店員達が男をオークションハウス内へと連れて行く中、その様子を遠くから見守っている人間達がいた。言わずもがな、ドヘムとその部下達である(もちろん、人間を売りに来たのもドヘムの部下だが)。
「よし、OKだ」
折り畳み式の双眼鏡で、男がオークションハウスの裏口から入っていく様子を確認すると、隣で同じように双眼鏡でオークションハウスの様子を見守っていた子分が一人がドヘムに話しかけた。
「しかし、アオランドの旦那大丈夫かねェお頭ぁ。あれほどの強さとはいえ、あの中でひと暴れするとなると、かなり大変じゃありやせんかい?しかもそれだじけじゃねェ、うまく逃げ出せとしても海軍の団体さんと、しかもあの中にゃ天竜人がいる。何かしでかしたら、世界政府をそっくりそのまま敵に回すことなりやすぜ」
「ああ確かにそうだなぁ…」
ドヘムも政府の内情の情報まで走らないが、天竜人の名前はよく知っていた。
海軍陸軍を含め、世界の秩序を統括する世界政府。その巨大な組織を設立するにあたり、その中核を担った王達がいた。世界秩序のために、それを統治する組織を作りたい。そう願ったであろう彼らの意志は、今や最悪の形で働いているともいえる。今、彼ら過去の王達の権力と発言力、そして海軍や政府の武力を悪用しているのが天竜人達だからだ。
その所業を現すのであれば、“傍若無人”その一言に尽きる。常に偉そうに振る舞い、邪魔だからと通行人に襲い掛かり、目障りだからと家を一棟丸々壊すことは当たり前、さらに美人と見れば例え既婚であったとしても奪い去る。
彼等には何の文句を言う事は出来ない。なぜなら、彼等の権力にかかれば、平然と人を殺しても罪に侵されないどころか、撃たれた側が“天竜人の前を横切った”という罪が着せられるほどだからだ。
故に、天竜人の名を知る者は決して彼等に手を出さない。もし仮に怒りにまかせてて手を上げてしまったのならば、その人物はもう二度と明日の光を拝むことはできない。このシャボンディ諸島の隣接した土地にその居を構える“海軍本部”から大将が直々に無礼者を捕まえにやってくる。そして、裁判所にて一方的な裁判の元、死刑に処されるのだ。
彼等は人が死ぬ姿を見て何も思わない。むしろ、それを見て喜んでさえいる。
暴君ここに極まれり、生まれながらの人格破綻者と言っても過言ではないだろう。
事実、天竜人が原因で、悪党の道に堕ちる人々もこの諸島では珍しくないのだ。
「…中から取り返すっつっても、あの首輪取り付けられたんじゃ手遅れじゃないか?」
「ああ。あの首輪を付けられたんじゃ、もう手の施しようがねェ。あの首輪は、つながれている鎖が外された瞬間、中身の時限装置が爆発する仕組みなんだからな?」
「ああ。逃げ出した奴隷が目の前で爆発する光景は、今でも思い出す時がある。トラウマもんだ、おりゃ二度と見たかねェぜ…」
「だから俺は言ったんだ、四の五の言わず、欲しいものは盗んじまえばいいんだとよ!!」
「そう言ったらお前、旦那に殴られたんじゃねェか」
「でも、あの自信満々な顔で俺にされちゃあ断れないようなァ」
子分たちが雑談を始めたのを見計らってドヘムは子分たちを諌めた。
「おぅ、お前ら。ガタガタ言ってんじゃねェ。誰であろう、あの旦那本人が言い出した作戦だ。それに、お前らも気付いているだろう。あの人は、今まで俺達が戦ってきた奴等とは違う。もっと大きな何かを持っているお方だ」
ドヘムの言葉に子分たちはそれぞれの顔を見合った後に、頭を縦に振った。目の前の人物は曲がりなりにも自分達のボスであり、その人が認めた男ならば、自分達も信じるのがスジだろう。
「それによぉ…俺は楽しみなんだ。これから何が起きるのか、と思うとな」
そう言うとドヘムは大きな口を歪ませてガハガハと笑った。
「よしお前ら。とりあえず、あのオークションハウスの周りの所定の位置で待機していろよ。たぶん、“旦那”から何かしらの合図があるはずだからな」
オオー!!と声を張り上げた後、子分たちがそれぞれのバイクへと飛び乗って持ち場へと向かっていく。その光景を見守った後、ドヘムはもう一度双眼鏡を取り出して、オークションハウスの入り口を監視した。
そこには、強盗対策に鍛え抜いた身体を持つ男達が入口を見張り、その手前には武器を担いだ海軍たちが全員直立不動のまま天竜人の帰りを待ち続けている。
「天竜人の飼い犬共めが…」
そう忌々しく舌打ちした後、ドヘムは旦那からの合図を今か今かと待ち続ける。
ドヘムは直感的に理解していた。
今日、世界を驚かせるような何かが起こる…と。
「頼むぜェ旦那ぁ…。天竜人に、この世界に一泡吹かせてやってくだせェ…」
相手は、圧倒的な組織、世界政府、そして政府の傘を背景に傍若無人に振る舞う天竜人。彼らに向かって拳を振り上げる勇士の姿が彼と重なって見えた。
「ほら、お前はここにいろ」
原作通りと言うべきか、イメージ通りと言うべきか、屈強な男に引っ張られて連れてこられたそこは、哀れな奴隷候補たちの事を人ではなく、商品としてとらえる、そう言った彼らの意志と腐った精神を現しているような、健康管理をまともに考えていないような、暗く薄汚れた部屋だった。
ポイポーイと俺はその一室に乱暴に放り投げられる。もちろん手首は鎖で繋がれたままだから、まともな受け身を取る事は出来ない。アイタッ!!
「そこで暫く待っていろ、すぐ未来のご主人様がお前を助けてくれるだろうよ」
そう言って男は檻の鍵をかけると、すぐにここから去って行った。…あのヤロウ、覚えていやがれ、この鍵を取ったらすぐにでもグーでパンチしてやるからな。…いや、パーでチョン切ってやるか。
密かな決意を決めた後、俺は胸ポケット辺りをチョンチョンと叩く。すると、胸が急にモコモコッと膨れ上がった。…いや、別に性別を隠してたとかホルホルの実とかじゃないからね。ヒ~ハ~なあの方の特権として持っといてもらおう。それに、俺バタフライとか得意だし。
一方、ふくらみは段々上にせり上がっていく。そして、スポンという小刻みのいい音と共に、小型の人形のような物体が飛び出た。
「ぶは~~~息苦しかったのれす」
「やかましいわ。お前、俺がボディタッチされてるとき、身体中逃げまわってたろう。あれ、めっさくすぐったかったんだからな!!」
「ヘッ、そんなこと知ったことではないのれす」
「ッ!!こんの、クソギャアアアアア!!」
まぁ、すでに気付いていると思うが、渦中の人物ラクーン君である。
当初、プランB(Brast:強行突破)を主張するラクーンとドヘム一味だったが、当初の情報を考慮するといささかその手段を無謀と判断し、俺は待ったをかけた。
というわけで俺の考えたプランは、Cすなわち(Catch:捕獲)である。俺がわざと捕まって、中から小人たちを助け出す。これなら、プランBよりもはるかに安全だし、何より成功率が高い。それに、上手いこと行けば、海軍たちと一戦交えずに無事にオークションハウスから逃げ出すことも可能だ。
ま、これを言い出したときは猛反対を喰らったんだけどさ…。ま、常人からすれば楽観的すぎる考えとも取られかねないんだけどもネ。
でもまぁ、責任とか信用とかO☆HA★NA☆SHI★紆余曲折を経て何とか納得してもらえたんだけどもね!!
「よし、じゃあラクーンは仲間達を探してきてくれ。見つけ次第、俺は拘束を外してチャカチャカっとここからトンズラこくとしようぜ」
「…そんな簡単にいくのれすか?やっぱり、その考えはいくらなんでも楽観的すぎると思うのれすが…」
「ハハハ、3年間を経てパゥワァアッップしたグンジョーさんのいう事を信じなさいって」
ケタケタと笑う俺を訝しげに見た後、ラクーンは檻の僅かな隙間を縫ってトテトテと廊下に飛び出していった。
「さァーってと…、ラクーンが帰ってくるまで俺は待ってるといたしますかね」
ジャラジャラと音を立てる手錠を組んで寝ていると、辺りからすすり泣く声や、くぐもった声、そして悲鳴にも聞こえる呻き声が聞こえてきた。
(…)
時々、もしかしてという事を考えることがある。
もし、俺があの時インペルダウンに収監されていたら、もしあのときロジャーたちに会わず、一人であの大艦隊をニューゲートと2人で相手にすることになっていたら、そもそもニューゲートと会わなかったら、俺がレッドさんに拾われていなかったら…
「いや、考えていても仕方がないか」
今はそう言う事を考えないでおこう。どうやって逃走ルートから安全かつ無事に逃げ出すか…だ。
全くやれやれだぜ、とゴロンと寝返りを打った瞬間、こちらを見おろす大きな双眸と目が合った。
「…」
「…」
ぎょぎょぎょ、魚人族!!何でこんな所に…って捕まって鎖に繋がれているのか。
普通の人間とは明らかに違う肌のお色に、腕と何もはいていない靴には水かきがついている。特に特徴的なのは、そして口から見えるギザ歯だ。何か肉食系の魚さんなのでしょうか。
普段海の中にいるイメージがあるから地上にいるのは少し珍しいと思ってしまった。というか目合ったのなら、何かしゃべれよ!!空気、空気が重苦しいよ!!
先に言っておきますけど、俺KY何で、空気は読みませんよ、俺からはしゃべりませんからね!!
「…」
「…あ、どうも」
無理でしたスイマセン!!お若いとはいえ、さすがは魚人族。コワモテ、そして威圧感がハンパないんだよ!!ナイス貫録、チクショウ欲しいなァ俺もそういうの!!
「…むぅ」
「?」
彼は俺の身体をまるで興味深いものを見るような目で観察していた。
「…これは個人的な興味なのだが、あんたは何故こんな所に捕まっているんだ?認めたくはないが、あんたは魚人族である俺よりも強いだろう。先程のチッコいのと何か関係あるのか?」
「おぅ?ん、まそんなところかな」
だんまりかと思ったら、コイツそんな事を考えていたのか。
魚人族も人と同じく十人十色だが、彼は十中八九戦闘タイプだろう。身体から感じる雰囲気的にそう簡単に捕まるタイプだとは思えないが…。
「でも人の事気にしていいのか?あんたは、これから自分の身に降りかかるであろう不幸を覚悟しといたほうがいいんじゃない?確か魚人族の奴隷って相場結構髙いんだろ?しかも、今日天竜人が来てるらしいじゃん。お前かなりピンチかもよ?」
「…かもな。だが、お互い様だろう」
おやおや、これは一本取られたかな?
俺達が会話を終えた瞬間、どこからかマイクで拡張された声とともに、弾けるような大歓声が聞こえてきた。
『決定ぃぃ~~~~ッ!!ローランドタイン出身のジェニーちゃんを落札したのはドロンズ王国の貴族、カラスキー氏!!65万2000Bだァァァァ!!』
『ワァァァァァァァァァァァァァ!!』
「…」
「…」
何と言えばいいのかねェ。万引きの光景を目の前で見て何もできないような感覚。今から大声を出せば、俺が出ていけば即解決なんでしょうけども。…ゴメンね。名も知らぬ誰かさん。今は面倒事は勘弁何で、後々力をつけたらそのドなんとか王国ぶっ潰しに行きますので。
「フン、金持ち共の欲望を満たすためのヒューマンオークション…か。政府は犯罪者と政府非加盟国民しか扱わず、職業安定所と称しているが…遥かに廃れた奴隷と言う悪しき文化を今に伝えているという点では、彼ら犯罪者以上に悪ともいえるな。特に我ら魚人族からすれば、汚れきった人間の持つ欲望を煮詰めた鍋のようだ」
「ま、言えてるネ。でもまァ、捕まっているうちに何を言っても、そんなものはあがきにしかならないだろう?」
そう言い終わらないうちに、むこうから高い靴音を立てながらオークションハウスの店員と思わしき男が大男を連れてやって来た。
音に聞き耳を立てていると、俺のいる隣の隣、すなわち魚人さんの隣辺りの加護の前で止まった。
「おい、次はお前の番だ。さっさと用意をしろ」
「っ!!」
おっ、どうやらその檻の住人が出品されるらしい。
「嫌だ!!俺は奴隷になんかなりたくない!!」
「いい加減にしろ、借金のカタに売られた時点でお前の人生は終わっているんだよ!!」
「嫌だ嫌だぁぁぁぁ!!」
喚く男に対して2人の大男が近づくと、おっむろに彼の頭を殴りつけた。
「グッ…」
「チッ、往生際が悪いぜェ…。おい、いすを用意しておけ。猿轡を噛ませてでも、おとなしくさせろ」
「「ハイ」」
やれやれ乱暴なもんだなぁ。改めて、こいつらの異常性を理解したような気がする。そう考えているうちに、大人しくなった男を大男2人が引きずっていった。
あーもうここにいたくない。早く魚人島に行きたいよー。
グンジョーがこの世そのものに絶望しかけていたころ、ラクーンは仲間達を探して走り回っていた。
静かに、されどすばやく、その素早さは目の前の檻を通った奴隷たちが視認できないほどだ。
そもそも、彼ら小人族は元々身軽な一族であり、その動きは常人ではまるで追いつけないほどの素早さであり、例え目で負えたとしても、簡単にとらえることは難解である。
(ちなみに、その素早さで彼等は時々人間にイタズラを仕掛けることもあり、ある島では妖精伝説として彼等は語りつがれている)
しかし、その素早さをもってしてもラクーンは未だに仲間達を探し出せずにいた。その理由は簡単。廊下を行きかう人の数が多すぎるのだ。
(中々メンドウなのれすね…)
先程から何人もの人間が行ったり来たりしているが、姿を隠す場所が少なすぎるため、慎重に行動せざるを得ないのだ。
しかし、例え急いでいるとしても、ラクーンは誰にも見つかるわけにはいかない。仲間達のためであることはモチロン、自分一人では不可能だったであろうお願いを手伝ってくれたばかりか、、危険を冒してまで自分をここまで連れてきてくれたグンジョーに合わせ顔がない。
しかし、このままでは時間が過ぎていく一方。どうにかして移動できるような手段はないものなのだろうか…。
そう考えていた時だった。
「おい!!出品予定の奴隷が目を覚まさないらしいぞ!!」
「あ、どうしたチビリすぎて失神でもしたのか?それとも、舌髪切って自s…」
「馬鹿そんなんじゃねェよ!!支配人が檻から出す時に奴隷が暴れたらしくって、無理矢理抑えつけたんだと。その時、頭を打ったらしくって、揺すっても叩いても起きないんだとよ!!今、会場は一時的に中止しているがな」
「おいおい、まじか。でも、案外無理矢理黙らせるために少し乱暴した、なんてことも考えられるけどなぁ」
「ククッ、それ言えてる!!」
その会話だけでも、ラクーンは湧き上がってくるような怒りを感じた。まるで、人を人として扱っていないようなそんな態度がありありと見て取れた。
今すぐにでも出ていき、殴り飛ばしたいが、今はグッとこらえて2人の会話に集中することにする。
「おい、そいつが出品できる状態じゃないってことは、じゃあ次の出品はどうするんだ?」
「おう、それがさぁ…この次に出す予定の奴隷を今から出品するんだと。そrで一応間に合わせるらしいぜ」
「ああ、そうか。で、次の奴隷班案の種族だ?」
「ああ確か…
その言葉にラクーンの小さな胸がドキリと跳ね上がった。
(な、何ですって!?)
人の前に滅多に姿を現さない小人族がそう簡単に何人も捕まるわけがない。間違いない、ラクーンの仲間達だ!!
すると、そこに2人とは別の男が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「おい、そろそろオークション再開するらしいぞ。お前らも持ち場につけ!!」
「え、マジでか?」
「ああ。あいつら、結構暴れ回ったらしいが、何とか捕まえることができたらしい。今箱に詰めて連れて行ってるところだと!!」
「おう、そうかじゃあさっさと行くか」
(ッ!!こうしてはいられないのれす!!)
呆気にとられていたラクーンだったが、慌てて男の一人の服に張り付いた。そのまますすすと男の身体を木登りするかのように進むと、背中に張り付いた。体重も軽いので、バレることもないだろう。
(アンズ!!コーン!!レプラ!!シャム!!みんな、待っていて、すぐに助け出してあげるのれすよ!!)
次回から戦闘パート!?