「…実は、僕はこの島には好きで来たわけれはないのれす」
「ほう?」
その小さな小人君が話し始めたのは、何やら悲しい悲しい理由があるようだった。
彼は元々冒険家で、十数人の仲間と一緒に冒険の旅に出ていたが、そこをとある大人間…―――つまり人間だわな―――に、捕まってしまったらしい。
その後、隙を見て、彼だけ脱出に成功したものの…
「ここ数日、さらわれた仲間達を探して歩いていて、何も食べていなかったのれす。それで、おいしそーな匂いがしたので、ついフラフラと歩いて行ったら、この大人間がいたのれすがいたのです」
「だから、
「何故かうつむいて食べていたので、こんな所で渡りに船、こんな間抜けそうな人間ならバレないかなと思って、その大きなコートに入ったら、丁度その箱が目に入ったのれす」
「それで…空腹になったお前は、ついついその箱の中身、すなわち饅頭を食べちゃったわけなのか」
「食べちゃったわけなのれす…」
「…なるほど。ですが、罪を許すわけにはいかないな。裁判長!!そこら辺のご判断はいかがいたしましょう?」
「え、無罪でしょ?」
なぬ!?
「ありがとうなのれす!!あの大人間はいい人なのれすね!!」
「ちょ、おま、仮にも命の恩人に対して、
「そして、この大人間は悪い人なのれす!!」
「うるせェ!!俺をこれ呼ばわりするのではない!!」
うだー、調子が狂う!!そもそも、俺はツッコミキャラじゃないんだよ!!
「いえいえ、気にしなくていいのよ。カワイイものを嫌う人間なんかいないわ」
なるほど、カワイイは正義って奴ですね。って分かるかァァァァ!!日頃いろんなノリに付き合っているグンジョーさんがなんにでもツッコムと思ったら大間違いやで!!
「無罪~♪無罪~♪無罪~♪」
「…」
謎の無罪ダンスなる踊りを踊る小人君を目で追いながら、俺は軽くため息を零すのだった。
一方その頃―――
「おォ、お頭お頭ァァ!!」
一人の男がシャボンディ諸島のとあるBarに飛び込んできた。
「お頭ァ、大変、です。大変でずゥぅ!!」
ゼイゼイと荒い呼吸を肺から吐き出して辛そうにしている所を見かねた近くの仲間からコップ一杯の水を差しだされると、男はそれをひったくるように受け取り、一気に飲み干した。
暗がりの中、室内の奥の小部屋にはこれまた巨大な体躯の大男は、息を切らす部下を眺めながら、ワインの入った大樽に、右手で手をかけ、それを手酌で豪快に飲み干した。
整えられてはいないが、豊かに蓄えられた口髭を代表に、毛深い男の身体には、戦闘で負ったと思われるいくつもの傷がついていた。
しかし、それらも男の貫録を感じさせるには、十分だった。
「どうした、オメエそんなに慌ててどうしたんだィ…」
「ヘ、ヘイ、実はさっき、捕まえようとした男に逆にボコボコにのされてしまいまして」
「何ィ…?」
頭と呼ばれた男の目がゴーグル越しに歪んでいるのを男は見逃さなかった。
「め、面目次第もねェっす!!」
「このバカ野郎がァァァァ!!」
「ヒッ!!」
大男の怒声に身をすくませた。
「タイマンならともかく、大勢でのされたのか!!このカスッタレ坊主が!!」
「ス、スイヤセン…」
「で?そいつはどこのどいつだったんだ?アン?」
頭領の追及の言葉に男は口ごもる。
そんなこと考えてはいなかった。ただ彼はその場の空気を流されてあの男を襲撃しただけなのだ。
「す、すいやせん…それも、ヒャイ」
投げた柄杓がBarの壁に当たる高い音が鳴り響く。
「ハッ、たくこの野郎がァ…。俺達の仕事は早く、正確に、価値の高い者を、だろうが!!海賊の船団一つ分ならともかく、訳の分からねェパンピー1人に構ってるんじゃねェよ、このバカが!!」
頭領からの怒りの声にますます縮こまる下っ端の男だったが、ガチャガチャと何か機械類をいじるような音に顔を上げた。
そこでは、何と自分のお頭がショットガンや大砲をはじめとした銃器類を身体中に括り付け始めているではないか。
「だが…ハッ。部下をそんなにボコボコにされて平静でいられるほど俺は帝国な人間じゃねェのよ。案内しな。その、調子に乗った野郎の元によォ…。この人さらい、“弾丸エレファント”の
店の中にいる仲間達に行くぞ、と一言声をかけた後、ガハハハ、と大笑いしながら店の外へと大股歩きで歩き出す。
この危険区では人の命は軽い。少しでも油断すれば簡単に殺されてしまうし、奴隷売買も流行しているくらいだ。その中で、この頭領は自分達のために命を張ろうとしてくれている。
彼はもう一度、ドヘムに忠誠を誓うのだった。
「ヘ、へい!!」
しかし、外に出た傍から、ドヘムは妙な声を立ててその場にうずくまってしまっていた。
「どうしやしたお頭?」
急に立ち止まったドヘムの姿を、まるで奇妙なものを見るような目で部下の男が見上げる。何やら様子がおかしい。おまけに身体も奇妙な具合に小刻みに震えている。
「…ぅ」
「う?」
「ぅう」
「ぅう?」
うめくような嗚咽を繰り返す、頭領に向かっておずおずと手を差し出した、次の瞬間だった。
「ギボヂバブゥェ(ピーーーーー)」
先程まで豪快に笑っていたドヘムの口から盛大に(ピーーー)が溢れだした…。
「お、お頭ァ~~~!?」
突然の事態に思わず悲鳴を上げると、その声を聴いたのか酒場の中からドヘムと一緒に酒を飲んでいた彼の仲間たちがワラワラと飛び出してきた。
「あーあ、やっちゃったやっちゃった」
「だ~から言ったんすよおりゃァ~~。お頭ァ、酒が弱いのにそんな酒豪ぶるな、無茶すんなってェ~~~。でも、カッコつけてカパカパ飲むんだからァ~~~」
「おいお前余計な事を言うんじゃない。お頭の名誉に関わるだろうが!!…お、お頭、大丈夫ですかい?」
「だだだだいだいだい、大丈夫だ…!!でもそのまま背をさすってくれぅおろろろろ」
島中に巨大なヤルキマンマングローブの木が生える、偉大なる航路、シャボンディ諸島。
その中でも、1番GR~29GRに跨る強盗、窃盗、人さらい、そして海賊、この世に蔓延る全ての悪がその場所には蔓延る危険区域がある。
しかし、その中にあってもやはり人は人だという事なのだろう。
大の男が介抱されている、という何ともいえないシュールな光景が広がっていた…。
「こ、このボォレがうぼ(ピーーーーー)」
『いや、もうあんたしゃべんなよ!!』
お酒はほどほどに。飲みすぎ、飲酒運転ダメ絶対!!