シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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ハレルヤからの続きになります。
チトセネキルートでのアシュナギのアヤさんとの再会話…の前フリになります。
サブタイトルがルシードの名台詞ですがルシードがメインというわけではありません。

序盤総統閣下がチトセに討たれた後にアドラーがどういう風に纏まったのか、例によって妄想混じりの解釈で書かれています。
若干不穏な雰囲気を感じられるかも知れませんがトラストミー。
自分は断じてアシュナギが不幸になるような話を描く気はありません。
思ったよりも長くなったので前後編に分けることにしました。


二人の幸せを願うのはとても当たり前の事(前)

軍事帝国アドラー第37代総統クリストファー・ヴァルゼライド、裁剣女神(アストレア)によって討たれる。その報は大陸全土に凄まじい衝撃を齎した。誰もがヴァルゼライドの盟友としても知られる裁きの女神の離反の理由は訝しがり、アドラーでは卓越した人材が失われる事を惜しまれ、他の二国では忌々しく厄介な敵が消えることに喝采をと国によってその反応は大きく異なれど、鋼の英雄が勝つことを疑っていなかったのだ。

故にその報が駆け巡った時、誰もが一瞬忘我へと陥った。そうして次にヴァルゼライドの熱烈なシンパたちは次々に敵討ちを叫びだした。「総統閣下の無念を晴らすべし!」と、そうしてあるいはこのまま帝国を二分する内戦へと突入するのではないかと、あわやアドラーが分裂の危機へと陥りかけた時、黄道十二星座部隊(ゾディアック)において特にヴァルゼライドの熱烈なシンパとして知られていた二人の部隊長の声明が発表される。

 

一人はヴァルゼライドの最も忠実なる副官として知られた、第一近衛部隊近衛白羊(アリエス)隊長を務めるアオイ・漣・アマツ。彼女はヴァルゼライドは真に祖国を愛し、その身を捧げていた事を告げ、だからこそ自らの敵討ちを理由に祖国が分裂することを望まないだろうと主張し、血気に流行るヴァルゼライドのシンパたちへの自制を求めた。

 

もう一人はヴァルゼライドの東部戦線時代からの盟友でもあり審判者(ラダマンテュス)の異名で知られる、第六東部征圧部隊・血染処女(バルゴ)隊長を務めるギルベルト・ハーヴェス。彼はチトセ・朧・アマツは他ならぬヴァルゼライド自身によって彼を討つ権利が与えられていたことを主張。故に彼女の行為は正当なる裁きの執行であり、その結果彼女が勝利(・・)した以上、彼女を支えていくことこそがヴァルゼライドの遺志に叶うこととなると主張し、いち早くにチトセ・朧・アマツに対する支持を表明した。

 

かくして最も強く新体制に反発すると予想されていたヴァルゼライドの熱烈な信望者二人が消極的と積極的の差はあれど相次いで支持を表明したことにより、他の部隊長達も相次いで各々の態度に差はあれど支持を表明。新体制の首班であるアルバート・ロデオンとチトセ・朧・アマツが玉座を簒奪したものの常套手段である旧主を貶めるような事をあえて行なわずに、ヴァルゼライドを大総統として国葬にする事を発表したこともあり、ヴァルゼライドの信望者達もその矛を収める。

かくして帝国民にとっては喜ばしいことに、他国民にとっては残念なことに国を二つに別つ内戦は未然に防がれ、軍事帝国アドラーは故ヴァルゼライド大総統を討った裁きの女神チトセ・朧・アマツとレジスタンスのリーダーであったをアルバート・ロデオンを中心とした立憲君主制の国へと生まれ変わろうとしていた。これは、そんな鋼の英雄が人狼の牙の前に敗れ去ってから数年後の物語。

 

 

チトセ・朧・アマツの専属護衛官を務めるゼファー・コールレインはその日何時ものように、最愛の妹であるミリアルテ・ブランシェを彼女の職場へと送り届けた後に何時ものように彼の女神が居る執務室を訪れた。軽くノックをして入ったゼファーを今にもこちらに斬りかかってきそう妬心に塗れた視線と柔和な笑み、そして輝かんばかりの心からの笑顔が出迎える。

 

「相も変わらずの重役出勤で、護衛の分際でお姉さまを待たせるとは良いご身分ですわねぇ」

 

片方はサヤ・キリガクレ少佐。天秤において副隊長を務め、その優秀さは折り紙つきで彼の女神たるチトセに対する絶対的な忠誠も合間って絶大なる信頼を得ている。……のだが、どうにもこの女、チトセに対してそっちの意味(・・・・・・)で心酔しているようで、こうして彼女の恋人である自分には事ある毎に突っかかってくるのだ。

 

「お疲れ様ですゼファー様、ミリィ様はお元気にされていますか?」

 

もう片方はアヤ・キリガクレ中尉。自分が不在の際には最愛の妹であるミリィの護衛を務めてくれている天秤の隊員である。妹との仲も良好そのもので仕事の垣根を越えた友人となっており、隣の親戚とは打って変った気立ての良さも相まってゼファーからの好感度はかなり高い。……この子の10分の1、いや100分の1でもいいから隣のレズ副隊長の自分への当たりが良くならないものかとゼファーは常々思っている。

 

「ああ、変わらず元気でやっているよ。今度またアヤちゃんと一緒に買い物にでも行きたいって言ってたぜ」

 

何でも凄い良い機械細工を見つけたから是非ともアヤちゃんにも見て欲しいんだとさと、妹が昨晩の夕食の時に楽しげに話していた内容を伝える。

 

「左様ですか、それでは今度のお休みの際には予定を空けておかねばなりませんね。ふふ、ミリィ様によろしくお伝えください」

 

はいよと頷きつつ改めて思う。ああ、本当にこの子の気立ての良さを100分の1でもいいからこっちを敵意に満ちた視線で見ているレズに分けてやってくれと。

 

「来たか、ゼファー」

 

そんなやりとりを終えると次に迎えたのは、女性としての愛らしさと国を統べる者としての自負双方を感じる太陽のように輝く女神の笑顔。彼の最愛の女性でもあるチトセ・朧・アマツであった。そうしてひとしきり殺意の篭った視線と微笑ましいものを見るような視線を浴びながら(それぞれどちらが誰のものかは言うまでもない)二人は軽くいちゃつくと、女としての顔から国を統べる公人としての顔へと切り替えてチトセは彼の狼へと告げる

 

「今回お前を呼んだのはこうしていちゃつくだけが目的ではない、今度こちらへと来るとある商国の夫妻をアヤと共に調査してもらいたいからだ」

 

そうチトセが告げると傍で控えていたアヤ・キリガクレが喜びと同時に何か複雑な思いを抱えて思案するかのように目を閉じて

 

「その夫妻の名前はアシュレイ・ホライゾンとナギサ・ホライゾン。最近教国の貴族であるガラハッド家と懇意にしているプーフホルツ商会の新進気鋭の若手にして、数年前まで暁の海洋において団長の両腕とも謳われた人物達であり」

 

そこでチトセは自らの罪を飲み干すかのように一度目を閉じて

 

「かつて私がヴァルゼライドと共に国家機密漏洩の罪により粛清を命じた奏の家とホライゾンの家、その遺児たちだ」

 

 

・・・・・・

 

「えーと、それじゃあ話を整理させてもらうぜ」

 

一通りの話を聞き終えたゼファー・コールレインは自らも頭の中の整理もかねて情報の確認を行なおうとしていた。

 

「まず、今回プーフホルツ商会という商国において十氏族ほどではないがかなりでかい商会所属の最近やり手と話題の若手が奥さんも連れて帝都(うち)にやってくる。そいつは人格者として周囲からの評判も上々で、若くして結構な商会の中でいずれはNO2になるかもしれないなどとも目されている男で、おまけに奥さんはかなりの美人で愛妻家としても知られている。さらにさらに、トドメに稼いだお金で孤児院に対して寄付までしている、そんな一見すると非の打ち所のない勝ち組街道驀進野郎だときた」

 

言っている俺自身もなんだかむかついてきたぜ等とゼファーは自分自身が裁きの女神(アドラーのNO2)の恋人で専属護衛官というかなりの勝ち組なのだという事を棚に置いてつぶやく。ようやく実力に相応しい自信と風格を身に着けたようであってもゼファー・コールレインはどこまで行っても俗人のままである。

 

「んで、それだけならハイハイ立派な人ですねーで済んだんだが、その夫婦というのが数年前まで暁の海洋で団長の腹心として知られる人物だったということでまず諜報部隊(ジェミニ)の目に留まってうちに報告が来た。そうして調査してみると、かつてあの英雄閣下様が健在な頃にエスペラント技術の国外持ち出しなんていうバカをやろうとしていた一家の生き残りだと気が付いた」

 

ほとんど自殺志願みてぇなもんだろと彼は数年前に自らが噛み殺した英雄(かいぶつ)の姿を思い浮かべる

 

「トドメとばかりにちょうどあの麗しのハーヴェス隊長閣下と強欲竜団の団長が相打ちになった直後で帝国(うち)商国(あっち)もドタバタしているこのタイミング。かくして教国のお貴族様と親しくしているって情報も合間って一つの疑念が浮かんだわけだ」

 

まるで何かを飲み干すかのように目をつぶりながら聞いているアヤ・キリガクレの姿を視界の端に収めながら、ゼファーは最後の結論を述べる

 

「かつて自分の父親が失敗したことをコイツはやろうとしているんじゃないかと」

 

すなわち帝国最大の機密であるエスペラント技術の獲得。そしてそれを手土産にした事による教国との絶大なるコネクションを武器にして、自らが十氏族さえも上回る商国最大の権力者へとなる事。かつてアシュレイ・ホライゾンの父ロディ・ホライゾンが思い描いた野望をその息子が継ごうとしているのではないかという疑惑。それが帝国がホライゾン夫妻へとかけた疑いだった。

アッシュの父もまた野心家であると同時に、苦境にある友人達への援助を惜しまずに周囲から人格者として知られる人物であったことがまたその疑いへと拍車をかけた。その上にアマツの妻まで居ると来ている。アマツの血統がエスペラントとして高い素質を有しているのはもはや常識のようなものであり、仮に成功すれば財力とコネを持った夫と武力と血統を有した妻と言うそれこそ死んだダインスレイフに代わる、あるいはそれを上回る反帝国のカリスマへとなりかねないであろう。帝国はそんな危惧をこの夫妻に対して覚えたのだ。

そうしてゼファーの言葉に頷いてチトセもまた答える

 

「無論、こちらの考えすぎという可能性もある。だがそれでもその二人の経歴は帝国(うち)を恨んでいると思うには十分すぎるものだ」

 

故に放置という選択は取れんと呟いてチトセは続けていて

 

「だがあいにくと現在裁剣天秤(うち)もジェミニもギルベルトの奴が抜けた穴を埋める為にあいにくとてんてこ舞いだ」

 

全くギルベルトのやつめ生きていたら生きていたで厄介だが死んだら死んだでむかつく事に中々に替えがいないなどとチトセは苦虫を噛み潰したような表情で呟く

 

「そこでお前の出番と言うわけだ、我が愛しの狼よ」

 

そうしてチトセは打って変って満面の笑みと最大限の愛を込めて彼女が最も信頼している男へと呼びかける

 

「事情はわかったけどよ、なんでアヤちゃんもなんだ?事が事だから俺を動かす理由は理解できたけどよ。それともエスペラントを二人も動かさないとならねぇほどの怪物だとでも言うのかその二人は?」

 

ゼファーの脳裏に浮かんだのは帝国においてチトセに匹敵するとも謳われていた帝国屈指のエスペラントであったギルベルト・ハーヴェスと相打った一人の男。仮にそんな化け物が相手だとするならちょっと荷が重いんだがなどと思いつつチトセへと問いかける

 

「いいや、旦那が名を馳せたのは主に交渉や調整能力と言った裏方仕事の話で戦士としてはさほどでもないよ。妻の方にしても腕利きとして名を馳せはしたがダインスレイフほどの怪物ではない」

 

最もエスペラントになればわからんがな、などとチトセが答えるものだからますますゼファーは訝しがるのであった。危険性は判った、確かに下手をするととんでもない事になりかねんという事態ではある。だがそれにしてもアヤもわざわざ動かす程とは思えなかったのでゼファーが再度理由を尋ねようとするとチトセがアヤへと目配せを行い……

 

「そこから先は私自身から説明させてもらいます、ゼファー様」

 

アヤは何かを覚悟したかのような凛々しい瞳で

 

「今回ゼファー様だけでなくこの私もその夫妻への調査をさせていただくことになったのは他ならぬ私がチトセ様に頼んだからなのです」

 

とそのような事を告げて何かを飲み干すように一瞬眼を閉じてから……

 

「そして私がこの任務に志願したのはもしもチトセ様の危惧が真実であった際に、裁剣女神(アストレア)の裁きを受ける事になる前にこの身命を賭してでも説得して思いとどまって欲しいから。アシュレイ・ホライゾン様とナギサ・ホライゾン、いえナギサ・奏・アマツ様がかつて共に時間を過ごした私にとってかけがえのない方たちだからです」

 

そんな決して譲らぬと決意に満ちた目を見せた……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よろしかったのですかお姉さま?」

 

サヤ・キリガクレは二人が立ち去ってからそんな問いかけを主に対して行なっていた

 

「今回の件あの子は聊か以上にターゲットに入れ込みすぎてしまっています。そんな彼女を任務に充てるのは下手をすれば」

 

「帝国と私を裏切る可能性すらある、か?」

 

そんな己の従者の抱く危惧に対してチトセは笑いながら告げる

 

「もしもアイツがそれほどの覚悟を抱いているとしたのならそれこそ任務から外すのは愚の骨頂だよ。こういうのはな理屈ではないんだよ(・・・・・・・・・)

 

一度それに敗れて、チトセ自身もそんな想いに身を委ねてかつて英雄を破った身として骨身に染みている。この世には正誤を超えた想いがあるのだと。

 

「仮に私があいつを任務から外してゼファーにあの夫妻の抹殺を命じたとしようか、するとどうなると思う?あいつのあの夫妻を助けたいという思いはそのまま私たちへの反逆の牙という方向に向かうことになるんだよ」

 

どれか一つしか選べないという状況を与えられてしまえば人間は他のすべてを捨てることになったとしてもたった一つの本当に大切なものを守ろうとする。かつてゼファー・コールレインがミリアルテ・ブランシェという宝を守る為に地位も名誉も全て捨て去ったように。

 

「だがな、私がこうして任せればその想いは真実を知った時にあの夫妻にどうにか思いとどまってもらいたいという方向へと働くことになる」

 

愛国心に軍人としての使命感、上官からの信頼へと報いたいという想い、そして大切な人達の命。これら全てを満たすことの出来る選択肢があるというのならば、当然誰だってその選択肢を必死に選ぼうとする。仮にあの夫妻への危惧がその通りだった場合、アヤ・キリガクレはそれこそ決死の覚悟で説得へと当るだろう。その狙いは先ほどのアヤの様子を見るに見事的中したと言える。

 

「まあ無論、それでも旧友の懸命な説得にさえ応じないほどに野心や恨みと言ったものが深いという可能性もあるが、その時はもう仕方がないだろう。少なくとも蚊帳の外に置かれる事になった時よりは後悔せずに済むだろうさ、アレも私たちもな」

 

どの道、神ならぬ身には何が正しいかなど判らぬ以上は出来るだけ後悔せぬような選択肢を選ぶしかあるまいとチトセ・朧・アマツは考える

 

「まあ全て私たちの杞憂で、あの夫婦は真実何も裏のない善良な夫妻だった。そう判明するのが一番だがな」

 

私としてもそんな後で笑い話になるような結末となる事を祈っているよと裁きの女神はそんな事を呟きながら祈るのであった……

 

 




ナギサちゃん「アッシュ好きー大好きー♪」
アッシュ「俺の方こそ愛しているよ、ナ・ギ・サ」

シリアスな前フリだが実態はこんなんである。

アヤさんと再会するネタ書くならやっぱり二人がアドラー訪れるノリだよなー
→アレ?客観的に見るとこの夫妻アドラーから見るととんでもなくヤバイ存在に見えね?
→これはチトセネキ的には警戒せざるをえんよなー

大体こんなノリで話が膨らみました。アヤさんとの再会は次回で描きます。

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