い、痛い。
思い立ってから一週間。肉体を使った実験は続いている。
何してるのかといえば、単純明快。相手のポケモンの技を喰らいまくっているのだ。
いや被虐趣味に目覚めたとかじゃないよ。勘違いやめれ。理由は今から説明する。
待望の非接触技だが、やっぱ自分の体からそんなのを撃ち出すイメージが湧かない。
イメージ不足なのは体験した事がないからだ。当たり前だが。
だから、それっぽい技を使えるポケモンに勝負を挑み、同系統の技を使ってきたら敢えて受けてみるのだ。それで技を使うイメージを掴もうと。まさに茨の道。
アホか、俺は。
でででも技を教えてくれる奴なんていないし、自分が痛い目にあって学習した方が習得が早くなるんじゃなかろうかと。
「殴られもせず一人前になるやつがあるか!」
ほらこんな台詞きいたことあるでしょ? あるよね?
ああうん、それとこれとは事情が違うよね。
…やり方、間違ってるのかな。
だが馬鹿な俺では他に方法が思いつかん。麻痺火傷なんかの状態異常で瀕死になりかけた事もあったが、そこは森の恵み、木の実様に助けてもらっている。
昨夜はたまたまデリバードが飛んでるのを見つけたので、呼び止めて「れいとうビーム」を撃ち込んでもらった。死ぬかと思った。
いやいやしかし、氷状態はやべえ。寒いし身動きとれないし、強力な攻撃だからか氷もなかなか溶けない。冗談抜きで、死を覚悟したね。
つーかあのデリバード、なんでこんな所の上空を飛んでたんだろ。あいつってもっと寒い地域に生息してるんじゃね? わからん。
にしても、せっかく「れいとうビーム」の直撃を受けたってのに、技のイメージがまったく浮かばぬ。
強い技の使い手は珍しいのだ。
ここらのポケモンは比較的弱めのが多いらしく、威力の高い技を覚えている奴も滅多にいない。
せいぜいが「でんきショック」「みずでっぽう」「ひのこ」くらいか。くそ、どれもニドランが覚えられる技じゃねえぞ。
それでもイメージの助けにはなるかと期待してたんだが。うむむ。
特訓場所を変えてみるか?
もっと強いポケモン、強い技を覚えている奴のいる…。
いや、ダメだ。
血迷うなよニドラン。あの「れいとうビーム」の恐ろしさを忘れたか。
地道にやってくしかないかな。
つっても、今ですら体を虐めすぎてるっぽいし。
考えてみりゃあ、俺ってポケモンとしては子供も子供。ガキんちょなんだよな。たぶんだけど。
徒に寿命を縮めてるだけなのかなぁ。
この辺のポケモン達も、なんだか変態を見る目で俺を遠ざけようとしはじめたし。
マズイな。これじゃあ、ニドキングじゃなくてマゾキングに進化しちまう。いやん。
あああ、せめて先生がいたら! 「ここはこうしてあーするんだよっ」ってご教授して戴けたらよおお。ティィィチャァァァァ!!
無い物強請りはやめろ。
現実を見ろ。逃避するな。二日前にトランセルがピジョンに連れ去られたのを見たじゃねえか。
俺も、ああなりたくないなら頑張るしかない。
ぬおおおやったるぜオラァ!
ヘイ、そこ行くポケモン! 俺を的にしてみないかい!!
さらに数日。
キ〇ガイじみたイメージトレーニングは成果を結んでいない。
レベルアップ技は覚えたんだがなぁ。「つのでつく」と「てだすけ」。
手持ちの技で単発最高威力の「つのでつく」は、まあいい。
でも「てだすけ」って。どないしろと。
確か、仲間の技威力を1.5倍にアップさせるんだっけか。
いや仲間いねぇじゃん! 今のままじゃ役立たずだな。
…待てよ。「てだすけ」って、何レベルで覚えたっけ。
俺、もうニドリーノに進化出来るんじゃね?
あるぇぇおっかしいぞお。どうなってんだこりゃっ。
ま、いっか。
何で進化できないのか、理由は皆目見当がつかないが、ニドランもニドリーノも覚えられる技に大差は無い。
能力値で劣るのは痛いが、その分、早くレベルアップ技を覚えられるはず…はず。
うーん、それにしても困った。
一向に技を覚えられる気がしない。
やり方、変えるか。いやいやもうちょっと続けてみるか。
最近、相手の攻撃がパンチ力不足なんだよね。さすがに俺のレベルも上がってきたし、こうも毎日攻撃喰らってたら耐性もついてくるっていうか。
スリープやディグダも、ゴリ押しで勝てるようになったしな。
相変わらず鳥ポケモンがウザいが、上空への対応も身についてきた。目を逸らさなきゃいいのだ。で、目への攻撃は避ければいい。簡単じゃねえがな。
どうすっかね。やっぱ場所を変えるか? そこそこ強くなったし、ちょっとばかし強力な個体が相手でもなんとかなりそうな…。
あ。
そうか、その手があった。
一つ閃いたぞ。
お、お、これいけんじゃね?
おっほいいぞこれは! 逆転発想ウルトラCじゃねえか! 天才ニドラン我ハ此処二在リ!
あでも冷静になれば何の解決にもならないっていうか。
いやイケる! ヤレルヤレルキモチノモンダイダゼッタイデキル!
と言っても、ちと博打だなこれは。下手すりゃ大けがですまないかも。念の為、木の実を多めに持ってくか。備えあればなんとやらだ。
主人公は決してマゾではありません。