土方 竜は、コールを鳴らす事すら省き、その部屋のドアノブに手をかけた。
施錠されていない事は手に伝わる感触でわかった。
(相変わらず不用心なやつだ‥‥)
「入るぞ」
部屋の内心で嘆息しつつ、そのままドアを開く。
その先、土方に背を向ける形で、部屋の主たる沖田十三は、スーツケースに私物を入れていた。
土方のぞんざい極まる来訪にも関わらず、沖田が咎めもしないのは、互いへの信頼のさせる業だろうか。
「‥‥用件は察しがついている」
「ならば(説明の)手間が省けていい」
沖田は土方を一瞥することなく、来意を推察し、土方もまた好都合と返して来訪の理由を口にする。
「どうしても行くのか?」
「‥‥‥‥」
「そんな(ボロボロの)身体でか?」
「‥‥‥‥」
自分の身体の事に土方が触れた時、一瞬だけ沖田の手が止まったが、すぐ何事もなかったかのように荷支度を続ける。
(‥‥まったく、こいつは!)
沖田が翻意しないだろうとわかってはいても、割り切れない思いはある。
だから、ついつい語気が強くなってしまう。
「俺の目は節穴じゃないぞ。‥‥一体何年の付き合いだ!?」
――沖田と土方は、自衛隊の宇宙戦士訓練生から、かれこれ30余年続く。
「‥‥だから俺に任せろ。退くのも勇気だ」
あの艦に課された任務は、人類存亡に直結する前代未聞・空前絶後の壮挙だから、艦長に課された責任の重さは正に無限大。
そんな重圧に耐えて任務を遂行できるのは、沖田と自分しかいない。
自分は健康に大きな問題は抱えていないが、沖田の身体は悲鳴を上げ始めており、このままでは長くても余命5年がいいところ。
ましてや、あの星へは片道14万8000光年・往復29万6000光年で、かつ1年以内に戻らなければならない。
そんな長丁場、かつ無限大な重圧のかかる航海では、5年どころか1年で沖田の命は尽きてしまうだろう。
軍人である以上は仕方ないかも知れないが、それでも死んでもやれ、とは言えない。
ましてや沖田は、部下に『死に急ぐな』と強く言ってきた。
なのにお前自身は死に急ぐのか?
口にこそ出さなかったが、土方が沖田に向ける視線にはそんな問いかけも含んでいた。
「‥‥イスカンダルへの旅は、俺の命を奪うかも知れん。
だが、俺は必ず帰る。放射能を除去する術を携えてな。途中でくたばるようなヘマはせんよ」
「‥‥そうか」
自分をしっかり見据えて言う沖田に、土方は、もはやこれ以上の引き留めは無駄だと悟った。
「留守を頼む。土方」
「‥‥ああ」
やはり沖田の意思は揺らがない。
土方も腹をくくった。
沖田の部屋を後にした土方は、振り返らず歩いていく。
友の覚悟を確認した以上、自分にできるのは『ヤマト』の出航を見届ける以外になかった。
――それと、
「‥‥佐渡先生に念押ししておくか」
独り言と共に、土方は歩を速めた。
こちらでは、沖田は自分を『わし』ではなく『俺』と言うようにしました。
同期の僚友なら、互いに『俺』『お前』でしょうから。
次回、惑星間弾道ミサイルに土方と嶋津が立ち向かいます。