人の名前を間違う雪ノ下はまちがっている   作:生物産業

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14話 人気者の定義は難題

「あ、アッキー、やっはろー!」

 

 文化祭の会議を終え、ひと仕事しようと奉仕部に訪れた秋太。出迎えたのは、結衣のいつも通りの満面の笑みだった。その彼女の隣にはすでに到着していた雪乃が読書にいそしんでいる。

 

「……ガハマちゃん、ごめん」

「え!? なに、そんな真顔で……?」

「実は、いまぱっと思ったどうでもいいことなんだけど、ガハマちゃんはここの部で仲間はずれであることが確定した」

「そんな嫌なことを面と向かって言わないでよっ! なんでなんでっ!?」

 

 半泣きになりながら、秋太に縋る結衣。仲間はずれはやめてと、秋太の体を力いっぱい揺らす。

 

「いやね、八幡は比企谷でヒッキー。俺は秋田でアッキー。そして雪ノ下でゆっきー。ガハマちゃんだけ、この法則に当てはまらないっ! くっ」

「くっ、じゃないよっ! ホントどうでも良い理由なんですけどっ!」

「ここは由比ヶ浜を改名して雪ヶ浜にでも……あ、ダメだ、結局ユッキーで被る。ガハマちゃん、じゃあね」

「ちょっとっ! やめて、やめてよっ!」

 

 捨てられた子犬みたいだなと秋太は思った。

 

「ま、冗談はさておいて、放課後になってもうるさいガハマちゃんに静かにしようって、そう言いたかったんだ」

「その一言のために、私を傷つけないでよっ!」

 

 ええーんと泣きながら雪乃の元に向かうが、読書に集中していた雪乃はそれを適当にあしらった。

 雪乃にも相手にしてもらえなかった結衣がわめいていると、ドアがゆっくりと開いた。

 

「え、なんで放課後でもこんなに騒がしいの? リア充の特殊能力?」

「特殊能力うんぬんで言えば、八幡の腐ったような目もそれに当たるね。効果は相手を憂鬱にするかな?」

「お前、なに満面の笑みで酷いこと言ってくれちゃってるの? もしかして、俺のこと苛めてるの? 言っておくけど、俺の戦闘力5だから」

「ゴミめと貶されたおっさんに謝れ」

「お前は俺に対して謝れ」

 

 遅れて部活にきた八幡が第一声にはなった言葉で大ダメージを負ってしまった。

 

「おお、よく考えればガハマちゃん以外は文実じゃん。ここでまたひとつ、仲間外れの要素ができた」

「まさかの追い打ち!? 傷口に砂糖を塗らないで!」

「惜しいっ! でもガハマちゃんにしては頑張った方」

「まあ、実際塩でも砂糖でも同じようなもんだからな。由比ヶ浜なら正解で良いんじゃないか?」

 

 二人は褒めたたえるように、拍手を結衣に送った。指摘された間違いに気づかない結衣は「えへへ、そ、そうかな」と一人浮かれている。

 

「これが可愛さか」

「そこは同意しよう」

 

 結衣の無垢な心に二人の考えは一致した。乙女がバカであるというのは、一種の可愛さなのだと新しい定理が二人の中で生まれた。野郎には適応されない。

 

「相変わらず、貴方たちはおバカさんね」

「異議あり! 少なくとも俺はこの二人側じゃない! ゆっきー側の人間」

「異議を認めましょう」

「それなら俺だって……」

「数学で赤点をとる人間はこちら側ではないわね」

 

 雪乃の言葉に八幡は押し黙り、結衣もぴくりと反応した。不毛な争いだ。

 

「テストの点数で人の価値は測れない。つまり俺は大丈夫だ」

「つまりの使い方を学びなさい。国語学年4位さん」

「うるせぇ学年1位」

「ちなみに学年2位はこのわたし様です」

 

 へっえんと胸を張る秋太。結衣は次元が違うのか「うぅ~」と今にも消えそうな声をあげて、小さくなっている。

 

「でもまあ、テストで人の価値を測れないってのには賛成かな。あ、ガハマちゃん、最低限度っていうのがあるから、そんな嬉しそうな顔はしないように」

 

 喜色満面になった結衣を一気に叩き落す秋太。決して、テストができなくて良いと言っているわけではないのだ。

 

「高校という場だと特にそう感じる。勉強ができるからと言って、その人が学校の中心ってわけじゃないし」

 

 雪乃も八幡も秋太の言葉に同意した。結衣は苦笑いを浮かべるだけだ。

 

「うちのクラスも葉山の集団がクラス上位カーストだからな。葉山は成績が良いから別としても、由比ヶ浜とか由比ヶ浜さんとかがいるからな。学力というか戦力ダウンの元凶がいてもクラスカースト上位は安泰なんだよな」

「……まさかヒッキーにここまでバカにされるなんて」

「驚くところはそこかよ。ま、俺が言いたいのは、他人というか、俺とか俺なんかの迷惑も考えずによく騒げるなってことだ」

「比企谷君、貴方も他人の迷惑を考えていないのだから、文句を言うものではないわ」

「はぁ? 俺とか超周りに気を遣って生活してるっての。気を遣いすぎて、周りに認知されないまであるからな」

 

 八幡の自虐に、秋太も雪乃も結衣も、言葉を見つけることができなかった。皆して、目元に手をやり、八幡の普段の生活を憐れんでいる。

 

「八幡……」

「比企谷君……」

「ヒッキーマジで可哀想」

「や、やめろよ。そういう普通の反応が、俺のガラスのハートを粉々にしていくんだぞ」

 

 自虐ネタで戦闘不能に陥る八幡であった。

 

「我が物顔で振る舞うのが許される理由って何かな? 学業なら、確実にゆっきーがこの高校でトップの地位を取れるはずなんだけど。そして、完全な階級社会が出来上がるわけだ」

「はは、ゆきのん学年一位だもんね」

「私は猿山の大将なんて恥知らずな真似、ごめんだわ」

 

 バカにしないでと雪乃が不機嫌さを露わにする。トップに君臨することができないとは言わないあたりが彼女らしい。

 

「でも権力的にはさ、クラスで言うなら委員長が一番じゃん。大抵は何の役にも立たないんだけど」

「クラスの委員なんて、余程の人望がない限り、押しつけられた役でしかないわ」

「じゃあ、つまりは騒いだもの勝ちってわけか。今度八幡と一緒にクラスのトップの座を奪いに行ってみようかな。どんちゃん騒ぎしてみよう」

「止めなさい。勝負にもならないわ」

「アッキー、それは悲しい未来しか待ってないよ」

 

 八幡への嬉しくない信頼度の表れた二人の言葉だった。

 

「ふむ、夏休みの課題に生態調査があったけど、クラス内でのグループという生態を研究すれば良かった。面白い調査結果が得られたはずだ。くっ、姉乃さんに付き合わずに、調査を進めていれば、文化祭で研究発表できたものを」

「なんか変なスイッチ入ってるんですけど!」

「姉さんが悪いことには同意するわ」

「いや、それはお前らがおかしいだろ。さすがにあの人が可哀想だ」

 

 謂われのない罪をきせられた陽乃に八幡が同情をした。

 

「いや、まだ間に合うかもしれない。これを論文にして発表したら学校教育の在り方が少しは変わるかもしれない」

「……確かに」

「ゆきのんまで同意しちゃったっ!」

 

 二人でニヤリと笑う姿が実に怖かったと、結衣は後に語った。

 

「テーマは高校生の上下関係。何をもって偉いとするのか」

「なんか割と本気だし」

「まずは学力よね、いえ、でも中学、高校でも学力が一番の人間がトップ階級にはいなかったわね。情報源(ソース)は私」

「さりげに自慢入ったっ」

 

 ツッコミ役に回る結衣が大忙しだ。

 

「よし今日の部活の活動テーマが決まりました」

「部長は私なのだけど、今日の活動方針に関して異論はないわ」

 

 奉仕部ってなんだっけと結衣が本気で首を傾げる。きっと文化研究部を兼ねているのだと現実逃避を始めた。

 

「では、比企谷くん意見を」

 

 結衣に「無理無理、あの二人を私だけで止めるのは無理だからっ!」と本気の懇願をされて八幡に話が回された。

 

「えっと……」

「とりあえずクラス内での序列関係についての貴方の意見を言って欲しいの。色々思うところはあるでしょう?」

「その意味深な発言止めてくんない……序列ね、まあ、あれだリア充は爆発しろってことだな」

「結論からいったー!」

「比企谷君、貴方の妬みは置いておくとして、もう少し具体的に話してくれないかしら?」

「要するにだ、高校生っていうのはステータスに拘る生き物なんだよ。別に高校生じゃなくても社会全般そうだと言える」

 

 分からなくもないと他の面々が頷く。

 

「でだ、社会人なら働いている場所、その場での役職が物を言う。ただこれが学生という立場になると酷くあいまいになる」

「明確な上位者の基準が存在しないと言いたいわけね」

「まあ、そうだろ。基準があるなら、由比ヶ浜は別として、雪ノ下や秋田が完全にトップ階級だ。学業というものを重視する学校内でトップ層なんだからな」

「遠回しにバカって言われたっ!」

 

 その学校の気風にもよるだろうが、学業トップの人間が学内トップというわけではない。

 

「高校生には学業面の他にいかにイケメン、美少女であるかが求められる」

「うわ、ヒッキーキモ」

 

 結衣の心無い言葉が八幡にクリティカルヒットするが、日々奉仕部で罵倒訓練を受けている八幡はダメージを最小限に抑えることができた。そしてこう続ける。

 

「カッコいい男子と付き合っていればそれだけで、女子の評価が上がる。学内最高の男子と付き合えば、たとえその相手が最高の女子でなくてもなんとなく最上位の地位に就くわけだ」

「それは人によるでしょ。仮に八幡とゆっきーが付き合ったとしても、八幡を最上位に置く奴はいないと思うぞ」

「秋田くん、仮定の話でも言っていいことと悪いことの区別もできないのかしら? 訴えるわよ」

「俺が悪くないのに、なんでこんなにも心が痛くならなきゃいけないの」

 

 この部室にいるとよくダメージを負う八幡である。

 

「ま、まあ、あれだ。プラス補正がかかることは否定しないだろ?」

「んー八幡とガハマちゃんのペアで考えても、八幡の地位は変わらないんだけど」

「ちょっ、ちょっとアッキー何言ってんのっ! わ、私と、ヒッキーなんて、あ、りえないからっ!」

「全力で否定された俺、可哀想なんだけど」

「あ、ちが」

 

 何かを言いかけた結衣は慌てて口を手でふさぎ、ぶんぶん首を振って、何かを否定した。

 

「比企谷君のことは例外としても、なるほどね」

「つまりゆっきーが男子にモテるのも、あのイケメン葉山君が女子にモテるのも、自分達の補正ステータスのためということか。なるほど」

「その言い方だと、私の容姿に文句があるように聞こえるのだけど」

「褒めてますよ、絶賛してます。美人さんは得だね。あ、ついでにガハマちゃんも」

「なんか全然うれしくない褒められ方っ!」

「……他意がないならいいのよ」

 

 昔の雪乃なら照れて顔を赤くしているところだが、そんな素振りを見せなくなり、少しだけ残念だと思った。嬉しいと思っているのは分かるのだが。

 

「総括すると、高校生は学力よりも人気。バカでも美男美少女であれば、地位は上ということか」

「悲しい世界だ。ボッチが住める世界じゃない」

「人気が基準になるとそうだね。でも、人気者の明確な定義ってなんだろ?」

「んーカッコいいとか可愛いっ!」

 

 結衣がはいと手を挙げて、宣言する。同じことを繰り返す、バカの定義である。

 

「八幡とゆっきーが人気者じゃないからアウト」

「同列扱いはさすがに嫌なのだけど」

「雪ノ下さん、人気者には思いやりが大切なんですよ。だから俺をもっと思いやって」

 

 八幡の発言を雪乃は聞き流した。

 

「あ、でもヒッキーの言うことが当たりかも。やっぱ、優しい人ってみんなから好かれるし」

「由比ヶ浜さん、優しさは時に残酷よ。優しくしている自分に酔ってる輩が一番たちが悪いわ。状況を悪化させていくから」

「なんかすごく重みのある言葉」

「ゆっきーの経験談か。ちなみに八幡は?」

「ばか、俺なんて超優しくされたし。何かというと話しかけてくれる女子が居たんだが、ちょっと勘違いして告白してみたら、次の日には公開処刑されたわ。黒板に書かれたあの絵は上手かったなー」

 

 八幡が遠い目をし、他の面々が顔を抑えた。あまりに見ているのが辛くなったようだ。

 

「……比企谷君の話から、優しさは人気者の定義に反することが分かったわ」

「ていうか、ヒッキーに語らせたらどんな人気者でも、悪人にしかならなそう」

 

 結局、人気者の定義は決まらなかった。

 

「学校で人気者にしてくださいって依頼が来たら、俺らにはできないよね」

「4人中3人が個人プレーを得意としてるからな」

「あら、一人は完全に孤立してるの間違いじゃないかしら?」

「ゆきのん、これ以上ヒッキーを苛めるのは可哀想だよ」

「由比ヶ浜、どちらかと言えば、雪ノ下の罵倒より、お前の気遣いの方が辛い。なんか死にたくなる」

「私の方が嫌なのっ!?」

 

 人は慣れる生き物である。昔から陰口や悪口を言われ続けた八幡にはその手のことには耐性がついている。

 優しくされることに慣れていない八幡からすれば、こちらの方がダメージがでかい。

 

「高校生って大変だよね」

「そうね」

「だな」

「なんで皆納得しちゃうしっ!?」

 

 結衣は思った、こいつらはもうダメかもしれないと。

 

「でも、なんで人は人気者になりたがるんだろうな」

「比企谷君、貴方が言うとただの僻みになるからやめなさい」

「なんだよ、ちょっと思ったことを口に出しただけだろ」

「八幡はちょっと口走ったことでも、人に不快感を与えるんだね。凄い」

「お前らタッグを組むなよ。俺が激しく傷つくから」

「俺とゆっきーはベストカップルだからね」

「……違うわ」

 

 雪乃の鋭い目つきが少しばかり鈍ったが、それでも否定の言葉は強かった。

 

「でも、ヒッキーの言うように、なんで人気者になりたがるんだろう?」

「厭味か。お前もどっちかと言えば、人気者だから。バカだけど」

「最後の余計だしっ! それに厭味でもないからっ」

 

 結衣が慌てて否定する。

 

「人は往々にして人を傷つける。さすがはガハマちゃん、最低だ。八幡狙いなんて普通の人にできることじゃない」

「由比ヶ浜さん、もっと思いやってあげなさい。比企谷君が可哀想よ」

「いやいや、二人にだけは言われたくないしっ!」

 

 全くもってその通りだ。秋太と雪乃の二人が慈しみの笑みを浮かべているが、傍から見れば邪悪そのもの。被害者である八幡は慣れたのか、特に気にはしていない。

 

「人気者ねー……成りたい人」

 

 秋太が尋ねる。見かけに反して、根は内気な結衣はもちろん、我が道を行くを信条としている雪乃と八幡も反応を示さない。この場で人気者になろうとしている奴などいなかった。

 

「誰もなりたくないと? 人気者になればちやほやされるのに」

「そう考えると私は小学生の頃、とても人気者だったわね。きっとファンが多かったのよ。上履きとかリコーダーとかよく無くなっていたもの。人気者の特権ってやつね」

「バカ、俺なんてもっと凄いぞ。放課後になって帰ろうとすると、必ず「比企谷菌、帰るのかよ! 早く帰れ!」とか「ヒキガエルが帰るぞ。さっさといなくなれっ!」とか、よくクラスメイト達からの熱いエールを送られたものだ。帰り際に大歓声とか、超人気者じゃん」

 

 二人にとっての人気はあまりプラスの方向に働かないらしい。

 

「アッキー、なんか過去のつらい話大会になってるんだけど」

「しょうがない、ここは俺も参戦して」

「待って! アッキーまで行っちゃったら、私だけ仲間外れだよっ」

「はい、出ました、苛められたことない発言。俺、これからガハマちゃんを苛めるように心がけるよ」

「や、やめてよっ!」

「もう、ガハマちゃんは我がままなんだから。こうなったらガハマちゃんを学校一の人気者にして――」

「それはいい意味で? それとも悪い意味で?」

 

 八幡の疑問に、秋太がニヤリと笑う。

 

「もちろん、いい意味で。学校生活が一変するよ。皆が求める由比ヶ浜結衣をずっと演じてなくちゃいけないから。姉乃さんみたいに頭のネジが外れているような人じゃないと、なかなか務まらない役職だよ」

「役職とか言っちゃったよ」

「うぅ~そんな人気者になりたくない」

 

 嫌な未来を想像したのか、結衣は顔をしかめる。

 

「人気者なんて職業だよ。タレントとかアイドルと同じ。ファンというか信者ができた瞬間に自由なんて言葉はなくなるの」

「貴方の価値観で行くと、アイドルを夢見る子供がいなくなるんじゃないかしら?」

「先に現実を知るって言うのは良いことだと思うけど? それを知ったうえで苦難の道を選ぶ人だけ、人気者になる権利が得られる。最近は安売りしすぎて、スキャンダルのバーゲンセールだよ。全く、アイドルとかタレントって言うのは、精神的苦痛を伴う厳しい仕事だという自覚が、契約をする側にもされる側にも足りない」

「お前はどんな評論家だよ。アイドルは一種の幻想を楽しむものだろう? ああなりたいとか、そういう人の願望を実現させたものだから」

「だからこそだよ。自分の理想が壊されるのは嫌でしょ? だから人は願うの。自分の理想でいて欲しいって。変わらないでいて欲しいって。そしてそれが鎖となって相手を縛る。ま、お金が発生しているんだから、プロとしての行動を求められるのは当然だけどね」

 

 話を聞いていた結衣は「げ、芸能界ってなんて過酷な世界……」となぜか畏敬の念を抱いている。彼女の芸能人を見る目が完全に変わった瞬間だった。

 

「でも、そう考えると文化祭という企画は上手くできている。ここで目立てば、一気に人気者の仲間入りだ」

「逆よ。人気者がより人気を得る企画なの。普通の生徒には関係がない話だわ。クラスの催し然り、部活の催し然りね。元々人気のある者だけが、舞台に上がることを許されているの」

「なんか、雪ノ下の考え方を聞くと、文化祭が悪しき習慣にしか聞こえてこないんだけど。え、もっと、クラスメイト達とわいわい楽しむものじゃなかったっけ?」

「では、質問するけど、貴方は今までにわいわい楽しくやってきたのかしら?」

 

 八幡は無言を選んだ。だが、それだけで周りは理解できてしまう。ああ、できなかったんだと。時に沈黙とは圧倒的信頼を得るのだ。

 

「むむ、そうなると文実の委員長に立候補したあのさ、さ……委員長は選ばれし勇者ということか」

「相模だよ、相模。選ばれし勇者の名前を忘れんなよ。しかも選ばれたんじゃなくって自薦だから。自称勇者だから」

「自称ってつけるとすべての言葉に価値がなくなるわね」

「自称人気者」

 

 秋太が言うと、結衣から乾いた笑いが返ってきた。

 

「自称八幡のベストフレンド」

「元々価値のないものは、なくなることができない。まさかの論破だわ。これは完全に私が間違っていたと認めざるを得ない。ごめんなさいね」

「いいさ、気にしなくていいよ」

「謝るのは俺にだから。お前ら、人をオチに使わないといけない病気にでもかかってんのか?」

「八幡が俺のベストフレンドであることを認めてくれれば、自称は取れるんだけど」

「お前と親友なんてごめんだ。いつの間にか俺の部屋に超高級な壺が置かれそうだわ」

「人を詐欺師扱いとかかなり失礼」

「日頃の行いのせいね」

「あはは……これはアッキーのせいかな」

 

 女子二人の意見により、秋太に詐欺師の称号が与えられることになった。

 そして、なんの意味のない部活動が終わろうとしたとき、コンコンとドアがノックされ、一人の少女が教室に入ってきた。

 

「あ、失礼しま……す?」

 

 中にいた面々を見て、少女は少しだけ困惑した。

 自称勇者、相模南の登場である。


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