BLOOD-C Light which cultivates darkness   作:MIDNIGHT

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拾話

真っ直ぐに襲い掛かる夜叉の繰り出す薙刀の一撃を真夜は横へと跳んでかわす。

 

目標を失った穂先はそのまま背後のカプセルを貫き、破砕音が響く。夜叉は柄を回転させるように引き抜き、その拍子に割れた亀裂から噴き出す紅の溶液が足元へと流れていく。

 

紅く染まった穂先を振り払って落とし、拭うと同時に再度床を蹴って突貫してくる。

 

無数に繰り出す突きを真夜は刃を振り上げて捌きながら押される。的確に衝く突きに歯噛みしながら距離を取る。

 

それを視認し、夜叉は柄を大きく引き、一気に跳躍するように突き放った。真夜は着地するとともに迫る刃に反射的に刀を振り上げた。

 

激突する甲高い音が周囲に木霊し、空気を振動させる。

 

「くっ」

 

踏み堪えながら耐えるも、夜叉はその均衡を破ろうと押してくる。

 

峰を押さえる左手の力を弱め、相手の刃を逸らす。押し込んでいた夜叉は僅かに前のめりになり、真夜はその場から離れる。

 

床に刺さる穂先で身体を支え、背中を向ける夜叉だったが、真夜は仕掛けることができない。

 

背後で靡くライトブラウンの髪が揺れ、ゆっくりと薙刀を抜き、こちらを見やる。

 

真っ赤な空間で対峙する真夜の前に構える夜叉―――薙刀を構えながら対峙する中、真夜は困惑を隠せなかった。

 

(誰……?)

 

『古きもの』ではない―――間違いなく人間だ。

 

だが、こんな人物は存在していなかったはずだ。九頭があっさりと退いたことからも、七原の関係者であることは分かる。

 

その感じる気配――殺気は、仮面越しからでもひしひしと伝わってくる。間違いなく…この夜叉は九頭に匹敵する敵であるということが――――――

 

疑念と不安が胸中に渦巻く。

 

夜叉は再び大地を蹴って仕掛けてくる。それに対し、真夜も応戦するように飛び込んでいく。

 

軽やかに薙ぐ連撃をさばき、かわしながら距離を詰めていく。

 

(懐に飛び込めば―――!)

 

接近戦で得物のリーチは長い方が有利だ。だが、間合いを詰めれば小回りのきく刀が有利。そこまで接近しなければならない。無数に繰り出される刃をすべてかわせず、突かれた一撃が避けそこねた真夜の頬を掠め、微かな一閃が走る。

 

「っ」

 

飛ぶ鮮血に夜叉が僅かに硬直する。

 

その一瞬の隙を衝き、真夜は懐へと飛び込んだ。

 

「たぁぁっ」

 

気合とともに繰り出した一撃に夜叉は身を逸らすも完全にかわせず、鬼の面を掠められる。

 

距離を取る夜叉に真夜は息を荒げながら相手の出方を窺う。致命傷を与えられてはいない――せいぜい面を掠めた程度…夜叉は仮面を押さえるも、傷つけられた亀裂から破片が落ちていく。

 

「いやぁ~……やっぱり凄いね」

 

今まで無言だった夜叉から唐突に発せられた声―――その声に真夜が眼を見開き、息を呑む。

 

今の声は―――聞き間違えるはずがない……だが、同時に信じられない思いが湧き上がってくる。

 

(そんな…今の声―――)

 

動悸が激しくなり、心臓が不規則に音を内に奏でる。

 

混乱する真夜の前で面の亀裂が拡がる音が響く。ゆっくりと手を離す夜叉の面が左右に割れ、音を立てて崩れ落ちた。床を跳ねて落ちる面―――その下から現われた顔……

 

見間違えるはずのないその顔――真奈とは違う意味でこの世界で親しくなった相手………閉じていた眼をゆっくりと開き、瞬く。

 

セミロングに切り揃えられた髪が靡き、その瞳が真夜を見据える。

 

「久しぶりに会えて嬉しいよ―――――真夜ちゃん」

 

無邪気に――そして聖母のように微笑むのは…月詠凛だった。

 

だが、その笑顔に慄き、真夜は掠れた声を漏らし、後ずさる。

 

「そん…な――…どう、して………?」

 

思考が混乱し、言葉がうまく纏まらない。

 

そんな真夜の言葉を聞き取り、凛は自分を指差す。

 

「ボクが何でここに居るか? それは簡単だよ…君を待ってたから♪」

 

酷く楽しげに囁く彼女の姿は、いつも学園で見ていたものと同じで――まるでここだけが切り離されたような錯覚を憶える。

 

何故彼女がここにいるのか――何故、彼女と自分は闘っているのか………いや、それ以前に眼前の光景が現実なのか―――

 

「現実だよ」

 

真夜の心情を見透かしたように放たれた言葉が、真夜を射抜く。

 

「ボクがここに居るのは現実――唯一違うのは、ボクと君の関係かな」

 

首を傾げながら考え込む仕草を見せつつ、片手で身の丈もある薙刀を振り回し、背後で構える。

 

「ボクはここの関係者で、君は部外者――そして………侵入者――――――!」

 

一気に床を蹴って迫る凛が薙刀を下方から振り上げる。

 

「っ!?」

 

反応の遅れた真夜は反射的に身を逸らし、鋭く斬り上げられた一撃が眼前を掠める。ニッと笑い、凛は柄の真下をそのまま突きつける。

 

それをかわせず、柄が真夜の身体に迫り、身を抉る。

 

「あ、がっ」

 

腹部に響く痛みに呻き、そのまま吹き飛ばされ、壁へと打ち付けられた。

 

強か打ち付け、壁を擦るように崩れる。もどかしい呼吸がほうけていた真夜に現実を強く感じさせる。

 

夢でも幻でもない―――この眼前の光景全てが現実なのだ。

 

「っ、ぐっ」

 

歯を噛み締め、なんとか立ち上がる。

 

その姿に凛ははにかんだ笑みを見せる。

 

「あはは、やっぱ凄いね。普通なら、今ので大体は壊れちゃうんだけど――兄さんとも打ち合えるわけだ」

 

心底驚いたように称賛するも、今聞き捨てられない内容が混じっていた。

 

「あ、に……?」

 

「うん、さっき真夜ちゃんが闘ってたの。一応、ボクの兄さん。ボクとしては血が繋がってるとは思いたくないんだけど」

 

不満ですとばかりに眉を顰める凛だが、そんな事はどうでもよかった。

 

「それ、じゃ…あなたは、セブンスヘブンの――!」

 

「やっぱそこまで知ってるんだ。そうだよ――『七原』をずっと昔から守護してきた一族…それがボク達、『月詠』だよ」

 

薙刀を戻し、佇みながら告げる凛。

 

「ま、ボクはそんな家のしきたりには興味ないけど―――」

 

つまらなさ気に呟き、肩を竦める。

 

いつから仕えているのか――何代にも渡って守護の役目を担ってきた一族…長い歴史の中でそれが変えられたことはなく、党首である『九頭』の名も兄が継いだ。

 

「ボクは文人様のやろうとしている事には何の興味もないし、兄さんのように心酔している訳でもないしね」

 

周囲のカプセルを見渡す。

 

だが、妹である自分には何の関係もないことだ――兄のように主である『七原文人』に心酔している訳でもない。ただ都合がいいからだ。

 

「ボクが興味あるのは――ボクを熱くさせてくれる相手が欲しいだけ」

 

それまで無機質だった瞳にねっとりとした熱が宿り、真夜をゆっくりと見据える。だが、真夜はその意図が掴めず戸惑う。そんな様子に凛は微笑を漏らす。

 

「その顔も可愛いね。今までいろんな相手と殺り合ったり、時には犯したけど―――」

 

ぎゅっと手を握り締め、身体を縮こませる。

 

疼くのだ――はっきりとしたものではなく、ただ心の奥底から…『月詠凛』という本質が求める…この疼きを、乾きを満たしてくれるものを………

 

ハッキリとそれを自覚させたのは幼少より叩き込まれた家の『業』故か――これを満たすために、凛は生死を懸けた闘いに幾度も臨み、時には肌を重ねもした。

 

だがどれも一時のものでしかない――すぐに冷めてしまう……そんな空虚な日々の中で出逢った――――――

 

「私をこんなにも熱くさせてくれたのは君が初めてだよ」

 

『真夜』という存在――他とは違う何かを感じさせてくれ、それは今刃を交えたことで確信した。

 

「だからボクは君が欲しい――君と殺り合いたいんだよ………」

 

まるで恋人をデートに誘うような仕草で言い放つ凛に、真夜は息を呑む。

 

感じたのは『畏怖』だった――まっとうな神経ではない。『狂気』とも違う―――ただ純粋に求める様…その眼を、真夜は知っていた。

 

反応が遅れ、一気に駆け出した凛が薙刀を振るい、真夜は屈み込んでかわす。空を切りながら回転し、再度足払いのように振るう刃を跳んでかわし、着地とともに距離を取る。

 

それを逃さず、飛び込む凛の刃が迫り、刀で弾く。

 

体勢を崩す凛に真夜は刀を振り払うも、凛もまた身を屈み込ませてかわし、突いてくる。

 

身を捻ってかわし、打ち合う音が周囲に木霊する。ぶつかる衝撃のなか、互いに刃を交えて硬直する。

 

「っ」

 

歯噛みする真夜に対し、凛は笑みを崩さない。

 

薙刀を逆手で逸らし、真夜の軌道を逸らすと前のめりになる真夜に蹴りを回してくる。

 

それをかわせず打撃を受け、怯む。咄嗟に腕を引いたおかげで倒れるのは堪えたものの、腕が衝撃で麻痺する。

 

よろめく真夜に仕掛ける凛。振り下ろされる刃に持ち手を左手に変えて弾き返す。その反応に眼を瞬かせる。

 

「驚いた? ひょっとして両利き? また君の新しい発見だよ♪」

 

はにかむ凛だが、真夜には余裕がない。ただでさえ、九頭との闘いでも大きな疲労と傷を負っている。正直このまま凛と闘い続けても分が悪い。

 

(けど……っ)

 

結論から言えば、ここは逃げるべきだ。だが、ここに潜入したのは真治の行方を追ってだ。それを掴めず、このまま逃げることに迷う。

 

「む? 今真夜ちゃん私じゃなくて別のこと考えてたね?」

 

そんな真夜に眉を吊り上げ、なじるように問う凛に注意を引き戻される。

 

「なんか赦せないな~……君にはボクだけを見ていて欲しいのに」

 

嫉妬するように考え込むと、何かを思いついたように不敵に笑う。

 

「じゃ、もっと闘えるようになってもらおうかな?」

 

その言葉に構える真夜だっが、彼女の口から放たれた言葉に驚愕する。

 

「ボクに勝てたら――真奈ちゃんのお父さんのこと、教えてあげる」

 

「っ!? どうして―――!?」

 

一番知りたかったことを告げられ、狼狽する真夜だが、凛は得意気に笑う。

 

「あ、やっぱりこれが正解? 君がここへ来たのは?」

 

失言だったと後悔するも既に遅い。

 

「偶然だったけどね――彼女のことも調べたから。友達思いだね」

 

真夜のことを調べる過程で親しい真奈のことも調べた――そこで知った彼女の父親がセブンスヘブンの取材をしていること。その過程で囚われたことを―――真夜がセブンスヘブンを知っているのなら、友人の父が絡んでいるのを知って動かないはずはない。

 

それは彼女の人となりを見てきた凛にとって確信できたことだった。

 

「さあ、どうする? ボクを倒して聞き出すか…ボクに殺られるか…それとも、逃げるか―――」

 

からかうような口調で選択を突きつける。視線を落とす真夜―――握り締める手が震えている。それは怒りなのか…それとも――――それを証明するように顔を上げた真夜は一気に駆け出した。

 

「うぁぁぁぁぁっっ」

 

必死の形相で斬り掛かる真夜の一撃を凛は冷静に受け止める。

 

だが、先程よりも重い――対峙する真夜の顔は、鬼気迫るほどのものだ。それに笑う。

 

「そうだよ――いっぱい殺り合おう!」

 

ここからが本番とばかりに凛もステップを踏むように薙刀を背中に回し、回転させて交錯を外す。真夜も瞬時に外し、距離を取り、間合いを逃さず連撃を繰り出す。

 

四方八方から斬り込む真夜に凛は薙刀を突きながら捌いていく。

 

空中で激突し、甲高い音が響く。衝撃で痺れる手を引き、歯噛みしながら後ずさる真夜に逃さないとばかりに迫る凛が繰り出す突きを横へと跳んでかわす。

 

突き出された刃が先にあったカプセルの基盤に突き刺さり、火花を散らす。それを一瞥して引き抜くと、亀裂から飛び出したケーブルが垂れ下がり、闘いで破裂したカプセルから溢れ出た血と接触し、一気にショートする。

 

火花が散り、基盤から炎が噴き出す。炎はそのまま大きくなり、二人の間を裂くように舞い上がり、思わず真夜は眼を覆いながら怯む。

 

炎はそのまま他の機械やカプセルを侵食し、炎に包まれながらカプセルの中で屍を晒す骸を包み込んでいく。

 

紅蓮の炎が舞う中から、灼かれる怨念のような叫びが聞こえるような錯覚を引き起こす。

 

『助け』を求める声―――聞こえるはずのないそれらが一気に流れ込むように真夜は恐怖する。その瞬間、炎を裂くように飛び出した凛が突き出した一撃をかわせず、左肩を掠めた。

 

「うぁっ」

 

飛び出す鮮血――呻きながら傷を押さえる。

 

溢れ出す血で染まる右手と苦悶を浮かべ、凛を見やる。振り返った凛の顔には、先程の交差時に飛び散ったのか、真夜の血が付着している。

 

頬を伝う血をなぞり、真夜は恍惚するように微笑む。

 

「愉しいな――もっともっと、愉しもうよ!」

 

跳躍して襲い掛かる凛の攻撃は先程よりも勢いを増し、真夜は防御するので精一杯だった。

 

受け止め、捌き、かわす――防戦一方のなか、薙刀を引き、一気に跳び込む凛が至近距離で拳を突き出した。

 

眼を見開いた瞬間には、真夜の身体に凛の拳が数回叩き込まれ、圧迫感と衝撃で真夜は吐血する。

 

「がはっ」

 

肺から噴き出す鮮血に吹き飛び、倒れ伏す。

 

背中の衝撃よりも呼吸が苦しい―――そんな真夜を見下ろしながらクスクスと笑う。

 

「ボクがコレしか使わないと思った? 残念♪ これでも兄さんと同じく体術も多少は使えるんだよ」

 

意識が飛びかけている真夜にはそんな言葉はほとんど聞こえていない。だが、少なくとも間合いをあけても懐に入り込まれても自分の分が悪い。

 

か細い呼吸でよろめきながらなんとか立ち上がる。

 

「あは、やっぱり凄いね。友達思いなんだ…ちょっとあの娘に妬けちゃうな」

 

口を尖らせながらなじられるも、真夜は既にボロボロで刀を支えになんとか立っているのがやっとだ。

 

だが、真奈の姿を思い浮かべ、必死に刀を構えて対峙する。

 

「いいね――ますます君が欲しくなっちゃったよ!」

 

駆け出す凛の斬撃をなんとか受け止めるも、勢いを止められずにそのまま下がり、追い詰める凛に後退しながら進むと、壁にぶつかり、息を呑む。

 

跳び掛かる凛の勢いを受け止めるも、その衝撃で背中の壁が後ろへと開かれ、真夜は後方へと倒れ込む。

 

なんとか倒れるのは堪え、横へと身を逸らす。耳に飛び込む水の流れ―――横に流れるのは、工場の排水路。轟音を立てて流れる水に気を取られたが、再度振るう薙刀の一閃を屈み込んでかわし、穂先が壁へとめり込む。

 

それを引き抜く凛に真夜は思考を巡らせる。このまま闘い続けても勝機が薄い――いや、既にこうして立っているだけでどんどん体力が奪われていくようだ。

 

迂闊に懐に飛び込むのは危険だが、ここは勝負に出るしかない。

 

構える真夜に何かを感じ取ったのか、凛もまた薙刀を上段へと構える。水の流れが木霊する地下で全神経を集中させて対峙する。

 

真夜が小さく顎を引いた瞬間、一気に駆け出す。

 

水平に構えて駆ける真夜に凛もまた薙刀を正面に構えて無数の突きを繰り出す。間隙なく迫る薙刀の軌道を必死に追い、それらをかわしながら大きく突かれた一撃をかわし、後一歩で凛の懐へと到達する。

 

(この間合いなら―――!)

 

それを確信した瞬間、凛の口端が小さく歪む。

 

「甘いよ」

 

突き出した薙刀の上半分が突如外れ、柄の内部から鋭い刃が現れる。

 

(っ――――!?)

 

それが仕込み刀と気づいた瞬間、振り下ろした凛の刃が真夜の身体を斬り裂いた。

 

「あ――――――」

 

身体から噴き出す鮮血―――どうしようもない熱さが身体を侵食する。

 

感覚を自覚できないまま、真夜は大きくよろめき、そのまま排水路へと落下した。大きな音を立てて水中へと落ちた真夜の姿はそのまま水の流れに掻き消され、完全に消え失せる。

 

それを一瞥する凛は静かに見下ろす。

 

「やっぱり凄いよ、真夜ちゃん。ボクに傷をつけたのは、兄さん以外じゃ初めてだよ――――――」

 

小さく腕を伝う紅い血―――あの瞬間、真夜の斬撃もまた浅かったものの、凛の腕を捉えていた。後少し踏み込みが深ければ、凛の方の傷が大きかっただろう。

 

後方の施設から炎が噴き出す。それを横に凛はゆっくりと歩き出す。

 

「今度逢う時は…もっと愉しませて――――――」

 

次に訪れるであろう邂逅を思い、凛は静かにその場より去った。

 

 

 

 

 

 

夜の静寂を破るように燃え上がる炎――――――

 

紅蓮の炎が施設そのものを覆い、太陽のように周囲を照らす。火災に鳴り響くサイレン…パニックになる工場区より離れた場所にある海岸付近に、一つの影が浮かぶ。

 

砂浜を這うように身体を引き摺りながら水中から上がるのは、真夜だった。

 

「う、うぅぅぅ―――」

 

胸を流れる傷を押さえながら、身体がなんとか砂浜に上がったところで力が尽き、仰向けに倒れる。

 

あの後―――水中へと落とされ、激流に抗う力さえ無かった真夜はそのまま流され、海へと放り出された。海流に流され、運良くここまで辿り着いたものの、真夜はボロボロだった。

 

身体は元より、心も――霞む視界のなか、見上げる空は雲一つない――憎らしいほどの星空だった。

 

真夜の視界が滲み、瞳から雫が零れ落ちる。頬を伝う微かな熱―――それは、悲しみでも怒りでもない………『悔しさ』だった――――――

 

 

―――――真奈を悲しませてしまった自分……

 

―――――凛の素顔を見抜けなかった自分……

 

―――――力を信じて甘く考えていた自分……

 

 

何もかもが悔しかった。

 

こうして無様を晒していること―――無力だった自分自身に哭いた…………震える身体を抱きしめるように蹲る。

 

 

 

 

どれ程そうしていたのか―――やがて、真夜はゆっくりと身を起こす。

 

まだ血は止まっていない。それでも、ゆっくりと―――その姿を離れた場所で見詰める影。

 

レンズに反射させながら見詰めるのは、四月一日君尋だった。閉じていた眼を開き、真夜を静かに見詰める。

 

「二つの運命が同じ道を辿ったか――――――」

 

彼の眼に見えていたのはここだけではない。

 

遠く離れた地にて今の真夜と同じように運命に翻弄された一人の少女の結末――おぼろげながら視えていた未来……だが、少女は新たな願いのために起ち上がった。

 

そして―――四月一日の見詰める先で真夜が静かに起ち上がった。その背中が…重なる。

 

「それでもなお進むか――願いのために………」

 

淡々と語る四月一日の視線はどこか寂しげだった。

 

見守るなか、起ち上がった真夜はゆっくりと顔を上げる。

 

月に照らされる中で浮かぶ彼女の顔は……新たな決意を秘めていた。

 

この先に起こる運命を必ず変えてみせるという意思に―――――見詰める先にある炎上する施設を一瞥し、真夜はゆっくりと背を向ける。

 

風が髪を靡かせ、彼女を包む。

 

 

 

 

次なるステージへと導くように―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To The Last Dark.........




ようやく前奏完結です。
最後の真夜のシーンはTVの小夜をイメージして書いてみました。純潔パラドックス何度も聴きながら試行錯誤しましたが、うまくできたかな?

次回から本編へと突入していきます。

今回はいろいろ悩んだ部分ではありましたが、楽しんでいただければ幸いです。
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