ダンジョンに衛宮親子の力をもらったものがいるのは間違っているのだろうか 作:all
あの宴の日の三日後の早朝、ロキ・ファミリアのホームにある人気のあまりない広場で、黒のスーツに黒のネクタイ、灰色のYシャツというダンジョンの時も地上にいるときと同じ服装のシキとアイズはお互いに剣を持って向かい合っている。
「…シキ、いくよ」
「いつでもいいぞ」
シキがそういうとアイズは自身の最高のスピードを持って間合いを詰めると、シキが投影したデスペレートを振るう。
シキはそれを冷静にただの剣で対処していく。
「フッ!」
アイズの力を込めた攻撃を剣で受け止める。が、その衝撃でシキの持つ剣は壊れてしまった。
(…やるな、アイズ)
成長した弟子の姿に少し感嘆したが、それも一瞬。すぐに剣を投影して、次の攻撃に備える。
「ッ!」
アイズはシキの立て直しの速さに驚いたのか、少し隙を見せる。その隙はわずかなものだったが、シキがアイズを斬るには十分すぎる。シキはアイズのデスペレートを剣で弾きあげ、がら空きになった首に剣を振るい、ギリギリのところで止めた。アイズがデスペレートを手放し、降参と言うように両手をあげる。シキは首筋から剣を離して、勝ち誇った笑みでアイズに話し掛ける。
「今日も俺の勝ち。惜しかったな」
「…また負けちゃった」
「まあ、今回は一瞬ヤバかったな。剣を砕かれたとき。アイズはあの時の一瞬俺が無防備になったとき攻撃を仕掛けるべきだったな」
「でも、壊してもまたすぐに剣を作るから」
「あー…大丈夫。こんなのできるやつ基本いない。まあ、だからといって、武器一つを破壊してもまだ他の武器を隠し持ってる場合もあるから、油断はするなよ。
っと、そろそろ戻るか」
「うん」
シキが歩き出すと、アイズがそのほんの少し後ろを付いていく。シキの後ろを付いていく様は、まるで兄妹のように見える。
これはまだ小さい頃のアイズがロキ・ファミリアに入った時に教育係を担当したのが年が少し上だったシキだったためだ。先程の稽古もそのときからやっていたことだ。そのため、アイズの剣の師匠はシキと言ってもいい。
「…元気になったみたいでよかった」
「…何が?」
「聞こえてたのか」
聞こえないように言ったつもりの呟きは距離が近いアイズの耳はしっかり捉えていた。シキは聞かれたことに対して恥ずかしさを覚える。
「いや、なんだ、最近元気なかっただろ?多分あの少年のことだろうが」
「うん。でも、もう大丈夫」
「そうか」
それ以上会話は続かず、シキとアイズはホームの中を歩いていく。アイズはともかく、シキも積極的に自分から話題を振る性格ではないため、お互いにこの沈黙も気まずいものではなく、心地いいものと感じているだろう。
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俺は今、アイズ、ティオナ、レフィーヤと相席して夕食を食べている。女性側は怪物祭の話で盛り上がっている。
「怪物祭、か…」
「なになにー?シキは怪物祭嫌いなの?」
「え、そうなんですか?シキさん」
ティオナとレフィーヤが意外そうに言ってくる。
「別に嫌いという訳じゃない。ただ、好きというわけでもないけど」
「なんでー?」
「いや、モンスターをわざわざ地上に連れてきて調教するなんて、おかしな話だろ」
「だけど、屋台がいっぱいある」
「アイズの場合はジャガ丸くん狙いだろ?」
「うん」
即答かよ…。けど、アイズのジャガ丸くん大好きは今に始まったことじゃあないしな。
「屋台か…それならいいかもな」
「本当?なら…」
アイズがそこまで言って、言葉を止める。なら、なんだ?思い付かんな。
「どうした?」
「ほら、アイズ言っちゃいなよ」
「ア、アイズさん!頑張ってください!」
「うん。シキ…」
「なんだ?」
「怪物祭、いっしょに行こ?」
顔をほんのり赤く染めながらそう口にする。ヤベエ、俺の妹分マジ天使。めちゃくちゃ可愛いじゃん。これは断れないな。うん。
「ああ、もちろんいいぞ」
この後、パアッと顔を明るくするアイズの可愛さに悶えながら飯を食った。