BLOOD-C Light which cultivates darkness   作:MIDNIGHT

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第玖夜

都心のビル群のネオンが照らす中、都心の中心部にある殯の屋敷へと真夜達は無事にたどり着いていた。

 

追跡の眼を掻い潜り、重厚な門を抜けて屋敷前にミニバンを止めると、真夜はすぐにドアを開けて、外に出た。

 

そのまま雪が降る空を仰ぎながら小さな吐息を零す。

 

白い息が靄となって霧散し、真夜はどこか苦く雪空を見上げる。

 

「真夜……?」

 

その様子に戸惑いつつも、おずおずと声を掛ける真奈に振り返り、苦笑を零す。

 

「なんでもない……さ、降りて」

 

軽く首を振ると、会話を切って未だ車内にいた小夜を促す。

 

その不自然な会話の切り方に真奈は先程から一抹の不安を拭えずにいた。慣れない動作で降りようとする小夜に真夜が手を伸ばすも、小夜はそれを取らずに刺々しい雰囲気のまま、無言で車外に出た。

 

「はぁ~無事に戻って来れてよかったです~~」

 

続けて車外に降りた藤村が眼に見えて安堵のため息をつき、肩を落とす。

 

「おかげで俺の愛車は傷だらけだっつーの!」

 

どこか苛立ち混じりにドアを乱暴気に締め、それに縋りながら項垂れる松尾だったが、藤村は快活に笑う。

 

「尊い犠牲じゃないっすか」

 

藤村としては塔に対しての白星を上げたことに浮かれていたためか、慰めのつもりだったのだが、そのドヤ顔に松尾は小さく歯軋りし、無意識に足元の雪を掴み、掌の中で強く固める。

 

「うるせえっ」

 

「ぶへっ」

 

怒りをぶつけるように投げた雪玉が顔面に直撃し、仰け反る藤村。

 

「ぷはぁ、なにすんですかっ」

 

雪を払いながら藤村がお返しと雪を投げ返し、それに応戦するように松尾も投げ返す。

 

その応酬に真奈はオロオロするも、真夜は小さく肩を竦め、未だ抜き身のように気配を尖らせている小夜に話し掛ける。

 

「気にしないで、いつものことだし。真奈、二人は放って先に入りましょ」

 

正直、氷点下に近い外でこうしているのは身体に応える。

 

「あ、でも……」

 

「ただの戯れ合いだから」

 

傍から見れば子供の喧嘩にしか見えない。

 

軽く流しながら小夜を伴って玄関ホールに入ると、屋敷のドアが呼応するように開かれ、その奥から矢薙が姿を見せる。

 

「おかえりなさい」

 

「矢薙さん、ただいまっ」

 

優しく微笑む矢薙に安心したのか、真奈は弾んだ面持ちで挨拶し、小さく頷く。

 

「真夜さんも無事でなによりだわ」

 

「ありがとうございます」

 

軽く一礼する真夜に小さく笑みを零すと、背後で未だ雪合戦を繰り広げる二人に気づく。

 

「何をやっているの、あの二人?」

 

「いつものことですから。飽きたら入ってきますよ」

 

「それもそうね…貴方が、小夜さん?」

 

軽く肩を竦めると、改めて真夜の背後に立つ小夜に眼を向ける。

 

警戒を見せる小夜だったが、そこへ真夜が口を挟む。

 

「矢薙さん、殯さんに会う前に顔、洗っていいですか? 私もこのままだと、少し……」

 

そこで初めて矢薙は真夜の顔に赤い液体が付着しているのに気づき、小さく息を呑んで一瞬硬直するも、すぐに気を取り直す。

 

「ええ、そうね。タオルを用意するわ」

 

頷き、屋敷内へ促すと、真奈が続き、真夜は未だ警戒を解かない小夜の手を取る。

 

「さ、いこう」

 

戸惑う小夜を尻目に手を引き、二人もまた屋敷内に入っていく。

 

こうして誰かに手を引かれるなど久しい――小夜の心はどこか不思議な浮つきを覚え、小さく口を噛んで首を振る。

 

静まれ――と…もう、感情などすべて『あそこ』に捨ててきたのだ。そう言い聞かせていると、真夜は小さな洗面所に入り、小夜の手を離す。

 

感じていた温もりが離れたことに小さく息を呑み、どこか呆然と握られていた手を見つめる。

 

「あ、真夜……」

 

「真奈さん、貴方は先に殯さんに報告をお願い」

 

「あ、はい」

 

うしろ髪を引かれながらも、真奈は先に屋敷の奥へと消えていく。

 

真夜は小さく微笑し、そのまま洗面所の蛇口を捻る。流れる熱湯に水を混ぜながら出てくるお湯は湯気を立てる。

 

そこへ手を入れる。火傷しそうなほどの熱が冷え切った手を通して伝わり、真夜は小さく顔を顰める。だが、その熱が徐々に真夜の荒んでいた心を静めてくれた。

 

流れるように熱湯を顔にかけ、付着していた血を洗い落としていく。

 

お湯とともに指の隙間から落ちる朱は、溶けるように流れていく。やがて顔を上げ、小さく振って水滴を飛ばすと、後方の小夜を見た。

 

「どうぞ、少し熱いかもしれないから気をつけて」

 

身体をどかして促すと、小夜は警戒しながらも洗面台に近づき、流れる熱湯に手を触れさせる。

 

(熱い……)

 

手を通して伝わる感覚――こうして熱湯に触れるなど、久方ぶりのことだ。

 

熱湯に触れながらも、小夜の白い手はほとんど熱を宿さない。そんな己の手に何の感慨も抱かず、小夜は流れるお湯で顔を洗った。

 

飛沫と叩く音が小さな洗面所に木霊する。

 

どれだけそうしただろう…やがて、小夜は徐に蛇口を止め、お湯の流れが止まる。微かな湯気が漂うなか、見下ろす小夜の瞳に湯に混じった朱い筋がゴボリと音を立てて排水口に消えていく軌跡が映る。

 

頬から水滴が落ちると、徐に顔を上げる。そのままセーラー服の裾で顔を拭こうとして背後から投げられた何かに気づき、振り向きざまに受け取る。

 

掴んだそれは、真っ白な清潔感のタオルだった。

 

「拭くならちゃんとした方がいいよ」

 

小さく笑いながら自身もタオルで拭く真夜に小夜は憮然としたまま、タオルで顔を拭く。

 

ここまでの一連の動作すべてが、懐かしく、そして小夜の心を掻き乱す。不意に見た鏡に映る己の顔に僅かな変化が現れそうになるのを、必死に抑え込んだ。

 

「準備はいい?」

 

それを外で見守っていた矢薙が促すと、真夜と小夜はその後をついて屋敷内を進む。

 

屋敷内はどこかしも電気が落ちており、廊下など僅かな灯りのみだが、それでも暖房が効いているのか、寒さは感じなかった。

 

「この屋敷、人はほとんど居ないから…持ち主が変わった人だからね」

 

無言で歩く小夜に首を向けてそう話す真夜だったが、返事はない。

 

代わりに、矢薙からはどこか咎めるような視線を向けられたものの、真夜は小さく肩を竦めるだけだ。

 

通路内に道標のように轢かれた赤絨毯を進み、階段脇の壁に備わった暖炉には、火が燃え盛り、暗い廊下を紅く照らす。

 

その火を一瞥し、一行は階段を上り、一枚の彫刻が施された扉の前に着いた。

 

矢薙が控えめにノックする。

 

「入れ」

 

扉越しに聞こえてきたのは、車の中でスピーカー越しに聞いた男の声だった。

 

どこか冷ややかな声に気にした素振りもなく矢薙は扉を開け、二人を促す。真夜と小夜が入室すると、部屋奥の書斎机の前に真奈が立ち、部屋の中は照明器具がなく、壁面の暖炉が不規則に照らし、唯一書斎机の上のスタンドだけが灯っていた。

 

その席に主たる男――殯蔵人が車椅子の上で座っていた。

 

「報告は十分だ。ありがとう、柊くん」

 

「はい…」

 

淡白な労いにやや気後れしながら頷くと、真奈は一歩引いて書棚に下がり、真夜もその傍で止まり、どこかホッとした面持ちになる。

 

窺うように見ると、心配ないと軽く首を振り、真奈は小さく頷きながら視線を戻す。小夜が殯の前まで歩き、動きを止めるとその顔を確認するように見上げた。

 

「ようこそ、更衣小夜。殯蔵人だ」

 

眼鏡の奥の吊り上がった切れ目な視線を向ける男が発した名に、小夜は内に激しい感情が沸き上がりそうになる。

 

「なぜ…私を知っている?」

 

熱くなるそれを必死に自制し、抑揚のない声で問い掛けた。

 

それに対し、殯は臆した様子もなく、視線を逸らして淡々と応じた。

 

「浮島――地図にも載っていない場所…そこにいた住人すべてが、一夜にして殺された」

 

手元のタブレット端末を操作し、ある画像を呼び出すと、それを小夜の元へと回した。

 

その画像は真奈にもハッキリと見えた。

 

―――真っ赤な血で染まる死体が写っており、真奈は数時間前の光景が脳裏にフラッシュバックし、顔を蒼白にして唇が震える。

 

無意識に真奈は真夜の手を握る。震える手を真夜はそっと握り返し、窺うように視線で問うと、真奈は小さく首を振った。

 

「それはまさに、地獄と呼ぶに相応しい凄惨なものだった……」

 

静かに語る殯の言葉に反応するように画像が次々と再生されていく。

 

湖の向こうに見える街――炎の燻る家屋、倒壊したビル、大きく破壊された道路、そしてその上に横たわる無数の死体……そのほとんどが、何かに喰われたように身体のパーツが欠けていた。

 

腕をもぎ取られた死体、股から身体を真っ二つに裂かれた死体、首のない死体、口から何かが貫通したように巨大な空洞ができた死体――どれも人間の手ではできないような猟奇的なものばかりだ。

 

改めてそれを見たことで、真夜も険しい面持ちで口を噛む。

 

その様子をレンズ越しに一瞥した殯は最後の画像を指差す。

 

「ただ、その実験で唯一生き残った者がいる。これに映っているのは君だね――」

 

画像が終わり、動画のような映像が流れる。

 

湖面の奥で浮かぶ異形なものの上に折れた刀を手に独り、佇む少女――それは、紛うことなき小夜だった。

 

その姿は吹き荒む霧の中へと消え、映像は途切れた。

 

「これらはすべて、ここで行われた実験――更衣小夜、君の記憶を封じるという実験のためだけに、集められた。それを行ったのが、七原文人……」

 

その名を出された瞬間、小夜の眼に怒りの色が宿る。

 

「なぜ、お前がこれを持っている?」

 

「――逸樹が、俺達に送ってきてくれた」

 

予想外の名を出され、小夜の瞳に動揺の色が走る。

 

「君の前では、鞆総逸樹と名乗っていたと思うが……」

 

殯の言葉は小夜には入っていない。

 

彼女の脳裏には、捨てたはずの浮島での優しくも偽りの記憶の中で笑う彼の顔が過ぎる。そして、最期に自分を庇って撃たれ、小夜の前で事切れる顔も―――無意識に握る手に力がこもる。

 

「彼は、セブンスヘブンのイベントに参加し、命懸けで俺達に監視カメラの画像を送ってきてくれていた」

 

「あの、その人って……?」

 

思わぬ言葉に真奈が反応する。

 

浮島のイベントに参加していたなら、父親の行方を知っていると思ったからだ。

 

「私達と行動を共にしたことはなかったけど、サーラットのメンバーでした」

 

殯の代わりに答えた矢薙に次の言葉を続けようとして、真夜が遮った。

 

「真奈、今殯さんが言っていたとおりよ。浮島で小夜以外に生き残った人はいない……七原文人を除いて」

 

冷静な口調でそう諭され、真奈は口を噤む。

 

「それに、逸樹はいくつかデータを送ってくれていたんだが、生憎と暗号化されていてこちらでは分からなかったが、彼女がそれを解析してくれた」

 

不意打ちに近い言葉に真夜がハッと顔を上げる。

 

殯の視線につられて小夜が真夜を見やる。

 

「彼女がデータを解析してくれなければ、君のこともそこまでは分からなかっただろう。そうだろ、一条くん?」

 

その問い掛けに、真夜は視線を逸らす。

 

(ここで私に…小夜への警戒心を煽るつもり?)

 

真意は図りかねたものの、真夜は一拍置いて声を発した。

 

「ええ、生憎とセブンスヘブンのメインサーバーから抜き取ったデータだったから、迂闊に開けず、暗号化されていたけど、解析することができたわ。そこで、実験の詳細、そしてそれを行ったのが、『塔』と呼ばれる組織」

 

重い口調で告げた真夜の言葉に暖炉の薪が反応するように崩れ、炎が揺らめく。

 

真夜はそのまま小夜の傍まで歩み寄り、タブレットを操作してある企業のデータを呼び出す。

 

セブンスヘブン――あらゆる事業に手を伸ばす巨大複合企業、その代表者のところに小夜にとって忘れられぬ男の顔が載せられていた。

 

「……文人」

 

苦々しくその名を零す。

 

浮島で幾度となく接してきた微笑を携えて映る仇敵の顔に、無意識に手の力が強くなる。

 

「表向き、文人はセブンスヘブンの会長として、活動している。その企業規模ゆえに、政界とも強いパイプを持っている。浮島の実験を隠蔽することなど造作もないだろう。それに、新しく施行された青少年保護条例にも一枚噛んでいるらしい。もっとも、あの男が興味があるのは、もうひとつの方だろうがな」

 

そこで殯は車椅子を動かし、執務机から移動して、小夜の傍に移動し、暖炉の前で薪を取り、放り投げる。

 

放り投げられた薪は火に呑まれ、炎をまた強く燃え上がらせる。

 

「文人は、『塔』であることを成し遂げようとしている」

 

「……あること?」

 

文人の動向に注意が向き、殯に向き直るも、小さく首を振った。

 

「あること――としか分かっていない。何をしようとしているのか、正確なところは掴めていない」

 

落胆の色は見えなかったが、小夜はどうしても引っ掛かりを覚えた。

 

「なぜ…そこまで文人のことを……?」

 

「七原文人が、俺から自由を奪った男だからだ――」

 

平淡な口調で告げられても、殯の様子が変わったことに、小夜も眉を寄せる。

 

「本当に――それだけですか?」

 

そこへ意外な一言が投げかけられた。

 

全員の視線が集中する――先程の言葉を発した真夜に。当人は、その視線を受けても平然といている。

 

「どういう意味かな、一条くん?」

 

「――いえ、私の思い過ごしです。気にしないでください」

 

殯のどこか低い声にはぐらかし、手元のタブレットを操作し、一枚の写真を映し出す。その写真に小夜は小さく動揺する。

 

それは、小夜にとって偽りの中であっても確かに感じていた幸福な時間の記憶――ギモーブで笑い合う小夜と文人……その写真を一瞥し、真夜は小夜に向き直る。

 

「鞆総逸樹――彼が送ってくれたデータは、断片的ではあったけど、浮島での実態を僅かながら理解することができた。そして…貴方が、今とは別人のように振舞っていたこと。それがすべて七原文人に仕組まれたことだということは分かったわ」

 

どこか悲しげに見る真夜に、憐憫を感じ、小夜は視線を逸らす。

 

「小夜――君は、文人を捜してここ、東京までやってきたんだろう?」

 

「なぜそう思う?」

 

「浮島での実験が終わってから今日まで、君はここに近づきながら、その先々で文人を捜して騒ぎを起こしていたからな。もちろん、ニュースなど世間には知られていないがね」

 

浮島から飛び出し、去った文人を追ってきた小夜は、皮肉にも与えられた偽りの記憶の中での知識から、どうすればいいかを理解できた。

 

それが更なる怒りを煽り、ここに辿り着くまでに文人に関するものに当たれば、手当たり次第に探っていた。

 

そのほとんどが、空振りではあったものの、小夜はこの地へと辿り着いた。

 

「なら―――」

 

「噂にはなっていましたから」

 

ここで初めて矢薙が口を挟んだ。

 

「信憑性にかけるものだったけど、こちらで裏を取りましたから」

 

今の日本はネットというひとつの無限空間を形成している。いくら世間には隠せても、人の噂までは消せない。眉唾なものから始まり、それらの情報の整合性を図るのは、並大抵ではないものの、サーラットにはそれを成せるだけの人材があった。

 

「今、日本――特に、東京はネット規制が厳しいけど、うちには優秀なハッカーがふたり…いえ、さんにんいるわ」

 

矢薙はドアに手をかけて開くと、向こう側から耳をそば立てていた松尾と藤村が雪崩込むように倒れた。

 

その二人を尻目に、この場には似つかわしくない小柄な少女が覗き込みながら、眼を輝かせて飛び込んできた。

 

「真奈ちゃん」

 

「月ちゃん」

 

「おかえり、真奈ちゃん」

 

一直線に真奈に抱きつき、笑顔を浮かべる月山に真奈も微笑み返す。

 

「うちの優秀なハッカーのひとりはが彼女、月ちゃん――月山比呂さん。そして、もうひとりは貴方の隣にいる、一条真夜さん」

 

その言葉に小夜は警戒しながら真夜を見やる。どこか苦い表情でぎこちなく笑うと、小夜は顔を顰めたまま逸した。

 

「そしてもうひとり――」

 

矢薙の視線が倒れているふたりに向けられ、藤村が自己主張しながら立ち上がるも、次の言葉に肩を落とした。

 

「かどうかは別にして、メガネの子が藤村駿くん。そして、大きい方が松尾伊織くんよ」

 

その紹介に藤村は空笑いで頷き、松尾はぶっきらぼうに返した。

 

「あとは――柊真奈さん」

 

「よろしくね」

 

真奈もぎこちない笑みを浮かべて会釈するも、小夜の興味はない。

 

「小夜さん――私は矢薙春乃。殯さんの秘書をしています。以上が、サーラットの主力メンバーよ」

 

「他にも、ネットを通してサーラットい協力してくれている人達はたくさんいるの」

 

「みんな、今の青少年保護条例やネットの規制、変な法律とか条例を廃止させたくて、頑張ってるんすよ!」

 

自分達の主張を高らかに告げられるも、小夜の興味はない。

 

もっとも、小夜にとっては主義主張や倫理観など関係ない。彼女の求めることは唯一つなのだから――さして感慨も抱かず、視線を殯に向ける。

 

「文人は今、どこにいる?」

 

「文人は公の場にはほとんど姿を見せない上に、居場所も明らかにしていない」

 

その返答に明らかに落胆したように小夜は眉を顰める。

 

「知らない――ということか」

 

なら、ここに用はないとばかりに身を翻しそうになる小夜を殯は言い止めた。

 

「手立てはある」

 

その言葉に再度視線を向けると、小さく微笑む。

 

「彼らを中心に、シスネットのシークレットネットワークを通じて協力しているサーラットが、君に七原文人の情報を提供しよう――」

 

語られる内容は小夜にとって不利益なものではない。

 

どの道アテなどないのだ。このまま闇雲に捜すよりも、効率はいい…だが、小夜とて永く生きてきた身――多少の駆け引きは心得ている。

 

ただの善意で協力するなど、ヒトが持ちかけるはずなどないことを―――嫌というほど……

 

「――対価は、私の力か?」

 

「ああ…文人の下には、古きものがいる。それらにはさすがに対抗手段がない――」

 

だが、小夜はやや不思議そうに視線を真夜へと向ける。

 

「…どうだろうか? 悪くはない取引だと思うんだが」

 

小夜の様子に気づかず、そう問い掛けると、一拍置いて小夜は小さく肩を竦めた。

 

そして、視線が手元のタブレットへと向けられる。

 

「……いいだろう。だが、七原文人は私の獲物だ――それを忘れるな」

 

鋭くなる視線で画面で笑う文人を――そして、過去の自身を睨む。

 

向けられたわけではないというのに、威圧感のようなものを覚え、執務室の空気がどこか重くなった。




さらっと流すつもりがつい書いてしまった屋敷編。

次は少し話を挟んでミセ編に入ります。
その後小話挟んでいきます。
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