問題児たちが学校に集まるそうですよ?   作:井倉丼

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問題児は突然何かを思いつくそうですよ?

 ーーー箱庭東区画第七桁外門居住エリア。

 十六夜、黒ウサギは全長三十メートル近い高層ビル群の屋上を弾丸のごとき速度で跳躍していた。建物間の距離は短い場所でも十メートル以上離れているが、二人は息切れ一つつかずに羽のような身軽さで次々飛び移って行く。その眼下では、公共バスや電車を利用する者たちが膨大な密集率を誇る通学通勤ラッシュに悪戦苦闘する様がよく眺めてみえた。

「街中は相変わらずの混み具合だな。右も左も制服を着たガキとスーツ姿の会社員で地平線一色。野性のヌーの大移動でもここまではいかないぜ」

「仕方ないのですよ。この箱庭で暮らす生物の約四割は、身体能力が並の人間と同じくらいのレベルですから。私達のように普段から移動手段(のりもの)に困らず済む者はなかなかいないのです」

 箱庭において移動に用いるものは千差万別だ。例えば、自然の溢れた土地では馬車のように動物を使った乗り物が多く、科学技術が発展している都会は電力運転の電車や自動車を好んで利用する。また、破格の性能をもつ幻獣や神獣を配下にして移動時に活用する者も稀に存在する。

「しかしまあ」

 十六夜は一旦足を止めて周囲に広がる大都会を見渡す。

「改めて見ても俺がいた世界とそっくりの景色だぜ。一ヶ月前にあの招待状を貰ってこの箱庭へ来た時は、もっとファンタジー全開な光景を想像していたんだけどな」

「この箱庭はあらゆる異世界の住人が集まる場所。全ての種族が快適に暮らせるように、古今東西であらゆる生活環境が整えられています。特にこちらの東区画は、超大手の商業コミュニティ“サウザンドアイズ”の本拠がありますから、他の区画に比べれば科学分野の発展も目覚ましいものがあるのですよ」

 黒ウサギは一際大きなビルの頂上に立つ一本の旗を指差す。そこには蒼い生地に互いが向かい合う双女神の像が記されていた。

「そして、あれこそコミュニティの象徴となる旗印でございます」

「旗印……確か、コミュニティの名前と支配地域を証明する役割があるって前に聞いたな。つまりあの旗を失えば、そのコミュニティは地位と権力を纏めて失っちまうのか」

「YES。だから旗印は、何があっても絶対に守らなければならないものなのでございます。もっとも私達はまだ学生でございますから、本格的にコミュニティへ加入するのはずっと先の話になりますのであまり関係はございませんね。さあ、早く行きましょう。箱庭の外門同士を繋ぐ扉、境界門(アストラルゲート)はもうすぐ傍です。いつも通りあの扉を潜れば、一気に学校まで辿り着けますからーー」

 黒ウサギは喋ることに夢中で気が付かなかったが、十六夜は旗印の説明を聞き終わった瞬間に床を蹴り飛び上がっていた。向かう先はサウザンドアイズの旗印が立つ例の百メートル級巨大ビル。

「ってちょっと十六夜さん! 一体どこへ行く気ですか!?」

 慌てて追い駆けて来る黒ウサギに向けて、十六夜は楽しそうに答えた。

「ああ、ちょっとあの旗が欲しくなったからこっそり借りてくるぜ」

「借りる!? なにお馬鹿なことを言っているのですか貴方様は!! そんなことをすれば、この近辺を管理するサウザンドアイズの幹部様方が黙っていませんよ!?」

「へえ、そいつは面白そうだ。だったら借りるなんてケチ臭いことはやめにしよう。その幹部様とやらを倒した後、そいつらが見ている前で堂々と奪うことにするぜ」

「はいいいいいいいっ!?」

 声にならない叫びがコンクリートジャングルを木霊する。

 彼女が驚くのも無理はない。表面積は恒星にも匹敵するといわれる広大な箱庭の東側一帯を治める巨大組織に、一介の学生が正面から喧嘩を挑むなど誰に予想できようか。

 しかし、“天は俺の上にも下にも人を創らず”が座右の銘であるこの少年にはそうした一般論は通用しないし、止められて素直に引き下がるような殊勝さもありはしない。

十六夜にとって最優先すべき事柄は、「どうすれば一番面白くなるか」に全て集約されてしまうのだから。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 その頃、今まさに十六夜たちが向かっていたサウザンドアイズ第七桁支部ビルの中では一つの会議が終わろうとしていた。

「……うむ。これで今回の議題は終了かの。しかし、この書類に書かれている内容が事実であれば、他の幹部共を収集してでも早急に対処せねばなるまい。この一件については私の方でボスに掛け合っておくとしよう。他に報告、もしくは意見のある者はおらんか?」

 重厚な空気漂う会議室を仕切るのは着物風の服を着た真っ白い少女だった。その愛らしい見た目に反して、彼女がいるのは室内にいる者たちの中で一番位の高い最高幹部の席。その彼女が定めた取り決めに疑問などあろうはずもない。

「……まあよい。ではこれにて帰るとするかの。この後もすぐに戻って次の会議へ出席せねばならんのでな。おい、十分後に境界門(アストラルゲート)を三三四五外門のサウザンドアイズ本拠前へ繋げるよう伝えておいてくれ」

「かしこまりました。すぐに門衛へ予約連絡を行います」

 傍に控えていた水色スーツ姿の女性秘書はそう言うと、ポケットから携帯電話を取り出し門衛への電話を始めた。

 他のメンバーも荷物を整理して部屋から出る準備を始めていた、そんな時だった。

 建物中のスピーカーから緊急警報が発せられたのは。

「何事だ!?」

「あっ、お待ちを!」

 女性秘書の制止も聞かず、着物少女は即座に立ち上がると会議室外の廊下へと躍り出た。丁度そこへお茶請けを運んで来た若い女性社員が通り掛かり、着物少女の姿を見た瞬間驚いて背筋をピンと立てる。

「し、白夜叉(しろやしゃ)様!!」

「挨拶はよい! それよりこれは一体どうしたというのだ!?」

 社員は緊張と困惑の入り混じった声を出す。

「わ、わかりません。ついさっき突然警報が鳴り出して……」

 それを聞いた少女・白夜叉は廊下の窓を開くと急いで身を乗り出す。

「白夜叉様! どこへ行かれるのですか!?」

「屋上だ。この警報音は最重要機密が盗難された場合の非常事態警報。そして、この建物にある保管物の中で警備が薄く、また狙われる可能性の高いものは私が考える限りでは一つしかない。もっとも、本来そんなことをしでかす馬鹿はいないと考えたからそのもの(・・・・)には警備をつけていなかったのだが。全く、箱庭は本当に予測不能なことが溢れておるな」

 そう言う白夜叉の目は鋭く尖り、その冷たい眼力はまだ見ぬ屋上の侵入者の気配を的確に捉えていた。

 怒りを顔に張り付けた白夜叉は、口元に獰猛な笑みを浮かべるとビルの外壁数十メートルをその小枝のような細い足だけを使い瞬時に駆け上がっていく。

「何者かは知らん。しかし、我らがコミュニティの名と誇りである旗に無断で触れた罪。相応の報いをもって盛大に償わせてやらんとのう」

 

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