「ねぇ」
「…」
「ちょっと」
「…」
「おーい、お姉さん?」
「…」
「綺麗で美人なお姉さん?」
「…チッ」
「トイレいきた〈ゴッ!!〉」
「…私に話しかけるんじゃない男。殴るぞ」
「す、すいませんですた」
やめて下さいお姉さん。すでに殴った後に言い返すのもなんですが、覇気をまとったその拳と笑顔が怖いです。
さて、とっ捕まえられてどこにいくのかと思いきや、いきなり袋を被せられて運搬される惨めなゴミムシですよあたしゃー!!
運搬されてる途中も、相変わらず蔑んだ目を向けてくるお姉さん方。
やめろ!!興奮するじゃないか!!違った、悲しくなるじゃないか!!
いや、バカやってる場合じゃないのはわかってるんだけどねぇ・・・。
「男…、できることならこの私が直々に処刑してやりたいのだが」
やりたいのだが!?やりたいのだが何!?
そこまで言ったあと、お姉さんはニヤリと笑って言い放った。
「喜べ。皇帝がお前を使って遊戯をしてくださるそうだ。良かったな。来世で自慢するといいぞ」
来世―ッ!!
なるほど、俺は死ぬ前提ってわけですね?って、良くない!!断じて良くない!!誰かたーすーけーてー!!
助けを求めて縛り付ける蛇に必死にウィンクしたら威嚇されました。解せぬ。
これは本格的に死を覚悟した方がいいのだろうか?いや、
と、無駄な抵抗をしている間にどうやら闘技場についたようです。
…うわぁ。すでに観衆は興奮状態のようで、控え室らしき場所にいるのにうっすらと声が聞こえる。
「良かったな。護国の戦士達の見せ物で死ぬ事ができるとはお前も幸せだろう?」
「いや、幸せじゃないです。」
「貴様の意見は聞いてない!!」
「っ!?」
ガン!!と、袋詰めのまま蹴り飛ばされる。理不尽…
「おぅふ…」
「フン、もう少し蹴り飛ばしたいが、どうせもうすぐ死ぬのだ。情けはかけてやろう」
ありがたく思え、という言葉に思わず反応しかけるが、結果は見えてるので、やめておいた。
そして、いよいよ闘技場に運ばれる。
というか、乱暴にもぶん投げられた。
「ブハッ」
思わず肺から空気が漏れるが、何とか袋を頭から取り外す。そして、そこに広がっていたものを見て俺は戦慄した。
『死刑!死刑!』
一方的に敵視するような目
『死刑!死刑!』
俺を見せ物としか見ていないような目
『死刑!死刑!』
あざ笑っているような目
『死刑!死刑!』
そのどれもがこの世界に来て初めて味わう純粋な悪意だった。
改めて言おう。
ルフィさんあんたァマジですげぇよ!!
シュプレヒコールを全身に浴びながら改めて未来の海賊王に敬意を表していると、野次が次第に小さくなっていった。
何だ?
それと共に、どこからか、カツン、カツン、とヒールを打ち鳴らす音が闘技場に響く。
「誰じゃ一体…」
あ、パンダ。
「妾の通り道に…」
パンダかわいいよパンダ。
「子パンダを置いたのは!!」
〈キューン!?〉
「パンダーーーーーー!?」
あれ!?何!!俺この展開!?
蹴り飛ばされて転がるパンダを目の端で追いながら、思わずと言った感じで目の前の背の高い女性を見つめる。
つぅか、空いた口がふさがらん・・・。
他人の空似か?
いや・・・
『キャー蛇姫様ー!!』
『ステキー!!』
「九蛇皇帝ボア・ローズマリー様のおなーりー!!」
間違いない、あの美貌、高身長、絶対あの人の関係者だ!!
目の前にはスラリと背の高い長身黒髪の美女。その両脇には大蛇と黒豹が控えている。明らかにバキュラとサロメモドキですね!!
というか、この人も皇帝なの!?凄まじい血筋だなオイ!?
「ンフフフフフ」
微笑みながら俺に笑いかける皇帝サマ。
あー、よく見ると、顔が微妙に違う。遺伝って不思議ですね。
「蛇姫様が微笑んだ!!」
「ああ、何とお美しい!!」
ング、クソウ…。ぶっちゃけ、その意見には同意です!!
「お前が侵入した“男”か。」
辛辣に、特に男の部分を強調してきました。目も俺を完全に馬鹿にしている。やっぱりか!!うっかりその美貌に騙されるところだったぜ!!これは、あれだな、適当に嘘をついたところを射殺すパターンですな。
だが、そのフラグ見切った!!
「そうだ」
だから正直に答えたのだが。
途端に周りの殺気が鋭くなったのはなぜだ!?
「蛇姫様に何という言葉遣いを!!」
「最低だ!!」
ええ、何それ口のきき方が気に入らなかったらしいです。
というか、やめて!?サムズアップの逆はリアルにやられるとかなりキツイ!!
「良い、許す。」
何とか、皇帝の指示で何とかその場を諌めた。しかし、観衆の怒りは未だ収まらないようで、弓を引き絞っている人もいる。
適当な理由で殺されたらたまらないので、さっさと本題に入らせてもらおう!!
「頼みがある。俺をこの国から出してもらえないだろうか。」
『!?』
この発言に闘技場がざわつく。
「命乞いか?」
「違う。誤解が生じているが、俺がこの島に流れ着いたのは本当に偶然なんだ。そもそも、不法入国したつもりも、君達と争うつもりない。だが、俺には行きたい所があり、死ぬわけにはいかないんだ。だから、頼む!!」
そう、ここで一か八かのルフィ式送ってもらっちゃおう作戦を決行したのだ!!思えば、俺は悪いことは何もしていない!!
ならば、そこに活路がある!!
「嘘をつけ!!」
「蛇姫様騙されてはなりません!!この男は何かしらの目的があって我々を欺こうとしているのです!!」
だー、うるせー!!本当の事言ってんのに嘘とか言うなや!!軽くウソップの気持ちがわかったけど!!
「ンフフフ、面白いことをいう。不法入国を偶然といい張り、それだけでなく、妾に旅路の足要求をするとは。」
さぁ、どうくる?反応を見る限りでは少なくとも交渉はしてくれそうな気が
「だが、断る!!」
「何…だと!?」
まさかの断り方!?
「この島は女々島。男子禁制は掟じゃ。その掟を破り、侵入しただけでも許し難い。というか、妾は、男という存在自体が嫌いじゃ。」
「んな、馬鹿な!!」
「先代の皇帝も弱い男なんぞに騙されおって・・・、あのような軟弱ものは九蛇にはいらぬ。まぁ、今となってはこれで良かったのかも知れぬがな。」
フフフと笑いながらさりげ酷いことを言ってる美女。
話は終わりとばかりにスッ、と手を上げると俺の後ろからゴゲッ、ゴゲッという不吉な鳴き声が聞こえる。
〈ッ!!〉
危険に気がついたのか、縄になっていた蛇がシュルシュルと拘束を解いた。
体は自由になったけどさぁ・・・。
嫌な予感がひしめいてるんだけど・・・。
「中枢の海の怪物。鶏から生まれた蛇、“バジリスク”じゃ。この国では、強い者こそ美しい。本来なら見ることさえ嫌じゃが、特別に見届けてやろう。さぁ、潔く戦い、散れ。」
〈ゴゲー!!〉
振り返るとそこには、正真正銘本物の…怪物がいた。
「オイオイ・・・。」
まがりなりにも剣士を名乗っている俺は正に武器専門。
しかし、虎丸どころか南部気もない状況なのに、この相手!!一体どうすればいい!?
「さぁ、行けバジリスク!!」
〈ゴゲー!!〉
そんな困惑をよそに怪物が俺に襲い掛かってきた!!
しかし…ドスドスと突っ込んでくるバジリスクに対して俺ができたことは急いでその場から飛び退くことだけだった。
〈ゴゲ!!〉
「うわぁぁ!?」
俺のいた位置に鋭い嘴が突き刺さると共に地面が陥没する。
何つー威力だ!!今の状態であの一撃を食らったらひとたまりもないぞ!!
「男逃げるんじゃないよ!!」
「正々堂々と戦え!!」
興奮した観衆から野次が飛ぶが、俺にはそれに答える暇もない。
刀がないと、俺はこんなにも弱いのか!?刀を持たない剣士は脅威に抗う力すらねぇのかよ!!
俺はいままでかんじたことのないような恐怖を感じた。
それとともに、脳裏にあの時の記憶が蘇る。
ロジャー、レイリー、そして白ひげ。
ボロボロになった彼らを背に海軍最強の実力を持つ海兵に立ち向かった。
本当は俺も逃げ出したかったさ。
でも、なんであの時、俺の体は敵の前に出てしまったんだろう?
『自分にしかできない生き方をしろ』
今更だけど思い出す。
この世界にくる前に聞いた言葉。
俺はそれが分からず、ただ流されるままに生きている。
分からない。
未だ、俺は何をすればいいのか?
何をするべきなのか?
でも・・・これだけは言える。
俺は生きたい!!
願う!!
また、彼等にに会いたい!!
もっと、彼等と語り合いたい!!
だから…俺は生き残る!!
十分な距離を取った後、俺は皇帝を睨みつけた。
「何じゃ?」
不快そうな顔をしながら皇帝は俺を睨む。
少し息を吸ったあと、俺は静かに地面に膝をつき、頭を下げた。
「刀をください。」
一瞬闘技場が静まり返る。
『・・アハハハハ!!』
しかし、次の瞬間辺りでまた笑い声が起こった。
そりゃそうだ。今俺は最高に無様だろう。
地面に手をついて土下座。
こんな光景自分でも笑っていたに違いない。
「ほう、武器をよこせと申すか。」
「刀がいいです。そしたら俺は逃げません。正々堂々と戦います。」
俺は黙って土下座を続ける。
その光景を見ていた皇帝はそれをおかしそうに見下ろしながら、侍女に合図を送る。
すると、俺のいる場所に剣が投げ入れられた。
「男。約束は守れよ?さぁ、・・潔く散りなさい。我らが見届けてやる。」
皇帝の言葉と共に、観客のボルテージが最高潮に達する。
『死刑!死刑!』
彼女達は俺が魔獣に喰われる場面しか想像してないのだろう。
投げ渡された刀を拾った俺は、フゥ・・・、と軽く息を吐いた。
呼吸を整えつつ、ゆっくりと刀身を鞘から抜き取り、刀身ごしに相手を睨みつける。
叫ぶ群衆、こちらを見おろす皇帝、涎を垂らしながら俺を喰わんと突進する魔獣。音が消え、感じる五感のその全てが、否、世界そのものが俺を残してスローモーションになる。
思えばこの感覚も懐かしい。殺すか、殺されるか。勝つか、負けるか。斬るか、斬られるか。命をかけた真剣勝負。上等、それが俺の生きている世界。誰でもない、俺が望んでここにいる世界の姿。
バジリスクを見据え、俺は小さく口を開いた。
旋風
脱力した状態から一気に腕を動かす。
スクランブル!!
直後、風のない凪の海に一陣の風が吹き抜けた。
『!?』
流石に魔獣。その命の鼓動は人のそれを超える。そして、その体はまさしく生きた鎧。その気配は強者の証。常人には到底太刀打ちできない絶対的な暴力。
「だが」
もう斬り終えた。
〈グゲッ!?〉
刀を鞘にしまった鋭い音ともに轟音を立ててバジリスクが崩れ落ちた。
『えっ!?』
そこ光景に女々島を護る勇敢な戦士達は言葉を失った。
「何を驚いてるんだ?」
しかし、俺は心外だと観客を睨みつける。
確かに俺は弱いし、この世界で何をすればいいかわからねぇ。そもそも剣がなきゃ何もできない。この世界の厳しさとか、未だに理解できねぇ。酒を飲み交わした中だけど、未来の大物達の中に混じっていてもいいのかも心配になる小心者だ。それに、自分がこの世界で何をすればいいのかわからん。自分にしかできない生き方をしろ?そんなものどうすればいいのかさえ分からねぇよ。
けどさ、
「知ってるか?」
俺は剣をゆっくりとあげて、剣先で皇帝を指し、不敵に笑った。
「俺は、”大嵐”だぜ?」
けどさ、今だけ…、ちょっとくらい格好つけさせてもらっても構わないよな?