暗い路地
目が覚めると目の前が真っ暗だった。それに地面がボコボコしているし、さらには視界が黒く塗りつぶされている。どうやら、何かにスッポリと覆われているようだ。
(…)
しばらくゴソゴソと蠢いた後、俺は目の前を覆っている何かを取り払った。
地面に音も立てずに落ちたものは端がボロボロになり、一部に虫食いが出来ているいかにも使い古された毛布だった。
かなり年季が入っているようで、カビ臭い。
身じろぎすると、今すぐにも崩れてしまいそうな木の板が俺の体の動きに合わせて軋んだ。
うむ、これからどうするべきだろうか。
そう思った次の瞬間、妙は寒気を感じた俺は自らの身体を見つめて思わず目が飛び出そうになった。
「うぇっ!?」
ボロ毛布を頭からかぶりなおす。妙に寒いと思ったら…スッポンポンだったんだよ…
いや、待て、誤解しないでほしいが、俺は変態じゃない。
そう言う趣味も一切ない。
だが、何故裸なのかは説明できない!!
神の野郎!!次会ったら散々文句言ってやる。いや、いつ会えるのかは知らないけど…
うん、まぁ、とりあえず
ここからはすぐに出て行った方がいいのだろう。
どこか街の通りのようだが、薄暗くて俺の毛布の臭い以上に凄まじい匂いがするし、道端には明らかに何かをやっている人々が倒れ伏して、宙を見上げている。
ヤヴァイ場所ですね、本当にありがとうございます。
地面の冷たさを直に感じる裸足のまま、冷たい路地から若干の明かりが見える通路へと歩き出した。
途中、どこからか怒声と悲鳴、そして銃声が聞こえたが気にしない。
今俺は俺の命を守ることで精一杯だ!!
誰かが俺を追いかけてくるような音が幻聴のように耳元で木霊する。
俺はその音から逃れるように行く宛もなくひたすら走った。
しかし、どこをどう走ったのかは分からないが、気力と体力はすぐに尽きてしまった。
何故かいつも以上に体力がなくなっている気がする。そんなことを考えながら、俺は地面に倒れ伏した。
カミサマが言ってた言葉を思い出す。
若干は期待していたんだ。自由というものに。
楽しませてもらおうとか少しは信用してたんだよ?まあ、ジョーク?ブルックのスカルジョークみたいな感じのゴッドジョークだって。・・・ゴッドジョークってなんかエネルっぽいな。
『ヤハハハハハ!!ゴッドジョーク!!』
あれ、何だか面白いぞ。…じゃなくて。
少し期待してた俺はどうやらいきない裏切られたっぽいことに気づいた。
あの野郎せいぜい楽しませてもらうとか言いながらいきなり見放しやがった。
死神が常に寄り添っているような場所にいきなりパンピー放り込むなっての。
薄れゆく意識の、短い(?)一生だった、次はもっと幸せに生きられること仏様あたりに願った。
そのまま意識は暗闇に飲み込まれていく…
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目覚めると木造りの天井が見えた。いや、あの形状からして屋根だろうか?
窓の外では目を思わずつぶりたくなるような朝日の輝きと共に、チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。どうやらここで一晩寝ていたようだ。
いつの間に?
頭の中でハテナが踊っていると、階段がたわむ音がした。誰かが階段をのぼってくるようだ。
「おう」
やってきたのは、全身傷だらけ、ついでに強面のいい年したオッサン。ご丁寧に懐には銃らしき形。明らかに大丈夫な人ではなかった。というよりも、
「…そんなにおびえるこたねぇじゃねえか。こちとら命の恩人だぞ。」
いつまでたっても何もしゃべらずに震えている俺に戸惑っているのか、少し悲しそうな声でその人のほうから話しかけてきた。
おや、今この人は何と言ったのだろうか?
「命の恩人?」
「あ?お前行き倒れていたんだぞ。この街にはオメエ見てぇなガキが腐るほどいるが、商売の邪魔だったのでな。勝手だが、無理矢理捕獲させてもらったぞ」
なるほどどうやら文字通り行き倒れていたところをこの人が助けてくれたようだ。
というか、捕獲とはなんだ捕獲とは。こちとられっきとした人間だぞ。一応、一応な?
「下に飯を用意してるからとっとときな。あと…」
こちらの話も聞かずに階下に下りて行こうとしたそのオッチャンは、そこでいったん言葉を区切ると、露骨に嫌な顔をした。
「オメエ、自分ではわからないだろうが凄まじい臭いがするぞ。飯食う前に外で臭いを落として来いよ。でなきゃ、即効で家からたたき出すからな…」
そう言い終わると、その人は木造づくりの階段を軋ませながら階下へと下りて行った。
ちょっと自分の体臭を嗅いでみる。
悲しみの香りがした。
外に出て一階に降りてみるとマスターがご飯を用意していた。
今まであまり指揮していなかったが、用意されている料理を見た途端俺は急にお腹がすき、がっついて目の前の料理を食べた。
何のことはない、酒場で出されるような酒のツマミのような料理だったが、その分いくらでも食べることができた。
ご飯ってこんなにうまかったのかと思ったぜ。
「よく食うなあ、小僧。しかし良かったな。あのままだったら、殺されるか、良くて銃の的にされて海賊達の遊び道具にでもされていただろうなぁ。」
いやっ
今ものすごく聞きたくないことを聞いた。それ、何てバイオレンス!!
というか、それってどちらに転がっても俺絶対に死んでたじゃないか!!
この人には本当に感謝感謝だ。
でも、この後俺はどうするかが問題だった。
「なんだどうした」
「あのぉ…」
困った俺は恩人に嘘をつく事に後ろめたさを感じながらも、自分には記憶がなく、行き先もない、という話をした。
そして、このまま外に出ても行くあてがないので俺は住み込みで働かしてほしいといった。
その人は少し考えたようだが、「まあいいだろ」と許してくれた。
丁度従業員が欲しかったんだ、と。
それを快く承諾してくれたこの人はカミサマよりカミサマらしいと思う。
何故世の中はいやらしいことを考える人よりも優しい人が少ないのだろうか。理不尽ここに極まれり。
さて、とりあえずは酒場のアルバイトとして俺の第二の人生がスタートしたわけだが、
けど、次が問題だった。
「そう言えばお前名前は?」
正直に言おうとしてすぐにやめた。
今まで使ってきた名前なんぞ、考えてみればあの人たちのことを思い出してしまってどうも気が滅入る。
「すいませんそれも思い出せないんです。」
「マジか?ホントに記憶喪失なんだなお前。」
そして、マスターと相談して新しく名前を付けることにした。というわけで、何かいいものはないかと考えていたらこの酒場の名前が目に入った。
この酒場の名前は”アオイヒ”
安直だが、そこから”グンジョー”という名前をいただいた。青に近い色、群青色からそのまま取ってグンジョー、というわけだ。
今日から俺はグンジョーだ。グンジョーとしての第二の人生が始まる。
この先どうなるか分からないけど、俺にしかできない俺の生き方をしていこう。