がしがし展開はやくします。(はやくしたい)
降り注ぐ日差し、命の抱擁。
ポッポたちの戯れ、鼻孔をくすぐるモーニングの香り。
慈愛をもって頬を撫でる風が、希望の朝の到来を告げる。
嗚呼、神様仏様ネイティオ様、日々の恵みと平穏に感謝致します。檻に囚われしニドラン、翼をもがれるも生の喜びを今ここに綴ります。まる、と。
・・・ざっけんなよコラ! どういう状況だこいつあ?!
寝て起きたら拉致られプリンセス。まるで意味がわからんぞ!
待て待て落ち着け。昨晩の事を思い出せ。
といっても大したことはやってない。夜のシオンタウンの不気味さにちょいビビりつつも寝床を探し、良さげな公園をみつけたから砂場で就寝しただけだ。
で、起きたらごらんの有様。これはあれだな、やっぱ拉致られたか。
水泳の疲れやらでめっちゃ眠かったから、穴掘って寝床を確保したりとかしなかったんだよね。それがあかんかったかー。はああ、ほんと警戒心無いな俺。まさか、こんな間抜けな醜態を晒しちゃうなんてよ。
うむ、考えるのは後だ。とにかく脱出しなければ。
俺を閉じ込めている檻だが、そんなに頑丈そうには見えない。犬や猫なんかを病院に連れて行く時に使うような、例のアレっぽいのを想像してもらえば分りやすいか。
とりあえず、試しに入り口を押してみる。まあ開かないよな。開いた。
え。おいおい開くのかよ! がばがばじゃねーか!
そっと顔を出して周囲を窺う。
ふうん、こいつはもしや人間の家か? 家屋に調度品。観葉植物なんかもある。
鼻をひくつかせる。どこからか美味そうな匂いが漂ってくるが・・・。さっきから気になってたが、やっぱ何かしらの料理の匂いだよこれ。俺の中の人間が、そう断定して譲らない。
部屋の中からは、物々しい雰囲気も感じない。なんだ、どういうこった?
身構える必要はないのか? 最初はロケット団とか頭のイカレた集団とかに捕まった事態を懸念していたが、そういうわけでもなさそうだ。
冷静になって考える。無理矢理ゲットされたってんなら、俺は今頃モンスターボールの中にいるはずだ。今いる空間がボール内部って線もあるが、それは無いと思われる。そんなのいくらポケモン世界でもびっくり技術すぎるだろ。いやゴージャスボールとかならあり得るかもしれんけど。
ボールを使われてないかもって事はもしかして保護? 俺、レスキューされたの??
現状、そう考えるのが自然か。甘い希望は持つべきではないが、ギチギチに拘束とかされてるわけではないので、そう捉えていいのかもしれん。なんだよ、焦って損しちゃったじゃん。
いや! いやいや! 油断するなニドラン。相手の顔も勢力も何も分っちゃいないんだぞっ。簡単に心を許しちゃだめだ。
そう、鼻息荒くしていたのだがなぁ。扉を開けて部屋に入ってきた面子と、そいつらの会話を聞いて一気に脱力してしまった。
モンスターボールの模様を付けた緑の頭巾を被った、やぼったい少女。その少女が抱えているエサ入れに興味津々そうなポケモンたち。そして、その後に続いて姿を現した老人。
彼らは、こちらの姿を見てわっと声を上げた。コラッタやらポッポやらがキャーキャー言いながら俺を取り囲み、持てはやす。テンションについていけないが、歓迎はされてるようだ。
「目が覚めたのか。驚かせてしまったね」
言いながら、しゃがんで俺に微笑みかける爺さん。やつれた顔は優しく、そして少し疲れているように見受けられる。
その老人の名前は、フジというらしい。
マジかよ。驚きだね。
俺はポケモンハウスに保護されたみたいだ。
言わずと知れたボランティアハウス。『謎の』老人フジが、人間に捨てられたりしたポケモンを引き取り世話をしている場所だ。
ポケモンハウスで活動しているのは、爺さんだけではない。緑頭巾の女の子はポケモンブリーダーで、ハウスの活動の手伝いをしているとか。さらにもう一人、ポケモンレンジャーの青年がいるらしいが、今は出払っているとのこと。んでもって、俺を勝手に保護したのもそのレンジャー君。
余計な事をしやがって。だが、まあしゃあないよなぁ。
だって俺、全身傷だらけだし。相棒のトレーナーもいないし。目つき悪いらしいですしぃ? 悪くねえよ、陰があるって言え。
とにかく、そんなポケモンが夜の公園で一匹寂しく寝ていたら、誰だって厄介事を悟る。虐待されたのかと思っても無理はないってこった。ニビのジュンサーさんにも、そんな感じで連れてかれそうになったしな。
で、そのまま俺を発見したレンジャー君に保護されたと。あらら、人騒がせなニドランである。やはり穴を掘って寝るべきだった。
「ほら、ごちそうだよ~」
申し訳ないやら情けないやらで固まってたら、ブリーダーちゃんの声。目の前にポケモンフーズが盛られた皿を差し出された。色とりどりの固形物がデンと威圧感を放つ。
げえ、凄い量だな。現実にこんな山盛りのモリモリにされた飯を拝む日が来ようとは。く、くれるのは嬉しいが、どうやって食ったらいいんだよ。ジェンガみたいに崩れてきそうである。
周りを見ると、他のポケモン達は既にガツガツと飯を頬張っていた。食ってないのは俺だけである。
誰も俺の分を奪おうともしないし、見向きもしない。間違いなく、この山全てが俺の取り分だ。待て、明らかに量が他のと違うんだが。ちょいとこれは食いきれん。他の連中は食べやすいサイズに盛られているのに、なんで俺だけこんな超物量なの? まさかの新人いびりなのか?
あの、ご厚意は嬉しいけどこんなにいらないんですが。
老人と一緒に自分達の朝飯を皿に盛り付けているブリーダーに抗議の目を向ける。彼女はキマワリも裸足で逃げ出すような眩しいニッコリ笑顔を見せつけ、
「遠慮しなくていいんだよ。誰もとらないからっ」
はあああ!?
うっっっぜ! 違うわ、そんなやりつくされた勘違いコントなんざ求めてないんだよ多すぎるってんだよこんなん食ったら破裂するわってーの!
鳴き声を上げて訴えるが、取り合ってもらえない。というか理解されない。「警戒されてるみたい。よっぽど酷い扱いをうけてたのね」とさらに勘違いを拗れさせる始末。オギャアアアアアア!! 違うっつってんだろふざけんな!
フジ老人も「ここには君の敵はいないよ。恐がることはないんだ」などとのたまってやがる。ああくそが、分ってたよあんたが助け舟を出してくれるなんてそんな展開これっぽっちも期待してなかったよ。
・・・まあいい。せっかくの施しだ。無下にはできない。
今更、犬みたいに飯を食う事に忌避感が~とか、人の親切心を~だとかでうだうだ言うつもりはない。
食えるものは食える時に食う。食わねば飢える。自然の掟だ。
久しぶりの団欒、大人数でいただく食事だ。考えてみりゃ、感動的じゃないか。今までさんざん行き当たりばったりなサバイバル生活を続けていたのだから、こういう事があってもいいだろ。俺は束の間の安寧を手に入れたのだ。たぶん。
感謝、感謝だ。ポケモンハウスに、フジ老人に、ブリーダーとレンジャーに、全ての生きとし生けるモノに感謝を。いただきます。
うん、ペロリといっちゃった。腹八分目ってとこかな。自分でも驚きである。間違いなく自分の体積以上の量をたいらげたはずなんだが、苦しくもなんともない。クラピカもびっくりだ。
飯が終わってちょい時間が経ったころ、ジョーイさんがハウスにやってきた。おほー、生ジョーイさん。
で、身体をあちこち触られて診察されるポケモン達。もちろん俺もだ。
診察の結果、衝撃の事実発覚。なんと栄養不足だと言われた。誰が? 俺が。
それが分ってたから、あの特盛フードだったのかね。どのくらい食べるか解んなかったから大目に盛ったってとこか。
ごめんねブリーダーちゃん、ボロクソに言っちゃって。
これからちょっと賑やかになります。