かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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お待たせしました。第2次作戦です。

とある方の趣味をでっち上げております。ご注意下さい。


20.第2次トムと○ェリー作戦①

     ──2200年5月●日── 

 

小惑星帯を抜けて木星軌道に向かう宇宙船団。

先頭を行く小型艦、少し後に中型艦1隻と数隻の小型艦に守られている非武装に近い大型船が5隻の一団が進んでいたが、さらにその後方、少し間をおいて同じ方向に向かう4隻は様相が異なっていた。

紡錘形をした“やや中型”の艦体に塔状の艦橋構造物が付き、艦体には砲身がついた2連装砲塔が前部に3基。小型の2連装砲塔が尾部に4基付いていた。

特に砲身(バレル)形砲塔はこの4隻しかなく、見る者が見れば、この一隊が切り札に近い存在であるがわかるだろう。

この4隻に限らず、各艦の前部両舷には様々なイラストやマークが描かれており、中にはサメの口と歯を描き込まれているものもあったが、このうちの1隻、艦首に“11-04”と識別番号が書かれた1隻は、すぐ後に“巻き寿司”、それも太い“かんぴょう巻き”と言われているイラストが描かれていた。

他の艦が鷲等の猛禽類や猛獣、(ドラゴン)あるいは刀剣等、“強さ”を前面に出したイラストやエンブレムなのに対し、『ユウガオ』のそれからは、全くそんな意識が伝わってこなかった。

まあ、絵画で殺し合いに勝てる、あるいはしないで済むならば、それに越した事はないのだが。

 

──イスカンダルに向かった戦艦『ヤマト』ほどのスケールはないが、任務の重要さは変わらない“第2次トムとジェ○ー”船団は地球を離れ、一路土星圏へと向かっていた。

1隻も欠けず資源還送に成功し、立ちはだかったガミラスの小艦隊を殲滅したため、事後ながら“第1次”がついた先の船団に続く、2匹目のドジョウならぬウナギを狙った船団には、前回にも増した数の特設輸送艦が用意されたが、当然ガミラスの報復妨害があるのも明らかだったので、護衛艦も増強された。

 

前回参加した突撃駆逐艦『カミカゼ』『J・G・エバーツ』『ニウエ』『バシリスク』『スルタン・イスカンダル・ムダ』『シロッコ』と巡洋艦『スラヴァ』は整備を受けて引き続き参加。

さらに突撃駆逐艦『ホワイト·ジンジャー·リリィ』と、まっさらの新型フリゲート『ケンギュウ』『コンパス·ローズ』『ジャスミン』『ユウガオ』が加わり、護衛艦は都合12隻になった。

しかし、全てがうまく進んだわけではない。

第2艦隊旗艦『フソウ(扶桑)』は波動機関への換装がなったばかりで各部の調整が間に合わず、今回も出撃は見送られた。

 

第2次土星圏資源還送隊(通称:第2次○ム&ジェリー船団)

 

特設輸送艦『オーテアロア』『キヨカワマル(清川丸)』『ヤオファ(輝華)』『フランコニア』『プレジデント·トランプ』

 

直接護衛隊(第7戦隊/TF07)

巡洋艦『スラヴァ』

駆逐艦『カミカゼ』『J・G・エバーツ』『ニウエ』『バシリスク』『スルタン・イスカンダル・ムダ』『シロッコ』『ホワイト·ジンジャー·リリィ』

※『ホワイト·ジンジャー·リリィ』はピケット担当

 

間接護衛隊(第11戦隊/TF11)

『ケンギュウ』『コンパス·ローズ』『ジャスミン』『ユウガオ』

 

総指揮は前回に続いて土方がとり、今回は新鋭TF11の『ケンギュウ』に座乗している。

船団は『ホワイト·ジンジャー·リリィ』を先頭に、輸送隊とTF07が中央、後衛にTF11という1隻+2集団という態勢だったが──。

 

      ──『ユウガオ』──

 

「····ちょいと開いてきたかな?」

「そうですね····」

 

ぼやくように呟く艦長·嶋津冴子に副長·大村耕作が相槌を打つ。

先ほど定時報告がもたらされたが、先導艦+本隊とTF11の距離が開きつつあった。

 

(とはいえ、オヤジ(土方司令)からは音沙汰なし。予想の範囲内か····)

 

機関等のトラブルは報告されていない。

なれば、本隊を餌にガミラスの残党をおびき寄せる肚(はら)づもりなのは明らかだ。

根拠地と艦船の殆ど、恐らくは総指揮官も失ったであろうガミラスの侵攻部隊残党が今だ太陽系に留まり続け、かつ補給や増援がなされた形跡もないのは、『ヤマト』がガミラス軍に出血を強い続けているだろう事と、ガミラス軍自体が『勝利か、然らずば死』という体質だろうという認識が国連軍に定着し、殲滅やむなしという気運が強まっていた。

 

中には投降勧告を検討してはとの意見もあったが、遊星爆撃による凄まじい人命損失等、ガミラスへの憎悪が強い現状では、各国国民感情が瞬時に沸騰し、抑制不可能な事態になりかねないとの反対·消極的意見が強かった。

だが、極東管区司令長官である藤堂平九郎は、

 

「少なくとも、向こうから投降を申し出てきた場合は受け入れねばならない。そういった者まで殺しては、我々はガミラス同様の無差別殺戮者に身を落としたも同然だ」

 

と主張した。

藤堂のそれは明らかに理想論ではあったが筋の通った意見でもあり、表立った反対意見も出なかった(出せば殺戮者宣言したとみなされかねない)ため、今後は、“状況が許せば敵の投降を受け入れる”事とした。

もちろん人道上の措置だけではない。ガミラス人という高等生命体に対する研究欲や、地球のだいぶ先をいく技術への興味と羨望、吸収欲という下地があっての事だ。

 

とはいえ、現時点でガミラス残党が投降する可能性は極めて低く、逆に捨て身で襲いかかって来る可能性が高い以上、こちらもより鋭い刃を研いでおかねばならなかった。

TF11はそのための戦力であり、嶋津率いる『ユウガオ』らプランツ級フリゲートは、カタログデータなら単艦でガミラス駆逐艦を上回り、4隻なら艦首軸線砲の砲撃力は『ヤマト』が前方に指向できる主砲をも3割方上回っている。

そのデータ自体に疑念はない。

イスカンダル形波動機関とショックカノン(陽電子衝撃砲)の組み合わせは予想を上回る破壊力を『ヤマト』に与えた。

46サンチ主砲はおろか、15サンチ副砲でもガミラス軽巡洋艦をアウトレンジし一撃で撃沈してのけたのだから。

だが、決定的なものがない。

 

(無い物ねだりだが、出()前に、艦首砲は全力発射しておきたかったな)

 

嶋津のみならず、TF11クルー全員共通の思いだった。

プランツ級フリゲートは、全性能をガミラスに把握されるまでの時間を稼ぐため、試運転はともかく、艦首砲を含む砲熕兵装の試射は大気圏内で地表に向けて行い、かつ威力も最小限に絞らざるを得なかった。

ゆえに、戦闘に必要な射撃データが不足というか、皆無に近い。

 

(要はイチかバチか、出たとこ勝負の行き当たりばったりか)

 

嶋津は肩を竦めてみせたが、それ以上ぼやいても仕方ない事もわかっていた。

『ヤマト』の新人(ヒヨコ)達はぶっつけ本番で惑星間ミサイルを撃破してみせた。

彼らの多くはガミラス空母の直接砲撃で戦死した第1次選抜クルーに代わって急遽召集された者だ。

経験はともかく、皆大した資質の持ち主だ。かの艦を率いる沖田十三の眼鏡に叶っただけの事はある。

なればこそ、くぐった死線の数で上回る自分達が弱音を吐くわけにはいかないのだった。

 

「昼食です!」

 

船務科員の声が狭い艦橋に響いた。

 

「お、ありがとう」

 

礼を言ってランチボックス形式の戦闘糧食(レーション)を受け取る。

これも、波動機関化による艦内スペース拡大の恩恵を受けて、おかずが一品増えていた。

 

「一品増えたのは率直にありがたいです」

「そうだな」

 

やはりイスカンダルからの技術を元にし、『ヤマト』に搭載されている循環式糧食供給(知らない方が幸せな)装置こと“O·M·S·I·S(オムシス)”は小型化が間に合わない事と、それが必要なほど長期間の行動ではないため、地上据置形のO·M·S·I·S設置が進められ、プランツ級には軽量高性能化された食料保管庫が搭載されており、毎食のおかずも一品増えていた。

栄養面はさておき、彩りが増すという視覚効果による士気の向上には十分役立つ。

波動機関に換装した在来形艦船も同仕様に変更されており、ささやかながら居住性は改善されていた。

当然、各国宇宙軍からは1日も早い自国籍のプランツ級フリゲートの建造·就役や既存艦の強化改装が“強く、強く”要望されており、今回の作戦も完全成功は必須条件だった。

 

「····そういや、今日は金曜日だったか」

 

金曜日といえば、日本籍艦の昼食か夕食はカレーライスと20世紀から決まっている。

ご時世ゆえレトルトタイプなのは仕方ないが、それでも艦内で隠し味を加える程度のアレンジは許されていたし、こういう状況でも日本艦の炊事スタッフはオリジナリティを出そうとしている。

『ユウガオ』もそこは変わらないが、この艦の炊事責任者は元々寿司職人。

ゆえに、昼食は巻き寿司だった。

 

(ま、贅沢は言えないな)

 

時節柄、ほとんどが代用品だが、巻きと“シャリ”はしっかりしている。

寿司の基本は巻き寿司。

自艦の炊事責任者が、包丁人としては平均を上回っている事に、嶋津以下の乗組員は満足していた。

 

「あの、艦長?」

「················何だ?」

 

模造かっぱ巻きを手にした大村が訊ねる。

嶋津は模造かんぴょう巻きが口に入っていたので、ん?と答えて飲み込んだ。

 

「例のイラストですけど、あれで良かったんですか?」

「クルーの総意で決まったし、オヤジども(お偉方)も何も言ってこないんだ。何ら問題はないさ」

「はあ····(言う気も失せたというのが真相ではないだろうか?)」

 

大村が答えに窮したのには理由がある。

出撃3日前、視察に来た芹沢虎鉄は、『ユウガオ』の舷側に描かれたかんぴょう巻きをしばし凝視し、額を押さえつつ立ち去った。

2日前に訪れた土方(鬼竜)からは

 

「····旨そうに描けてるな」

 

驚愕の一言があったが、艦長は

 

「····お言葉、発案者と看板屋に伝えます」

 

と答えていた。

あの後、艦長から

 

「····オヤジ(鬼竜)は画家志望でね。内輪の品評会では何度も入選してるんだ」

 

と、更なる驚きの話があり、だから科学者でもある沖田提督と親友なのかと妙に納得した。

そして出撃前日には、よりによって藤堂平九郎幕僚長がお忍びで来たが、舷側のかんぴょう巻きを凝視していた自分達の大親分に対し、目の前の艦長は

 

「食欲をそそられたのなら御の字です」

 

と、いつもと変わらぬ口調で説明した。

藤堂は一瞬虚を衝かれた表情になったが、すぐ苦笑の表情になった。

お偉方3人から表立ったクレームがなかった以上、舷側のかんぴょう巻きを消したり描き直せと要求されても応じる義務はない。

 

「戦意高揚にならないイラストはいかがなものか」

 

という声もあったが、

 

「気に入らないならそうと正式ルートで言えばいいだけさ。無視だ無視」

 

と言って一顧だにしなかった。

 

····出撃間近で描き直す暇などなかったのが事実だが、このかんぴょう巻きマークは、護衛艦になった『ユウガオ』が除籍されるまで残され、複数メーカーで模型化されたり、擬人化ゲームのキャラクターモデルになったりもしたのだが、それはまた別の話。




次回、ガミラス残留艦と激凸!

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