍戦力の約6割近くを占めていたから、統一された指揮で運用されていれば、ガミラス相手に多少はましな戦いができたとも言われたが、両国首脳は、ガミラス戦終結後を睨んだ主導権掌握という、20世紀の発想しかできていなかった。

ガミラスがそれに付き合うわけもなく、指揮系統を乱した国連宇宙軍は、ガミラス軍の前にあえなく敗走、否、潰滅を続けた。

 

さらにガミラスは、並行して強い放射能を帯びた小惑星―― 遊星爆弾 ――による地球への直接攻撃を開始。

真っ先に標的にされたワシントンと北京は、国家首脳やニューヨークや天津等の周辺都市、それぞれ1000万を超える市民を巻き添えにし、文字通り地上から消滅した。

 

中華連邦は、地方の離反を恐れていたが故に極端な中央集権体制を敷いていたが、これが災いし、一時は無政府状態に陥った。

開戦前に失脚していた穏健派前主席を臨時代表に据えた『復華統一政府』が重慶に樹立されたのは2194年だったが、この混乱に乗じた台湾は2193年に独立。

新中華連邦に台湾を再び“解放”する力はなく、国連における新中華連邦の発言力は後退した。

 

一方、アメリカはコロラド州デンバーに疎開していた副大統領が大統領に昇任して臨時政府を立ち上げ、連邦再建プロジェクトを実施したため、中華連邦の二の舞は回避したが、やはり国連における発言力は低下した。

 

良くも悪くも国連を主導してきた両超大国の弱体化によって、皮肉にも国連宇宙軍は曲がりなりにも統合軍として機能する事になったが、ガミラスの遊星爆弾と艦隊による内惑星系侵攻で、国連宇宙軍は善戦するも消耗し続けた。

 

特に大規模だったのは、2195年7月の第四次火星沖会戦で、日本宇宙自衛隊出身の沖田十三中将(宙将)が指揮した国連宇宙軍第二・第三艦隊は、空間戦闘攻撃機CF-3スペースタイガーと、戦艦・巡洋艦の艦首軸線に固定した陽電子衝撃砲の一斉射撃でガミラス艦隊を痛打し、撃退に成功した。

以後、火星軌道以内にガミラスが艦隊規模で侵攻する事はなくなったが、代償も大きく、第二・第三艦隊はスペースタイガーの8割と艦船の7割を失って壊滅。

以後、国連宇宙軍の艦隊戦力は第二艦隊のみになり、国連は地球脱出計画に傾注していく。

 

ガミラス艦隊による内惑星系への侵攻が絶えたため、国連軍はガミラス太陽系侵攻軍の戦力が予想より小規模であると判断して地球脱出船計画を正式に発動。

日本・アメリカ・ヨーロッパ・ロシアと新中華連邦は、戦闘艦兼用の地球脱出船建造に着手した。

これらの船は2199年4~7月に竣工→進宙が見込まれたが、建造がガミラスに露見したため、遊星爆弾の飽和落下や高速空母による執拗な攻撃にさらされ、日本以外の船は建造中に船体や資材・設備が破壊されたり要員が全滅したため、沈没戦艦に偽装して建造を進めていた日本の脱出船1号 『ヤマト』を除いて頓挫してしまった。

 

国連宇宙軍は『ヤマト』も早晩ガミラスに攻撃されると判断。出発までの時間を稼ぐべく、ガミラス艦隊を引きずり出し、数ヵ月間作戦行動させない程度の打撃を与えるのを目的に、2199年6月、唯一残存していた第二艦隊を敵の基地がある冥王星に差し向けたのだが‥‥。

 

 

    ―― 旗艦『キリシマ』艦橋 ――

 

「《ヒビキ》乗組員31名中、戦死・行方不明9名を除く生存者22名、《キリシマ》への移乗を完了しました」

「ご苦労。別命あるまで待機せよ」

「はっ」

 

嶋津の移乗の報告に、『キリシマ』副長の橋本二等宙佐は頷きつつ告げる。

橋本の後ろには、第二艦隊司令を兼ねる艦長の沖田十三が、背中を向けたまま、微動だにせず立っていた。

沖田がどんな表情なのか、嶋津の位置からは窺えない。

 

第二艦隊は名実ともに全滅した。

地球を発った時、28隻(戦艦1・巡洋艦5・駆逐艦22)を数えていた艦隊は、往路で駆逐艦3隻が機関不調のため離脱。

冥王星宙域に到達した25隻はガミラス艦隊との戦闘で『キリシマ』『ヒビキ』を除いて撃沈された。

そして帰路で『ヒビキ』も機関等の故障が直らず、艦体放棄やむなきに至った。

『キリシマ』もまた、艦は中破、武装の過半は残弾ゼロ。

 

戦果は、ガミラスの巡洋艦1~2、駆逐艦艦3~5隻を撃沈破したが、逆立ちしても負けは負けだ。

 

(この敗け戦に何の意味があるのか‥‥)

 

死んだ者の分まで戦う。

聞こえはいいが、絶望が長引くだけではないのか。

そんな思いさえ込み上げてくるが、嶋津は顔を振り、己を叱咤する。

上官の相次ぐ戦死でお鉢が回ってきただけかも知れないが、自分は艦長だ。部下の前で弱気を表に出すことは許されない。

 

「副長、連絡機からのシグナルを受信しました!」

「着艦誘導シグナルを送れ、受け入れ準備」

 

どうやら火星からの便乗者がいるようだ。

 

「嶋津」

(!)

 

踵を返しかけた嶋津は、聞き慣れた声に呼び止められる。

嶋津はこの声の主、沖田に何度となく叱咤され、時には怒鳴り付けられた。

反射的(?)に振り向いた嶋津を直視しながら、沖田は告げた。

 

「‥‥希望を捨てるな」

「‥‥‥‥」

 

嶋津は一言も発さず、挙手礼で応えた。

 

        

          ――30分後――

 

「‥‥‥‥」

 

嶋津は、込み上げる憤怒を抑えつけながら『ヒビキ』乗組員に宛がわれた部屋に向かっていた。

 

――つい10分前、部下の一人を看取った。

昨日18歳になったばかりの少年戦士だった。

プロフィールでは、父も宇宙戦士だったが、既に戦死しており、母一人子一人だという。

 

親を残して子が戦没するのは軍人にありがちな事だ。

ましてや、自分は一艦を預かる身だ。このような事態にいちいち動揺していたら身が持たない。割り切れと上官や先輩艦長から忠告されてはいたが、いざ部下の無惨な最期を目の当たりにすると、自責の念と、腑甲斐ない己への怒りが沸き上がり、叫びたい思いに囚われかかる。

 

――いかんいかん。私が自棄になったとて、解決できる事は何一つないし、生者・死者を問わず、部下達に顔向けできない。

頭を横に振り、拳を強く握って邪念を振り切り、数歩歩いた時、反対側から歩いてくる二人組と目が合った。

嶋津を見るや敬礼したその二人組は、先程看取った部下と同年代位に見えた。

 

――と、その内の一人が、嶋津を見るや表情を変えた。

 

「‥‥嶋津三佐でいらっしゃいますか?」

(ん?)

 

声をかけてきた少年隊員に面識はないはずだ。

 

「‥‥そうだが、君は?」

「古代 進三尉候補生であります。‥‥『ユキカゼ』艦長の古代 守は私の兄です」

 

――胸に強い痛みが走った。

 

古代 守の弟。

 

10歳違いの弟がいる。自分と同じ道に入ったとアイツから聞いていたが、よもやこんな所で会うとは。

わざわざ兄弟である事を強調した上で名乗ってきたのだから、彼の言いたい事は一つしかあるまい。

 

「〈ユキカゼ〉の安否をこ存じありませんか?」

「‥‥‥‥」

「〈ヒビキ〉が放棄されたのは先程知りましたが、〈ユキカゼ〉や他の艦の姿が見当たりません。

第二艦隊は、〈ユキカゼ〉はどうなったのですか!?」

「おい、古代‥‥」

 

感情が昂ってきたのか、古代進の声が大きく強くなってきた。

それを嗜めようと、古代と一緒にいる少年隊員―― 島 大介 ――が声をかけている。

 

‥‥隠したところで、いずれ判る。

ましてや、自分達〈ヒビキ〉は〈ユキカゼ〉と共に先鋒としてガミラス艦隊に突撃し、僚艦の最期を見届けたのだ。

 

「〈ヒビキ〉の艦長は私だ。‥‥聞け、古代候補生」

 

なおも言い募りかけた進にかぶせるように声をかけると、彼は弾かれたように踵を揃える。

 

「第二艦隊は、往路で引き返した駆逐艦3隻とこの〈キリシマ〉を除いて、全て失われた」

「―――」

 

顔を歪める進を見据えながら、嶋津は続けて核心を口にした。

眼を逸らしてはアイツに申し訳が立たない。

一言一言、噛み締めるように告げる。

 

「‥‥〈ユキカゼ〉は、敵中深く突撃して数隻の敵艦を撃破した後、集中砲火を浴びて炎上し、シグナルロストした」




本日、ヤマト2202の第ニ章を観ました。
旧シリーズ世代の私も概ね満足しました。

‥‥特に、加藤一家にホロリとしました。
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