かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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またもや遅くなりました。申し訳ありません。



4.ネズミ輸送は日本人の十八番

    ――旧北太平洋上空 約500キロ――

 

赤茶けた大地を見下ろす宇宙空間を、青主体に塗られた1隻の小型艦が飛んでいる。

その小型艦の艦腹には平仮名で『かみかぜ』と描かれていた。

その艦――突撃宇宙駆逐艦『カミカゼ』――は、秒速15キロで周回軌道に乗っている。

 

「1時の方向に目標捕捉。“米俵”です‥‥最接近まで100秒!」

「ん」

 

狭苦しい艦橋の最前列、操舵席に陣取る男性が報告する。

 

「並走しつつ“俵”の前に出る。牽引作業用意だ」

 

その後ろに立つ女性士官――艦長・嶋津冴子――が頷き、更に指示を出していく。

 

 

「了解。針路そのまま、俵の前に出ます」

 

操舵士――航海長・大村耕作――は、復唱しながら操舵捍とスロットルレバーを細かく操作しながら、『カミカゼ』を“米俵”ことコンテナに近づけ、追い越していく。

 

――と。

 

「‥‥何だあれ」

「おいおい‥‥」

 

艦がコンテナを追い越していく時、ブリッジクルーはコンテナの胴体に描き込まれたイラストを見、苦笑混じりに嘆息する。

コンテナに描かれていたのは、服を着たデフォルメされたネズミだった。

 

「‥‥そういう事かね」

 

嶋津も苦笑を禁じ得なかった。

あのキャラクターは幼い時分に見たアニメの主役だったか。

 

(‥‥“あれ”じゃなくて、“ガ○バ”なのが、せめてもの矜持か)

 

‥‥駆逐艦による輸送に、ネズミにまつわる何かを繋げてしまうのが、日本人の救われ難い(サガ)だ。

 

名実共に艦長に復帰した嶋津と、修復なった駆逐艦『カミカゼ』にとって最初の仕事は、地中格納式マスドライバーで別途打ち上げられた物資コンテナを牽引し、月にいる友軍に届ける事だった。

それはまさしく、かの“鼠輸送”の宇宙版なのだが、物資はコンテナだけでなく、『カミカゼ』艦内にも積み込まれていた。

何せ短期の行動ゆえ、乗組員は必要最小限しか乗せておらず、空いた居住スペースにも月向けの物資を詰めた折り畳みコンテナを詰め込んでいたのだ。

 

戦闘艦とはいえ、このような任務につく事にひっかかりを覚える者もいないわけではないが、地球には、まともに動ける宇宙艦船はひと桁しかおらず、日本に限れば、稼動艦は『カミカゼ』しかなかった。

 

約10分後、

 

「トーイングワイヤー、接続完了しました!」

「よし!」

 

僅かに安堵を含んだ大村の声が響き、嶋津も頷きながら指示を出す。

 

「微速前進、月に向かう。‥‥ネズミの如く、ソロソロサッサとな」

 

余計な一言をつけ加えた嶋津の声に続き、『カミカゼ』とコンテナは次第に速度を上げて月に向かった。

 

 

 

      ――約5時間後、月――

 

月面をならしただけの急ごしらえな艦船発着場に着陸した『カミカゼ』とコンテナから、支援物資がカートや人の手で基地建物に運び込まれている。

その作業を見ながら、『カミカゼ』の前脚付近に宇宙服姿の2人の士官がいた。

 

「色んな意味で助かったよ。嶋津艦長」

「いえ。運び込めたのは要請分の7割強でした。桐生連隊長」

「それだってないよりは遥かにましだ。‥‥正直、要請した分の6割が届けば上出来だと思ってたからな」

「‥‥‥‥」

 

笑う桐生連隊長に、嶋津は複雑な思いを禁じ得ない。

物資の受け渡しは本部から派遣された専門の士官が行うのだが、基地の長たる連隊長がわざわざ出向いてきたので、艦長たる嶋津が応対しているのだ。

 

この基地――空間騎兵隊・月面第75駐屯基地――も何度かガミラスの爆撃にさらされており、人員補充がままならない今、実質的な戦力は連隊どころか大隊規模にも満たない。

もちろん、それは地球のどこでもそうなのだが。

 

「地下都市(あっち)の状況はどうなってるんだ?」

「日本に限れば、極度に悪くなってはいませんが、それもいつまでもちますか‥‥」

「そうか‥‥」

 

つまり、少しずつ悪化しているという事で、人心荒廃が進んで破滅的な巨大暴動が起きる可能性もあるのだ。

事実、幾つかの都市はそれらが原因で無秩序状態になり、潰滅していた。

と、桐生が話題を変える。

 

「時に嶋津艦長、お前さんのご家族は?」

「亡き幼馴染みの母親と末娘が、私にとっての家族みたいなものです」

「‥‥そうか」

 

一息ついて、桐生がポツリと口にした。

 

「宇宙戦士訓練生の一人娘がいてな、そろそろ卒業なんだが‥‥そもそも配属先があるのかどうか」

「‥‥‥‥」

 

桐生の娘が何を専攻しているのかはわからないが、確かに今の国連宇宙艦隊は艦隊の体をなしていない。

生き残りの乗組員はいれど、艦船がないし、今や地球より内側の水星・金星方面しか行動できないのだ。

折角特別な教育を受けても、乗るべき艦や赴任すべき基地がなければ宝の持ち腐れというものだ。

 

そこに、輸送担当士官からの通信が入る。

 

「嶋津艦長、傷病者の収容終わりました!」

「了解。すぐ戻る!」

 

嶋津は返答し、桐生に向き直って敬礼する。

 

「では、重傷者8名と遺髪67名分を預かります」

「ん、頼んだぞ」

 

『カミカゼ』が帰りに運ぶのは、重傷を負って送還対象になった空間騎兵隊員8名と、明言されていないが、戦没者67名分の遺髪だ。

遺体を持ち帰れるほどの余裕はないのだ。

 

嶋津が艦内に戻るや、主機関が再起動する。

そして数分後、『カミカゼ』は砂煙を立てながら月面を離れた。

 

「‥‥鼠小僧参上!とはいかなかったか‥‥」

 

遠ざかる月面を見ながら嶋津はぼやいた。

戦おうにも、今満足に動く艦をかき集めたとて半個艦隊に満たない。

失意を押し殺しながら、嶋津は艦を地球に向けた。

 

―― 恒星系間航行が可能な宇宙戦艦の完成と、汚染され尽くした地球を浄化できる『放射能除去装置』獲得のため、大マゼラン銀河内にある惑星イスカンダルへの一大宇宙航海計画が発表されたのは、『カミカゼ』が地球に戻った10日後の事。

さらにその翌々日、空間騎兵隊の月面第75駐屯基地は、遊星爆弾に見舞われた。




次回、ヤマト発進支援です。
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