マイ・フェア・ソード!   作:鳩と飲むコーラ

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13.尋問

 地下牢へやってきた俺は、両拳を握ってやる気を見せるユカリスをなだめながら、目的の場所へと歩く。

 屋敷の地下は区分分けされているようで、階段を降りた先の十字路を左に行ったところが地下牢である。正面は実験や研究のための施設で、右は色々なものを保管してある倉庫らしい。

 いくら媚びを売ると言っても、仮にも紋具職人の作業場やその成果に他人を案内して良いのだろうか。ちょっと無防備すぎないこの子?

 そんな疑問を浮かべながらも、石造りの道を進んでさらなる地下へ降りていく。

 やがてその先に見える扉をくぐると、俺の耳に絶叫じみた声が聞こえてくる。

 

「こらー、出せー! 僕達を誰だと思っていやがる!」

 

 出会った時と変わらず今日も元気なうろたえ少年である。

 訓練の時間とサウザナをよこした時間と合わせてが結構経っていると思ったが、割と元気なようだ。

 正面から並んで三つの牢屋にそれぞれ三角巾娘、うろたえ少年、その他……ダルメンによって捕獲されたためか、右の牢屋だけ三つの樽が所狭しと置かれており、開いた蓋の中から足だけをひょっこりと覗かせている。

 俺の足音に気づいたのか、樽の一つが足の位置を変えた。何故か、視線が合っているような気がした。が、今は真面目な話をしたかったので、努めて無視した。

 

「へえ、聞けば教えてくれるのか?」

「なっ、お前は!」

 

 それに割り込んだ俺達を見やり、うろたえ少年は動揺しながらも寄ってくる。

 鉄格子のせいで体を阻まれ、それ以上近づくことはなかったがそれでも眼光鋭く俺達を睨んでくる。それを意に介さず、まず自己紹介をした。

 

「名乗ってなかったな。俺はネムレス・ノーバディで、この小さいのがユカリス。そしてこっちが」

「アーリィと申します。すでに見知っておられるかと思いますが、改めて」

 

 アーリィの皮肉を感じているのか、歯ぎしりして俺達を睨むうろたえ少年。

 ユカリスが対抗するように口を広げていーっ! と歯をむき出しにして威嚇すると、うろたえ少年は少しビクついた様子だった。ユカリスにビビるなよ。

 

「一応前口上として言っておく。素直に知っていること全て話して、今後一切アーリィやこの街に手を出さないって誓う気はあるか?」

「ど、洞窟ではちあっただけだろ。そっちの子は関係――」

「ちなみに、こっちはお前らがアーリィを一ヶ月前から監視していたことを知っている。そんな相手にこれだけの恩情見せてる子を蔑ろにする、ってんなら俺は容赦しない」

「……ネムレス殿」

 

 アーリィの恩情というのは俺が勝手に言っていることだ。アーリィも突然そんなことを言い出した俺に驚いたようだが、名を呼ぶだけでそれ以上は何も言わない。

 

「殺しはしない。でも、お前ら軍人にとっちゃ死ぬより辛い目に合うぞ」

「な!?」

 

 うろたえ少年が盛大に反応するが、三角巾娘やこちらを見ている他の面々に表面上変化はない。三角巾娘はともかく、樽に変化は求めても無理だとは思うが。

 心の中を読めるツギハギでもあれば簡単だが、似たようなものはあれどそんな便利なものはないので、己の予測を信じながら話を続ける。

 

「信じる信じないかはそっちの自由だ。じゃあ最初に。お前らの背後には誰がいる? 〈理に潜む理〉を使っている上に部下持ち、個人での動きってことはまずないだろ」

「な、なんでその名前を知ってるんだお前! ただの護衛じゃなかったのか?」

 

 打てば響くなこいつ。罠かと疑うくらいだ。

 どこぞの軍人とは確定出来ないが、指示を出す上が居る確率は高い。持ってる情報は少なそうだが、取っ掛かりさえあれば十分だ。

 思考を横目に三角巾娘と三つの樽――イッタル、ニタル、サンタル――の反応を伺う。彼女は口を引き結んで俺を見ているが、何か行動を起こすことはしていない。イッタル達は微動だにせずに俺を凝視しているような気がした。

 さっきの反応も踏まえれば、つつくのはうろたえ少年だ。

 

「さてな。情報ってのはどれだけ隠しても漏れるとだけ言っておく」

 

 実際サウザナが知っている理由は知らないが、五百年も放浪して己を磨いたのなら案外〈理に潜む理〉の原型誕生に立ち会っている可能性もありそうだ。

 

「ま、話したくなければ話さないでいいぞ。代わりに、こう聞こう。お前らをここに残しておくことで何が起こる?」

 

 一番知りたいのはこれだ。

 仮にこの二人を留めるないし解放することで生まれる不利益というものが知りたい。

 奪還のために事を起こすのならアンネの街が戦場になる可能性があるし、解放した後に改めて監視者ないし刺客がやってくるならイタチごっこにしかならない。

 撃退してしまった時点で最早引き返せない道にある。少なくともこいつらの注目を俺に集めるのが一番いい。

 うろたえ少年は口で挑発出来るけど、三角巾娘どうやって気を引くか。

 やっぱりあれが一番怒らせるのに一番いいか。

 

「そんなこと言うはずないだろう!」

「つまりある程度予想は出来てるってことだな? ほれ言っちまえよ、全部ぶっ倒すから」

「はんっ! あんな折れて不格好な剣を使っ……!」

 

 言い切らせる前に、俺は腕を伸ばし鉄格子にすがっていたうろたえ野郎の首をつかむ。

 皮膚をつまみねじり込むように回すことで圧迫感を強くした。

 

「あが、が、ぐ、う……」

「なんだお前、ぶっ叩くの頭にして欲しかったのか?」

「もひゅ、ね、あ、の、え……」

 

 サウザナの一撃を受けてもそう言えるのなら大したものだ。これはしっかりと武器としてのサウザナの魅力を教えてやるしかない。

 今は手で勘弁して欲しいが、代わりに丁寧に落としてあげよう。

 うろたえ野郎の首を掴んだまま、俺はもう片方の手にタンクルを集めた瞬間、三角巾娘が口を開いた。

 

「……剣の一族の遺産。それが我々の目的だ。ある筋から、あの洞窟にそれがあるという噂を聞いて訪れた」

「! ネムレス殿、もう良いのです、ですから手を」

 

 アーリィのか細い手が俺の手を止めようとしていたことに気づき、うろたえ少年の手を離す。ユカリスは目を丸くしながら首を左右に振らし何もできないでいた。

 

「……げ、っほ! お、お前……」

「申し訳ありません。少し、お休みを」

 

 意識はあったか。ある程度鍛えてはいるみたいだ。

 うろたえ少年は背中を強烈にぶつけるほどの勢いで後ずさり、恐怖や悔しさ、無力な自分への怒りなど色々な感情に満ちた瞳で俺を見据えている。

 だがそれも一瞬のこと。すぐさまアーリィが手をかざすと、そこから漏れるタンクルの光がうろたえ少年に当てられて気を失った。

 寝息が聞こえるのを見ると、相手を眠らせるツギハギのようだ。正直助かる。

 そしてうろたえ少年が発した感情以上に、けれど静かで氷のように冷たい怒気を孕んだ視線が飛んでくる。良いタイミングで三角巾娘の気が引けたな。

 チリチリする肌の感触は、それを察知したユカリスが撫でて和らげてくれる。……別に怖いわけではないが、ここはユカリスの世話を受け入れておくか。

 

「そう睨むなよ。誰だって大事なものの一個二個千個くらいあるだろ? こいつはそれを侮辱した。怒るのは当然って話なもんよ」

「それは他人にも適応される、ということは知っている?」

「当然。でも、おかげで喋ってくれただろ?」

「挑発のために彼を苦しめたの?」

「それは偶然。選択肢の一つだったけど、愛剣をけなされたからちょうどいいやと思って実行しただけさ」

「…………殺しかねない雰囲気を感じたが」

「アーリィ、ところで剣の一族ってのは?」

 

三角巾娘をスルーしてアーリィに目を向けると、一つ頷き翻訳してくれた。

 

「剣の一族とは、遡ること五百年ほど前。剣都ルオの前身となった無名の国に仕えていたとされる一族のことです。かの国は一時期混乱を迎えており、その中で建国の王の遺志を守護していたとされる者が王から受け継いだ遺産と共に失踪し、世界に散ったとされています。その者と縁者はこの五百年もの間、各地で目覚ましい活躍を見せ、彼らの手にはすべからく王の遺産である特別な剣を携えていた……ということからそう呼ばれておりますな」

(ちなみに無名の国ってのは私達の国のことだから。なーんで無名なのかはまあ、人間の作る歴史って奴)

 

 俺らの国かよ! つまり剣都って俺達の国が発展して生まれた場所なのか。

 名前消えてるのも驚きだけど、剣の一族なんて居たか? そんな名称知らんぞ。

 声には出さず、〈イメージボイス〉でサウザナに詳しいことを聞く。すると、予想外の答えが返ってきた。

 

(それ私。色んな剣になって各地を巡ったって話はしたでしょう? 出身語った覚えはないけど、噂が噂を呼んで剣の一族なんて呼ばれてるの)

(ご本人、じゃなくてご本剣かよ。今回の出来事において大体お前が関わってんのな)

(召喚のツギハギ覚えてからは、貴方と会うことに専念してなかったんだけどね。あーでも、協力してくれたあの子達が剣の一族ってことになるのかしら?)

 

 物思いに耽るサウザナ。

 俺の知らない、サウザナの物語。それは果たして、どんなものだったのだろうか。

 そんな俺とサウザナの脳内会話をよそに、アーリィは説明を続けてくれる。

 

「剣の一族は剣都ルオとは無干渉を貫いているといえ、様々な確執があると聞き及んでおります」

(あー、まるで関係ない事で難癖つけて狙ってくる奴らいたわー。手を出すデメリットのほうが大きいって覚えさせてからはピタリと止まったけど、強欲ねえ)

 

 剣都からすれば剣の一族の持つ剣は自国のものである、なんて思ってるんだろうな。

 サウザナと関係なく独自の歴史を紡いでいるのなら、積み重ねてきたものを大事にすればいいものを。

 

「よくご存知で。やはりただの子供ではないようだ」

「恐縮です。数十年ほど前ですが、歴史上始めて生み出されたとされる飛空戦艦隊を投下したあの戦いも、それらの因縁から発生したもの……という噂ですな」

「つまりこいつらは剣都ルオの軍人で、持ち逃げされた技術を回収する任務を請け負っている。そんな中、あの洞窟の中に剣の一族の遺産があると踏んで、それを暴こうとしてるアーリィに目をつけたと」

「あくまで可能性ですが。剣都ルオでなくとも、剣の一族の遺産を求める者は多い。彼女らの正確な背景はわかりませぬが……〈理に潜む理〉を使うというだけで、その国の出自かどうかは判断できません」

『あくまで国が発祥ってだけで、よそに流れない理由にはならないからね』

 

 国家技法とあっても、言ってはしまえばそれはツギハギ的な名産品らしい。

 主流として使われているのがその国なだけで、他国が独自に開発ないし使い手が別の場所に所属している、という可能性だってあるそうだ。

 あるいは、こいつらが剣の一族で遺産の守り人ということだって考えられる。そこまでいくとなんでも成り立つ妄想の域なので、素直に遺産を狙う何者か、と仮定しておこう。

 

「実際アーリィだって探してたわけだもんな」

「赴く理由は明かしていないはずなのですが。そもそも、あの洞窟にあるものが剣の一族の遺産であることすら知りませんでした」

「……我々は」

 

 言葉を強く、短めに。だからこそ唐突に語りだした三角巾娘の声に耳を傾ける。

 

「剣の一族の遺産を見つけてしまったのなら、何をしても手に入れる。例えそのつもりがなくても」

「なるほどね」

 

 情報の裏を探ろうと思考する。もう少し引き出せるか?

 

「今の状況、見つけたって扱いになるのか?」

「部下に怪我人が出ただけなら誤魔化せた。でも、私を捕縛しツギハギの封印という技術を見せてしまった。我々の体にはあるツギハギが刻まれ、自身の体調やかけられたツギハギやその効果が術者へ逐一記録されている」

 

 遠隔操作で体調に加えて、かけられたツギハギの構成を把握出来るツギハギ?

 話が真実ならば、ツギハギを封印された時点でその機能を停止しているはずだが……

 

「それが突然途絶えたとなれば、死亡か何らかの要因と判断される可能性が高い。その場合私の身柄確認ないし回収のため新たに部隊が派遣される。そこで私の生存を知ってしまえば、そこの彼女が何らかの未知の技術を手にしたと判断されるだろう」

 

 そう言い切り、三角巾娘は自分を戒める手錠の鎖を鳴らす。実際はサウザナのツギハギの上にかけているだけなのだが、紋具であるのは見てわかるから勘違いしているのだろう。

 

「私達は街で過ごしている中、突然洞窟に飛ばされた。装備もおざなりにね。早く行けってことだったんだろうけど、結果はこの始末。脱出もさせてくれないってことは、見捨てられたかこの紋具が強いのか……」

 

 洞窟探索に似つかない格好なのはそういうわけか。サウザナから転移反応の報告はないし、おそらく前者が正解なのだろう。

 しかし予想外に喋ってくれる。

 心臓は強いのに尋問に弱いタイプだったか? と訝しげに見れば、その理由を説明してくれた。

 

「元々、ここに来たのは色々なしがらみ故に僻地に飛ばされただけ。……アンネの街の近辺にある剣の一族の遺産を見つける任務を受け渡された」

「えらく素直だな」

「誤魔化しは不可能だと思っただけ。剣獣はないし、手に入れた技術の中に自白を強要するものもある可能性が高い。なら、さっさとこちらの目的を明かしたほうがいい」

 

 あるのか? とアーリィに目を向けてみるが彼女はきょとんと俺の顔を見上げるだけ。ややあって頷いてくれたが、なんとなく俺とアーリィの考えていることが違いそうな気がした。

 そんな心中など知る由もなく、三角巾娘は続ける。

 

「正直、期待なんて微塵もしてなかったし今日まではその通りだと思っていた。あの洞窟には何もないし、ここら一帯はどちらかと言えば五領国の領分だから、あの国が剣の一族の遺産を調べていないはずがない。報告らしい報告は、小さな賢者という子供の存在だけ。私達からすれば、流刑のようなものだった」

 

 五領国……アンネの街は、その国の領地ってことか。

 この子の口ぶりから、この国も剣の一族の遺産を狙っていそうだ。

 

「でも、彼女が開発したのは主に水関連の技術。お風呂に水道処理、確かにここら一帯では革新的なものであるが、うちの技術者や世界で見ればそう貴重なものではない。もちろん、それを成した年齢は驚くべきものだけど」

「照れますね」

「もう少し照れた顔をしよう」

 

 すまし顔で言われてもまるでそう思えんぞ、アーリィ。

 

「少し話はそれたけど、私達を残しておくことで発生する事態はそんなところ。面倒なことになった」

「お前自身は今回の件に乗り気じゃなかったのか」

「叶うならここに骨を埋めるくらいには。住居もあって食事も美味しいし、お風呂も気持ちいい。衣食住が揃っていて不満なんてないわ」

「じゃあなんでアーリィを追っかけてたんだよ」

「仕事だから」

 

 そりゃ大人として素晴らしい意見だ。

 俺はここで彼女が少年の声がする方向へ向いているのを見やる。その表情は少年を慈しむようでありながら、堪えきれないような震えが見える。

 脳裏に閃くのは、少年への暴力によって口を開いた彼女の姿。うろたえ少年はどうやら、彼女にとって大事な人物であるようだ。

 

「そいつのためか?」

「……………………」

 

 首でうろたえ少年を示すと、先程までと打って変わって沈黙する三角巾娘。態度は言葉以上に真実を語っている。これ以上彼について聞いても、たとえ彼女自身何をされても出てくることはないだろう。そもそも無理に知ろうとも思わない。

と りあえず、ダルメンへの誤解だけは解いておこう。

 

「そういえば、だけどな。お前らの部下を襲ったのがダルメンだと思ってるようだけど、あれ先に仕掛けたのは俺だ。ダルメンはその後を通りかかっただけでな。つまりお前らは無実の男を問答無用で襲いかかったわけだ」

「…………なに?」

「俺はその時、近くに居たんだよ。そんで、監視してるお前らに気づいて不意打ちした。〈理に潜む理〉で姿を消してる相手に配慮をしろってのが無理な話だぞ。それが馬車で移動中の子供の尻を追っかけるような奴らなら尚更だ」

「あいつらは別に部下じゃないから、むしろすっとした」

 

 属す場所は同じでも、指揮系統が一本ではない、と。

 ダルメンの誤解を解くための会話から思わぬ情報を拾う。

 三角巾娘とうろたえ少年と、俺やダルメンがふっ飛ばしたというグループはまた別のようだ。それでも同じ目的を持って行動しているということは、雇われ先の問題だろう。

 正直有象無象はどうでもいいが、三角巾娘を要する背景の組織は気になる。

 やはり剣都ルオっていう所の軍人って考えたほうがいいかな……

 

「じゃあ最後。あの洞窟で遭遇した時、お前らはほぼ手ぶらだった。報告はルオからだとしても、あの装備は準備もなく突然飛ばされたように思える。それをしたのは誰だ?」

 

 アーリィを監視していたというのなら、今回の探索だって空振りで終わる可能性が高いと思うはずだ。

 なのに、まるで俺達が隠し通路を見つけたと同時にその動きを察知したようにも思える。で、ありながら武器らしい武器は剣獣だけという始末。目的と動きに関して、色々な食い違いがそこに見える。

 と、ここに来て三角巾娘は沈黙した。これは、当たりか?

 

「その情報源を持つ、ということ自体色々絞れると思われます。案外、剣の一族自体が彼女らの協力者なのかもしれませぬ」

(はい、タンクルに反応ありー)

 

 アーリィ、ナイス援護。

 

「そりゃおかしいだろ。剣の一族が協力者なら、こいつらはもう目的のものを手に入れていたはずだ」

「私と同じく、開ける方法を知らなかったのでは?」

「つまり『元』剣の一族?」

 

 頷くアーリィ。

 そういうことなら、情報を持っていてもおかしくはない。

 

(サウザナ。剣の一族って裏切り者が出るような作りか?)

(うーん、私が一緒だった頃はそんなことなかったけど、暇を出した子が縁者を増やしてその子に諸々話したのなら可能性はある、かな。覚えた剣の数だけ一族はいるし)

(抜剣できるのは何本あるんだ?)

(さあ? 今度正確に数えてみようかな。でもネムレス、そんなの考えてたらきりないよ? 剣の一族を襲って得た情報を持つ者、とかも言えちゃう)

 

 おっと、考え混んでしまうのは悪い癖だな。

 ……しばらく無言の空気が続く。これに関してはわからない、というより言えないということか。どちらにせよ、これ以上は無理だな。

 

「ま、色々情報ありがとう。で、今後アーリィに手を出さないってのは誓えそうか?」

「私は、ね」

「何日くらいで来る?」

「派遣される上次第だけど、普通なら明日。慎重派なら二日後」

 

 早ければ当日に来る事もあるのか、どんだけ拙速……いや、近くに拠点とかありそうだな。

 

「ああそうだ、もう遺産は隠さなくてもいいわ。やるだけ無駄」

「……その心は?」

「遺産が見つかっていない、なんて嘘はもう通用してない。本当に見つけてないのなら、まず開け方を遠回しに聞くはず。私達はそれの答えを持っていないけど……それが質問に含まれてないのなら、すでに見つけている、もしくは開ける手段を確保していると思ったまでだ。わざわざ背景を聞いてきたのが良い証拠」

 

 ……わざわざ相手に質問の余地を与えてしまうとは迂闊俺。あ、ユカリスやめて今慰められると泣きそう。

 ユカリスの抱擁めいた頬への突進に目を細めていると、話は終わりだ、と言わんばかりに三角巾娘は横に転がる。

 

「……どちらにせよ私達にはどうすることも出来ない」

 

 確かに、もう良い塩梅と言ったところか。

 そう思っていると、アーリィが何か思いついたように両手を叩く。なんかわざとらしい。

 

「ああそうだ。貴方のお連れさんの荷物《・・》、下ろせば協力してもらえそうですか?」

 

 そう言って、自分の服の裾に手を入れて体をまさぐる仕草をするアーリィ。一体何をしているのか、三角巾娘も目を丸くしている。

 

「…………え?」

「一応ここは私の工房です。心はともかく体の隠し事は出来ないと思っていただいて結構ですよ」

「…………アーリィ?」

 

 意味がわからず、目を下げて真意を探ってみるが彼女の目は三角巾娘を定めたままだ。ここは大人しく敬意を見守るほうがいいか。

 

(気になるなら見ておくから、ネムレス達はゆっくりしてていいよ~。あとは私がやっとくから)

 

 呑気なサウザナの声に頷き、俺はアーリィに戻ろうかと促す。

 アーリィはまだ何か言おうとしたが、それを言葉に出すことなく頷いてくれた。

 尋問を終え戻ろうとする俺の背に、三角巾娘の小さなつぶやきが漏れる。

 

「……今日のご飯は何かしら」

 

 サウザナのおかげで、その声は俺に届いてしまう。

 思ったより呑気だなこいつと思いながら、俺はアーリィとユカリスを連れて地上へと戻っていった。

 




ちなみにイッタル、ニタル、サンタルはメジ◯ド様的なアレです。
被ってる白いあれが樽になった感じでどうぞ。

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