かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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毎度遅ろ····遅筆で申し訳ありません。
今話はいわば幕間です。


19.やるべき事

         ── 朝6時 ──

 

「はぁ········」

 

起床した高町雪菜は、居間に足を踏み入れるや、ソファを見て軽い溜め息を漏らした。

背もたれが倒れてソファベッドに変形したそれに横たわっているのは妙齢の女性。

寝顔だけならばかなりの美貌の持ち主だが、雪菜は再び小さく嘆息した。

 

「········」

 

ソファの傍らには『角瓶』と言われる銘柄のウィスキー瓶が転がっている。

手に取ってみるとかなり軽い。

朝日に透かしながら振ってみると、残りは1割にも満たない。

 

(こんなの大して美味しくないだろうに····。付き合いかな?)

 

一般に流通する酒が合成酒になり、かつ配給制になって久しいが、ソファにいるこの女性── 家主兼雪菜の保護者·嶋津冴子 ──は、ガミラス戦初期以前に製造された酒を備蓄(あるいは隠匿)しており、わざわざまずい酒を飲む必要はないのだが、部下あるいは艦長仲間との付き合いで口にせざるを得ない事はあろう。

彼女が帰宅したのは1週間ぶりだが、理由は訓練か軍務以外にあり得ないので、雪菜はいちいち問い質さない。

 

それに嘘偽りはなかろう。嶋津は駆逐艦の艦長であり、ふた月前に実施された資源還送作戦『トムとジ○リー』に参加した。

国連発表や嶋津自身からの話によれば、作戦は大成功。地球側は1隻も欠ける事なく来襲したガミラス艦全てを沈め、輸送艦は満載、護衛艦もコンテナを牽いて帰ってきた。

おかげで電力事情は改善され、国連艦隊の艦船の強化も進んでいるが、全体的にはまだまだだ。

当然第二次の作戦が実施されるだろう事は雪菜にも理解できるし、嶋津は現役の駆逐艦乗りだ。再び参加する可能性は高い。

目の前で沈没している嶋津も、恐らく連日訓練に参加しているだろう事も容易に想像がつく。

今日は公休日だとカレンダーに記録されていたから、昨夜“一席”あったのだろう。

 

(それにしても····)

 

嶋津が酒豪(ザル)であるとは雪菜も聞いていたし、たまに独酌している時も顔色一つ変えない事からして、酒豪なのは間違いないのだろうが、それでも一晩でボトルを1人で空にするのは無理だ。

 

「大山さん?····ううん、それはないか」

 

古代 守は行方不明、真田志郎は下戸に加えて、どうやら『ヤマト』に乗っているらしい今、彼女の身近にいる呑み仲間の筆頭にあがるのが“トチロー”こと技術士官の大山敏郎だが、彼は呑んべなのに下戸というややこしい性質(たち)なので、すぐさま除外した。

 

(とにかく、朝ごはん作るか)

 

どのみち、この保護者は家庭ではほぼマダオ(“おねいさん“だよ♪by本人)なのだ。軽く溜め息をついた雪菜は、保護者を起こす事を早々に放棄し、朝食づくりに取りかかった。

もちろん、仕込み(目覚ましセット)を済ませた上でだ。

 

──およそ40分後。

 

昨夜(ゆうべ)はかなり飲んだんですか?」

「ああ」

 

朝粥入りの飯碗を手にツッコむ雪菜に、保護者はしれっと応じる。

 

「久しぶりに飲み仲間(ダチ)と再会してな。盃が重なっちまった。····相変わらず強えわ、あのおっさん」

一対一(サシ)で?」

「んにゃ。艦長仲間やら6人。ま、最後まで飲んだのはあのおっさんと私だけど」

「····おっさん?」

「····とある駆逐艦の艦長(ボス)なんだけど、60過ぎなのに元気あり過ぎさ」

「········」

 

その還暦過ぎた呑み助なおじさんと呑み明かしたんですね。他の4人の屍を横に、と、雪菜は口に出さずに突っ込んだ。

 

「それで、今日は完全オフなんですか?」

「ああ。(フネ)の調整だから、乗組員は出番なしさ」

「····では」

 

いささか気まずそうな雪菜は嶋津の前にタブレットを差し出した。

 

「授業参観に三者面談ね····了解」

「すみません····」

「雪菜が謝る理由はないさ」

 

今日の今日知ったのは軍人の宿命だが、だからといって雪菜の事を疎かにするという選択肢はない。

日頃の事は中島家に任せっぱなしにしているため、出来る事は自分自身でやることにしている。

片付けや炊事を除いて、だが。

 

小学校に登校する雪菜を見送った嶋津は、一旦中島家に足を運んだ。

ここの家長、龍平は軍務局の課長職にあり、孤児になった雪菜を嶋津の元に“送り込んだ”張本人であるとともに、雪菜の後見人でもある。

とはいえ、家長はもちろん勤務中なので、応対したのは真理亜夫人だ。

彼女は独身時代に、雪菜の亡き両親が営んでいた『翠屋』で働いていたため、末娘の雪菜の事も赤子の頃から知っているし、しょっちゅう出入りしていた少女時代の嶋津冴子も見知っているから、嶋津にとっては昔も今も全く頭が上がらない存在なのだ。

 

「どうです?あの娘(雪菜)は」

 

居間に通され、代用コーヒーを飲みなが

ら、自分が不在の時の雪菜の様子を尋ねる嶋津に、真理亜が応える。

 

「ウチの子と昼寝している時、眠りながら涙する事が何度かあったけど、このひと月余りはそういう事もないわね」

「そうですか····」

 

自分に見せる表情と差はないようだ。

 

(ちゃんと、軍人じゃない年齢相応の顔になるのね····)

 

安堵の表情になった嶋津を見、真理亜は内心で苦笑する。

夫によれば、目の前の彼女は、戦いの場では実に勇猛果敢だという。

なればこそ、戦いに魅入られて常人の感性を損なう懸念もあったのだが、今の様子ではその心配はないようだ。

あるいは予防措置として、夫は高町雪菜を彼女に預けたのかも知れない。

 

中島家を辞した嶋津は、一度自宅に戻って身嗜みを整え、雪菜が通う横須賀第三小·中学校に向かった。

人生初、参観する側での授業参観&三者面談に。

 

嶋津冴子は初の授業参観と三者面談を無事乗り切った。

 

──乗り切ったのだが、約15年ぶりに胃薬を口にしたのだった。




次回からは第二次“ネズミ”輸送作戦になります。
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