ONE PIECE ~青天の大嵐~   作:じんの字

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地には緑 空には赤 双竜の激

 

「ぐああああああっ!!“火竜牙突(かりゅうがとつ)”!!」

 

白目をむきながら素早く引き抜いた剣から放たれる貫く斬撃がガープ達に襲い掛かる。

 

「回避っ!!」

 

 ソレが間近に迫ったとき、センゴクは思わず叫んでいた。実際その判断は正しかった。放出された火は地を焦がし、進行先にあった建造物を何棟を貫きながら直進し、沖合で状況を見守っていた海軍船の一撃に衝突。鉄製の壁を一部焦げ付かせながら船を大きく傾かせた後、ようやく停止した。

悲鳴をあげながら叫ぶ仲間を見ながら、その場にいた海兵の誰もが“今島に寄ったら死ねる!!”と思い、陸に近付かないことを決めた。しかし、それ故に目が離せない。人生で何度見れるか分からない、“怪物”対“怪物”の戦い。恐怖を感じながら、彼らは陸へと視線を外すことはできない。

 

故に、背後から近づく一隻の商船に海兵達が気付くことはできなかった。

 

 

 

「“火竜乱翼(かりゅうらんよく)”!!」

 

 場面は戻り再び戦場。グンジョーは刀を振り回し、炎を纏った斬撃を360度全ての方向へ撃ちはなった。

 

「クッ!?」

 

 何重もの刃をよけるセンゴク達。しかし、打ち寄せる波の如く怒涛の攻撃に対して警戒を怠ることはない。特にゼファーは先程の事から刃の射線上からもさけ続ける。

 

「あいつ、我武者羅に攻撃しているわけじゃないのか!?」

 

ガープもまた、隙を見て攻撃をしかけようとするが、それでも攻撃のために突き出した拳を防御に回すのに手いっぱいだった。グンジョーから放たれている攻撃は、よく言えば豪快。逆に言えば、大振りで隙だらけのように見える。鼻血を吹き出しながら白目をむき、天を吠えながらの攻撃は、威力だけのようにも見える、が。

 

「ああ、適当に攻撃している“よう”に見える。しかし、あれは理性じゃない。本能的に俺達の位置を的確についてきやがる。“理性”を“本能”で押し切った、人間の第六感的“本能の一撃”!!」

 

このままでは埒が明かないという事を察したセンゴクは、素早く2人の前へと躍り出る。

 

「俺があいつの攻撃を封じ込める。その隙に、渾身の一撃をあいつに叩き込め!!」

 

「センゴクッ!?」

 

 驚愕するゼファーだが、センゴクは何も言わず身構えた。

 

「あの攻撃はいつまでも続くわけはないだろう。すぐにでも体力の限界が来ると思うが、それまでに俺達が倒れてしまっては元も子もない。…なぁに、獣系(ゾオン)は体力や身体能力に秀でている。それに、俺が一撃で沈むように見えるか?」

 

「見えんっ!!」

 

「よし、ならばやれっ!!」

 

 拳を大地につきおろし、踏ん張った状態で構える。輝かしい金色の体色が徐々に黒色に染まり、攻撃力と硬度が上がる。センゴクの奥の手である武装色の覇気と獣系特有の身体能力を重ね合わせた絶対防御及び絶対攻撃の構え。

 

「攻撃は最大の防御、防御は最大の攻撃ッ!!私の後ろに控える者は、何者も傷つけさせやせんぞ!!覇ッ!!」

 

気合いと共に突進。

 

「ぐうううううううっ!?」

 

 幾重もの攻撃がセンゴクに叩き付けられる。しかし、センゴクは歯を食いしばる。痛くない筈はない。何しろ、覇気操作に熟達したゼファーが本能的に攻撃を避ける程の攻撃だ。しかし、センゴクは自身が盾となることで、攻撃を集中させる。

 

「行け2人とも!!」

 

「「応っ!!」」

 

 センゴクの脇から飛び出し、拳を再度硬化。もちろん2人に火炎が襲い掛かるが、手を大きく振りおろしたセンゴクが手のひらを壁とし、目の前の攻撃に即対応する。

 

「センゴク今だどけぇ!!“鉄脚乱打(アイアンガトリング)”!!」

 

ゆっくりと手をどけた戦国の手の陰からは、脚を硬化させてニヤリと笑ったガープが構えていた。剣にも憶せず、硬化させた足を振り上げ、幾獲もの蹴りを叩き込む。一発二発三発。片足でさばきながらブリッジの要領で上半身を倒すと、両指で地面を掴んで全体重を支えると、野生児特有の驚くべき身体能力で腕を一気に回し、地面に腕を叩きつける。

 

「うおおおおおおお、“回転鉄槍大隕石(スクリューアイアンメテオ)!!」

 

ドン!!という音共に、勢いよく打ち出されたガープの身体は回転を駆けられ渦を生み出しながら、グンジョーに迫る。

 

「“火竜爪激”!!」

 

 危険を察知したグンジョーは、無差別的に繰り出していた攻撃をいったん停止し、すでに焼け焦げボロボロになった剣のまま頭上に振り上げた剣をガープに叩き込む。回転するガープとの間に膨大な摩擦熱と、金属を高速でこすり合わせる異音が生じる。

 

「この瞬間を!!」

 

 だが、攻撃が一瞬疎かになったその隙をゼファーは見逃さなかった。勢いをつけて飛び出したゼファーは、拳を唸らせ、グンジョーの顔面へと叩き込む。

 

「意識を散らせ狂犬野郎!!」

 

 しかし、攻撃は一撃に留まらない殴る殴る殴る殴る殴る。怒涛の拳のラッシュが、グンジョーに襲い掛かる。

 

「カ…」

 

ザシュ、という音共に、ゼファーの腹を剣がかすり、大きな傷をつける。顔全体から血をしたたらせながら、動きを停止させるグンジョー。しかし、容赦のない狩人は、獲物が息絶えるまでその動きを休める事はない。

 

「ほぅれどうした。動きが止まってるぞ」

 

 ガープが、今まで競り合っていたガープは地に足を付き大きく振りかぶっていた。ガープの位置からはグンジョーの顔は見えない。しかし、この一撃を決めれば決まると確信していた。

 

「お主がこれまでどのような修行をしてきたのか、想像する事すら難しい。…しかし、お前が進歩しているように俺達も進歩しているのだ!!忘れるな、貴様が悪事をもくろむたびに、海には俺達がいるという事を」

 

 拳を握り、叩き下ろす。単純ながら、必殺の一撃!!

 

「もう一度出直して来い!!」

 

 勢いに乗ったその一撃は、グンジョーの骨を砕き、内臓に大きなダメージを与えた。彼がこれからも生きる限り、彼から受けたダメージは一笑加瀬となって残るだろう。…仮に、彼が生きていればの話だが…。

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

その一撃は、おもむろに振り下ろされた手によって容易に打ち払われた。

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 驚愕、そして動揺。今まさに己の手を弾いたのは、ゼファーではない。センゴクでもない。その一撃は目の前の、ゼファーの攻撃を受けて息も絶え絶えとなっているグンジョーの腕だった。

そして、顔をあげたガープの眼に飛び込んできたのは、ゆっくりと振り返り満面の笑みを浮かべるグンジョーの姿だった。

 

「聞いたぜぇ…テメエらの連携攻撃も、その拳も!!」

 

「な!?」

 

 に!?と、驚く間のなく、グンジョーが刀を振り下ろす。それをさけながら後ろに下がったガープに幽鬼の如くグンジョーが迫る。

 

「待っていたぜ、この瞬間を!!」

 

「お前、今まで意識が飛んでいたんじゃないかのか!?」

 

「飛んでたぜぇ、今の今までなぁ。この技使いすぎると、体力が著しく消耗する上に、意識が飛んじまうんだよなぁ。殴ってくれたおかげで頭がスッキリした!!ありがとうよぉ!!そして…ブチのめす!!」

 

 発火させ、逆手に構えた剣をソフトボールの下投げのように放出する。

 

「地を迸る息吹、走破する雌火竜の逆鱗“火竜剣”!!」

 

太刀筋に焔が浮かんだその一撃は、地を這いまるで地割れのような速度でガープに迫る。

 

「クッ!!」

 

 必殺の一撃を交わされたことに動揺したガープは、一瞬対処が遅れて動きが止まり、慌てた時にはすでに地を這う剣撃がすぐそばまで迫っていた。両手を交差させて防御に徹するガープだが、彼の前に別の男が立ちはだかった。

 

「ガープ逃げろ!!」

 

「ゼファー!?」

 

 先程斬られた腹から血を流しながら、黒碗の男ゼファーが立ちはだかる。

 

「あいつは、本能に呑まれた理性を逆に飲み込み返した。はからずも、俺のサポートが裏目に出てしまったようだ…。故に、この戦場は、俺が殿(しんがり)を務めさせてもらう!!センゴクを連れてお前は早くされ!!」

 

「何を言い出す!!ここは、3人で対処に当たるようにと上層部(うえ)に言われただろう!!責任は俺たち全員にある!!」

 

後ろで倒れているセンゴクを確認しながら、ゼファーに怒鳴り返すガープ。しかし、突如として頭上が明るくなったことで、2人は会話を止める。

 

「「ッ!!」」

 

目の前の一撃に集中していた2人は、樹上を見上げ、そして気付いた。地を這う斬撃はあくまでも(カモフラージュ)だったのだ。本命の一撃は、今遠くて近い場所にあった。

 

「火竜剣」

 

皇と、光が瞬く。バチバチと飛び散らせた火花が咲き、そして火花の性質を纏った覇気が、燃え上がり天を衝く。まるで、ガスコンロの火力を一気に弱火から一気に強火にしたかのように、今までがの一撃は何だったのかと疑うような、まるで小さな太陽のような燃える火球。

 

異世界に住む飛竜。彼等は、雌雄一匹で狩りを行うという。

 

地を歩む雌が獲物を追い詰め

 

披露した獲物を

 

空を舞う雄が確実にしとめる!!

 

グンジョーは舞い上がり、天高く燃える凄まじき焔の大剣を一気に振り下ろした!!

 

「莉王烈宇須《リオレウス》!!」

 

業、と光が周辺を包み込む。火球が破裂し、一気に拡散、尋常ではないほどの熱と共に、炸裂した面の太刀筋が一気に2人に、いや海軍基地に襲い掛かる。全てを火の海に飲み込みながらゆっくりと消え、辺りが静寂に包まれたころ、そこに立つ者はいなかった。

 

 

 

 

 

「ヨホホホ~~。どうやら戦闘が終わったようですねぇ」

 

 海兵に混じり、その光景を双眼鏡越しに見守る者がいた。言わずもがな、歌う骸骨ブルックと、その足元にいるラクーンと愉快な仲間達である。

 

「「「「「一括りにされた!?」」」」」

 

「まぁまぁ、どうかお気になさらず。私は回収に向かいますので、船の方を守ってもらって大丈夫ですか?」

 

 落ち込む仲間達(笑)を諭しながら、船のヘリへと歩くブルック。

 

「ええ、大丈夫れすよ。仲間達が見てくれるそうれす…それよりも」

 

 ラクーンは心配げに海軍基地の方向を見た。そこからは、煙が上がり大きな激闘が起きたことを察するに十分だった。

 

「アオランドは本当に大丈夫でしょうか?僕も、彼の実力を疑っているわけではないのれすが…。けど、あれほどの事が起きて無事かどうか…」

 

「ラクーンさん」

 

 目を潤ませるラクーンは、優しげな声の方へと顔をあげる。そこには、ブルックが屈んで彼を見おろしながら真面目な顔で――白骨死体なせいで表情はよく分からないけれど――真面目な雰囲気で彼を見おろした。

 

「グンジョーさんは絶対に大丈夫です。身体を酷使することはあっても、絶対に死ぬ人ではないですからね。彼はどの様な場所でも生き残れる“程度”の運と、言った事を実現させる“有り余る”行動力、そして何故か言った事を信頼してしまう“不思議な”雰囲気をお持ちですから何も心配することはありませんよ」

 

 そういって白骨した手にラクーンを乗せたブルックは立ち上がり、彼を肩に乗せると素早くヘリから飛び出し海へと飛び降りた。

 

「それではみなさん待っていてくださいねーっ!!」

 

「「「「「えーーーっ!?」」」」」

 

 見守っていた一同が驚愕する中、ブルックは脚を高速で動かし海面を走るという荒業を繰り出す。

 

「ヨホホホホ、それに彼の事を心配するだけ無駄無駄!!彼なら、たとえバスターコールの中でもケロッとした顔で生還するでしょう!!だから、私達に出来る事は、笑顔で彼を迎えに行く事!!今はそれだけ考えましょう!!」

 

 陽気に笑うブルックに一瞬呆気にとられたラクーンだが、陽気な雰囲気に当てられていつの間にか笑っていたのだった。

 

 

 

 

「あ、ボロちゃんさんも待っていてくださいねー」

 

『ジュララララー』

 

 海底からのっそりと顔を出した遊蛇も笑顔で彼らを見守った。

 

 


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