かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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近親者の不幸やらデータうっかり消失やらで延び延びになっていました。申し訳ありません。


3.落魄の艦隊

 ――2199年9月 宇宙自衛隊 横須賀地方本部――

 

 

“カチャ‥‥”

 

壮年の男性士官が入室するなり、嶋津冴子は立ち上がって敬礼し、男も答礼する。

 

「怪我はもういいのか?嶋津三佐」

「はい‥‥悪運だけはいいようで」

「そうか」

 

嶋津の返事に、士官は苦笑を浮かべた。

 

怪我。

 

――ガミラスの遊星爆弾から逃れた人類は各地に地下都市を築いたが、悪化する戦況への苛立ちと地下にも浸透しつつあった放射能への恐怖は住民の心を蝕み、各都市でテロや暴動が頻発。治安機関との衝突や内ゲバ等で死者が出る事も珍しくなくなっていた。

 

それは横須賀も例外ではなく、同様の事件は何度か起きていたが、8月10~12日に起きた暴動は過去にない大規模なもので、暴徒と警察・陸自双方に複数の死者が出たが、たまたま地方本部から呼び出されて向かっていた嶋津は、巻き込まれかけた子供をかばう形で爆発に遭い、全治3週間の怪我を負った。

 

幸い、嶋津に後遺症は残らず、子供も軽傷で済んだのだが、当然地方本部には出頭できず、用件は沙汰止みになってしまった。

一説には、嶋津には新たな転属が内定していたとも言われたが、当の嶋津が真相を知ったのは後年の事だった。

 

閑話休題(それはよだん)

ともあれ、退院した嶋津は改めて命令を受け、地方本部に出頭したのだが――。

 

「《カミカゼ》ですか?」

「そうだ。ようやく復旧のメドが立ったんだが、乗組員がいなくてな」

 

『カミカゼ』は『ヒビキ』『ユキカゼ』と同形の突撃駆逐艦で、機関不調のため長期係留されていたのだが、ストックされていた予備部品等を引っ張り出し、ようやっとの思いで復旧できるというのだ。

 

(ま、同形艦があらかた失われて、部材に余裕ができた事もあるんだろうが)

 

等と皮肉めいた感想も浮かんだが、フネあっての艦乗りだ。

 

「了解しました。《カミカゼ》艦長の任、拝命します」

 

居住まいを正し、手持ちの端末に辞令のデータを受信した。

 

      

 

 

  ―― 横浜市・南部重工鶴見第1造船所 ――

 

翌日、嶋津の姿は造船所にあった。

指定されたバースでエレカーを降りる。

バースの左には2隻の戦艦が繋がれているのが見えた。

手前にいるのは『キリシマ』。

舷側には作業員とロボットが取りついているが、先の会戦での傷跡がここかしこに残っており、さほど進捗していないのは明らかだ。

奥にいるもう1隻に向けてハンディスコープを向ける。

 

「‥‥《フソウ》か」

 

もう1隻の『フソウ(扶桑)』は、前年の“天二号作戦”(第二次天王星沖会戦)で中破し、戦線離脱したままになっていたが、少なくとも外側はようやく修復なったようだ。

 

『カミカゼ』を探そうとハンディスコープをバースの右側に移そうとした時、

 

「おーい、嶋津!」

 

さんざん聞き慣れた特徴あるダミ声で呼び止められた。

 

「‥‥おう」

 

振り向いて見た顔と声が一致したので、おうの一言で応える。

小柄な身体にガニ股、ボサボサ髪に瓶底眼鏡の青年がゆっくりと歩いてくる。

普通の女性なら顔をしかめる容姿だが、良くも悪くも普通じゃない女の嶋津は普通に相対した。

 

「珍しいな、風呂に入ったのか?大山」

 

嶋津が大山― 技術一尉・大山敏郎 ―に軽いジャブを放った。

 

大山は、専攻こそ違え、嶋津や古代 守と同年代で、学生時代から何かとウマが合った。

天才肌の技術者ではあるが、研究や製作に没頭する余り、睡眠や食事はもとより、風呂すら惜しむ有り様で、彼が近づくと露骨に嫌な顔をする者も少なくなかった。

もっとも、女の身で駆逐艦乗りの嶋津も、数日間風呂なしで過ごす事も日常茶飯事なので、大山の身体が臭かろうとさしたる問題ではなかった。

 

そんな大山が、全く臭くない。

ある意味、驚くに足る事態だ。

 

「風呂なんか入らなくてもそうそう死にはしないけどよ、些か事情が変わってな」

「‥‥何があった?」

「坊の岬の特別工廠に呼ばれた。明後日までに来いとさ」

「‥‥は?」

 

嶋津は一瞬絶句した。

大山は天才であるが、見た目の通りの人物なので、どちらかといえば閑職あるいは現場仕事が多かった。

それが、噂は耳にしている坊の岬の特別工廠に彼が呼ばれたという事実に、嶋津は二重の驚きを示した。

特別工廠が本当に存在していた事と、そこに大山が呼ばれた事に。

 

「‥‥ここだけの話だがな」

「何だ?」

 

大山が声を潜める。

 

「この前の戦闘で、お前たちが目撃した船があるだろう」

「ああ」

 

その船ならば、嶋津や沖田が冥王星宙域で目撃していた。

あの速度は明らかに亜光速。恒星系間航行能力を持つ船だろうと思った。

 

「あの船、火星に落ちたんだ」

「本当か?」

「ああ。乗船者は死んでいたんだが、地球人によく似た女だったらしい」

「‥‥マジか」

 

大山の内緒話に驚きを隠せない嶋津だが、脳裏に閃くものがあった。

 

「ひょっとして、火星から(《キリシマ》に)乗ってきた(古代の)弟たちは‥‥」

「‥‥詳しくはわからんが、あいつら、ドえらい物を拾ったようだ。

あの後から、造船会社や各地の造船所から坊の岬に人員がかき集められているのと、既存艦の修理がここにいる3隻だけで打ち切られたのが何よりの証拠さ」

「‥‥‥‥」

 

言われてみれば、随分と人も機械も少ない。

そこまで根こそぎ動員して、一体何をしようと言うのか?

 

「‥‥坊の岬といえば、確か戦艦《大和》の墓場だったな。そんな所で何をするつもりなんだ?」

「さあな。案外《大和》に化けて、内部で何かやっていたりしてな」

「ガの蛹(さなぎ)かよ」

「せめてクワガタと言ってくれ」

 

‥‥その時点では二人とも冗談のつもりだった。

 

「おっと、お前に《カミカゼ》を見せるんだった」

 

大山が話題を変える。

 

「お前が監督してたのかよ!?」

「ああ」

「‥‥大丈夫か、マジで」

 

嶋津は内心で頭を抱える。

大山は、技術者としての手腕は確かなのだが、手掛けた艦は性能特性がピーキーに調整されている事が多かった。

もっとも、大山が手掛けた艦で何度か死線を潜り抜けた嶋津としては痛し痒しなのだが‥‥。

 

5分ほど歩いた先に、見慣れたM21881式突撃駆逐艦が繋がれていた。

濃紺と薄青のツートンに塗られた艦の側面には、小さく『かみかぜ』と描かれている。

 

銃を持つ衛士に敬礼して艦内に入る。

 

 

難燃塗料の匂いがする艦内を一通り眺め、艦橋に来たところで仕上がりについて一言だけ口にする。

 

「まあ‥‥よくここまで仕上げたな」

「当然さ」

 

嶋津の仕上がり評に、大山はドヤ顔で応じた。

戦時下で人手も資材も乏しく、細かな仕上げが省略されている箇所も少なくはないが、要所要所は丁寧に出来ている。

しかし‥‥。

 

(まるで、巣を追われた女王蜂に寄り添う働き蜂だな)

 

『カミカゼ』は動けるが、ガミラスのヒトデもどき空母が大気圏まで出没する現状では、僚艦なしでは出撃など夢物語。

月や水星・金星方面への連絡に出るのがせいぜいだろう。

向かいのバースに繋留されている『キリシマ』『ヤマシロ』と自艦の艦橋を交互に見ながら、嶋津は慨嘆した。

 

 

 

 




自衛隊の天敵が自国の防衛大臣だったとはorz
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