「くらえい!!“ドヘム式炸裂ガトリング祭り”!!」
まず先に動いたのはドヘム。
背負っていた二丁の拳銃のうち、一丁を取り出した。
ベースは普通のマシンガンなのだろうが、改造が加えられており、銃口が複数準備されている。それを、俺のいる辺りに向かって乱射し始めた!!
ガガガガガ!!
「ぬおっ!!!!」
狙撃されるのは慣れっことはいえ、さすがにあたれば痛い。
先読みの力で銃弾を避けつつ同時に攻撃の準備を始める。
両腕に覇気を纏わせ始めると、手から肘にかけてまるで鈍く光る鉄のように黒く染まり始めた。これは、武装色の覇気を纏った際にその部位が黒化するという特異な現象だ。
しかし、俺の場合さらにそこに改良を加えている。外側の皮が鋭く尖り、まるで刃のような鋭さになった。
「名付けて“武装色手刀”」
そしてそのまま―――
「
キンキン!!
硬化した両腕を振い、飛んでくる無数のマシンガンを切り落とす。
「何だあいつ!?」
「腕が黒くなったぞ!!」
「何かの能力者か?」
…あ、そうか覇気の能力は一般的ではないのか。傍目から見たら何かの能力者に見えてしまうのも当たり前だよな。
メタメタの実の鋼鉄人間ってところか?
「何のマジックかトリックか能力者かは知らんが、そんな手品遊びごときでなめてもらっちゃこまるぜ!!」
おっと、今は戦闘中だったな。
「だが…、能力者相手なら都合がいい。とっておきのヤツがあるぜ!!オラァ、くらいやがれ、“ドヘム式ミズミズ爆弾”!!」
「あ?」
大砲から打ち上げた妙な形をした弾がゆっくりと天に向かって登っていく。というか、弾速遅ッ!!俺に当てる気あんのか?
うむ、ミズミズ?もしかしたらあの中から極限まで圧縮されていたパチンコ玉が弾けるとか、そういう全体攻撃的な攻撃である可能性も否めない。一応両手を構えていつでも対処できるようにするが…
その攻撃は予想外の形で訪れた。
ポン、ドパン!!
間の抜けた音と共に、爆発したミズミズ爆弾の中から溢れ出したのは、釘でもない、ましてや凶器でさえなかった。
そう、それよりももっとタチの悪い…
「あ?…ギエピィィィィ!!」
顔面を中心に身体中からその液体を浴びた俺は、地面を滑ってコケてしまった。
何だコレ!?滑って動けないし、粘液が無駄に粘ついて動けない!?
「グワハハハハ、ざまを見やがれィ!!ドヘム式ミズミズ爆弾には、ヌルヌル&トリモチ成分100%の特性ローションがこれでもかと詰め込まれているのだァ!!」
何だその
「くそが、ヌルヌルしたモンぶちまけやがって!!そっちこそ遊んでんのか!?」
「遊んでねェよ、こっちは大マジメだ!!だが、刹那の闘争にユーモアを入れるという画期的な戦闘方法を取っているがな!!」
「それが遊んでるっていうんですけど、俺の勘違いでしょうかァン!?…というか、あんたの子分も影響を受けてますけども?」
「何ッ!?」
ドヘムが振り返ったそこには、謎の液体Xに思いっきり巻き込まれている手下たちがいた。
「親分そういう変な発明使うなら先に言ってくだせェェェェェ!!」
「うわ、何だこれ、ヌルヌルで動けねぇ!!」
「助けてェェェ!!」
「おまえらァァァァァァァ!?」
男達が謎の粘液で滑って転んで大騒ぎ。そりゃそうだ。あんなもん上空からバラまいたら被害が拡大するわ!!
しかし、当人はそんなこと全く気付かなかったのか、オタオタしているけども。いや、自分の発明のウィークポイントくらいちゃんと考えておけよ…。
というか誰得だこの状況。誰も得しないよ。ドヘムが頭を抱えて絶叫してるんだけど、…ウン後の祭りって言うのかねこういうの。
というか、こんなに隙を作っていいのかね?ま、俺には知ったこっちゃないんだけども。
仰向けに寝転がったまま、まだ武装色の覇気をかけたままの両手を静かに持ち上げ、高速で振り合わせた。
ギャギャギャギャギャリンギャリン!!
鋭い刃をこすり合わせたことによって、両腕の間に膨大な摩擦熱が発生する。
常人ならこれ程の熱量を感じると、恐怖を感じて中断してしまうだろうが、俺は違う。むしろ、そこが狙い目。
ボッ、ゴゴゴゴゴ
そして、発熱、着火。それに応じて―――腕に纏っている覇気が炎の特性を帯び始めた。
「この世の全てに…じゃねェや、手刀“手合い”
「な、何ィ!?」
突然発火を始めた俺の腕を見てドヘムが驚愕(ゴーグルのせいで目は見えないけども経常的に目をひん剥いてるに違いない)の顔をしていた。
俺はそんなこと気にせず、発火させたままの腕で、そのまま身体中に纏わりついていたヌルヌル成分を熱した刃で取り除いていく。
「ふぅースッキリした。やっぱり、こんな公衆の面前でヌルヌルプレイはするものじゃないね」
「の、能力者は水に浸かったら身体から力が抜けちまうんじゃなかったのか!?なのに、何故お前はそんなにピンピンしていられるんだ!?お、お前は一体何者なんだ!?」
「誰でもいいだろそんな事!!騎士の試合じゃあるめェし、お前に名乗ってやる名前なんぞねィ!!」
「ヌ、ヌォォォォォォォ!!」
ドヘムが新たな弾を大砲に装填して構えるが、もはやそれも徒労!!俺はすでに攻撃可能距離まで来ている!!
くらえ、十字に重ね合わせた炎を帯びた手刀の回転!!
「
「ぐあァァァァァァァ!!」
ドヘムの身体を通り過ぎる瞬間に打ち込まれた炎を纏った剣撃は、ドヘムの武器そのすべてを焼き、切り刻み、そしてその持ち主であるドヘムの身体へと襲い掛かった。
「す、凄いのれす!!自分の二倍もある上背の男を、ただの一瞬で倒してしまったのれす!!」
「フフフ、さすが辻斬りね。イイモノを見せてもらったわ。さすがはグンジョー…いや、辻斬りちゃんね」
シャッキーは、興奮げに窓際で飛び跳ねるラクーンを手でせいしていた。
「でも…彼まだまだ本気じゃないわね」
「え、何故そんなことが分かるのれすか!?」
ラクーンの質問に、シャッキーは微笑むながら答えた。
「何故って、彼は剣士よ?剣士は剣で戦うもの。でも、彼は剣すら抜いてない。でも、素手での戦闘でこれ程の力。…本来の実力はどれほどのものなのかしら、興味あるわね」
「あれで、全然本気じゃない?」
ラクーンは腕の炎を振り払いながらドヘムに近付くグンジョーを見おろした。
「もしかしたら…もしかしたら彼ならば…」
ラクーンの振り絞るようなその声をシャッキーは聞き取ることが出来なかった。