1-3
16時50分。
私はイエローテープがたくさん巻かれてある公園の端である、海岸線にくる。
この公園は無駄に広いので、池や遊具やら幾何学模様や水と緑の憩いの場とかある。
今回の訪問は以前の戦闘があった、海岸線だ。
まだここらへんは河口付近なので、完全に海というわけではない。
ふぅ、潮風が心地よい。
凪の時間でなくてよかったと思う。
16時55分。
そろそろだが、彼女はどこにいるのだろう?
……ああ、いた。
あー、高町が吹っ飛んで凹ませた木があるな。
そういえばここだったか。
地面にあった装飾路面も、綺麗に整備されているようだ。
<マスター。彼が来ました>
「あ、一之瀬先生!」
私は聲をかけられた。
高町は手を大きく振って、私の方を向いている。
実に無邪気でよろしい。
だが一年後には性教育の過程がまっているので、無邪気なのはここまでになってしまうな。
仕方ない。さて、今日は面談だ。
「こんばんは」
「こんばんは、先生」
今日話したい事。
それは今後の事について、高町への処分が決まった事を伝える。
「処分?」
「はい。処分と云っても、退学というわけではありません。
非現実的現象専用顧問として、私が貴方の心身共に異常がないかを見る者となりました」
「ふぇええっ!?」
何かオーバーリアクションだなぁ。
まあ現実が非現実な魔法に対して、対処法として私を派遣するのが予想外と云ったところか?
「主な活動としては、私が現象に対して対象を護衛する役割を持っています。
また身体と精神にかんしては、小学校の保険の先生が傷害とカウンセリングを行います。
基本的にこれらは外部干渉を受けず、私が全てにおいての責任者になります」
「ど、どどど、どう云う事なんですか!?」
混乱しているようで、全く伝わっていないようだ。
近くにあるベンチに座って説明しているが、やはり要約すべきか。
「つまり公式上一之瀬さんが、なのはを護るということなんですよね?」
「そうです。高町なのはを、私が全責任を以って守りその現象に対して個人で難なく対処できるまでが、
我々の仕事です。しかし、磐石な体制の為、必要あらば今後とも支援すべきと考えています」
オコジョというよりフェレットと教えられたが、ユーノが言う事は的確な説明として片づけられる。
「更に戦闘面に於いて、戦術や戦略も私に一任されています」
「……一之瀬さん。じつはですね、なのはから念話として色々聞いているんです」
「ほほう」
「あの授業からの応用を使うんですか?」
「空は飛べるんですよね?」
「はい」
高町の膝に乗る彼に私が返答していく。
彼女は私達の会話に、あまりついていけていない可能性がある。
「ユーノ君?」
「……あの授業はなのはの為ですか?」
「そうですよ」
私は笑って答える。
「無茶苦茶だ……」
まあ、そうだよな。
「えーと、インテリジェンスデバイスの貴方は、どのようなお名前ですか?」
<私はレイジングハートといいます>
紅い玉は点滅して、機械音声に近い肉声が響く。
「非現実的現象であれば、常時重力に逆らって空中に浮けるかもしれない。
ならばそこから世界史的に、常識を破る事が起こるかもしれない。
よって、授業に航空力学を入れながら、実習を含めた戦争というものを入れてみました」
私は三人に目くばせをする。
私は近場に居る者を第一に考える。
尤も不憫なのかどうかはわからないが、それでも少しでも生存率を上げられれば重畳だ。
「今回の戦争シミュレートも全て、高町さんが生き残る事を重点的に考えた結果です。
それと今から、その魔法に関して少し助言をと思いましてね」
今は誰も公園にいない時間だ。
基本的にここは立地条件がわるい。
綺麗で優美だが、そのかわり沿岸部だ。
故に微妙に訪れにくい。
更に沿岸部の公園は、碧が多い此処以外にも多数存在する。
浪漫を求めるのならば、もう一つの沿岸公園の方が良い。
「レイジングハートさん。今高町さんが使える魔法は、今は何種類ですか?」
<中距離一種、封印一種、飛翔一種、防御二種>
「なるほど。では、私がいう事を実践してみてください。
一応プリントとして用意しておりますので、休暇中にやってみてください」
私が提案したのは、魔法に関する種類だ。
遠距離・中距離・近距離。範囲・一極集中。長時間使用の必殺技・即行発動系。
狙撃・弾幕。弾幕に関しては戦略指揮が上手なので、多数を上手く扱えるものをつかえばいいだろう。
速度重点・威力重視・バリアブレイク・バリア貫通等。
防御に関しては、一極集中・範囲。真正面・自動防御・受け流し。ベクトル転換。
補助。二重発動。遅延発動。魔法陣介入による発動阻害。拘束。ジャケットパージ又はバースト。
罠。
「どうでしょうか?」
魔法陣に関してはあの戦闘で見ているので、ある程度理解できている。
だから提案は難しくないんだ。
っと、高町なのは・ユーノ・レイジングハートは、プリントを食入る様に見つめている。
プリントには運用方法なども描いているので、ある程度想像が可能だろう。
たぶん悪くはないと思う。
手段の多角化は、決めてを欠くよりかはましなものだと思いたい。
「凄いです。僕よりも、魔法の可能性を熟知している……。
特に二重発動や遅延発動は、考えたことすらなかった」
<これくらいならば、マスターでも容易だと思われます>
「全部やるの?」
「いや、全部やらなくていいのですよ」
私は最初にレイジングハートに小さな魔力弾を作ってもらった。
これを多数つくり半分を攻撃半分を防御に使えるように、レイジングハートと高町自身が役割分担をする。
そしてこれらは戦闘中出現しっぱなしがいい。
理由としては明確な戦闘意欲の提示と、武力による牽制だ。
いつでも攻撃が来てもおかしくない、と思わせれば勝ちである。
そうすると相手はその魔力弾に意識を奪われてしまうので、徐々に神経が衰弱していって集中力の低下を招ける。
攻撃面で言えば、一つを向かわせ弾丸を回避したところにもう一つの魔力弾を向かわせておく。
他にも解剖学や生物学を利用した、死角突きや肉体の行動制限・眼球の不得手な補足範囲である上下運動を行わせる事。
更には回避でなく防御をされたとき、後方または爆風の中に魔力弾を仕込んでおけば勝手にダメージを与えられる。
防御面でも相手が来る予測位置を割り出し、そこの魔力弾を置くことで相手の行動を阻害できる。
また魔力弾に魔法陣の命令式を組み込む事で、ただの攻撃が自身を拘束する魔法に変化等……色々できる。
「もしも。もしもですよ?その管理局とかいう組織が、私達に絡んできて高町さんが将来働きたいと言った場合。私の護衛はなくなります」
「え、どうしてですか?」
「これは非現実的現象から、対象を護衛するためです。つまり、被害者である必要性があります。
しかしこれに進んでやってしまうのであれば解消します」
「……わかりました」
「勿論これは貴方の人生です。高町さんの意見が優先されます。
これは覚えておいてください」
「はい」
今後のこの護衛については、誰にも言わない事を約束してもらう。
高町さんは私の生徒なので、一人の生徒にかまけているという噂が流れれば私も高町さんも、要らぬ誤解と不利益を被りますと。
色々と考えることが多いだろうが、学校側は親から子を預からせてもらっている。
だからお金を貰っている側からすると、ユーノ達に任せるしかないんだ。
「では、そろそろおうちに帰りましょう。送ります」
「あ、はい」
勿論自転車だ。
後部座席は物を置くことが多いので、クッションなどを敷いていることがある。
今回は荷物はないが、彼女を送ることを考えて、クッションを敷いて置いた。
「どうぞ」
「は、はい……」
「前は見えませんが、どうぞ身を委ねてください。
バランスが崩れるかもしれませんので」
私は自転車を漕ぐ。
漕いでいる途中、背中がほんのり暖かくなる。
よかった。バランスを崩さなくて済みそうだ。
しばらく黙っているが、きっと彼女はそちらの世界へ行くでしょう。
なにせ、空間把握能力と戦略的指揮能力・更に忍耐力が非常に高い。
これは自衛隊で魅せてほしいという位の人材だ。
だがここでは使えないんだ。
だからそっちの世界へ行くべきだ。
応援しているよ。高町なのは。
ギギ……
っと、喫茶店に着いた。
「到着しましたよ」
「ありがとうございます」
彼女は地面へ降り立つ。
さて私も帰るか。
「では、高町さん。また明日、学校で」
彼女はなぜかわからないが、俯いている。
え、住所間違えた?いや、ここで合っているはず。
「あの……」
「どうしたんですか?」
「う、うちによってください!おもてなししたいの!」
「え、わ、わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
どうかしたんだろうか?
まさか、前の件で嘘吐きなのがばれたか!?
どうしよう。本当にどうしよう……。ええい、腹を括れ!
教師の特権である、土下座を使ってでも許しを請おう。
私は中へ通された。
先に高町さんが親御さんに、情報を通達しにいった。
すると自立浮遊したレイジングハートに導かれて、喫茶店の裏口から中へ入る。
そこはフロアだった。
喫茶店として機能するその机や椅子、ステンレスのシャッターを下ろしていながら中はまだ明るかった。
「こんばんは。昨日ぶりですね」
「こんばんは。ご無沙汰しております」
私は高町さんの父親に、席へ通される。
変な汗が背中を伝う。あー、変な顔になってないかなー?
「レイジングハート、案内ご苦労様」
<いえ、ごゆっくりどうぞ>
浮遊してどっかいく。
緊張してやばいな。
「一之瀬さん。昨日の事なのですが」
「はい」
「嘘をついていらしたのですね?」
「申し訳ございません」
「いえ、怒っているわけじゃないんです」
「と、いうとどういう?」
「昨日の嘘のおかげで、娘を取り巻く環境が分かりました。
単刀直入に聴きます。なのはは、この地球でちゃんとした暮らしを享受できるでしょうか」
なるほど、そういうわけか。
確かにきになるよな。
非現実な麻薬に等しいものを手に入れたんだ。
手放せるのかという問題だ。
なら逆に考えるんだ、魔法の道に歩ませちゃっていいんじゃないかと。
「教師として答えますと。この国で働くべき、逸材です」
「そうですか。では、個人的には?」
さすが、よく聴いていらっしゃる。
「個人的には、魔法の道に進むべきと思っております」
彼はこの言葉で眉間を歪ませる。
ああ、この人は非常に現実主義で、娘想いないい父親だ。
だからこそ突きつけてやる、現実という奴を。
「何故、でしょうか」
「はい。まず、自由な翼を手に入れて、それを自分の手でむしり取り地上に残れと言われてできますか?
その自由な翼で行ける天国が、空中戦を自由にできるだけの地球の縮図の可能性は否めません。
しかしそれでも持っていなかったものを手に入れられた人は、日常を享受できましょうか。
私は無理だと考えております。
ですので彼女の事を考えるのであれば、空間把握能力・戦略眼・指揮能力は向こうの世界で自分の為に
使うべきと考えております」
「そうか……私の妻と同じことを言うのですね」
「決めるのは高町なのはさん自身です。
私達は見守る側です。
もしも私が親でしたら、限界までやらせますね。
そしていつでも帰ってきていいんだよ、と精神的安寧を与えておきます。
ふるさとはいつだって、御両親がいらっしゃる此処なんですから」
「わかった、ありがとう」
すると物音がする。
そこには高町なのはの母親と御本人がいた。
本人はお盆に、お茶とお茶菓子を載せて持ってきた。
「一之瀬先生、飲んでみて」
「ありがとう」
うわー、目の前の父方さんがめっちゃにらんできてる!
怖過ぎる。味が分からん。
まあすぐに飲むことはしないけども。
作法は分からないが、カップを持って匂いを嗅ぐ。
更に沈殿している紅茶の葉を見て、少しわかることがある。
って、うん。若干甘みと酸味が混ざってるなー。
そして後味が若干苦い。けれど、嫌悪感を感じさせない。
とにかく、若干失敗している感がある。
焦ったのか葉取りに失敗したのか。
「どう?」
高町さんは恐る恐る聴いている感じだ。
どうしたんだろうか?怖いんだけど。
とにかく作り笑いは通用しないのは分かっているから、自然体でいく。
「ちょっと焦ったのか知らないですけど、茶葉が残っていましたね」
「ぁぅ……」
「ですが、長い間培われた紅茶に関しての技術は、非常に高いです。
個人的にはこの茶葉が残した苦味が、後味をよくしてましたので……。
おいしいですよ、高町さん。ありがとうございます」
盆を持って顔を隠す姿は、褒められ慣れていないのかな?
いいですね。私くらいになると、褒められる事は裏の顔持ちっていう感じですから。
「い、一之瀬先生!」
「なにかな?」
高町さんは盆を降ろして、顔をおもてに出す。
行き成り大きな聲を出されたから、ちょっと驚いたけど大丈夫さ。
「わ、私の事、”なのは”って呼んで!呼んで……ください……」
どうしたんだろうか。
学校では多くの友達といるじゃないか。
バニングスや月村というご令嬢とも仲良しであるし……。
「一之瀬先生。私達はこっちで精いっぱいなのです。
ですから、魔法に関しては、先生を頼らざるをえないのです」
なるほど、切り盛りしているけれど、人気であるからこそ手を割けないのか。
そういうことならば、全力で守ろう。
「解りました。もとよりなのはさんの事は、教師として学校側で保護するべきと議論に挙げ護衛することとなっています。
大事な娘さんを預からせて頂いている為、全力を挙げて守らせていただきます。
そして個人的な面でも、助言や心身の調子管理等全てにおいて、磐石となるよう努めさせていただきます」
私は御両親にそう告げる。
御二方は表情を少し和らげてくれた。
この後私は高町親子と他愛のない会話を楽しみ、30分後この家を後にする。
私は普通に去ったわけではない。
あの高町家の大黒柱に、週末に私の護衛としての実力を見せてほしいと言われた。
なるほど当然の事だね。
大事なお子さんだ。そりゃ、護衛の者の覚悟と実力の証左が必要なんだろう。
私とてただの正義感でやっているわけじゃない。
こんな一人の生徒にかまけてる時点で、教師としては最底辺なものだ。
教師はいろんな意味で、生徒を平等に扱わなくてはいけない。
この思考や思想だけで、既に生徒に対して不平等な思いを抱いている事を証明しているようなもの。
それでも私はやる。
やり遂げて見せるさ。
流れ出した水は絶対に止まりやしないんだ。