かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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半年も開けてしまい、申し訳ございません。
ようやくの投稿です。



21.第2次トムとジェ○ー作戦②

  ──駆逐艦『ホワイトジンジャー·リリィ』──

 

キャップ(艦長)

「ん?」

 

艦長席の前で腕組みして立つ体格よい初老の男に、壮年のクルーが近寄る。

 

「総員、アーマー(船外作業服)着用完了しましたぜ。あとはアンタだけだ」

「····やっぱ着けなきゃダメか」

「決まってるでしょうが」

 

ざっくばらんな口調で船外作業服の着用を促す部下に、艦長── レオ・ロペス・ファルコン中佐(中米連合宇宙軍所属) ──は肩を竦める。

身長は170cmとやや小柄ながら、日焼けした風貌に錨のタトゥーを入れた丸太のような両腕から、『マイティ·ポパイ』や『仔牛(カーフ)』と渾名されており、実際に腕っぷしも強く、勇猛果敢な指揮でこれまで乗艦と乗組員を何度も生還させてきた。

 

「艦長が真っ先にぶっ倒れちゃ、戦闘(お祭り)にならんでしょう?駄々こねてないでさっさと着て下さい」

「わかったわかった」

 

ファルコン艦長率いる『ホワイト·ジンジャー·リリィ』の任務は、船団に先行して敵情を探る「ピケット」だ。

真っ先に会敵して攻撃される可能性が高く、それでいて敵をいなしつつ矛先を本隊から逸らさなければならない。

危険度は極めて大。乗組員のスキルと艦の調子。この両方が最高レベルでなければ務まらない。

故にこの任務は、駆逐艦乗りにとっては最高の名誉であり、『ホワイト·ジンジャー·リリィ』が護衛艦群の中で最も高技量である何よりの証だ。

それだけではない。ファルコンはこの任務に際し、乗組員の一部入れ替えを行った。

新婚者や幼い子持ち者を下艦させ、過去に自分の部下だった経験があり、かつ“後顧の憂い”がない者を乗艦させた。

下艦を命じられた者は当然反発したが、どうにか聞き入れさせた。

一方、代わりに乗り込んだ者は、経験豊かなのに乗る艦がなくて歯軋りしていたこともあって、また腕が振るえると腕まくりしながら勇躍、艦のラッタルを登ってきた。

彼らは慣れない波動機関に目を丸くしたが、

 

『こいつがサラブレッドなら、これまでのフネはロバだ』

 

と、生まれ変わった突撃駆逐艦に快哉の声を上げつつ、勘を取り戻していった。

 

「そうだ、キャップ」

「ん?」

「“お嬢”との勝負、ついたんですか?」

「いや」

 

ファルコンは副長からの質問に肩を竦めて応える。

 

「あの娘っ子、ますます強くなってやがる。帰ったら決着(けり)つけてやるさ」

「呑み比べで勝ってどうするんですか····」

 

副長はあからさまに嘆息し、艦長の呑み友達(?)である“お嬢”を思い浮かべた。

彼女は何かと人目を引く。まだ20代で国連宇宙軍でも十指に入る美貌の持ち主。入隊者勧誘にも駆り出されたという。

それだけならば、前線勤めの宇宙戦士にとっては無縁の存在だったろうが、現在唯一の女性の戦闘艦艦長、それも複数の生還歴持ちというのが、ある意味彼女の本質である。

しかも、呆れた事に艦長に劣らぬ····否、恐らくは上回る酒豪。

艦長が彼女と呑み友になった経緯は知らないが、どう見ても同性の悪友同士といった感じで、男女関係という匂いはない。

共通事項があるとすれば、多くの仲間の死を目の当たりにし、敵と自分への憤怒に身を震わせたことか。

 

「そのお嬢も出てきてるんですよね」

「ああ。多分初めての“本隊”詰めでな」

 

突撃駆逐艦による雷撃戦を主体にして戦ってきた彼女にとっては、恐らく初めて巨砲主体の戦闘になる。

ある意味、我慢を強いられよう。

 

レーダーがホワイトアウトしたのはその直後だった。

 

  ──フリゲート『ユウガオ』──

 

「──えくしっ!」

「噂されてますね」

 

艦橋にアルトのくしゃみが響き、即座に副長·大村耕作が反応した。

自分の上官が良し悪し双方で目立っているからこそか。

案の定、それに対する嶋津の答えに大村は苦笑せざるを得ない。

 

「きっと“ショウガ”のオヤジさ」

「ああ····(笑)」

 

“ショウガ”とは、この船団の先鋒(ピケット)を務める『ホワイト·ジンジャー·リリィ』のことだ。

艦名にユリ(リリィ)が入っているのに生姜を引き合いに出したのは、その艦の艦長があまりにユリと真逆のイメージだからだが、大村が苦笑したのは、以前この2人に付き合わされて潰された経験があるからで、

 

「また引き分けたんですか?呑み比べ」

「還暦過ぎてんのに元気な事で」

(いや、2人とも元気過ぎだよ····)

 

内心で長い長い溜め息をついた。

 

──と、

 

「旗艦(牽牛)より隊列修正指示が出ました」

 

通信士が報告する。艦列が伸び過ぎたようだ。

輸送艦を中心に各隊·各艦の間隔を詰めようと艦長たちが指示を出そうとした時、レーダースクリーンがホワイトアウトした。

 

「合戦用意。艦内隔壁全閉鎖!」

「ECCMは効きそうか?」

 

艦橋の空気が凍りついたが、そこは皆修羅場を切り抜け生き延びてきた者。それぞれの持ち場ですぐに戦闘体制に入る。

通信士は恐らく無駄だろうなと思いつつもECCMによる対抗措置をとり、案の定徒労に終わった。

自艦が合戦態勢に入ったのを確認した嶋津は通信士にピケット艦の安否を質す。

 

「“生姜”の状況はわかるか?」

「『HGL(ホワイト·ジンジャー·リリィ)』は敵駆逐艦1と接触。砲撃を回避し、そのままドッグファイトに入りました····えっ!?」

「どうした?」

「本隊に複数の敵艦が接近中。駆逐艦2、軽巡洋艦2····それに重巡洋艦1です!」

 

艦橋の気温が一気に5度以上下がった──ような気がした。

ガミラスの重巡洋艦──実質は巡洋戦艦──は、『ヤマト』が討ち取った太陽系侵攻軍団の旗艦らしき超弩級戦艦を除けば、地球艦隊にとっては最大級、否、絶望級の戦闘艦だった。

超弩級戦艦が最前線に出てきたのは、文字通り最期の戦闘になったエッジワース·カイパーベルトでの戦闘くらいで、それ以前の戦闘では出てこないか後方にいるくらいだったのに対し、こちらは敵が10隻いれば必ず1隻は含まれており、かつ前衛に出てきて突撃してきた。

そして攻撃力·防御力とも駆逐艦や軽巡洋艦とは段違いで、『ヤマト』以前の地球艦隊がガミラス軍に唯一“負けなかった”第2次火星沖会戦において地球艦が初めて用いた陽電子衝撃砲(ショックカノン)の直撃を受けた駆逐艦や軽巡洋艦が瞬時に爆沈したのに対し、爆発炎上しながらもしばらくは航行していた艦が複数存在していた。

その絶望が、艦の形になってやってきたのだ。

 

(やってくれる····)

 

嶋津冴子は一瞬だが誤ってカメムシを噛み潰したような表情になった。

船団隊列が伸び切った瞬間を狙い澄ましたような奇襲、電子戦による目潰し、ピケット艦の排除、そして間髪入れぬ本隊への強襲。

腹立たしいほど堅実で、かつ隙のない戦術構成。

間違いなく、目前のガミラスは自分たちの運命をかけてこちらを殺しに来たのだろう。

だが、それはこちらも同じ事。

 

「旗艦より発光信号。『我二続ケ』」

「了解。最大戦速、面舵35。最後尾(ケツ)を持つぞ」

 

土方が座乗する『牽牛』を先頭に、第11戦隊(TF11)は本隊たる輸送船団の壁になるべく前進した。

 

地球連邦防衛軍の公式戦史には、この時を『第2次ト○とジェリー』作戦における地球側最大の危機と記してある。

前衛の『ホワイト·ジンジャー·リリィ』は敵駆逐艦1と文字通りのドッグファイトに入らざるを得ず、序盤から戦力外にされた。

また、船団を直衛する駆逐隊は敵巡洋艦による遠距離からの牽制射撃で突撃に入れない。

そして、この作戦の要であるTF11は、船団後方からようやく速度を上げ始めたところだった。

 

──ガミラス側から見れば、突然現れ圧倒的な暴力で自軍主力を殺戮していった謎の戦闘艦『ヤマト』以外の地球艦艇が、唯一自軍艦に致命傷を与え得る空間魚雷の射程を考えれば、距離を取りさえすれば地球の輸送船団と護衛部隊を分断し、各個撃破は十分可能と踏んでいたようだ。

ガミラス残存艦隊は軽巡洋艦主砲の有効射程に地球船団を捉えたところで、速度を20~22宇宙ノットまで減速した。

地球駆逐艦の頭を押さえながら腰を据えた砲撃戦を行うには最適な速力だろう。

一方、この時点でまだ地球船団を艦砲の有効射程に捉えていなかった2隻の駆逐艦はこの時点では一見遊兵に見えたが、唯一の脅威である敵駆逐艦隊の突撃に対する備えと見て当然だった。

 

この時、地球船団の後方からTF11がガミラス艦隊との距離を詰めつつあったが、その距離は未だ船団本隊からかなり離れており、ガミラス重巡·軽巡の主砲もまだまだ届かなかった。

それこそ、彼らの本拠地と本隊を殲滅した『ヤマト』に比べれば遥かに小型な艦だったから、何ほどの脅威にもならないはずの距離だった。

更にこの時点では最大出力でジャミングを実施中。地球艦が精密射撃を行うには必須な射撃管制レーダーは完全に押さえ込み、地球側は戦いの目と耳を奪われていた、と思い込んでいても仕方なかった。

 

また、接近しつつある4艦がデータベースにない新型艦という事実は、地球船団が木星圏に至るまでの偵察活動とその後の分析で判明していたが、この艦の規模は既存の突撃駆逐艦と巡洋艦の中間といった程度であり、あの『ヤマト』の如き悪夢のような火力を有しているとはとても考えられなかった。

加えて、この新型艦群の挙動がどうみても訓練不足か何らかの不具合を思わせるほどグダグダだったこともTF11の戦力評価を著しく低く見積もらせる一因になったのだが、TF11はガミラス側にとんでもない高値をふっかけた。

 

 

      ──『ユウガオ』艦橋──

 

「主機出力安定!波動防壁正常展開!!」

「タキオンレーダー、動作正常!」

「砲雷長、射撃データ入力。慌てず急いで、な」

「了解」

 

横一列の遠距離砲撃戦配置についたTF11のフリゲート4隻(ケンギュウ(牽牛)、コンパス·ローズ、ジャスミン、ユウガオ(夕顔))は前進を止めて姿勢制御用バーニアによる微調整に移行。波動機関のエネルギーは艦前方への波動防壁と、艦首に内装された2連装46サンチ陽電子衝撃砲(ショックカノン)の全力砲撃に充当される。

 

陽電子衝撃砲自体は数年前の第2次火星沖会戦で実用化されており、威力は十分だったが、地球艦の主機自体が出力不足で、発射に要するエネルギー充填に1分以上を要するのが大きな欠点であり、それを看破したガミラス艦隊は、以後の艦隊戦では地球艦隊との並航戦に徹する事で二匹目のドジョウを許さなかった。

 

波動機関搭載に加え、今回はジャミングが効かないタキオンレーダーを使い始めたことも含め、ガミラス側もこれまでにない最大限の警戒はしているだろうが、向こうが持っているのはあくまで既存の戦艦と巡洋艦の艦首砲のデータ。

まさか巡洋艦より小さい艦に『ヤマト(殺戮者)』主砲と同じ飛び道具を仕込んだと予想しているだろうか。

 

(とはいえ、アウトレンジできている間に当てないことにはな····)

 

キャプテンズシートの嶋津のこめかみから汗の滴が一筋流れ下る。

 

艦首ショックカノンはガミラス艦の艦砲より長射程·大威力だろうが、当て損じて中·近距離戦になると、艦体が小さい分こちらがやや不利だ。

特に重巡洋艦は、この艦の艦首砲でなければ短時間で無力化する事は不可能に近い。

さらにこちらのアキレス腱は、ガミラスに察知させないためとはいえ、艦首砲の全力射撃試験と砲撃演習ができていない事。

要するにぶっつけ本番でここに来ているという事だが、『ヤマト』もまた、ぶっつけ本番の主砲射撃でガミラスの手裏剣型(高速)空母と惑星間弾道ミサイルを一撃で仕留めた。

ましてや後者を直接指揮したのは初陣同然のヒヨッコ(古代 進)だ。

あれをやってのけられた以上、経験ある我々が愚痴る事はできない。

 

「狙点固定!」

「艦首砲、準備完了!」

「砲身冷却装置、正常作動確認!」

「よし、交互射撃でいく」

 

プランツ級フリゲートの2連装艦首砲は斉射と交互射撃の双方で使用可能で、TF11では『ジャスミン』が斉射、他の3艦が交互射撃をする事になっている。

当然、『ユウガオ』は交互射撃だ。

そして──。

 

旗艦(ケンギュウ)、砲撃開始!」

 

通信士の報告と同時に、艦橋窓の向こうで閃光が煌めく。

間髪入れず嶋津の号令が飛んだ。

 

「──撃てっ!」

 

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