BLOOD-C Light which cultivates darkness   作:MIDNIGHT

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弍話

「へぇ、真夜ちゃんも十字学園に通ってるんだね」

 

「う、うん…」

 

ぎこちない返事を返しながら手元のコーヒーを掻き混ぜる。

 

はからずもエンカウントしてしまった真夜は、そのまま流れるように真奈に捕まり、秋葉原の喫茶店にて会話を交わしていた。

 

(はぁー正直このタイミングで知り合うことになるなんて……)

 

気づかれないように内心で溜め息をつく。

 

いずれは接触することを考えていたが、こうも早く出逢うことになるとは……おかげでこちらは何の心構えもできていなく、少し戸惑っている。

 

(でもまあ、どうやって近づこうか考えてたし、これで良かったのかな)

 

結果オーライと捉え、今は取り敢えず彼女との会話を進めるべく、相槌を打つ。

 

「でも、驚いたな。同じ学園に通ってる人の中で私と同じ趣味を持ってる人いたんだね」

 

悪意のない笑顔で言われるも、返答に困る。なにせ、自分がこの世界に来たのは昨日だ。それまでの生活は与えられた知識の中での記憶でしかない。

 

「うん、私も驚いたかな。でも、私が興味持ったのって遂最近だから」

 

「そうなんだ。ねえ、なにか解らないところがあったら、アドバイスするけど」

 

眼を輝かせて身を乗り出さんばかりに話し掛ける真奈に、真夜は戸惑う。

 

(こんなに話すんだ……)

 

彼女の中には、知識としての彼女しかない。父親を無くし、自分を責めている――それが彼女に抱いていた印象だったのだが、彼女自身の全てを見たわけではない。

 

この頃はまだ父親も傍にいて、塔とサーラットの抗争など、遠い世界のことでしかない。

 

「あの~真夜ちゃん……?」

 

「あ、ご、ごめんなさい。何だっけ?」

 

先程から反応を返さない真夜に首を傾げると、慌てて返事をする。

 

「だから、何か分からないことがあったら、遠慮なく訊いてねって」

 

「あ、う、うん」

 

「じゃあ、私のアドレス教えておくね」

 

いそいそと取り出すそれは、馴染み深いモバイルフォン端末――そこで、自分は持ってないことに気づいた。

 

「あ、ご、ごめん。私、この間壊れちゃって今新しいの探してる途中なんだ」

 

「あ、そうなんだ。それじゃメモに書いて渡しておくから、何かあったら連絡して。うち、お父さん仕事で遅いからだいたい返事はできると思うよ」

 

改めてメモとペンを探してバッグを見る真奈に、聞き逃せないことがあった。

 

(やっぱり、まだお父さんは無事なんだ)

 

そこまで考えて不意に頭を擡げた。

 

この先に起こる事――なるべくイレギュラーを起こしたくはない。下手に干渉し、なにか予測不可能な事態になったときに、自分の持つ知識のアドバンテージがなくなってしまう。

 

だが、こうして屈託なく真奈と話し――本当の彼女は明るい女の子だったんだと改めて思った。だが、それも曇ってしまう――父親の失踪で…自らを責め、そして苛まれる。

 

自分はこの先に起こる悲劇を知っている――できるのなら、この笑顔を曇らせたくはない。物語の中の登場人物の一人でしかなかった『柊 真奈』という存在に触れて、そういった想いが湧き上がってくるのを止められなかった。

 

なにより、その父親は"古きもの"となり、そして小夜に討たれる―――その事実を知ることなく二人は別離する。その結末を自分はどうしたいのか……今は答が出なかった。

 

「はい」

 

そんな真夜の心情に気づかず、メモを差し出す真奈に、ぎこちないながらも笑顔で受け取る。

 

分かれた後にも――その小さな葛藤を胸に抱いたまま、真夜は帰路に着いた。

 

 

 

 

それから翌日――真夜は緊張した面持ちで鏡の前に佇んでいた。

 

鏡に映る自分の姿は、あの十字学園の制服姿――学生であるのだから、ごく自然の格好のはずなのだが、どうにも違和感というか、戸惑いが大きい。

 

この辺のギャップは未だに大きいのだが、いつまでもこうしている訳にはいかない。

 

徐に、自身の髪を触る。腰まで届く黒髪なのだが、どうにも動きづらい。仕方なく、髪を後ろで束ねて頭上で結び、根本でまとめる。所謂ポニーテールだ。初めてやったのだが、なかなか様になっている――そのまま用意していた鞄を抱え、新しい学び舎に向けて駆け出した。

 

十字学園はマンションから電車で30分ぐらいの位置にあり、駅を降りると同じ制服を着た学生達が学友と話しながら学園に向けて歩んでいる。

 

その光景が、どこか非現実的なものがあったが、真夜も意を決して歩みを進める。

 

知識の中にある記憶―――それらを整理しながら、校舎に入り、自分のクラスへと入る。

 

「あ、一条さんおはよう」

 

近くにいた女生徒が挨拶してくれ、その顔を知識の中から呼び起こし、名前を一致させながら応じる。

 

「お、おはよう」

 

多少ぎこちなくなってしまったが、そのまま自分の席と思しき場所へと小走り気味に寄り、腰を落とす。

 

小さくため息を零し、肩を落とす。この世界に違和感なく溶け込んではいるが、自分にとってこの世界は今までとまったく別の世界のため、どうにもズレのようなものがある。

 

だが、それをどうにか直していくしかない。教室を見渡し、顔と名前を一致させる作業を内心で始める。気持ち的には転校したてのクラスに馴染もうとする感覚に近いのか――と、考えていると、不意に背後から声を掛けられた。

 

「一条さん」

 

「え…あ、なに?」

 

「別のクラスの娘が来てるけど」

 

慌てて振り返ると、クラスメイトがドアを指し、そちらに視線を移すと、そこには真奈の姿があった。小さく手を振りながら笑顔を浮かべている。

 

「あ、ありがとう」

 

席を立って真奈に近寄ると、小さく笑う。

 

「よかった、クラス間違ってなくて」

 

「ごめんね、わざわざ」

 

「ううん、いいよ」

 

「あ、昨日あれからあたらしいモバイル買ったんだ」

 

懐から取り出す新しいモバイル――黒で統一されたそれを見せ、真奈も喜んで話に加わる。

 

それは、嵐の前のほんの一時…だが、それはやがて嵐になることを真夜はひしひしと感じながら、この世界に存在する。




遅ればせながら弍話です。

真奈のキャラって映画以前の性格が掴みにくいので、結構想像で書いてます。
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