「…」
「ぅ、うぅ…ゥう」
涙目の小人がカウンターの上で震えながら正座している。そして、彼の目の前にいるというか、胸より下の位置にいる彼(男らしい)を凄い顔で見おろしているのは、何を隠そうこの俺様なのである。
まァ、はた目から見てみれば、何というシュールな光景なのだろうか、と思うけど。
ほんの数十分前―――
「ななななな、何だお前!?小人!?小人って実在していたのか!?」
俺は盛大にキョドっていた。
シャッキーさんにお土産と渡したシャボンディ饅頭の中には饅頭ではなく、謎の物体X…でもなく、小さな小さな小人さんが入っていたのだ。
大人の手の平よりも小さなその身体。つぶらな瞳と、これまた小さいお手て、鼻は面白い感じに尖っている。それに、お尻?には普通の人間にはついてない筈のモコモコの尻尾がついている。
何だコレ、何だこの愛玩動物。
ファンシー生物、ここに極まれり!!
「大人間に見つかってしまった!!やばいのれす!!」
一方、騒ぎの中心人物である小人は、何か口走るや否や、シャボンディ饅頭の箱から飛び出して、Barカウンターから飛び降りると、そのまま机の下などを縫うように走り始めた。
というか素早い!!え、あの小さな体躯でどんだけスピード出せるんだ!?
「お、おい、ちょっと待ちなさいよアンタ!!」
「いやなのれす!!僕はまだ捕まるわけにはいかないのれす!!」
そんなわけにはいくか!!勝手につまみ食いされた俺の気持ちは無視かコノヤロー!?
逃げたハムスターを両手でとらえるノリで、捕まえようとするのだが、小人君は、そこからスルリと逃げ出してしまう。
ドッタンバッタンと室内で暴れ回る2人を見てもシャッキーは我関せずと煙草をふかしてる。いや、あんたも手伝ってくれよお願いだから!!あんたのお店だろうがァァァァ!!
「とう!!」
「な、何ィィ~~!?」
俺が気付かぬうちに、いつの間にか窓際にある机から飛び上がり、窓辺におり立った、だと!?何と空中回転からの着地!!10点10点10点!!ウルトラCィィ!!芸術点はそれ以上!!
「うわはははは!!さらばなのれす大人間!!お饅頭は後でツケといてくれなのれす!!」
「くゥ、俺でさえツケで飲み食いしたことがないのに、この態度とは見た目に反して何ともふてぶてしい奴!!でも、甘いわ!!“見聞色”!!」
確かに早いが、その程度のスピードではまだまだ俺の追跡を逃れることはできない。鍛えた俺の目と、辺りに張った
「とうわけで、ほいキャッチ」
窓からダイブしようとした小人君を左手一本でナイスキャッチ。このファインプレーは毎年進撃しているあの方々からお声掛けされちまうかね。
「ェえっ!?どうして!?何で僕の事を捕まえられたのですか?」
「ハハハ、説明は以下略だ!!」
というか、意外と力も強いのね。成人男性一人、いやそれ以上かな?…イテテテテやめやめろその手を放しやがれ、俺も放すから。…いや俺は放したらダメか?
「は、放してくらさい!!僕は何もしてらいのれす!!無罪らのれすー!!」
「ハイ、その意見は賛成多数で却下されました。ていうか、今さっき饅頭ツケとけっていったばかりやろがい!!もっと分かりにくい嘘をつきなさい。ハイ、そういうわけでね、気張っていこうじゃないか裁判所!!」
「そ、そんなー!!」
というわけで、一番最初の描写に戻るのであーる。
ちなみに、シャッキーは厨房から事の成り行きを見守っている。何だか、こっちから事の成り行きを見ていた方が面白いんだそうな。
「…で?」
「ッ!!」
「どうして君は俺のシャボンディ饅頭の中に入っていたのかな?」
「…え、あの、それは…」
しもどもどろになって話をごまかそうとしているなコイツ。なら、こちらにも考えがある。
「じゅー、きゅー、はーち、あ、カウントがぜろになったらデコピンね」
「えっ!!」
「なーな、ろーく」
「言う言う!!言いますからデコピンは勘弁してくらさい!!」
「よろしい」
やはり、カウントダウンの魔力はいつの世も健在という事か。よろしい。ならば、早く事情を話してみなさい。