人の名前を間違う雪ノ下はまちがっている   作:生物産業

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12話 お久しぶり

「今日、振り込んだから。これで俺は自由になる」

【…………好きにしろ】

「言われなくても。高校は今年中に辞めるよ。一応は感謝しておく、じゃ」

 

 電話を切り、ぐっと伸びをする。夏休みを残すところ、あと一日という所になって、秋太はようやく長年の呪縛から解放された。

 秋頃を予定した父親への返済が、本日をもって完了したのだ。

 これには理由がある。

 

「うぅ~もうダメ……」

「姉乃さんの能力の高さに、初めて敬意を持ったよ。今まで嘗めててごめーん」

「ぶっ飛ばすわよ」

 

 ぐだっと力なく秋太のベット倒れこむ陽乃。秋太の仕事が早く終わったのは、間違いなく彼女の力だ。

 

 ――ねぇ、私にもプログラミングを教えてよ。

 

 このたった一言が、陽乃の夏休みの予定を大きく変えた。

 旅行の最終日、寝ている秋太の顔に落書きをした次の日の話である。

 

「ほほーう」

 

 部屋にこもり、仕事をしていた秋太だったが、乱入してきた陽乃の放った言葉で目を怪しく光らせる。

 陽乃としては悪ノリしすぎたことで、秋太が怒って部屋から出て来ないと思い、仕事を手伝うことで少しでも怒りを、もとい、ご丁寧に加工された自分の変顔を晒した画像を30分に一度送ってくるのを止めてもらおうという、打算が元の発言なのだが、秋太が予想以上に食いついてしまった。

 

 それからは、流れるように事が進む。陽乃が常人よりもかなり優秀というのが、秋太のなにかを解放した。泣き言をいう陽乃を椅子に縛り付け、分からなければ容赦なく物理攻撃を加えるという体育会系スタイルで、一週間ほどで陽乃を立派なプログラマーに育て上げた。

 後は、有無を言わさず自分の仕事を手伝わせる。

 文句を言いながらも、物事を完璧にこなしてしまう陽乃は秋太のサポート役としては十分であり、彼の仕事を倍以上に加速させていった。

 そして、今日晴れて仕事を完了し、振り込まれた給料とため込んだ今までの貯金を父親の口座に振り込んで、すべて完了した。

 

「ふぅ~、これでようやくだ」

「私を褒めて。私を甘やかして」

「うるさいよ。サイゼで良いでしょ? 奢ってあげるから」

「労働と全然等価交換じゃなーい!」

 

 ぶーたれる陽乃を取りあえず、シカトする秋太。今は達成感の余韻に浸りたいのだ。

 しばらく陽乃が騒いでいたのが、急に静まり出した。いきなりどうしたのかと、不思議そうに陽乃を見ると、珍しく真剣な表情をしている彼女が居た。

 

「ねえ、秋太。本当に学校辞めるの?」

「辞めるよ」

 

 迷うこともなく即答した。そう返ってくるのが分かっていたのか、陽乃は特に何も反応を示さなかった。

 

「それじゃ、サイゼに行こうか♪」

「話の切り替えが急すぎて、付いていけないんですけど……」

 

 相変わらずの陽乃の適当ぶりに、秋太は色々と諦めた。

 

 ◆

 

 新学期が始まる。秋太からすればあと数か月も通えば、おさらばとなる学校だ。少しばかり、感慨も沸いてくる――わけもなく、つまらなさそうに登校した。

 

「あら、お久しぶりね? 姉さんが迷惑をかけていたようだけど、大丈夫だったかしら?」

「今回は、俺の方が迷惑をかけた感じかな。初めてあの人に感謝したよ」

「……おかしなこともあるものね?」

「人生なんておかしなことばかり。とりあえず、寝ます」

 

 夏休みの小旅行以来の雪乃との顔合わせも、秋太には特に何かを感じるものではない。顔を伏せると、そのまま夢の世界の住人になった。

 

 昼頃になって秋太は目を覚ます。

 夏休みに入る前と何も変わらない。自分のノートパソコンを持つと、そのまま教室を出ていく。秋太にとっての日課なのだ。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 だが、それを許さない者がいた。雪乃だ。

 

「なに?」

「貴方は眠りの世界の住人になっていたから、気づいていないようだけど、教えてあげるわ」

 

 雪乃が黒板のやや上の方を指さす。するとそこにはこう書かれていた。

 

 ――文化祭実行委員 秋田、雪ノ下

 

「はい?」

「3限目のHRで決まったのよ。男女ペアで」

「いやいや、ゆっきーは分かる。総武の便利屋とまで言われたゆっきーが実行委員なんて苦行を引き受けるのは理解できるけど、なんで俺も?」

 

 冗談はよしなさいと秋太は視線で訴えるのだが、雪乃はハアーと一息つくと、小さく首を振った。

 

「逆よ。貴方のせいで、私が被害を受けたの。わかるかしら?」

「わかるわけがない」

「では、無知な貴方に問題の解法を与えてあげる。まず定義ね。秋田秋太という人間はこのクラスでは意図的にのけ者にされている」

「異議あり」

「異議を却下するわ。で、そんな貴方が面倒ごとの代名詞ともいえる委員決めで眠りこけている。ではここで問題。クラスメイトのとる行動を答えなさい」

「……俺に押し付ける」

「正解」

 

 雪乃の天使のような微笑みが秋太に向けられる。

 

「さて次の問題よ。実行委員は男子女子から一人ずつ選出されるの。クラスでコミュニケーションというものを全くとってこなかった男子が相方という状態で、女子が立候補する確率はどの程度でしょう?」

 

 雪乃の優し気な笑みは続く。

 

「期待という幻想を抱いて、5%くらい? このクラスは女子が多いし」

「不正解。0%よ」

 

 現実はいつだって厳しいのだ。

 

「さてここで本題に戻るのだけど、このクラスで貴方と会話をする人間は非常に限られているの」

「ゆっきーとか雪ノ下とか、雪乃さんとかですね」

「そうね」

 

 ボケにツッコむ気は全くない様だ。雪乃は天使のような微笑みから、少しだけ苛立ちをみせる。

 

「どこかの秋田さんの所為で、私にそんな役が回ってきたのだけど?」

「ひどい秋田さんがいたみたいだね」

「ええ、本当に。わかるかしら? その酷い秋田さんに決まり、女子の立候補がないと分かった瞬間、クラス全員が私を見たのよ?」

「勝手にクラスの奴らが決めたんだし、俺に罪はなくね?」

「授業中に堂々と寝ている貴方の罪は重いのよ」

 

 雪乃はそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。秋太が視線をクラスメイト達に向けると、訓練でもしていたのか、一斉に顔を背けた。

 面倒ごとを押し付けてきたクラスメイトに「絶対にこき使ってやる」と呪いのような言葉を吐いてから、秋太はクラスを後にした。

 

 ◆

 

「へぇ~秋太君、実行委員になったんだー」

「数の暴力ってやつです」

「ふふ、でも私も生徒会として参加するし、見知った顔も多いと思うよ」

「そこが唯一の救い。めぐり先輩が居なかったら、寂しくて泣いていたかもしれない」

「え~そんな秋太君、想像できないなー。なんか気持ちわるいね」

 

 純真な笑顔でナイフを心臓にたたきつける。これが城廻めぐりという存在。

 

「……えぐり先輩」

「めぐりだよっ! もう失礼しちゃうんだから」

 

 ぷんぷんと怒って見せるめぐりだが、「先輩の方が失礼」と秋太は思った。時折出てくるめぐりの何気ない言葉は心が汚れている秋太や陽乃あたりには大ダメージを与えるのだ。

 

「雪ノ下さんも一緒なんだよね? 秋太君がいて雪ノ下さんが居れば、はるさんが居た時より凄い文化祭になりそうだよ」

「それはないですね。サボる気満々ですから」

「ダメだよ~」

「大丈夫です。気づかれないように手を抜くのは得意。見せてやりますよ、俺の真の実力を」

「変な方向で頑張らないでっ!」

 

 私が監視するからと、めぐりは秋太の暴挙を許す気はなかった。

 

「文化祭までの期間は、体調が悪くなると思います。病は気からって言うじゃないですか」

「テンションじゃないのかな?」

「要は面倒だということです」

 

 しょうがないなーとめぐりは苦笑すると、それ以上は何も言わなかった。なんだかんだ言って、秋太は任された仕事をきっちりやることを知っているからだ。

 

「あ」

 

 各々が仕事をしていると、めぐりが何かを思い出したかのように声をあげた。

 

「文化祭が始まると、生徒会も忙しくなるから、ここも使えなくなっちゃうかも」

 

 めぐりではなく秋太の話だ。

 

「俺は先を見通す男です。こんなこともあろうかと、すでに第二作業場は確保済みです」

「おお~さすがだね」

 

 ぱちぱちと拍手をするめぐり。

 

「めぐり先輩とのイチャイチャもしばらくはお預けですね」

「そうだね」

「そこはツッコみを入れて欲しかった。めぐり先輩、腕が落ちましたね。高校卒業後は芸人養成所に入ることをお勧めします」

「もう~折角乗ってあげたのに、返しがそんなんじゃ、女子は満足させられないぞー」

「発狂でもすればいいですかね?」

「それは怖いよ……」

 

 それから、微妙な空気のまま二人は作業を続けた。

 

 ◆

 

 放課後になり、雪乃包囲網を抜け出した秋太は目的地に急いだ。

 

「八幡」

「うおっ!?」

 

 目的の人物が教室を出てきた瞬間を狙って、奇襲をかける。ただ声を掛けるという普通の行為だが、普段人に話しかけられることが極端に少ない八幡には十分に奇襲となった。

 

「……秋田か。てっきり俺を狙った嫌がらせかと思ったぞ」

「八幡を狙う(笑)」

「(笑)って口で言われるとかなりムカつくな」

「で、八幡。君には二つの選択肢を与えよう。YESかYESの二択だ。真剣に考えてくれ」

「テストなどで、1~4の選択肢を与えられたとき、由比ヶ浜のようなお馬鹿さんは運任せに選択肢を選んでしまうが、俺クラスになると答えないという選択肢を選ぶことができる。つまり、お前の選択肢に対して無言という新たな選択肢を作ることができるんだ」

「うんうん。それで、八幡は文化祭の実行委員になることが決まったわけだけど」

「あれれ~? 俺の話が通じてないぞー?」

 

 少年探偵に全く似てない八幡少年。

 

「で、実行委員の話はもうクラスで話し合われたの?」

「もう少し弄るとかなんとか……」

 

 薄く顔を赤らめた八幡に「ヒッキーまじキモい」と結衣の声で反応して見せる秋太。

 

「ヒッキー」

「騙されんぞ。たとえ由比ヶ浜の声であっても、言っているのは秋田だ。心頭滅却すれば由比ヶ浜も秋田」

 

 耳をふさいで、わけの分からないことを言い出した八幡に一人の美少女は呆れた視線を送る。

 うなされるような八幡を見て、面倒くさくなったのか、話し相手の秋太の方に視線を向けた。

 

「アッキー久しぶりだね」

「そうだね。相変わらず元気そうだ」

「なんかそこはかとなくバカにされているような……」

 

 うぅーとうなる結衣に、なぜ普通の対応をとってそんな反応をされるのか、秋太は首を傾げる。そして、少しばかり考えて、「なるほど、これがツンデレ」と何かをひらめいた。

 

「相変わらず、バカそうだね」

「直球で言ってきたっー!!」

 

 む~と怒り出す結衣に、あれと再度首を傾げる秋太。予想した反応が返ってこない。

 

「ガハマちゃんの乙女心が分からない」

「アッキーの所為だよっ!」

「いや八幡が悪い」

「ヒ、ヒッキーは関係ないから」

「つまり、俺も関係ない。俺と八幡は一心同体」

 

 秋太がそういったその時だった。結衣の後方で鮮血が舞った。

 

「一心同体……ぐへへ」

 

 顔をだらしなくした眼鏡女子が、鼻から熱いものを垂らしながら倒れている。そんな彼女に、呆れながらもティッシュを差し出した一人の女子生徒。

 

「あれ?」

 

 結衣の肩から覗くようにして、秋太が介抱している女生徒を見た。いきなり肩に手を置かれた結衣は、一人真っ赤になって慌てているが。

 

「あーし?」

 

 懐かしい顔が秋太の目に入ってきた。

 

 †

 

「あ? 秋田じゃん。アンタがなんでいんの?」

 

 教室の中に、一人だけやたらと目立つ女の子がいた。髪を金に染め上げ、クルクルと巻いている。鋭い眼光は、対人を委縮するには十分。

 睨みつけるような目であったが、秋太を見たその子は、少しだけ表情を和らげた。言葉はきつかったが。

 

「やっぱり、あーし? あーしか! お久~。中学以来じゃん」

 

 懐かしいと素直に再会を喜んだ。

 

「はぁ!? アンタ、あーしと学校で何回かすれ違ってんの気づいてない訳? マジでムカつくんですけど!」

「何言ってんの? あーしはバカだから。俺と同じ高校なわけないじゃん。なに、凄い偶然だね。あーしもここになんか用があったの? うちの制服を着ているけど、コスプレ? まあ、よその生徒が他校に入るにはそこの制服を着るのが一番早いけどさ」

 

 秋太が笑ってそう言い、周囲が固まった。

 

「……殺すっ!」

 

 右腕を振り上げる。握り拳を作り、ためらいなく、遠慮なく、全力で殴り掛かる。

 

「やめろし」

 

 後方に一歩下がって、攻撃を回避する。避けられたことにさらに腹を立てた女性は、追撃を掛けようと試みるが、秋太がその前に距離を詰め、凸ピンで沈めた。

 

「った~!」

「あーし、すぐに手を出すなんて、全く。本当に全く」

「アンタがあーしの事、忘れてたのが悪いんでしょうがっ!」

「忘れてないじゃん。あーしはインパクト強いから忘れないって」

「あーしが総武高に通ってんの知らないくせにそんなこと言うなっ!」

「……はぁ? あーしってバカだろ?」

「バカバカうるさいし。もうお前マジで死ね」

「……ホント?」

 

 周囲に視線を向けると、コクコクと頷いた。

 

「優美子は、総武高生だよ。俺たちと同じクラスだ」

「うわぁーごめん、あーし。あーしはバカだってイメージが刷り込まれてた」

「全然謝ってないからっ! お前、マジで最悪だし」

 

 思いのほか凸ピンが痛かったのか、素で忘れられていたのがショックだったのか、優美子は少し涙目だ。それを悟られないように睨みつけるが、あまり効果はなかった。

 

「あーし、頑張ってたもんな」

「その上から目線止めろし」

「あーし、どんまい」

「その意味の分からなさ、本当に相変わらずだしっ!」

 

 荒ぶる優美子をなだめるイケメン。周りはいきなりのテンションに困惑するばかりだ。

 

「アッキー、優美子と知り合いなの?」

「中学が同じなの。前に旅行に行ったときに言わなかったっけ? 告白されたギャル系女子。あれがあーし」

「へぇー世間は狭いね」

「あーしの武勇伝を語ってほしいなら、一晩はかかるぞ?」

「あ、ちょっと聞いてみたいかも……」

「結衣っ!」

「じょ、冗談だから! 優美子、ごめんてば~」

 

 結衣を怒鳴りながら、しっかりと秋太も睨みつける。優美子の高度な威嚇行為。

 

「えーっと秋田くんで良いのかな、初めまして、俺は葉山隼人よろしく」

 

 さわやかに手を差し出す隼人に、秋太は感心した。

 

「なんてイケメン。秋田秋太。よろしく」

「俺は戸部、ヨロシクっー!」

「私は海老名姫菜。よろしくね」

 

 隼人に続いて茶髪の戸部と眼鏡っこの姫菜が挨拶を交わす。

 

「でもでも~、優美子と秋田くんが、知り合いなのマジ意外だわ~。なんつーか、お互い接点ない感じじゃね?」

「あーしは、気遣いのできる良い奴だったんだよ。見た目はアレだけど。だからクラスが一緒だったとき、色々と話したんだ」

「アレってなんだしっ!」

「頭は悪いし品もないけど、良い奴なんだ」

「よーし、その喧嘩買った、買いました! お前、そこに立っとけし!」

 

 シュッシュっとシャドーを開始する優美子。完全に秋太が挑発しているので、今度は誰も止めようとしない。「秋田くん、ぱねぇわー」となぜか尊敬する戸部に、優美子は鋭い視線をぶつけて黙らせた。

 

「まあまあ、優美子。久しぶりの再会なんだろ? 仲良くやっていこうよ。秋田くんもそれでいいかな?」

「いや、これがあーしとの普段通りのやり取り」

「隼人、黙ってて。こいつは一回泣かすから」

 

 イケメンの制止も聞かず、二人がバトルを繰り広げようとしたその時、

 

「こら、八幡! 勝手に帰るな」

「なんだよ、お前視野広すぎるだろ。折角逃げれると思ったのに」

 

 三浦と言い争ってくれよと八幡が肩を落とす。

 

「……相変わらずだし」

「あーしも」

 

 それだけ言うと、優美子はほかの面々を連れて教室の奥に戻っていった。

 

「戸部の言葉じゃないけど、意外だな」

「あーしのこと?」

 

 八幡が何となしに尋ねると、秋太は一つ頷いた。

 

「うーん、別に仲が良いわけじゃないんだけど、こう、小粋なやり取りができる関係っていうか」

「挑発行動にしか見えなかったけどな」

「八幡とゆっきーたちのやり取りもあんなもんじゃない? お、でもそうするとあーしと俺がめっちゃ仲良しに」

「どこがどうなれば、そういう結論に至るのんだ?」

「え、八幡とゆっきーたちって仲良しでしょ?」

「……違うんじゃね? たぶん。少なくとも、お前と雪ノ下の仲には負けるよ」

「俺とゆっきーはすでにベストフレンドとも呼べる仲だから。普段はお互いのこと一切知らないけどね」

「お前、親友が多すぎだから。それにたぶん雪ノ下以上にその姉の方が―――」

「八幡、それ以上言うと大変なことになる。具体的には、八幡のねつ造記事が校内中に配布されることになる」

 

 八幡は無言で手を上げ、それ以上は触れないことを誓った。

 

 ◆

 

(なんで、あいついるし! マジでムカつくし!)

 

 優美子は苛立っていた。中学時代の級友にばったりと出会ってしまったからだ。

 

(秋田の奴、昔からあんなんだし。あーしをバカにして。悔しいから、アイツと同じ総武高受験してやったのに、アイツは別の科で受かってるし)

 

 優美子は苛立っているが、別に秋太を嫌っているわけではない。元々、協調性という点では大きくかけている優美子だったが、目立つ容姿に加え、はっきり物を言う性格も手伝って、中学ではカリスマ性を有していた。

 ただ周囲に集まってくる人間は、人の顔色を伺うような人間ばかりで、それをずっとつまらないと感じていた。そんな時に、会話したのが秋太だった。

 

 ――あーし、あーしってバカみたい。

 

 喧嘩を売られたのだと一瞬で優美子は理解した。やるならやってやると、攻撃の意思を示したが、秋太は特にそれ以上は何も言わず、眠りに入ってしまった。

 何かが違う。優美子は秋太を見てそう思った。

 

 秋田秋太という人物を注意深く観察すると、よく学校をサボる人間なのだと分かる。ただ勉強はできたため、教師からの受けは悪くなく、ただ病弱な奴というのが優美子が調べたみんなのイメージだった。

 

 それからなんとなく気になって、優美子は秋太を追いかけた。昼休みになれば、消え、放課後は一目散に帰る。何をしているのか、よく分からなかったが、それゆえに興味がわいた。

 

 ――あんた、普段なにしてんの?

 

 席替えで偶然隣になったことにより、優美子は試しに聞いてみた。

 

 ――親への反抗。

 

 まさか真面な返答がくるとは思わなかったが、返答が予想外過ぎた。

 

 ――はあ? あんた、バカなの?

 ――バカはあーし。子供は親に逆らって生きるものなんだよ。

 

 こいつ、何言ってんだ? 優美子は本気でそう思った。

 それから、なんとなく会話をするようになる。基本的にはからかわれ、バカにされる。それが腹立たしくもあったが、自分に合わせて意見を言ってこない周囲に比べれば、とても楽しかった。

 

 ――アンタ、高校はどこ行くの?

 ――総武。一応は名門だし、親の見栄には十分。

 

 何を言いたいのかはよく分からなかったが、総武を受けるということは分かった。特に行きたい高校があるわけでもないため、このムカつく隣人が高校でどうするかを確かめるのも面白いと、優美子は総武高校の受験を決めた。親には泣いて喜ばれた。

 

 ――あーし、ホントバカだね

 

 真っ赤になった問題集を秋太が見て、そんな一言を投げかける。

 

 ――うっさいし。つーか、頭良いんだから、アンタが教えろし。

 ――教えてくださいって言ったら考える。

 ――……教えてください。

 ――うん、考えた結果やだ。

 

 殺す。優美子が初めて、人に殺意を覚えた瞬間だった。

 冗談、冗談とその後は秋太はからかいながらもちゃんと勉強を教えてくれた。

 説明の仕方が上手かったのか、教えるべきところが分かっていたからなのか、優美子の成績はどんどん上がっていった。

 

 そして入試前日。

 

 ――あーしはバカだから。無理をしなくていい。できない問題はできないから、できる問題を確実に当てること。まあ、どこ受けるか知らないけど。

 

 お前と一緒だし、と優美子は言いたかったが、黙っておいた。もし落ちたら格好悪いと思ったから。

 

(まあ、あーしがこの学校に入れたのはアイツのおかげって部分もあるし、隼人や結衣たちに会えたことも、アイツのおかげってことになるのかな? なんかムカつくし。つーかあのいつでも自信ありげなところが、本当に腹が立つ!)

 

 過去を思い出し、そして少し離れたところで座っている秋太を見て、優美子は何とも言えない感情が芽生える。

 

「あーしのこと忘れてんじゃねーし」

 

 べーっと秋太に見えないように優美子は舌を出した。

 

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