仮称・プランツ(植物)級フリゲート 極初期建造グループ
試作艦(1番艦)
FGP-01 ケンギュウ(牽牛:アサガオの中国語表記)
鄭 大洋(中佐・36歳)
中華連邦宇宙軍/中華管区
増加試作艦(2~4番艦)
FGP-02 コンパス·ローズ
シェルビー·スミス(大佐・57歳)
イギリス王立宇宙軍/ヨーロッパ管区
FGP-03 ジャスミン
サワイ·ジャイ·シン(中佐・44歳)
インド宇宙軍/南アジア管区
FGP-04 ユウガオ(夕顔)
嶋津 冴子(少佐・28歳)
日本国宇宙自衛隊/極東管区
──国連宇宙軍が部内発表した新型艦の1隻の艦長に、20代の女性が任じられた事は少なからず波紋を呼んだ。
他の3隻の艦長が皆30代以上で男である中、異例の人事ではあるが、表立って異論を唱える者はいなかった。
なぜなら、嶋津が指揮した艦『ヒビキ』『カミカゼ』は2隻合わせてガミラス艦10隻以上を撃沈破し、『ヒビキ』は冥王星会戦で損傷放棄されたが乗組員の8割強、『カミカゼ』では全乗組員が生還しているのだ。
ガミラスが、敵艦の艦長が何者だろうと容赦するはずがなく、そんな
········因みに、地球より遥かに大国のガミラス軍でも、軍艦の女性艦長は少ない上、域内警備任務等に就く事が多かったため、地球防衛軍が女性艦長を、命のやり取りをする最前線任務にも就かせている事に、後年、ガルマン·ガミラス側は少なからず驚いたという──。
──南部鶴見造船所──
「
船台に据えられた『ユウガオ(仮)』の前に数十人の男女──大半は男だが──が4列縦隊で並び、皆一様に
嶋津以下の彼/彼女らはこの『ユウガオ(仮)』の艤装員と造船所、宇宙自衛隊関係者で、艤装員は『ユウガオ』の竣工と同時に乗組員を拝命する予定で、艤装員長である嶋津は初代艦長に就任する。
神妙な面持ちの彼·彼女らの前には神式の祭壇が
これは日本特有の『船魂』(船霊ともいう)入魂の儀式で、今祝詞をあげている神官は、夕顔(→干瓢《かんぴょう》)の一大産地だった栃木県の某有名神社から派遣された
入魂式が終わると、祭壇の神棚は艦橋に移されていったが、艤装員はその場に残り、艤装員長たる嶋津が彼らの前に立った。
「工事はひとまず完了し、試運転を迎えた。我々の目標は遥か遠くにあるが、『ヤマト』と我々なら必ずたどり着けると確信している。まずはこの試運転で艦の出来栄えを確認する事が我々に課された責務だ。気がついた事、特に不具合や不備な点は、ためらわずかつ遅滞なく報告する事····一同よろしいか?」
はいっ!と大村耕作以下の艤装員たちが応じる。
それを受け、嶋津は頷き下令した。
「本艦はこれより試運転のため月に向かう。発進予定は2時間後の1130。総員乗艦、配置につけ!」
──『ユウガオ(仮)』艦橋──
「造船所内、協力停電開始!」
「
「生命維持システム正常」
「艦内·艦外とも異状なし」
「全兵装異状なし」
「通信異状なし」
「全レーダー·センサー異状なし」
「よし····」
ブリッジクルーからの確認完了報告を受け、指揮官席に座する嶋津冴子が顔を上げる。
造船所は電源が落とされて非常灯だけが点々とついていた。
発電用波動機関の増設で電力事情は改善されつつあるが、それでも、艦船用波動機関の起動には、小型艦でも造船所一帯の電力を振り向ける必要があるのだ。
なお、乗組員は全員が船外作業服を着用し、不測の事態に備えている。
「機関長、
「了解。始動電力接続····主機起動!」
正確には、嶋津以下の乗組員はその時点では『艤装員』なのだが、円滑な意思疎通維持のため、予定された職名で呼ぶ事が許されている。
機関長──副艤装員長──・河井信之助が起動スイッチを押すと、数秒してヒューンという音と共に、床から軽い振動が伝わってきた。
しばらくそのままにして、アイドル回転数の変動や異常振動の有無を確認。安定動作と判断し、発電機に接続。地上電力から艦内電力に切り換え、改めて各部の通電状態を確認する。
「艦内外、正常に艦内電力通電を確認しました」
「地上電力カット、造船所に協力停電解除を要請。謝意も宜しく」
「了解」
主機の回転が安定したのを確認し、電源を艦内発電に切り換えると共に、造船所に協力停電の解除と謝意を伝えると、すぐに新たな態勢に移る。
「これより発進シークエンスに入る。船台移動、隔壁開放を要請」
「了解。船台前進」
「主機始動3分前」
「エアロック最終確認····異状なし」
艦を載せた船台が前進し、浮上発進エリアに前進するが、放射能に汚染された外気に触れるので、幾つもの放射能防御エリアを通らなければならず、その度に隔壁を開閉しなければならない。
やがて──。
「発進位置に着きました」
「ん····ガントリーロック解除。重量制御および離昇開始」
「始動2分前」
艦体を固定していたガントリーロックが外れ、重力制御で艦を浮上させると離昇用バーニアをふかし、艦を地表までゆっくり上昇させていく。
「地表(元·三浦半島沖海底)基準高0メートル!」
「フライホイール始動·······主機全力始動10秒前····8、7、6、5、4、3、2····」
「接続、点火!」
「主機、全力始動!」
波動機関の唸りが極限まで高まり、カウントダウンの最後、嶋津が下令する。
「『ユウガオ』発進!」
──8時間後、南部造船所──
「船台、定置位置です」
「主機アイドル状態」
「タラップ固定。舷門開く」
まだ電力事情が不安定なので、主機は完全には停止せず、再始動が容易なアイドルモードだ。
すぐに造船所側の地上要員が乗り込んできて、艤装員長の嶋津と副艤装員長(機関長予定)の河井は対応に忙殺されたため、乗組員への指示は大村が行っている。
不具合がなければ、翌日以降も朝から試運転が行われるので、乗組員はそのまま当直体制に移行し、艦内に留まる。
これは新型艦の居住性テストも兼ねるからで、試運転が進めば宇宙空間でもテストが行われる。
艦内食堂では、当直外の乗組員が夕食をとりながら乗艦の感想を口にしていた。
「
「お茶も普通に飲める」
「トイレがかなり簡単になった」
波動機関技術とともにもたらされた艦内重力システムによって、乗組員は水上艦船と変わらず職務にあたれるようになった。
殊に生活面、特に排泄シークエンスがかなり楽になった事は乗組員の体調と
ともあれ、プランツ級(仮)フリゲートの第1建造グループは、大トラブル(小さなすったもんだはあった)なく試運転を重ねていった。