かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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残党と留守番の殴り合いの結果は──。


22.第2次ト○とジェリー作戦③

   

        ──『ユウガオ』──

 

「く····」

 

『ユウガオ』のブリッジクルーの表情に焦りの色が浮かび始めていた。

否、僚艦も同じだろう。

艦首内2連装46サンチショックカノンによるアウトレンジ砲撃は既に10射を数えていたが、未だ敵艦を捉えるどころか至近弾すら与えていない。

しかも、隣に位置する3番艦『ジャスミン』は艦首砲を2門斉射で放っていたため、10斉射目で砲基部の熱放射が限界に達し、一足先に砲撃を中止して冷却作業にかかっていたが、再砲撃が可能になるまでは多少の時間を要した。

これでガミラス艦に向けられた46サンチショックカノンは4隻8門から3隻6門に減ってしまった。

一方でガミラス軽巡洋艦からの光弾が届き始め、第13~14射目あたりでこちらも有効射程内に捉えられるのは確実だった。

 

「11射目急げ!焦るな。各艦とも弾道は確実に近づいてるぞ」

 

焦燥は艦長の嶋津とて例外ではなかったが、仮にも艦を預かる者、クルーの前で動揺を表に出してはいけない。

自分はここのクルーの腕を信じるのみ。

大丈夫。彼らならできる。

 

「照準よし!」

「撃て!!」

 

左舷側艦首砲から放たれた陽電子ビームは真っ直ぐ伸びていき──。

 

敵軽巡の艦首にクリーンヒットした陽電子ビームは、薄い正面装甲を紙のように食い破って艦内に浸透。そのまま一気に艦尾まで貫通。要するにビームで串刺しにしたのだ。

次の瞬間、内部で続け様に誘爆·崩壊を引き起こした敵軽巡洋艦──ガミラス側呼称:ケルカピア級──は、原型を留めず弾け飛んでいた。文字通りの爆沈。凄惨な最期だった。

 

「········」

「········」

「········」

 

正に剛槍一閃の撃沈劇だったが、快挙を成し遂げた『ユウガオ』の艦橋に歓声は響かず、それどころか、半ば呆然と自らが達成した眼前の光景に魅入られていた。

その光景は、宇宙戦士にとって悲願であり、胸を、身を削られるような切望であり、血を吐くような渇望。

否、いや、“半ば以上諦めていた”という点においては、もはや夢や幻という次元にまで至っていたかもしれない。

特に、この甘美極まりない光景を遂に目にすることなく、無念の内に斃れたあまりにも多くの戦友たちのことを思えば──。

 

「次、右の軽巡だ。照準急げ!」

 

半ば放心しかかっていたブリッジクルーたちを我に返らせたのは、艦長·嶋津冴子が発した、低くも鋭い声だった。

それは彼女一流のプロフェッショナリズムが発露したものだったが、当の嶋津自身も、その美しい唇の端を実に魅力的に歪めていた。

それは実に絵になる光景だった。船外活動用ヘルメットとバイザーをかぶっていなければ──。

 

一瞬の後、『ユウガオ』艦橋にまた鮮やかな閃光が飛び込んできた。

 

「敵軽巡撃沈!『コンパス·ローズ』の砲撃です!」

「ん」

 

もう1隻の敵軽巡も『コンパス·ローズ』が討ち取った。

こちらは右舷側を抉り取られ、1~2秒ほど断末魔の痙攣の如くフラついた後爆散した。

僚艦の快挙に艦橋の気勢が上がるが、プロ意識という点で、彼らを上回る人物がいたのもまた事実だった。

旗艦たる『ケンギュウ』から戦隊砲撃目標の変更を告げる命令が発せられていたからだ。

 

『戦隊砲撃目標ヲ敵重巡ニ変更。各艦腰ヲ据エテ撃テ』

 

電文形式とはいえ、命令の後半部分は明らかに土方からの叱責あるいはダメ出しだった。

そして“鬼竜”のダメ出しに冷や汗を流さない者は、TF11には只の1人も存在しないのだった。

 

「「「撃て!」」」

 

まさに人馬一体の如く、3隻の艦首ショックカノンが吼える。

仕切り直しの第1射はまたしても全弾空振りだったが、目標変更直後の1射目にしては測的は悪くなかった。

しかも、この砲撃は敵重巡の突撃速度を低下させるという結果をももたらした。

これまでは砲撃を受けていなかった気楽さで最短コースを直進していられたものが、続け様に、それも軽巡が一撃で屠られたのを見て、ランダム回避を行う必要が生じたからだろう。

 

鬼竜(オヤジ)め、腹(くく)ったな)

 

土方は重巡の陰に隠れる形になった駆逐艦2隻を敢えて無視する事にしたようだ。

重巡は何としてもアウトレンジで叩きのめさなくてはならない。

重巡洋艦の大口径フェーザー砲の砲撃は、元々の防御力が高くないプランツ級フリゲートにとっては十分以上の脅威だ。 

一方、その重巡を楯にするように続航してくる駆逐艦も決して油断ならない存在だ。

選択を誤れば一兎も得られず突破を許し、輸送船に被害が出る。

ここが我慢のしどころというのが土方の判断だった。駆逐艦の無力化にこだわっている間に重巡の大口径フェーザー砲に捉えられてしまうと、お世辞にも防御力が高いとは言えないプランツ級にも確実に喪失艦が出てしまう。

ならば、重巡はアウトレンジで確実に仕留め、駆逐艦相手ならば1対1でもこちらの砲力の方が強く、こちらは4隻いるから、敵1に対し当方2で圧倒できる。

 

「──撃て!!」

 

そして遂に、TF11の第16射が敵重巡洋艦を捉える。

 命中弾は土方が座乗する旗艦『ケンギュウ』が与えた。

僚艦『ユウガオ』と『コンパス·ローズ』が相次いで軽巡洋艦を仕留めるのを目の当たりにして歯軋りしていた同艦乗組員は、ようやく溜飲を下げた。

だが、重巡はショックカノンを1発被弾した程度では突撃を止めなかった。

大きく抉られた左舷が炎上し、速力も25宇宙ノットまで落とした上、未だ有効射程外と理解しつつも、大型フェーザー砲を一斉射撃したほどだ。

だが、それに対するTF11からの第18射目は勇敢なる敵重巡への介錯になった。

『ケンギュウ』『コンパス·ローズ』『ユウガオ』から放たれた陽電子ビームは全弾が命中。

1門あたりの装甲貫徹力では『ヤマト』主砲と同等以上の陽電子の凶槍を延べ4発被弾した敵重巡は轟沈。かつての地球防衛艦隊にとって恐怖以外の何物でもなかったガミラス重巡洋艦──ガミラス側呼称:デストリア級──も遂に(たお)れた。

 

だが──。

 

「敵駆逐艦2接近!速力31宇宙ノット!」

「面舵15!砲戦用意!」

「ダメコン班スタンバイ!波動防壁正常展開!」

「魚雷全弾発射!狙いが甘くてもいい。急げ!!」

「敵艦魚雷発射!数7!!」

 

TF11に歓喜する暇は与えられなかった。放置せざるを得なかった敵駆逐艦2隻は既に至近にまで迫り、地球のそれより大型の空間魚雷計7本が発射されたからだ。

更に、魚雷を放った敵駆逐艦もTF11の右舷に斜行突進を継続。近接砲戦を挑んできた。

迎え撃つTF11は艦首ショックカノンによる砲撃を中止し、通常砲戦態勢に移行する。

艦首を敵の宇宙魚雷に正対させつつ、本来の主砲である12.7サンチショックカノンを敵駆逐艦に向ける。

主砲基部過熱で戦線離脱せざるを得なかった3番艦『ジャスミン』も戦列に復帰した。

 

「対空防御。撃ち方始め!!」

 

主砲より先に、艦後部に設置された2連装7.6サンチショックカノン4基8門、戦隊全体で実に32門に達する対空兼用小口径ショックカノン群が一斉に火蓋を切った。

その威力は艦首の46サンチショックカノンに比べれば非力極まりないものだが、それでも従来の地球艦のフェーザー砲よりは格段に強力であり、何より発射速度が機関砲並みと尋常ではなかった。

各砲が毎秒1発以上のペースで極小サイズの陽電子の矢を吐き出し続け、弾幕となって魚雷に立ちはだかった。

一歩遅れて艦体前部の2連装12.7サンチショックカノン3基6門、全24門も射撃を開始。

果たせるかな、7本の宇宙魚雷はTF11に届くことなく砕け散った。

 

だが、2隻の駆逐艦──ガミラス側呼称:クリピテラ級──は実にしぶとかった。

TF11から雨霰と浴びせられる陽電子ビームを巧みにかわしつつ、ムカつくほど的確にフェーザー砲を撃ち込んできた。

 

「波動防壁損耗率28%····37%!」

「各部異常なし!」

 

TF11各艦には次々とフェーザービームが命中したが、爆炎を発することはなかった。

プランツ級フリゲートはそのサイズに似合わぬほどの頑強さを見せ、従来の地球艦のように一撃で爆沈するどころか、ダメージらしいダメージを受けた様子もなく砲火を放ち続ける。

これにはもちろん理由がある。

TF11は艦体姿勢制御用バーニアによる回避運動以外の機動を停止しており、全力運転中の波動機関が絞り出すエネルギーは、全てショックカノンへの供給と波動防壁展開に振り向けられていた。

未だTF11に目立った損傷が生じていないのは、最大出力で展開した波動防壁の効果と、開隊以来、砲術訓練以上にみっちり錬成が急がれたダメージコントロールの賜物だった。

さらに、TF11各艦は艦首発射管内にあった宇宙魚雷を、敵駆逐艦からの初弾飛来と同時に、半ば投棄同然に発射。

これも被弾時の被害極限対策の一つだった。

プランツ級フリゲートの設計時点における能力目標は、ガミラス駆逐艦はおろか、軽巡洋艦をも単独砲撃戦で撃破可能というものであったから、より戦闘能力に劣る駆逐艦、しかも数においても2対1の優勢であれば、決して撃ち負けない筈であった。

それを操る者達が、艦のスペックを十全に発揮しさえすればという条件つきだったが、TF11の乗組員はそれをやってのけた。

そして、自艦の砲撃を波動防壁によって減殺され、宇宙魚雷も全弾撃ち尽くし、かつ戦果なしという手詰り状況の中で、冴えに冴えていたガミラス駆逐艦も遂に息切れした。

それには、冥王星基地の壊滅で艦の整備がままならなくなり、乗組員の心身疲労も重なって操艦精度に狂いが生じていた可能性もある。

ほんの僅かな間生じた直線機動。その瞬間をTF11は見逃さなかった。

 

「敵艦、艦首軸線上に来ます!」

レールカノン(電磁砲)も撃ち方始め、3連射!!」

「擊(て)ーっ!!」

 

ショックカノンに加え、各艦の艦体前部上側に片舷3門ずつ固定装備した20.3サンチレールカノンから劣化ウラン弾が撃ち出された。

それらは46サンチショックカノンによるものとはまた異なる殺戮劇だった。

46サンチショックカノンによる砲撃が、大型肉食獣による豪快な捕食行為であったとすれば、12.7サンチと7.6サンチのショックカノン、更に20.3サンチ劣化ウラン弾まで加わったそれは、大小のピラニアの群れに身体を食い荒らされる大型魚のような無残ささえ垣間見えた。

 

2隻の駆逐艦は、先に逝った重·軽巡洋艦のように爆沈こそしなかったが、艦首から艦尾まで廃船そのものの姿にさせられ、推進力を失って虚空を空しく漂うことになった。喰い散らかされた無残な屍として。

 

「·······」

「·······」

 

数多の戦友(とも)の無念を(すす)いだTF11だが、各艦のブリッジクルーは粛然としていた。

理由は2つ。 

1つは今討ち取った敵艦と散華した乗組員に対する賞賛だ。

彼らは実に勇敢かつ巧妙な操艦で突撃してきた。

こちらと刺し違えるのではなく、突破して輸送船を沈めるために。

その敢闘ぶりは、敵ながら天晴れと言う以外ない。

そしてもう1つは、自分たちの先鋒だった駆逐艦『ホワイト·ジンジャー·リリィ』の喪失だった。

 

駆逐艦1と激しい追跡劇を演じた『HGL』(ホワイト·ジンジャー·リリィ)だったが、度重なる被弾で船脚が落ち、艦体後部への被弾で炎上し、主機が停止した。

しかし、土方の命で急行してきた駆逐艦4隻がようやく追い付き、敵駆逐艦は空間魚雷で仕留められた。

ところが、救援準備に入った僚艦の目の前で『HGL』は爆沈。本作戦における唯一の喪失艦になった。

 

「········」

 

その報を聞いた嶋津は一言も発さず、両の拳を握り締めるだけだった。

 

──中米ならではのラテン的陽気さでガミラス戦役をしぶとく生き抜き、本作戦における最も危険なポジションであるピケット艦任務にも自ら志願したベテラン艦長とクルー(手下)たちの死は、勝者である筈の地球艦隊に暗い影を落とした。

だが、彼らがその場に立ち止まって(こうべ)を垂れることはなかった。彼らの使命完遂、即ち“第2次トムとジェ○ー船団”が地球に帰還するまで、それは絶対に封印されなければならないのだ。

 

なぜなら、それは船団·艦隊の全乗組員が固く心に誓っていたから──仮に自らが愛すべき『HGL』と同じ運命を辿ったとしても、生き残った僚艦乗組員たちに同じ振る舞いを求める──と。

 

 “()たちの時もそうしろ(そうして)よ!”

 

その想いは、当事者から実の言葉として発せられた事はなかったが、その誓いの存在を疑う者は、地球防衛艦隊という組織に名を連ねた者の中には1人として存在しなかった。

 

──後年、それも23世紀も8割方経過し、あの時代が歴史と認識された頃、この時代の宇宙戦士たちの気概を評し、

 

『····長く続いた苛酷な戦役の中、兵士たちは自暴的狂気に魅入られていた』

『そうした狂気に陶酔することで、辛うじて自身を律していた』

 

と評した若き軍事評論家がいた。

確かに、それは一面においては事実だったかも知れなかった。

だが──。

 

『あの頃あの場にいなければ、決して到達·共有し得ない境地が存在します。

たったそれだけの事を認める謙虚さがない人に、彼らを批評する資格はありません』

 

──という、簡潔かつ痛烈な反論文を寄せて物議を醸したのは、ガミラス戦役時に肉親を失い、ある女性軍人の保護下で少女期を送ったという100歳間近の老女だった。




次回はエピローグと帰還です。
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