かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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新型艦就役編
17.形になるかんぴょう


 

      ──新横須賀地下軍港──

 

ようやく強化改装なった戦艦『フソウ』の通路を、嶋津冴子と大村耕作は司令官室へ歩く。

 

「何なのでしょうね?」

「第二次トムジェリ(トムとジェリー)作戦か、それに類する作戦に関する事じゃないか?」

「まあ、(フネ)の強化改装も進んでますし、噂の新型艦も一番艦が完成間近ですからね········」

 

先日、土星圏からの資源鉱石還送の結果、艦船·発電用波動機関の生産が軌道に乗り、既存艦の強化改装と計画停電の緩和が進んだのに加え、初めから波動機関搭載で設計された新型戦闘艦((仮称·2200型汎用戦闘艦)ともいう)は、牽牛(ケンギュウ)と命名された1番艦は間もなく公試運転。2~4番艦も建造が進んでいるという。

当然、これらの艦を運用した新たな作戦も練られているはずだ。

 

「ま、ガミ公もいい加減、諦めてくれればいいんだが」

「案外、『ガミラスに敗北という文字はない。勝利か、しからずば死だ』なのかも知れませんね」

「そのガミラスに土俵際まで追い詰められても、いまだうっちゃり狙いな我々は、(やっこ)さん達を笑えないがね」

「まったくです」

 

等と軽口を叩きながら艦長室に向かった嶋津と大村を待ち構えていたのは───。

 

晴天の霹靂以外に他ならなかった。

 

「····」

「····」

 

土方から返されたタブレットに目を通した嶋津と大村は、文字通り数十秒間呼吸を忘れた。

それぞれのタブレットに表示されていたのは人事。

それも、要約すると、明日付で

 

『2200型汎用戦闘艦4番艦《仮称·ユウガオ》艤装員長/副員長を命ず』

 

同時に、大村は一等宙尉(国連宇宙軍大尉)への昇格が発令された。

 

艤装員長とは、建造中の艦艇がある程度形になってきた頃合いで発令され、細部の作り込みの段階で造船所側とやり取りして、船を仕上げていく船主····この場合は宙自側要員(艤装員)のまとめ役を指し、基本的には、竣工したらそのまま初代艦長に就任する事が多い。

 

艦艇は単なる装備品ではない。

乗組員にとっては“家”であり、ひょっとしたら“棺桶”になるかも知れないのだから、設計図では決めきれないような細部の作りこみが必要になる。

自動車等のように、完成品を渡されてすぐに動かせるというものでもないので、事前に慣れておく必要などもあるので、こういうやり方になる。

もちろん艤装員はこれから増え、竣工時までに揃った艤装員が、基本的にはそのまま就役と同時に乗組員に移行する。

 

····しばらく内容を確認するかのごとくタブレットを見ていた二人を、土方が現実に引き戻す。

 

「復唱はどうした!?」

 

····反問する権利はなかった····。

 

 

二人はその足で『カミカゼ』に戻り、転任する旨の通達と最終訓示。そして私物の整理に引き継ぎの準備を始めた。

翌日には『カミカゼ』に後任の艦長と副長が着任し、嶋津と大村は『ユウガオ(仮)』艤装員長として、建造所たる南部重工鶴見造船所に毎日通うのだ。

 

──で、翌日。

嶋津と大村の姿は南部重工·鶴見造船所の一角にあった。

 

「どうよ、これが『ユウガオ(仮)』だ」

「····」

「これが····」

 

案内役である大山敏郎が、ニッと歯を見せた会心の笑みを浮かべた。

 

確かに、在来の艦とはかなり異なるフォルムだ。

艦体は現行艦同様の紡錘形のようだが、艦首部は取り付け工事中らしく、輪切り状の断面が露わだ。

艦体中央上部には小型ながらもタワー状の艦橋構造物がそそり立ち、主機関区画にしか見えない艦体後部は主艦体よりわずかに直径が大きくなっていた。

 

主砲塔等の砲熕兵装はまだで、基部が剥き出しだ。

 

予定では、12.7サンチ陽電子衝撃砲が2連装3基6門、40ミリパルスレーザー砲が2連装4基8門。

実弾兵装は艦首大型空間魚雷発射管が2基、3連装小型魚雷発射管が2基6門、3連装20.3サンチ対艦電磁砲(レールカノン)が2基6門、艦橋基部に4連装対艦グレネード投射機と4連装SAM(艦対空ミサイル発射装置)がそれぞれ2基8門になっていた。

そして、一同の関心時である未完の艦首部を嶋津は指差して尋ねる。

 

「あれは結局どうなるんだ?波動砲なのか?」

 

大山答えて曰く。

 

「波動砲を造ると、民需用発電機関が造れなくなっちまう。それに、仮に造れてもこの4隻の完成が遅れちまう。

てな理由(わけ)で····」

「「理由で?」」

「波動砲は5番艦からにして、4番艦まではヤマトの主砲と同じヤツを2門、固定装備する事になった。来週中には取り付く予定だ」

「ほお」

「そうなんですか?」

 

大山はまたも歯を剥き出しにしてニヤリとする。

 

「砲身基部は《ヤマト級》2番艦用に計画していたものを流用し、砲身自体は《ヤマト》より長くなるから、有効射程と貫徹力は上回る。それに····」

「····それに?」

「波動砲用の重力アンカーは既に付いているから、条件次第で超遠距離砲撃や狙撃も可能だ」

「「なるほど(な)」」

 

····大山の言うとおり、波動砲は確かに絶大な破壊力を有するから、ガミラスに対する戦闘には有効だが、その製造には波動機関1基分に等しい量のコスモナイトが必要だ。

それでも製造しようとすれば製造できるが、小型化した設計に手間取ったのと、そちらにコスモナイトを充てると民需発電所用波動機関の増設が遅れ、市民生活に悪影響を及ぼす等の理由で、国連の民生部門や各国の為政者が軍需利用の増加に難色を示し、それは日本政府も同じだった。

 

一方、『ヤマト』級用46サンチショックカノンの応用ならば、コスモナイトの使用量は波動砲の100分の1程度で済む。

しかも砲身が長い分、エネルギー集束率が高くなるから、本家『ヤマト』の主砲より長射程·高貫徹力を得られる。

 

「そりゃ戦力化は早い方がいい。今我々が欲しいのは····」

 

大山から話を聞いた嶋津は、船台上の『ユウガオ(仮)』を見て言葉を接ぐ。

 

「“大トロ”一貫じゃなくて“かんぴょう巻き”10本だからな」

「····そうですね。波動砲をチャージしている間に接近される事もあり得ますから」

 

大村のコメントは、上官よりよほど現実的だった。             

 

 

 

      ──食堂『臨港線』──  

 

250年以上前、鶴見地区を走っていたという鉄道に因んだ名前を持つ大衆食堂は、昼食をとる南部造船所の従業員で満席になっている。

そんな中、大村、大山は他の客同様に食券自販機に外食券を提示し、少ないメニューの中から焼飯を注文した。

 

5分足らずで出てきた焼飯を口にしつつ、3人は話を再開する。

 

「木星の件で波動砲万歳な風潮の中、よくショックカノンで落ち着いたもんだな」

「結構すったもんだがあったんだぜ。アメリカがねじ込んでくるわ、極東管区(こっち)では幕僚長に直訴する奴らが出るわ」

 

大山の答のとおり、『ヤマト』が波動砲の試射で、ガミラス基地もろともオーストラリア大陸並みの規模があった浮遊大陸を破壊した事実は、国連宇宙軍に波動砲絶対思想を植え付けるに十分過ぎる根拠を与えた。

それは、初の本格的な波動機関搭載艦になったプランツ級フリゲートの建造にも少なからぬ影響をもたらし、アメリカやロシアは1番艦から波動砲を搭載せよと主張したのだ。

 

しかし、何分にも初めて尽くしの艦に対する各国の目は半信半疑で、予算確保は思うように進まず、建造第1グループは当初計画の8隻から4隻に削減されただけでなく、市民生活を圧迫し、かつ竣工·就役が遅れるという二重マイナスを回避するため、建造第1グループは、ヤマト級の46サンチショックカノン2基を、艦首波動砲の予定スペースに並列配置する案を採用した。

これは至って現実的なプランだったが、反発は強かった。

1番艦建造に名乗りを上げると思われていたアメリカがこれを辞退。アメリカと共に波動砲搭載を主張していたロシアも第1グループを辞退し、第1グループは中華連邦、日本を中心とした極東、ヨーロッパ連合(イギリス中心)、インドを中心とした南アジア連合が引き受けた。

 

だが、まだ丸く収まったわけではなかった。

極東管区本部、つまり日本で第二の騒動が起きたのだ。

 

「これは幕僚長秘書に入ってる高橋(嶋津·大山の同期生)から聞いたんだが····」

 

『トムとジ○リー』船団が帰路を急いでいる頃に、南部鶴見造船所で『ユウガオ』になる4番艦が起工されたが、時を同じくして、極東管区本部で宇宙自衛隊の一部中堅士官が、4番艦への波動砲搭載を藤堂幕僚長に直接訴えようとした。

 

「土方さんは直接指揮に出ていたし、芹沢さんは他の管区との調整にかかりきりと、うるさ方二大巨頭が共に不在だったから、藤堂さんさえ首を縦に振れば、2人も黙ると踏んだんだろうな」

「我々の留守中にそんな事があったんですか····」

「····やれやれだな」

 

執務室に半ば強引に入ってきた彼らを咎めようとした参謀を藤堂は制し、彼らに着席を促し、発言を許した。

水を得た魚の如く、4番艦への波動砲搭載を主張する少壮士官達の発言に、藤堂は反論する事なく、じっと耳を傾けていた。

このまま幕僚長は彼らに抱き込められてしまうのではないかと、参謀や高橋秘書官が危惧を抱き始めた時、ある少壮士官が発した一言が、部屋の雰囲気を一変させた。

 

『資材が足りないと言うのならば、民用資材を削ってでも確保すべきです』

 

····その一言を耳にするや否や、藤堂は椅子から立ち上がり、鬼の形相で彼らを睨み据え、一刀両断に斬り捨てた。

 

『貴官らは自らの地位と職責を何と心得るか。

守るべき市井の糧を横取りして持論を押し通そうとするなど言語道断。

それすら理解できぬのなら、今すぐ退官願を書け!』

 

全く予想していなかったであろう藤堂の怒気と迫力に、彼らの勢いは完全に打ち砕かれた。

結局、彼らは非礼の謝罪もそこそこに、まるで蜘蛛の子を散らすように退散していったという。

 

「発想が“無敵皇軍”そのまんまじゃんかよ········」

 

先人(大日本帝國)の大失敗を忘れたのか。

ぼやいた嶋津はそこではたと気づく。

 

「ひょっとして、私が4番艦(あれ)の艦長になったのは、その一件の産物か····?」

「さあな。····ただ、押しかけた連中の中には艦長経験者もいたのは確かだとさ」

 

····当たらずとも遠からずらしい。

 

 

 

   ──中華連邦、西安──

 

 

かつて東アジアの中心だった都市の郊外地下に造られた地下基地の船台に、プランツ級1番艦『牽牛』が据えられている。

その狭い艦橋で、艦長の(テイ)大洋は副長らブリッジクルーと握手しながら(ねぎら)っていた。

 

──と、艦内への出入口ドアが開き、数人の男達が入ってきた。

さらに狭くなった艦橋の空気は急転直下、緊張する。

なぜなら、突然の来訪者は、中華連邦のリーダーたる、連邦主席その人だったから。

 

「鄭艦長、公試運転の成功おめでとう」

「ありがとうございます。これも我が同胞の尽力と主席の御指導の賜物です」

 

敬礼しつつ答える鄭に、主席は言葉を続ける。

 

「艦の出来栄えも、戦時急造艦とは思えぬほど良く仕上がっている。造船所の諸君も良い仕事をしてくれた」

 

労う主席に同行する監督官が頭を下げた。

主席は続ける。

 

「艦長。次期作戦において我が『牽牛』は司令官が座乗する事になった」

「はっ」

「····君も十分わかっている事だが、この戦争の緒戦で、我が国はアメリカと覇を争ったあげく共倒れするという醜態を演じた」

「·····」

 

主席の言うとおり、中華連邦はこの戦争の序盤で、ガミラスよりアメリカとの主導権争いを演じ、自前の宇宙軍は壊滅。多数の遊星爆弾によって北京を始めとする都市という都市と国家指導部は壊滅。

統治機能の混乱に乗じた台湾が分離独立する等のアクシデントが発生し、中華連邦の発言力はアメリカ共々後退。国連と軍の主導権はヨーロッパと日本に握られた。

 

また、自前の地球脱出船も2隻のうち1番艦『長征』は遊星爆弾で大破放棄、2番艦『長江』は戦災こそ受けなかったが、イスカンダルからの技術が伝えられた時点で工程進捗率は48%。波動機関は進捗率76%の『ヤマト』に託された。

中華連邦にとっては屈辱の上塗り続きだったが、そこは長い歴史の超大国、転んでもただでは起きない。

 

「しかし、我々はいつまでも屈辱にまみれるつもりはない。····かの『ヤマト』には、10人の在日同胞が乗り組んでいる。

つまり、人類史上最大の壮挙には、我が中華連邦も助力している事になるのだ。

小さな事だが、この積み重ねが、いずれは我が連邦を国際社会の中心に返り咲かせるのだ。

この『牽牛』もその一翼を担う。諸君の精励と奮闘に期待する」

 

各国の思惑を乗せ、新型艦は飛び立つ。 

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