ポケットモンスター紫   作:鯖風味鯵

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久しぶりに投稿します。本当にお待たせしました。今回は二つに分けようと思っていた話なのですが、一つに無理矢理まとめました。はやく(???)今回のシーンを終わらせたかったのです。


技24

 

 

 

 

 戦闘は前置きなしに始まった。仮にだが、扉を守っている破壊ぶっぱ野郎をポリゴンAとしよう。後ろの、俺の尻を狙っているストーカー野郎はポリゴンBだ。

 

 

 二匹のポリゴンが絶え間なく攻撃してくる。

 

 

 前から「サイケこうせん」、後ろから「でんじは」。

 

  

 技のチョイスは素晴らしいが、ちょいと弾速が遅い。

 

 

 弱点技と状態異常を同時に使ってくるのは中々にいやらしいな。当たるわけにはいかんので、やや大げさな動きで全て回避する。扉を守ってる奴は固定砲台と化し、後ろの奴が動き回って常に挟み撃ちしてくる作戦か。鬱陶しいぜ。

 

 

 とはいえ挟み撃ちされてる間は「はかいこうせん」を撃たれる心配も薄いといえる。余波が凄いからな、あのビーム。反動もでかいし、もし撃ち漏らしたら実質タイマンになるからおいそれとは使えないだろう。

 

 

 体力には自信があるから、このまま避けまくって耐久戦をしてもいい。「どくびし」を撒いて逃げに逃げまくり、毒ダメージと技の撃ち疲れでへばったポリゴン共をちょいと突いてやれば、双方不要なダメージを受けずに戦闘を終わらせることができる。

 

 

 が、それはダメだ。こちらには時間がない。

 

 

 こうしてこいつらと戯れている間にも、赤帽子の少年(やっぱレッドって名前だった)がドサイドンとかいう暴力の権化にボッコボコにされてるのかもしれんのだ。短期決戦でこの場は切り抜けなきゃいかん。

 

 

 幸い、俺の見立てでは、このポリゴン達はドサイドンに比べて遥かに強さが劣ってそうなので、一気に攻め込んでやれば勝負はすぐにつくと思われる。

 

 

 サシの勝負ではまず間違いなく負けない。こいつらもそれが解っているのなら、二対一の構図は崩そうとしないだろうがな。どうやろね。

 

 

 一応、無駄だと分かっているがポリゴン共に何度か声をかけた。「今のうちに退いた方がいいぞ」的な台詞だが、やっぱりというか無視された。

 

 

 その代わりに「サイケこうせん」が十字砲火で飛んできた。しゃがんでやり過ごし、二匹を睨みつける。

 

 

 ソレが返答ってわけかい。なら、しょうがない。一応、忠告はしたからな。

 

 

 気持ちを完全に切り替える。こいつらは、敵だ。

 

 

 ロケット団の犬だ。そんな連中に容赦はしない。

 

 

 強くなるためにバトルするのではなく、ただぶっ倒すためにバトルする。

 

 

 この世界に来て初めて、俺はポケモン相手に敵意を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉を守るポリゴンAの首から上だけが、ぐりぐりと駆動して常にこちらを捉えている。感情とかまったくなさそうな面してやがんな。そんな目でみないでくれよ。気味悪いぜ。

 

 

 ポリゴンAの「サイケこうせん」。床を焦がしながら迫るソレを、大きく回り込むように走って避ける。

 

 

 そんな俺を、高速起動で追いすがってきたポリゴンBが至近距離から「でんじは」で挟撃しにきた。

 

 

 麻痺状態にはなるわけにはいかない。逆方向に跳ねて距離をとる。目標を逃し、つんのめるポリゴンB。

 

 

 その脇腹に「どくづき」を突き立てる。が、防御技で防がれた。これは「まもる」だな?

 

 

 半透明の防御膜に阻まれた俺に対して、隙ありとばかりにポリゴンAの「はかいこうせん」が発射された。

 

 

 バックジャンプで避ける。逃げ遅れたポリゴンBが光の柱に飲み込まれたが、「まもる」のおかげでノーダメージだ。なら、そこを攻めさせてもらう。

 

 

 「はかいこうせん」から生還した奴に「どくづき」をぶちかます。

 

 

 「まもる」は強力な防御技だが、連発することは難しい。ツールアシストのゲーム動画ぐらいでしか、そんな光景はお目にかかれない。

 

 

 防御膜が無くなり、「どくづき」が胴体に直撃した。予想外のダメージに慌てたのか、ポリゴンBが悲鳴のような電子音を上げた。ありゃ、なんだ。やっぱポリゴンにも感情ってあるのかね?

 

 

 焦った相手が後退しながら「でんじは」を使ってきたが、甘い。攻撃中は「まもる」を使えないのだ。飛び跳ねて避けつつ「ねんりき」を発動させる。逃がす気はない。

 

 

 宙に浮かされ、足と思われる部位をもぞもぞと動かして抵抗するポリゴンを、床に思いっきり叩きつけた。バチッと電気が弾けた音がし、体を硬直させた相手に対して、追い打ちの「にどげり」を放った。勢いよく床を転がり、力なく倒れ込むポリゴンB。

 

 

 瀕死になったかと様子を窺う。弱々しく目を点滅させているが、それ以上動く気配はない。

 

 

 おし、一匹倒した。まあまた動き出すかもしれないので、警戒はしておくけどな。で、残り一匹。

 

 

 ポリゴンAを見れば、奴は妙に静かになっていた。何も仕掛けてこない。つーかこいつも目をチカチカさせてやがるな。

 

 

 仲間がやられて放心したのだろうか? それとも交信かなにかをしている?

 

 

 とにかくこっちから攻撃するかって、おっと。

 

 

 視界が光に染まった。いやこれって……。

 

 

 ここでまた「はかいこうせん」かよ?! うおおああ危ない!

 

 

 極太のビームを横っ飛びでやり過ごす。やべぇよあいつ。そんな大技をポンポン撃つかよふつう。

 

 

 ともあれこれで奴はクールタイムに入るはずだから、そこをオギャアあああああ!!!

 

 

 痛い! いったい! な、ホワイ、へぇあ!? 

 

 

 何が起こった?! 「はかいこうせん」を喰らっちまったぞ!

 

 

 

 

 落ち着け、冷静になれ。大ダメージは受けたが、まだ倒れる程じゃない。

 

 

 

 

 

 そうだ落ち着け落ち着け冷静冷静脳みそ絶対零度クールクールクゥゥゥゥル。深呼吸だ。体から焦げ臭い煙があがっている。おえぇっ。

 

 

 さっきのアレはなんだ? 「はかいこうせん」だ。では何で避けたのに当たった?

 

 

 薙ぎ払われた? 正面はよく見ていたからそれは違う。俺は真横から衝撃を受けた。

 

 

 床に視線を落とす。「はかいこうせん」の馬鹿げた威力のせいで、その射線上が抉れている。その破壊跡を辿ると、俺が避けた所から直角に曲がっていた。つまり、光線が曲がって横っ面にぶち当たってきたってことになる。

 

 

 なんでやねん。こんなん絶対当たるやん。そう、絶対必中の攻撃だ。

 

 

 

 

 ……「ロックオン」だな?

 

 

 

 

 問いかけてみるが、当然これも無視。無機質に見える眼だが、なんだか若干の怒気を含んでいるように感じられた。仲間をやられて怒ったのかね?

 

  

 やるじゃない。しかし、さっきのちょっとした間だけで「ロックオン」できるか?

 

 

 さてはこいつ、ポリゴンBがボコられてる時には既に狙いを付けていやがったな。非情な作戦か、或いは熱い連携なのか。

 

 

 ともあれ、もう撃たせはしない。「10まんボルト」を放つ。

 

 

 「ロックオン」という技は、発動完了までに時間を必要とする。猶予はもう与えない。

 

 

 このまま畳みかけて、ケリをつける。

 

 

 こちらの「10まんボルト」に対しポリゴンAは「サイケこうせん」で応戦してきた。が、威力の差がデカい。光線を貫き、電撃が刺さる。

 

 

 ポリゴンの体が傾く。近接攻撃で終わらせようとしたら、なんと向こうからダッシュして接近戦を挑んできた。

 

 

 てっきり扉を守るだけの不動明王と思っていたから驚いた。が、使ってきた技は渾身の「たいあたり」。ダメージにすらならない。というか技の「たいあたり」ですらないぞこれ。ただ死に物狂いでぶつかってきただけだ。

 

 

 「どくづき」で迎撃し、仰け反ったところに「にどげり」。定位置の扉前まで吹っ飛んで戻るポリゴンA。

 

 

 かなりの痛手を負わせたが、奴は怯まない。俺に目を合わせてチカチカさせてきたので、すぐさま「10まんボルト」で黙らせる。恐らくだが、あれが「ロックオン」の予備動作なんだろうな。

 

 

 そろそろトドメか?

 

 

 奴はまだ倒れてない。扉に尻を預けるようにして寄り添い、こちらに向き直っている。

 

 

 何をそんな必死になっているんだか。あんな男の命令にそこまでの価値があるか?

 

 

 そう考えて、口に出しそうになったが、やめた。

 

 

 俺だって知っているからだ。ポケモンって、そういう生き物なんだよな。

 

 

 そう思った直後に、四度目の「はかいこうせん」が発射された。

 

 

 「ロックオン」はされていない。回避だ。

 

 

 「はかいこうせん」は俺の横を通り過ぎたりはせず、直角に曲がって当たりにきた。

 

 

 

 ぐえええええ!!?? な、なんでやねん……っ。

 

 

 

 衝撃で壁に叩きつけられた。さすがにダメージが大きい。吐きそう。吐いた。

 

 

 何が起こった? 「ロックオン」はされてなかったはずだ! ぜーぜー言いながら立ち上がり、視線を上げる。

 

 

 ふと、ボロクズのように倒れているポリゴンBが視界に入った。相変わらず動き出す気配はないが、首から上だけはこちらを向いており、目はチカチカと点滅し続けている。

 

 

 ああ、はい。なるほどね。

 

 

 閃いた。そういうことか。

 

 

 違うかもしれんが、そうとしか思えない。あれ? 「ロックオン」ってそんな使い方出来たっけ?

 

 

 ……恐らくだが、ポリゴンBが「ロックオン」して、その情報を奴ら独自のやり方で共有し、ポリゴンAがノータイムで使用したのだ。

 

 

 よくやるぜ。流石はバーチャルポケモンだ。いやシージーポケモンだったか? とにかく、かがくのちからってすげー……。

 

 

 まだサカキ戦が控えてるってのに、ちょっと傷を負いすぎたな。ああもう、体が痛い。ふらつきながらも立ち上がる。

 

 

 眼前に光の塊が迫ってきていた。おい、ここで反動無視して連発かよ。

 

 

 ヤバい、これを喰らうわけにはいかん。

 

 

 だが避けれない。相殺もできないし、俺には「まもる」とかいう便利な技すらも使えないときた。八方塞がりだ。

 

 

 くそったれ、こうなったら仕方ない。

 

 

 受けて、耐えるしかないな。

 

 

 正確には、耐えられる体に成るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「はかいこうせん」が、俺の体を飲み込んだ。

 

 

 構うもんかよ。直進する。川の流れに逆らうように、足を動かす。

 

 

 進化に必要な条件とはなんじゃろか? 

 

 

 レベル、道具、天候、懐き度。他にもあったかな。

  

 

 どうして俺は進化できなかったのだろう? 答えは解っていた。単純に、覚悟が足りなかったのだ。

 

 

 進化なんぞしてしまったら、もう後戻り出来ない。ポケモンの進化はやり直しがきかないからな。

 

 

 根拠は上手く言葉に表現できんが、進化してしまうと、もう元の世界に戻れなくなるのではないかと怯えていたのだ。体は進化する準備を整えているが、俺の精神がそれにまったをかけていた。

 

 

 本当に情けない話である。あれだけ進化出来ないとボヤいてはいたが、愚痴ってるだけで本人にはまったくその気がなかったのだ。ここまでの状態に追い詰められなければ、俺は進化という選択を選ぼうとすらしなかっただろう。

 

 

 ああ~、何となく見えてきたぞ。ポケモン世界に来る前の俺がどういう人間だったのかがな。自身の生態に関する記憶はあまり覚えてなかったが、人間としての本質はポケモンになっても大して変わってないみてぇだ。ヤマブキシティで一度踏ん切りつけたつもりだったが、結局は何も変わろうとしてなかったんだよなあ。

 

 

 

 つーわけで、今変わるぜ。

 

 

 

 覚悟完了。肉体が一気に盛り上がる。

 

 

 活力が爆発した。心臓の動機が激しい。なんかすっげえ興奮してきた。「はかいこうせん」の中に居るというのに、俺は咆哮を上げていた。

 

 

 光線の波を切り裂き、走る。この先にいるであろう敵を叩きのめしたくて堪らない。

 

 

 走る、走る走る。走って、跳び掛かかった。

 

 

 光をかき分けた先には、ポリゴンがいた。不合理なゴリ押しで襲い掛かる俺を呆然と見つめている。

 

 

 何が起こったか分からないってか? そりゃ驚くだろ。いい気味だ。

 

 

 技も糞もない。勢いに任せて飛びつき、牙を剥いた。

 

 

 衝突する。奴が背にして守っている扉にぶつかり、ぶち破った。ポリゴンに覆いかぶさり、頭部に噛り付いた体勢のまま隣の部屋に滑り込む。

 

 

 おっと、あんまりにも興奮しすぎてかなり不格好なトドメになっちまった。思わず噛みついていたぜ。ニドリーノに進化したからか、血の気が多くなっちゃったのかね?

 

 

 体もかなりでかくなったなあ。倍近くは大きくなったんじゃないか? 見渡す景色もまた違うぜっと、そんな事は今はどうでもいいか。

 

 

 眼前。レッド少年とサカキの勝負は、今まさに決着が付かんとしていた。

 

 

 余裕綽々といった風のドサイドンが、少年の手持ちだと思われるゼニガメの甲羅を掴んで持ち上げている。ゼニガメはぐったりとしていて動かない。

 

 

 膝をついて悔しがる少年。彼の足元にはいくつかのモンスターボールが転がっている。その近くで、くたびれた様子のピカチュウが倒れ伏していた。

 

 

 

 「進化したのか。やはり見込みがある」

 

 

 

 サカキが横目で俺を見やり、薄く笑う。

 

 

 

 あ、嘘。これ間に合わなかった??

 

 




なんでニドキングにダストシュートを与えてくれないのか。

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