俺は最強なんか求めてない!   作:飛縁魔

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第5話

 翌日、場所は第四訓練場、時間は十三時半。

 そう、第四試合、黒鉄一輝と桐原静矢の試合である。

 廻兎(かいと)香久夜(かぐや)の両者はこの試合の結末を知っている。知っているが、自分たちが関わったことで何かが変わってやしないかと心配していた。

 

 (いや、大丈夫なはず。確かに一輝とは関わってきたけど、戦闘面に関することは特に何もしていない。)

 

 訓練場に二人が向かい合うように入ってくる。

 方や優勝候補の一角、方やFランクの落第騎士(ワーストワン)。彼らは一言二言言葉を交わし、先頭の火蓋は切って落とされた。

 突然消える桐原、後何故か生えてくる木。

 廻兎は隣に座る香久夜に小声で話しかける。

 

 「香久夜、あれなんで木生えるんだろうな」

 

 「さぁ……そういえばよくわからん」

 

 「しかしやっぱ対人戦において消えた上で存在感を消すって厄介だよなあ。俺は広範囲持ってるから問題ねえが」

 

 「私も問題はない。しかし見る限り……一輝が苦戦するのはよくわかる」

 

 矢を撃たれる一輝。それを意に介さず刀で打ち落とす。本体が見えなくとも矢が見えれば対処できる。そういう考えだ。

 しかし。

 

 「ぐ、ああぁ!」

 

 突然の苦鳴。見ると、一輝の太ももには穴が開いており、そこには不自然に止まる血の飛沫があった。

 

 「見えない矢、か。緊張してんだな」

 

 「ステラも気付いたようだ。私たちが転生者だとバレないよう、もう少し声のボリュームを落とすとしよう」

 

 「ああ」

 

 そこから先は一方的だった。一方的な『狩猟』。実況の月夜見の声が詰まるほどに。

 致命傷となる場所には矢を打ち込まず、手や足といった部分にのみ矢を打っていく。側から見れば打つ手なし、勝ち目なしの負け戦だ。

 

 「一輝は、こんな戦いをしたんだな」

 

 「正直見ていられないな。私がヤツと当たれば腕の一つや二つ、吹き飛ばしたというのに」

 

 廻兎の顔に皺が寄る。彼に押し寄せる感情はただ一つ、怒りだけだった。そしてそれは、香久夜もまた同じ。

 自分たちの隣にいるステラたち3人を見ると、似たような顔をしていることに気づく。

 しかし、二人には絶対的な自信があった。一輝は勝つと。それは未来を知っているから、というチープな理由ではない。そこにあるのは信頼だ。

 そしてついに桐原が仕掛けた。内臓が詰まった胴体を、撃ち抜き始めた。と同時に煽り始める。

 やがて聞こえ始めるのは観客たちの嘲笑の声。

 

 「あ〜、クソみてえだな。死なねえかなこいつら」

 

 「こらこら、そういうことは言うものじゃないぞ?」

 

 「だって今こうやって嘲笑ってるこいつら、一輝が選抜戦勝ち抜く頃には手のひら返してんだぜ?」

 

 「それは……そう考えると一度死んだ方がいいのではないか?」

 

 「さすがに冗談だがな」

 

 冗談に聞こえない冗談を言う廻兎。事実、今訓練場を支配しているのは一輝を馬鹿にする声だ。

 Fランクが七星剣王になどなれるわけがない。ステラとの試合はヤラセだった。クズだ。ペテン野郎。そういった罵声で埋め尽くされている。少数は一輝を応援する輩もいるにはいるが、数が少なすぎる。

 

 「ま、ここで声を上げるのは俺たちじゃねえよ」

 

 「そんなこと知っているさ。……そろそろだろう?」

 

 一輝の心が弱い方へ傾きかけた、その時だった。

 

 「だまれぇぇえええええええええてええええええええ‼︎‼︎」

 

 あかりに緋色の瞳を燃やし、火炎の燐光を散らす《紅蓮の皇女》、ステラ・ヴァーミリオンの心からの叫び声。

 

 「そうそう、一輝の目を覚ますのはこれじゃないと」

 

 「笑っているぞ?廻兎」

 

 「ん?そうか?いやー、生で聞いたら今までの苛々全部吹っ飛んでなあ」

 

 ステラの叫びはまだまだ続く。

 

 「FランクがAランクに勝てるわけがない?そんなの、アンタ達が勝手に決めつけた格付けじゃないのッ!アタシ達天才には何をやっても勝てない。そうやって勝手に枠にはめて、自分自身の諦めを正当化しているだけ!そうやってお前達が諦めるのは勝手よ。だけどお前達の諦めを理由にイッキの強さを否定するなァッ‼︎」

 

 廻兎達二人はそれを聞いて晴れやかな気分になった。

 二人は知っている。ステラが、一輝が自分よりも強いことを知っていることを。それ故に、それをバカにする奴らを許せないことを。天才が、才能が、努力に勝てないこともあることを。

 

 「知ってるってのもいいもんだなあ。それなりに安心できる」

 

 「いいシーンだ、喋るものじゃないぞ」

 

 「才能なんてその人間のほんの一部でしかない。そんな小さなモノにしがみついてるアンタ達に、イッキの強さがわかるわけがないッ!理解できるわけがない!だからそんな知った風な口で、ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 顔を上げ、ステラの方を向く一輝。その顔は今にも崩れ落ちそうな弱々しいものだった。

 

 「イッキ言ったじゃないの……ッ。他人に何を言われても、自分を諦めないって……!アタシ、そんなイッキとなら、どこまでも上を目指していけるって思ったのよ!だからこんな奴らに好き勝手言われたくらいで、そんな、諦めたような顔するんじゃないわよッ!アタシはそんな弱い男に負けたつもりはないわ‼︎アタシが、……っ、アタシが憧れたのは、……アタシが好きになったのは、いつだって上を向いて、自分自身を誇り続ける黒鉄一輝という()()なんだから‼︎ーーだからッッ

 

 アタシの前ではずっと格好いいアンタのままでいなさいよこのバカァアァアァッ‼︎‼︎‼︎」

 

 直後、一輝が自分の拳でじぶんのがんめんを、音が響くほど強く殴りつけた。

 

 「ありがとう。ステラ。……いい活が入った。」

 

 そして立ち上がる。ゆっくりと、しかし力強く。

 

 「流石に喋れねえよ、今は」

 

 「そうだな。最高のシーンだ」

 

 一輝は叫びながら魔力をかき集める。《一刀修羅》のために。

 そして……。

 

 「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を捕まえる。ーー勝負だ。桐原君!」

 

 「ここで決め台詞!一輝くんカッコいい!最高!」

 

 「ハァ、わかったから落ち着け。廻兎」

 

 香久夜は赤くなっている。例のアレのせいである。

 一応落ち着いた廻兎は真剣な眼差しで一輝を見る。丁度心臓に放たれた矢を掴んだところだった。そう、《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》の発動である。

 そこから先はまるでお返しのように一方的だった。百を超える不可視の矢を放つ伐刀絶技(ノウブルアーツ)驟雨烈光閃(ミリオンレイン)の絨毯爆撃を避け切った一輝は、見えない《狩人》(笑)に近づいていく。

 

 「なあ香久夜、そろそろじゃない?」

 

 「確かにそうだな。声を合わせるか」

 

 「「「そ、そうだ!ジャンケンで決めよう‼︎」」」

 

 「これがやりたかっただけ」

 

 「わかる」

 

  「ひ、ヒィィィィィイィィィィイイイイイイイ!や、ヤメロオオオォォオォオオオオ‼︎‼︎わかった!ボクの負けでいい!ボクの負けでいいから痛いのはいやだああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎」

 

 桐原の情けない声が響く。これには廻兎達二人もニッコリ。

 一輝が、ザン、と一閃を振り下ろした。

 桐原の鼻の頭にはほんの少しの傷がつき、そして気絶した。

 というか降参して気絶した。

 

 「桐原静矢、戦闘不能!勝者、黒鉄一輝‼︎」

 

 レフェリーにより、一輝の初戦勝利が宣言された。

 その後一刀修羅の反動、何より戦闘での傷が大きかったことにより一輝は気絶、IPS再生槽(カプセル)に入れられた。桐原はリングから引きずり出された。ついでに応援の女子に愛想尽かされた。

 

 「ざまぁwww」

 

 「廻兎……」

 

 「何はともあれ勝ってよかった。さ、ステラも病室行ったし、俺らも部屋戻るか」

 

 「そうするとしよう。アリス、珠雫、私たちは先に行くぞ」

 

 「わかったわ、気をつけて。あたしは珠雫と美味しいもの食べに行くから」

 

 「香久夜も今度行こう?」

 

 「ああ、また今度な」

 

 廻兎はなんとなく気まずい想いをしていたが、二人はこうして帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地の文すっくな
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