○○鎮守府、一九〇〇前ーー
駆逐艦寮、暁型姉妹部屋ーー
「それでは行ってくるのです♪」
『行ってらっしゃ〜い』
今宵もお風呂を終えたあとで、電は提督の元へ向かった。
スキップでもしそうな電の背中を暁達はしっかりと見送ったあと、
「さぁ、そして今夜も私達は私達のお楽しみタイムと洒落込もうか」
響がとても良い顔で電の日記帳を取り出す。
「あれ……その日記帳、ちょっと汚れてない?」
「ホントだわ。昨日の日記帳はまだ真新しかったのに……」
暁と雷はその日記帳を見て小首を傾げる。
そんな二人の疑問に響は「そうだね」と頷いてから、その理由を話す。
「昨晩に電が隠し場所を変えたみたいで、前の日記帳しか見つけられなかったんだ」
「あ〜、だからちょっと汚れてるのね♪」
響の説明に暁はすんなり頷くが、雷は昨日読んでたのがバレたからなんじゃ……と少し不安な気持ちになった。
「大丈夫大丈夫。電が敢えてこれをあの場所に置いたのなら、これは読まれてもいいってことさ」
そんな雷に響はそう言うと、雷はそうかしらと思いつつも、もう読む気満々の暁と響に流されるまま覗き見するのだった。
その日記の頭には、
『今日始めて電の司令官さんと出会いました。
とても優しい方で、安心したのです。
そして司令官さんはお昼休みの時、
司令官さんになったお話をお聞きました♪』
と書かれていた。
「これって……」
「とても貴重な日記だね」
「すっごく細かく書いてあるわ!」
それは鎮守府が始まって最初の頃の日記だった。これには三人共驚いたが、とてもレアということでその日記の文字から目を離すことはなかった。
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ーーーーーー
〇九〇〇ーー
大本営、応接室ーー
「失礼致します!」
ドアをノックし、応接室に入室したのは真新しい軍服に身をまとう提督(まだこの時は提督ではなく、大本営の事務員だった)。
「お〜、よく来てくれたね。ささ、そこへ座りなさい」
応接室内のソファーには既に元帥が座っており、その隣には大淀(元帥の秘書艦)がいくつかの書類を持って待機していた。
提督がソファーに座ると大淀は提督の目の前に持っている書類を丁寧に配る。
「少〜し遅くなったが、君の異動が正式に決まった。その書類を明日までに熟読しておいてくれ」
突然のことに言葉を失う提督。そんなことを気にも止めず、元帥は淡々と説明を始める。
「君の着任先は○○泊地の○○鎮守府。これで君は晴れて提督ということになる。おめでとう」
「ありがとう、ございます」
「ここの建物は随分前に廃校となった元高等学校だが、内装のリフォームは既に完了しているから安心してくれ」
「はい」
「君も知っての通り、深海棲艦に対抗できるのは艦娘のみ。そして軍はその艦隊の指揮官となる人材を育てることに力を入れている」
「…………」
「しかしその指揮官達を育てることに力を入れ過ぎたことにより……鎮守府の数が圧倒的に足りていないという問題が発生した」
「…………」
「君のようにどんなに優秀な指揮官でもすぐに着任させることは出来なかった……前と事態が変わったとは言え、まだまだ軍に土地を売ったり、貸したくないと言った民間の方々が多いからな」
「はい……」
「そんな中で、やっと君が着任すべき鎮守府が整ったと言う訳だ。やってくれるね?」
元帥の言葉に提督はハッキリと、そして大きな声で「はい!」と返事をした。
それを見て元帥はうんうんと頷き、優しく目を細める。
「では急だが、君を○○鎮守府の提督に任命する。明日の朝には現地へ行ってもらうことになるから、今日はその書類を熟読し、明日に備えてくれ」
ここで提督はやっと『提督』になれたのだった。
次の日の朝ーー
私物の入った大きな鞄を持ち、提督は元帥に言われた通りの時間に大本営の裏門にて、送迎の車を待っていた。
「優秀な事務員がまた減ってしまう……」
「まあまあ、めでたい門出なのですから、そう言わずに……」
提督を見送りにきたのは同じ課の者達とその責任者。
みんな『提督』となることをお祝いしているが、優秀な人材が減ることにも少し悲しんでいる。
一人ひとりと挨拶をしていると、門の前に軽の乗用車が止まった。
「いやぁ、待たせね〜」
そんな車の運転席から降りてきたのは元帥だった。
元帥の登場にその場にいる全員が敬礼するが、元帥は「そんな堅苦しいのやめてくれ」などと言って、とてものほほんとしている。
「いやぁ、送迎係にしてた人の奥さんが急に産気付いたらしくてね〜。今から代理も見つからないし、私が直々に送ってあげるよ。あ、勿論だが君は後部座席だからな。助手席は妻の特等席だから」
元帥の申し出に全員が呆気に取られるが、次の瞬間にはもうみんなして笑い声をあげた。
元帥らしいというか、これが仕事外の元帥なのだ。そう思うと、みんなは笑いを堪えられなかった。
こうして提督は仲間達と笑顔で挨拶をし、元帥と二人きりで○○鎮守府へと出発した。
「あぁぁぁ! また逃げられたぁぁぁ!」
提督を乗せた元帥の車が小さくなった頃、大淀がそう叫びつつその場でガックリと膝をつく。
そんな大淀を見て、周りの者達は「また大淀様がお怒りじゃ……」と口を揃えて言ったそうな。
その頃ーー
「ん〜、こんな明るいうちにドライブなんて久々だな〜♪ 気分いいから五速まで上げちゃおうかな〜♪」
「制限速度内でお願いします……」
提督の言葉に元帥は「つまらないな〜」ともらしながら制限速度ギリギリの速度を維持する。
すると、何か思い出したかのような顔をして提督に言った。
「そういえば、君が着任する鎮守府にはもう既に駆逐艦の艦娘を一人だけ早朝に向かわせた。着く頃にはその娘が色々と準備を終えてくれているだろう」
「分かりました」
「こちらで決めちゃって悪いね。何しろ急なことだったからあの娘しか着任させる準備が整わなかったんだよ」
「いえ、お気になさらず。どんな娘でも、仲間がいるのは心強いですから」
提督の返した言葉に元帥は笑顔で頷いたが、
「でも……『さぁ、この中から好きな娘を連れていきなさい』と言ったあとで『娘はやらん!』と言うくだりをやりたかったんだがね……」
すぐにそう言って元帥節を飛ばした。
そんなつまr……ありがたいお話を聞きながら、提督は無事に○○鎮守府へ到着。
その矢先、
「うわぁっ! 大淀くんから不在着信が百件以上来てるぅ! 何でもうバレてるんだ!」
元帥は血相を変えて、提督と荷物をおろすと捕まらない程度のスピードで大本営へ戻るのだった。
提督はそんな中でも元帥の車が見えなくなるまでお辞儀し、それから鎮守府へ足を踏み入れる。
鎮守府、本館前ーー
(確か元帥殿は、先ず本館に行って執務室で待つ初期艦と挨拶をするように……と、そう仰っていたな)
ドアを開けると外観とは違って内装はとても近代化されていた。
そのことに感動しながら、本館の案内書通りに執務室へ向かっていると、
「こ、ここは軍の関係者以外の方は、たた、立ち入り禁止、なのです……」
背後から声をかけられた。
振り向くと、そこには書類を抱えた小さな少女が佇んでいた。
「おぉ、君が私の初期艦の艦娘かな? はじめまして、私がこの度、この鎮守府を任せられた提督だ。お互い初めて尽くしだが、よろしく頼むよ」
大本営で何人もの艦娘を見てきた提督は、すぐに自分の初期艦だと確信して笑顔で挨拶をする。
すると艦娘の少女は急に「はわ〜!」と叫び、姿勢を正した。
「し、司令官さんだとは気付かず、ごめんなさいなのです! わ、私はいにゃじゅみゃ、あうぅ……い、電です//// どうか、よろしくお願い致しま……ひゃわ〜!////」
盛大に言葉を噛みながら、それでいて深々と頭を下げたことにより持っていた書類を床にばら撒く電。
「ご、ごめんなさいなのです!//// すぐに拾います!////」
そう言って電はすぐに書類を拾おうとすると、
「ははは、おっちょこちょいなんだな」
と言った。
提督としてはとても緊張している電を見て緊張が解れたのだ。そして自分も書類を拾うのを手伝った。
そんなこんなで二人して書類を拾い、当初の目的である執務室に到着。
「……見事に何も無いな……」
執務室は広い部屋にみかん箱がポツンと置いてあるだけ。
電はどう声をかけようかあたふたふしていると、
「新米の私には勿体無いくらい広くて、いい執務室だな」
笑顔でみかん箱の隣に座った。
そんな提督に電がポカンとしていると、提督はまた口を開く。
「私の母方の祖父も、学生時代はみかん箱が机だったそうだ。その祖父はそのみかん箱で勉強し、海軍になった。それとは状況は違うが、祖父と同じだと思うとやる気が湧いてくる」
みかん箱を撫でながらそう言う提督の表情は、とても穏やかで優しかった。
そんな提督の表情や佇まいに、電はただただ見惚れ、その光景に釘付けとなった。
「さ、電……その書類を見せてくれ。私達の初の任務だ」
提督が電に笑顔でそう言うと、電は「はい、なのです♪」と元気に返事をして提督の元へパタパタと走り出すのだった。
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「その日のお仕事はとても楽しかったです、マル」
そう響が読み終えると、三人はやっと一息吐いた。
「こういう経緯があったのね〜」
「そうね。でも元帥さんって失礼かもしれないけど、案外お茶目ね。昇進式では全然そういう風に見えなかったわ」
暁も雷も読み終えてそれぞれ感想を言う。
「電もこの頃から電だったね。それが今や司令官とケッコンカッコカリだなんて、この時の電は思ってもいないだろう」
そう響が言うと、暁達は揃って『そうでしょうね♪』と笑顔で返した。
それからまだ時間があることを確認した暁達は次のページをめくろうとしたが、
「ただいまなのです〜♪」
電様がまさかのご帰還。しかもその後ろには提督の姿もある。
流石の響もこうなることは想定してなかったようで、普段から白い肌が青白くなっている。
「ど、どうしたの、フウフ揃って?」
しかし姉妹の頼れるお艦が何とかフォロー。その間に響はバレないように座布団の下に日記帳を隠した。
「昨晩の焼きプリンのお礼にアイスクリームを買ってきた。みんなで食べよう」
雷の問いに提督は笑顔で答え、大きな袋を見せる。
大きさからしてキングサイズだ。
「わぁ〜、嬉しいわ、司令官♡」
姉妹の中でアイスクリームに目がない暁はキラッキラして提督と電の元へ走り寄るが、
「ふみゃっ!」
座布団に躓いて転けてしまった。
「暁お姉ちゃん、大丈夫ですか!?」
そんな暁に電は駆け寄ると、
「…………どうしてそこに電の日記帳があるのです?」
座布団の下に隠した日記帳がバレた。
「……やっぱり覗き見していたのですね。信じてたのに……」
ドス黒いオーラをまとう電はもう暁達の知る電ではない。
あの眼光で睨まれたら誰もが石のように固まってしまう。
震え上がる響と雷は互いに身を寄せ合い、恐怖のあまりその光景から目を背けた。
そして一歩……また一歩と電が二人に近寄って行く。
「ほう、電の日記帳か……」
そんな中、提督は電の日記帳を拾い上げた。
「あっ、司令官さん! ダメなのです! 読んじゃダメなのです! いくら大好きな司令官さんでもそれは読んじゃダメなのです〜!」
その瞬間、電は電に戻った。響と雷はそれを確認するとドッと脱力感を感じ、大きく息を吐く。
「読みはしないさ。どんな関係でもプライバシーは破ってはいけないからな」
「流石司令官さんなのです♡」
提督が電に日記帳を渡すと、電はデレデレした顔で受け取る。
「さて、溶けてしまう前にアイスクリームを食べよう」
提督の言葉にみんなは笑顔で頷き、雷と電は人数分のお皿とスプーンを取りに行く。
そして、
「姉妹だからと、こういうことはしない方がいいぞ?」
提督は響にそっと耳打ちした。
主犯であることを提督に見破られた響は、
「そ、そうだね。もうしないよ……うん。するとしても、今度はちゃんと断ってから読ませてもらうことにする」
と猛省するのだった。やはりあの時の電は響からすれば阿修羅にでも見えていたのだろう。
こうして束の間の暁、響、雷のお楽しみタイムは幕を下ろしたーー。
電の日記帳-完-
ザッとですが、初期の頃を最終回として書きました!
そしてこれにより、とうとう艦これ Short Storyシリーズは終わりです。
ご了承お願い致します。
私の艦これSSを読んで頂き本当に本当にありがとうございました!
このシリーズは終わりですが、新作、そしてまだ続けるつもりの奥様シリーズでお会いしましょう!
※お知らせ
7月17日の海の日に活動報告にて新作のお知らせを致します。
もう第1話は大まかですがある程度出来ていますので、7月内には連載開始する予定です。