ONE PIECE ~青天の大嵐~   作:じんの字

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素晴らしき先人達の知恵

 

“俺の剣技はすでに人のそれを逸脱している”

 

 

 

「グンジョー、お前は自分の力で剣を殺すつもりか?」

 

「あ?」

 

 その事を指摘されたのは、2年前での修業をしている最中だった。

当時の俺は日々、島の獣たち相手にした武者稽古や、素振りや覇気習得のため鍛練に勤しんでいた。

まぁ、凪の海のド真ん中にあるこの島に来るなんて定期的に島にやって来ては、料理と称した海王類の肉等の生活用品を置いていく九蛇女帝(別に自分の飯くらい俺だったが、そこは頑として譲らなかった)及び海賊団の皆さんか、某人気キャラと一文字違い、見たらビックリド〇エモン位なものだ。漁師さんは豊漁の兆しなどお言ってあがめている、と言う話は聞くが、残念ながら俺は嫌だ。スゲェ臭いするし。

そして、今日も今日とて、突然やって来たローズマリーさん。未来の大剣豪ゾロ式ブートキャンプの序章、虎丸を使用した素振り1000本ノック中の俺を見るなり、眉をひそめて前述の言葉を言い放ったのだ。

 

「剣を殺すってのはどういう事?何かの比喩表現?」

 

「いや、比喩でも何でもない。そなたの力は、自身の剣を殺そうとしているようにしか見えぬ」

 

「…」

 

 訳が分からないよ、という顔をする俺にローズマリーは一本の剣を放り投げてきた。おそらく、今日俺との鍛練のために持ってきてくれたのだろう。これがどこで作られたのか分からないが、中々いい艶をしているし、反りもいい。工場で作られた一般数千ベリー程度の代物ではないだろう。

 

「それを使うてみよ。思い切りで構わぬ」

 

「ぇ、そう?じゃあ遠慮なく」

 

 とりあえず剣を握り、腰を落とし、居合の構えを取る。どうしようか、よし、目の前の木で試し切りするか。

 そう決めて俺は、思い切り剣を抜き放った。

 

「旋風スクランブル!!」

 

 疾の剣による高速の刀捌きにより、刃先から飛ぶ剣撃が放たれた。ここまでは普段通り。が、問題はここからだった。

 

「えっ!?」

 

剣を完全に振り切った瞬間だった。悲鳴のような音をたて、刀身に突如、縦に大きなヒビが入ったのだ。

 

「これは…」

 

 思わず目線が手元の刀に向けるが、俺の両目に映ったのは、すでにヒビが刀身全体まで広がり、刃先がボロリと地面に落ちる瞬間だった。

 その間に両断された木の上方は、音を立てて地面に倒れていた。威力事態には問題はない…。じゃあ、この状況はいったいどういう事だ?

 

 茫然としたまま突っ立っていると、近づいてきたローズマリーが俺の刀を手に取った後、刀身をしげしげと眺めると、眉間にやや皺を寄せながら視線をあげて俺を見つめた。

 

「わらわは剣士ではない故、詳しいアドバイスなどは言えぬが…傍目からみると、お主が剣を振うさまは荒々しいのじゃ。そう、まるで荒れる獣のような…原理は分からぬが、お主の使う剣術は、どうやら剣自体にかかる負荷がかかるようじゃ」

 

獣て…、そんな人を化け物みたいないい方しよってからに、って似たようなものなのか?

 

「いや、でも虎丸を使っても全然影響ないぞ?さっきもそれで獲物をしとめたしな」

 

そう言って顎をしゃくり、木陰の方向を指す。そこには、馬鹿デカい大きさの猪が転がっていた。

 

「いや、むしろ逆かもしれぬ。普通の刀であれば、すぐにでも砕け散っていたであろうその刀のようにな」

 

「そんな…マジかよ?」

 

 あまりの事に呆然となる。

 

「お主の“業物”虎丸だったこそ、原形を保ちながらお主を支えてこれたのかもしれぬ」

 

 ローズマリーの話を聞きながら鞘から虎丸を引き抜く。なめらかな銀の刃が太陽光を反射して瞬く。

 

「…そうなのか?そうか、気づかないうちに、お前には苦労かけてたんだな…」

 

 この時の俺には、虎丸が泣いているように見えた。それが、どのような感情なのかは分からないが、とにかく刃を照らす光が、涙の滴のように見えた。

 

「…グンジョー、気に病むことはない。モノは不変ではないのじゃ。いつかは、錆びて使い物にならなくなろう。それが早いか、遅いかと言う問題だけじゃ」

 

最後にいい方悪いがの、と付け加えてローズマリーは黙り込んだ。確かに彼女の言いたいことは分かる。モノは所詮、他人である。あると便利だが、なくてもあまり困る事はないだろう。

 

「それに、品質に目を瞑れば、虎丸の代わりなどいくらでもあろう」

 

「ウン、いやね。こいつには結構愛着を持っていたからさぁ。使わないとなると、少し難しいかなあ、とか思ってさ」

 

しかし、しかしだ。それでも、“愛着”は別の話だろう?レッドさん、この世界での育ての親。彼から餞別に渡されたこの刀は、数年を経ていわば戦友とも呼べる存在になっていた。別の刀を使う事は簡単だ。しかし、それはなんだか悲しい気がする。

じゃあ、虎丸を使うか?それはノーだ。このまま使い続け、肝心な時に折れて使い物にならないなんて目も当てられない。それに、今の話を聞かされて使い続けるなんて俺には出来ない。どこのブラック企業だって話だ。

 

「そうなると、別の刀が必要になるなぁ」

 

しかし、振う限度は2,3回だけに同じことが起きる。そのためには、さらに別の刀を買い求める必要があり、その後にまた刀を消費して、その次に――ん?

 

「最初から多くの刀を持っていれば、消費を気にする必要はない…のか?」

 

 不足分はその度に戦場から補給すればいいし。こちらから斬りこむなんて方法もある。逆に一つの場所に陣を作り、襲い掛かる相手を打ち倒してもいい。

 

「あれ、もしかしたら結構いけるかもしれないな」

 

「どうしたのじゃ?」

 

「いやさ、昔の話。ちょっくら考えていたことがあったんだよね」

 

まぁ、ありきたりな厨二病ですが、と付け加える。???という顔をしているローズマリーに苦笑しながら、まずは何が必要かを考えてみる。取り敢えず、大量の剣に、後それを入れる籠のようなもの。そして、それを身体に縛り付けるヒモか?

まぁ、いきなりファイトスタイルを変えるのは大変な事が、その分、戦闘時における対応力や応用力はあるのではなかろうか。まぁ、偉大なる先人型の名に泥を脱無ないように努めてみるか。

 

 修業を始めて一週間。俺がこの世界から一時的に姿を消した僅か一カ月の話だった。

 

 

多いというのはいいことだ。

 

闘いの上では、数をそろえた方が有利になるのはもちろん、金も多く持っていると、何かと便利だ。頭数が多い、という事はその分有利になると言えるだろう。

それは、剣士の世界でも言える事だ、

 

剣士は剣を使って戦うという事は、誰もが知っている当たり前の事だろう。二刀流の剣士や、大剣一本で戦う剣士もいるし、遠き未来には両手に一本、口に剣を咥えるという異色の三刀流の剣士がいる。が、今ここで彼について触れる必要はないだろう。

しかし、時々人智を超える数の刀を扱う剣士がおり、彼らは彼らの住む世界で最強、または最強の一角と呼ばれていた。

 

ある世界の剣士は、武神と呼ばれ、最強の名を欲しいままにした。

 

ある世界の巫女は、千本の刀を操り、襲いくる敵と戦い、反面、虐げられてきたものを癒した。

 

ある世界の赤き英霊は、幾万もの剣を瞬時に作り出し、主人と共に敵の英雄と戦った。

 

彼らと同じように、数多の剣を扱う戦術を考案した剣士はいたが、その多くが机上の空論と鼻であしらわれ、または実際に戦場で生かし切れずに、命を落とした。

 

彼らが失敗した理由は簡単だ。そこに構想があっても、身体が、そして脳の処理がついて行かなかったからだ。子供が自転車に乗ると最初は転んでばかりな様に、人は行動する際“慣れ”が必要になるとも言われている。慣れるまでの時間を計算すれば、費用も掛かる多刀流よりも普通の剣士になった方がよいという事は火を見るよりも明らかだろう。

 

 

故に、その剣士が自分の前に現れた時、異様だとその海兵は思った。

 

 

洋手の携えた剣だけではない、腰のベルトに取りつけた籠に、何処から持ってきたのか数えきれないほどの剣が収められている。

 

「通達があった天竜人様襲撃事件の犯人と特徴が一致している!!総員構えろ!!」

 

上官の叱咤でその海兵は武器を抱え直し、再び相手への警戒度を上げる。あまりにふざけた姿が、彼は天竜人を襲撃したタイ罪人。一瞬の油断は命取りだ。最大限の警戒をしながら、次の指示を待つ。

 

「伝令兵は早く本部に」

 

上官がそう言った瞬間だった。

 

「“一閃旋風スクランブル”!!」

 

男が両手に持った剣をふるっただけのように見えた。しかし、それだけで、爆弾が落ちたかのように地面がえぐれて、衝撃波で自分を含めて周りにいた仲間達が全て吹きとんだ。

 

(何!?今何が起きた!?)

 

着地、そして衝撃。痛みと共に肺から空気が抜け、頭が真っ白になる感覚が襲う。

待機場所からか遠いところへと吹き飛ばされてしまったらしい。ゲホゲホとせきこみながら襲撃者の方を見るも、そこには無残な状態になった基地の入り口と崩壊した部隊が転がっていた。しかし、襲撃者の姿がない。奴め、どこにいったと必死に立ち上がると、ふと次の瞬間

 

 

 

 

 

大口を開けた竜に頭を喰われた

 

 

 

 

 

「―――……!?」

 

悪寒などと言う生ぬるいものではない、例えるなら、夜に広がる闇。底の見えない穴を覗いた時のような感情。人間が感じる中で最も根源的な恐怖が一瞬視して身体全体を支配した。

あまりの恐怖で悲鳴すら出ない中、ゆっくりと傍らに振り返る。怖いもの見たさと言うのだろうか?見たくない、見たくないと思っているのに、自分の石が自分の身体を制御することが出来ない。

そして、自身のすぐそばにソイツはいた。倒れた兵士から刀を取り、籠の中に入れていた。

 

「おっ」

 

「っ!?」

 

 自らがそいつを視界にとらえて数秒。しかし、男は自身の存在に気づき、振り返ってニッコリと笑みかけてきた。

 

「よぅ、見たところ新入りの海兵さんみたいだな。あんたみたいな若い奴がまだ死ぬのは早い。さっさと司令室かどっかに行ってさっさとこの状況を伝えてきな」

 

 その言葉に何故か無性に腹が立った。お前なんぞ兵士ではない。自分の存在を全否定された様な気がする。内心の恐怖を無理矢理屈服させ、大声で張り上げた」

 

「ふざけるな!!俺は海兵だ!!確かに新兵だが、海兵魂は俺も持っている!!俺は死を恐れない!!」

 

「そうか?その割に手がブルッブルに震えてるじゃないか」

 

「ッ!!」

 

震える左手を右手で抑えつける。

 

「まぁ、この話は引用なんだけどね。ノミが自分よりも大きな動物を襲う。それは果たして勇気というのかな?違うよな。それは勇気じゃない。虚栄心だよ」

 

 そこでいったん区切ると、彼は自分を鋭い眼で睨みつけ、言い放った。

 

「安っぽい虚栄心何てドブに捨てちまえ。戦場で生き残るは、結局ずる賢い奴と運がいい奴。そして、真に強き者のみだ」

 

 思わず反論しようとしたが、口からは何の言葉も出なかった。彼の言った内容を否定する言葉を持っていない。

 

「…お、お前は何者だ」

 

 そう言葉を捻りだすので精いっぱいだった。

 

「…しがない子悪党さ」

 

彼はそう答えると、ニヤリと笑った。

 

 

 

「“千本通し(せんぼんどおし)”!!」

 

 空中に飛び上がった俺は、籠の中から何本かの刀を掴むと、海兵達の集団に投げつける。

 

「“千形(せんけい)”!!」

 

着弾した剣をたどり、周囲にいる海兵達を薙ぎ払った。

 

「オラッ!!」

 

「ギャアッ!!」

 

「グアッ!?」

 

 刀を振るう度にあちこちから悲鳴が上がり、使えそうな剣を少しづつ補充しながら、海兵達の中を斬り結んでいく。

 

「畳み掛けろ!!」

 

将校海兵の指示が飛び、四方八方から襲い掛かる中、両手に剣を取って身体を捻りながら、剣を振り上げる。

 

「“暴風ウォークダウン”!!」

 

『ギャアアアアアア!?』

 

刀でできた螺旋の竜巻が、兵士達を上空へと巻き上げた。

 

「威力は十分でも」

 

 両手に持った刀がバキリと中ほどから折れて刃が地面に突き刺さる。

 

「刀が保たないか…」

 

壊れた刀を放棄して、別の刀を籠から手に取る。

 

「しっかし、ねぇ。こうまで作戦がうまくいくと、逆に不気味になって来るね。あいつらは大丈夫かな…。ま、気にするだけあいつらに失礼か」

 




お久しぶりの更新です。一気に更新を進めるのでよろしくお願いします。上手くいけば、今日か明日にはシャボンディ編完結できるかもです。

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