BLOOD-C Light which cultivates darkness   作:MIDNIGHT

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参話

マンションの自室にて真夜はキーを叩きながらパソコンに向かい合っていた。

 

画面にはいくつものウィンドウが現れては消え、次々と表示される。

 

「っと、ここで回避っと」

 

何気にポツリと漏らし、画面上に映っていたセキュリティを回避する。こうしてハッキングに勤しんで既に数週間ほどが経っていた。

 

ネット環境を構築し、購入したPCにツールを施してハッキング用に処理能力を上昇させた改造キットを組み込んで実践したのがついこの前―――手元のコーヒーを飲みながら、技術を教えてくれた親友に感謝した。

 

十字学園で真奈と親しくなったおかげか、休み時間やお昼を一緒にするほどまでになった。これまで身近で自分の得意とすることで話せる相手がいなかった反動なのか、とにかく真奈は楽しそうにしていた。

 

それこそ、自宅に招待するまで――彼女の家で彼女のハッキング能力の凄さを垣間見、そしてその技術を教えてもらった。ある程度の知識はもらったが、いざ実践するとなるとまた違ってくる。

 

だが、教えられた基礎知識が情報とうまくリンクし、より高度な方法へと応用がきく。そのため、僅か数日で真夜は真奈に匹敵するほどのハッキング技術を身につけていた。

 

(原作でも月山比呂に教えてた、って言ってたしね)

 

サーラットのハッカーである中学生の女の子――彼女の紹介で真奈はサーラットに加わったのだろうか……そもそものサーラットの活動の詳しいことは分からない。

 

だが、いくら能力があっても中学生をメンバーに加えるなど、殯は何を考えていたのだろうか。

 

「案外、ロ○コンだったりして…」

 

相手の実態が分からずに少し苛立つも、思考は別のことを考え始める。

 

(優しそうな人だったな……)

 

不意に脳裏を掠めたのか、先日真奈の家にお邪魔した際に邂逅した彼女の父――柊真治……文人によって古きものとされ、真奈を襲い、そして最期に…小夜に討たれる――――

 

手が止まり、消沈した顔で俯く。

 

(どうしたらいいんだろ……?)

 

真奈と出会ってからずっと胸で燻り続けている問い――知らなければ、真夜はそのまま見て見ぬ振りをしたかもしれない。だが、出会ってしまった…知ってしまった……

 

真奈にとって大切な肉親――優しく微笑む姿が、瞼に焼き付く。

 

父親を喪い、真奈は心に大きな傷を負う。自分はそれを知っている…運命の糸が絡み、真奈は自らのハッキングを封印してしまう。

 

その真相を知ることなく―――果たして、自分はどうしたいのか。

 

いや、本音は既に決まっている。見殺しにしたくない―――眼の前で死ぬと分かっている人を見捨てるほど、真夜はリアリストでもない。

 

以前までなら、この世界はただの物語の中と割り切り、そして納得できたかもしれない。だが、この世界で生きているのは紛れもない。

 

「どうすればいいのよ……」

 

助けて…本来死ぬはずであった人間を助け、予想もできないイレギュラーを呼ぶことを恐れているのか……ただ、それだけが心にブレーキをかけている。

 

深く考え込んでいたが、唐突に鳴った音にハッと我に返る。

 

画面では、警告を告げる表示がされており、慌ててコンソールに向き直る。

 

「やばっ」

 

今はハッキング中だったと意識を切り換える。そうすることで、今の葛藤を内に押しやるように…そうこうしている間にも真夜の指は滑るようにキーを叩き、次々と画面を表示させ、処理されるデータの波が瞳に反射する。

 

「出た…っ」

 

プロテクトを破り、たどり着いたのはセブンスヘブンのメインサーバーに記録されている膨大なデータ。

 

その無数のデータ量に真夜はキーワードを打ち込み、データを検索する。それは少しの時間を要してデータを拾い上げ、表示された。

 

 

――――ロールプレイング『ザ・サバイバル』

 

 

七原文人が企画・立案し、小夜の記憶を封印して行なった実験。その概要が表示されていく。

 

企画の趣旨は主人公である『更衣小夜』が記憶を取り戻す過程の実験であり、それはメインキャストのみにしか知らされていない。

 

「ここまでは原作どおり…実験はどこまで進んでるんだろ?」

 

実験の経過を見るべく、さらにデータを進め、やがて進行状況を記したものにぶつかった。

 

それは舞台である浮島地区に設置された何百台という監視カメラから撮られた映像だった。その映像ファイルには、浮島の生活の全てが事細かに記録されている。

 

日常生活に溶け込む小夜だけでなく、浮島で生活する多くのエキストラと呼ばれる人々の擬似生活までもが見逃すこともなく残されている。

 

徹底した管理と秘密主義――一度入ったら、逃げることは叶わない檻…エキストラ達はそれを知ることなくその生活を送る。

 

だが、その裏で多くの人間が殺されていた。

 

映像ファイルと共に添付されているのは、古きものに喰われる役になったエキストラが本人に知らされることなく載っている。そのファイルだけでも何人もの人間が載っており、全て『死亡』という文字が羅列されている。

 

「っ……」

 

真夜は言い知れぬ息苦しさと寒気、そして吐き気を憶えた。

 

アニメを観たときはほとんど描写されていなかったが、古きもののために…そして実験のためだけに、これ程の多くの人間が犠牲になっていた。

 

それすらも、完全に隠匿して――思わず止まってしまった手を動かし、次のファイルをクリックする。

 

表示される映像ファイル――それは、小夜と古きものの闘いの映像だった。浮島に現れる古きものはすべて七原文人によって使役されている。故に、これだけ鮮明な映像が記録できているのだろう。

 

御神刀を振るう小夜が闘うのは、電車の車輌に取り憑いた古きもの――この話は憶えている。映像の記録を見ると、それは一昨日の日付だ。

 

「ってことは、まだ時間はあるってことか」

 

時系列を把握し、今後のスケジュールが立てられる。

 

だが、真夜の思考はそれを一瞬の内に掻き消した。映像の中で闘う小夜の姿を――どこか魅入られたように見入っていた。

 

人ならざる「古きもの」と闘う彼女の姿…創りものの映像ではない。現実として今そこにある光景――古きものは確かに初めて見た瞬間、思わず身震いしてしまった。

 

頭では理解していたものの、その人智を超えた存在とこの先において対峙することになるであろうものに心が思わず拒否反応を示した。

 

正常な神経の人間なら当然の反応であろうが、それはほんの一瞬だった。それ以上に、真夜は小夜の姿に眼を奪われた。

 

雄々しく…そして凛とした中に混じる狂気にも見える気配――それは、彼女の持つ美しさを際立たせていた。非現実の中で闘う彼女の姿は、確かに見る者にとっては忌避するかもしれない。だが、見る者によっては強く惹きつけられる魔性のようなものを放っている。

 

(七原文人が執着した理由――なんか、分かっちゃったかも……)

 

内心、あれ程小夜に――己の存在を賭けてまで求めた気持ちが少しは分かるような気がした。

 

「でも」

 

そう――だからといって、今更同情することなどできない。真夜は、小夜の未来を変えるためにこの世界に来たのだ。

 

気持ちを奮い立たせ、もう少しなにか情報を引き出せないか、データバンクを見ていると、そこに別の映像ファイルがあった。

 

これだけが浮島での映像と違うファイルに保存されていた。気に掛かったため、そのファイルを開くと、やや粗い映像が出てきた。

 

画面も粗く、また映像も今ではほとんど見ない白黒のどこか時代を感じさせるものだが、映っているのは軍の基地のようだ。

 

暫しその映像が続いていたが、映像の中から銃声と人の悲鳴が突然響いた。息を呑むと同時に映像が切り変わり、軍人が銃を手に何かに発砲している。

 

喋っている言葉は聞き取りにくいが、英語のようだ。それに軍人達の出で立ちから、アメリカ兵のようだと認識する。

 

いったい、兵士達は何に驚いているのか――それは次の瞬間、画面に映った巨大な影によって分かった。

 

「古きもの…っ」

 

黒く大きな異形の生物が兵士達を襲っている。懸命に応戦するが、何の意味も成していない。

 

その間にも次々に襲われ、兵士達が喰われていく。その光景に嘔吐感が込み上げてくる。いつまで続くのかと思っていたが、映像を撮っていたと思しき者が声を上げた。

 

《Lucy!》

 

声と共に向けられた先には、ウエーブのかかった髪を靡かせる軍服の女性の姿。

 

《Leave here.》

 

女性は慌てるでも動揺するでもない。古きものを相手にしているというのに少しも臆していない。

 

《It asked――SAYA》

 

「え…?」

 

画面の奥で発せられた名に、眼を見開く。

 

ルーシーと呼ばれた女性が不敵な笑みのまま一歩下がり、その奥から別の人影が姿を現す。手に日本刀を構えるセーラー服の少女――小夜が立っていた。

 

小夜は無表情のまま刀を抜き、古きものに対峙する。

 

だが、それも一瞬。振りかぶった小夜の刀が振り下ろされた瞬間、古きものは一刀両断され、その姿を崩れさせていく。真っ二つになった古きものの体内から噴き出す鮮血を浴び、小夜は静かにそれを見詰めている。

 

どれ程経ったのか、ルーシーが穏やかな表情で声を掛けた。

 

《Tired with labor.》

 

労いに対しても小夜は無表情のままだ。だがそれでもそれを振り払わないのは、この女性に気を許しているのだろう。

 

「ルーシー……」

 

その名には聞き覚えがある。真夜はファイルを閉じ、セブンスヘブンのサーバーから離脱する。いくつものダミーを経由し、完全に痕跡を隠してからログアウトする。

 

作業を終えると、真夜は椅子に身を預ける。疲労を感じるのも無理はないが、すぐさま身を起こし、再度パソコンに向き直った。

 

そして再び別のサーバーへのハッキングを試みる。

 

場所はアメリカ――国防総省……その中にあるであろう『ルーシー』と呼ばれた女性のデータを求めて。




なかなか本編に入らない・・・汗

今回で小夜(間接的にですけど)をやっと出せました。
しかし、また当分出番ないんだろうな。
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