シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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前話からの続きになります。
アヤさんとの再会話になるといったがすまんありゃ嘘だった。
気が付いたらルシードとゼファーさんが活き活きと動き出し始めてしまってな……
高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するのこそ自分のスタイルよ。


二人の幸せを願うのはとても当たり前の事(中)

ある程度調査を行なったら判断した結果が白であろうと黒であろうと最後はアヤに任せる、そんな約束をして出来れば白であって欲しいなと願いながら柄にもなくかなり真面目な面持ちで、愛する女と妹の友人の為に(常になく)勤労意欲に燃えて、とある夫妻の調査を行なうことになったゼファー・コールレインは

 

「どうかなアッシュ?似合うかな?」

 

「ナギサにだったらなんだって似合うさ。でもその髪飾りは特に君のその髪に映えていて良いな、折角だし買っていこうか?」

 

「ええ、そんなの悪いわよ~前もそう言って買って貰ったばかりだし……」

 

「良いんだよ、君が笑顔になってくれるのならそれが俺にとっての一番の幸せなんだからさ」

 

「もう……それは私だって同じなのに……なんだか私ばかりアッシュに色々してもらって申し訳ないなぁ」

 

「何を言っているんだよ、いつも美味しい料理を作ってくれたりと尽くしてもらっているのは俺のほうさ。そもそも君が居てくれるから俺は頑張れるんだからさ」

 

「そんなの私だって同じだよ……アッシュに少しでも美味しいご飯を食べてもらいたいなって思って料理を頑張れるようになったんだからさ」

 

「ナギサ……」

 

「アッシュ……」

 

(帰りてえええええええええええ俺も帰ってチトセといちゃつきてえええええええええ)

 

今、猛烈にその意欲を失おうとしていた。

 

(え?これ調査する必要本当にあるのか?どこをどう見ても、聞いてもただのラブラブバカップルにしか見えないんだけど)

 

本当に結婚して数年経っているのかよあの夫婦などとエスペラントとして強化されてる視覚と聴覚を活かして夫妻にばれぬ距離から様子を窺いつつ思う。そんな夫妻を見ながら全く動じずに綺麗な営業スマイルを浮かべて可愛らしい奥様ですね、素敵な旦那様をお持ちでお羨ましいことですなどと言っている店員はまさにプロの鑑と言えるだろう。一応は一流中の一流にも関わらず、開始してからわずかの間にすでにサボることを考え始めているこの男とはえらい違いである。

 

(一応ルシードの奴にも調査は頼んどいたけど、この分じゃ空振りに終わりそうだな)

 

多分白だと思うけどねなどといっていた親友の姿を思い浮かべる。

 

(見たところ鍛えていたことは窺えるけど今も現役って感じには見えねぇしなぁ)

 

試しに炙り出しの意味を込めてわざと尾行されていることにある程度勘付けるような撒き餌も行なっていたが反応は全くなし、動きも確かにかつては戦いを生業にしていた者であったことは窺えるが今も現役のようには到底見えない。

 

(しっかしまあなんというか本当に……)

 

絵に描いたような幸せ夫婦だなと眺めながらゼファーは呟く。本当に心の底から幸せだと言わんばかりの輝かん笑顔、とでもではないが復讐などを考えているようには到底思えない。

 

(なんというか、どこかミリィを思い出すんだよなぁ)

 

辛い目にもあっているのにそれでも世界はきっと優しいとそう信じて、自分も他者に対して当たり前のように優しく在れる、そんな彼の自慢であり救いでもある最愛の妹。あの夫妻の全く裏を感じさせない幸せそうな様子はどこかあの子を連想させた。

 

(やっぱり碌なもんじゃねぇよなぁ、この仕事。ま、あいつのためだから頑張るけどよ)

 

ああいう人間を見ても疑ってかかることを前提にしなければならない我が身の録でもなさを改めて実感させられて、なんというか居た堪れない気分になるのだ。あの夫妻と面識のない自分でこれなのだから古い友人であるアヤの心労たるや如何ほどのものか。

 

(一番最悪なのは、あの夫妻は全く裏のない善良な夫婦だがその裏がそうじゃないってパターンか)

 

何もかもがこちらの杞憂でしたーーーこれが最高だ。誰も泣く奴はおらずなんなら今自分がしている苦労も酒の席での笑い話の種になるだろう。

あの夫妻が実は笑顔の裏で野心を隠していたーーーこれもまだ良い。アヤは大きな苦渋を飲み干す事になるだろうが、それでもまだほかならぬあの夫妻自身が選んだ道だ。納得も出来るだろうし、こっちも遠慮なくやれる。

そして最後にあの夫妻は真実、何の裏もなく善良な夫婦だがあの夫婦の上の会長様とやらや、教国のお貴族様が利用していて処理をしなければならない場合。これがもう最悪だ、旧友であるアヤは納得できなくて食い下がるだろうし、自分にしてもそんな利用されただけの夫婦を処理しなければならないともなれば間違いなく最低の気分になるであろう。

 

瞬間ゼファーは自分の最大の罪である、血統派と改革派の派閥抗争に知らぬところで巻き込まれていたある一家(・・・・)を思い出していた。

 

 

あるときチトセから言われたのだ、「このまま黙っていて良いのか」と。ゼファー・コールレインはチトセ・朧・アマツによってブランシェ一家の殺害を命じられていた、それを黙っているのはあまりに彼女に対する不義理ではないかと、非はお前にではなくそれを命じた自分にあるといわんばかりの態度で。そうして打明けるか否か、悩みに悩んだゼファーは親友へと相談して……

 

「いやゼファー、君立派になったのは良いけど立派になりすぎだよ。今の君はあの女神様に影響されてちょっと強者(そっち)側の思考になりすぎだ」

 

そんな風に言われたのだ。

 

「大体だよ、君たちはそりゃあこういうことでしたなんと言われようと甘んじて受け入れます、嫌われる覚悟だって出来ていますって言って満足かもしれないけどさ、打明けられたミリィ君の気持ちはどうなるんだい?命がけで自分を救ってくれた兄が実は両親の仇で、義姉になる人はそれを命じた張本人?それが事実だから受け入れて強くなれ、前を向けって?おいおい冗談はよせよ、一体君は何時からそんな英雄めいたことを言うような奴になったのさ親友」

 

立派になったのはいいけどだからって大切な事を忘れるんじゃないぞと己が親友は冗談めかしながらも真剣そのものの様子で

 

「真実を知って乗り越えることでより強固になる絆や想い、そういうものも確かにあるんだろうさ。僕だってそれは否定しない」

 

自分は負け犬だと自覚しているがそれでも正しい事を選べる強さを持つ人間に対する敬意や憧れめいたものはもちろんあるんだとため息をつきながら

 

「でもねゼファー、それでも僕は世の中には知らないほうが良い真実(・・・・・・・・・・・)ってものも間違いなくあると思っている。君と彼女がミリィ君に打明けるか否か迷っているのは間違いなくそれだ。君は彼女と両親を守るように命じられていた軍人。だけどそれが出来なくて彼女の両親を守れなかったからせめてもの償いとして、軍を抜ける事になっても彼女を護り抜くと誓ってそれが理由で一度はあの女傑と袂を別つことになった。それで良いじゃないか」

 

誰も傷つかない、偽善だとか仇の癖にどの面下げてとか言いたい奴には言わせておけよという親友の言葉を受けてゼファーは

 

「ありがとよルシード、なんというかお前が居てくれて良かったわ」

 

「そりゃどういたしまして、友達冥利に尽きるってもんだよ」

 

そんな風に自分が忘れかけていた大事な事を思い出させてくれた感謝を親友へと告げて、チトセへと自分はこの事実を一生黙って墓場の下にまで持っていくと告げるのだった。それを聞いたチトセは

 

「そうか……それがお前の決断ならば私はそれを尊重するとしよう。彼女との付き合いはお前の方が長いしな。……常人ではない強者の意見か。ああ、全く持って耳が痛いな。奴を否定して置きながら改めて自分はそちら側なのだと告げられているかのようだ」

 

とそんな事を言う物だから俺はお前にそんなところにぞっこんなんだよと告げて、その日はいつも以上に絞り取られることになったものだった……

 

 

閑話休題

 

 

とにもかくにも出来ることならそんな想いはもうしたくないものだとターゲットへと目を向けると、相変わらず私今とっても幸せです~なオーラ全開で奥さんの方が旦那の腕にしっかりとしがみついていて、旦那は旦那で幸せそうにそんな奥さんをしっかりとエスコートしていた。

 

(俺も帰ったらチトセに甘えよう、そうしよう)

 

そんな風に自分も大概バカップルな事を考えながらもゼファー・コールレインはコレを後数日続けないとならんのかと深くため息をつくのであった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにこういっては何だけど、同じ理由で父を帝国に殺された者同士、親近感めいたものを僕は君に感じているんだよ、ホライゾン君」

 

どうだい僕にヘッドハンティングされる気はないかな?そんな言葉を目の前の青年から告げられてアッシュは困惑していた。

 

話はさかのぼること数日前、すっかりと慣れて仕事も家庭も順風満帆であったアッシュは、上司である会長から出張を命じられてまた何時ものように自費でナギサの分の旅費を出して帝国へと商談に赴くことになった。商談も終り予定通りに後は一日だけ会長に許しを貰っていた通りに、ナギサと観光でもして帰ろうと思っていたところで急遽会長から連絡が来たのだ。

 

ーーー帝都でグランセニック商会を纏めているグランセニックの三男坊が君に会いたがっていると。

 

訝しがりながらもそうしてグランセニックの屋敷を訪ねて一通りの挨拶をすると君のところの会長と話はついているからしばらく此処に滞在していってくれないかなどと告げられて、困惑したアッシュが理由を尋ねると冒頭のような事を告げられたのであった。

 

「そんなに困惑するような事かな、君だって当然帝国(この国)に含むものは持っているだろう?本来なら何不自由なく過ごせたはずがこの国のせいで君は傭兵稼業なんてやることになって苦労する事になったんだ」

 

僕も父を失ったことでずいぶんと苦労する事になったから君の気持ちがとても良くわかるんだと目の前の青年は心の同情をこちらへと寄せて

 

「だからどうかな?僕の部下になって一緒にこの国へと一泡吹かせる気はないか?僕の同志になって欲しいんだよ。アシュレイ・ホライゾン君」

 

給料だって今の三倍は出そうとそんな言葉をルシード・グランセニックより聞いてアッシュは

 

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます、グランセニックさん」

 

ほとんど迷う余地もなくそう答えていた。

 

「……理由を聞かせてもらってもいいかな」

 

悪い話じゃなかったはずだと心の底から何故断るのかがわからないと行った様子のルシードの言葉を聞いてアッシュは

 

「まず、今の俺は帝国を恨む気持ちはほとんどありません。だからその時点でグランセニックさんのご期待には添えないと思います」

 

「実の両親を帝国に殺されたのに恨んでいないって?君は人情家の人格者だと聞いていたが中々に薄情な奴なんだな、亡きご両親に申し訳ないとは思わないのかい?」

 

その言葉を聞いて怒りの余り今にも掴みかかりそうなナギサを目で制してアッシュは苦笑しながら答える

 

「そう言われてしまうと痛いところですね。俺にとっては死んでしまった両親よりも今傍にいてくれる何よりも大切な人の事で頭が一杯ですから」

 

傍にいたナギサを片手で抱き寄せつつアッシュは告げていく

 

「確かにグランセニックさんの仰るように大事な人を奪った帝国を恨んでいた時期もありました。でも帝国以上に憎かったのは大切な人を守ることもできない俺自身の弱さだったんです」

 

そう、アシュレイ・ホライゾンが憎かったのは何よりも大事な少女を守ることも、その涙を拭ってやることも出来ない自分の弱さ。だからこそ強さに憧れて傭兵へとなった。でも自分にはそんな事は向いてなくて、そのまま朽ち果てるところだった

 

「でも、そんな二度と取り戻せないと思っていた何よりも大切な人にもう一度巡り会うことができた」

 

そんなところを奇跡のように巡り会えた最愛の人に救われた

 

「この世界は必ずしも捨てたものじゃないって心の底から思えるたくさんの人の優しさに助けられた」

 

アリス・L・ミラーに拾われて、マルティン・プーフホルツに助けられた。そしてブラザー・ガラハッドに人に手を差し伸べることの尊さを改めて教えられた

 

「だから今の俺が願って居るのはこの大切な温もりを決して手放したくないということ、そして出来ることなら今度は自分が誰かに手を差し伸べられるような大人になりたい。それだけなんです」

 

英雄になることは出来なかった。でもそれで良いとおもっている、だって英雄じゃなくても誰かの助けや支えになれること、それをみんなが教えてくれたのだから

 

「ですので、グランセニックさんのご期待には沿えません。今の俺の中にあるのは帝国への恨みなんかじゃない、ただ彼女とずっと一緒に生きていきたい。そして一緒に幸せになりたい。ただ、それだけなんです」

 

だからあなたのご期待に沿うことは申し訳ありませんとアッシュは頭を下げる。そんなアッシュの言葉を聞いて帝国に恨みを抱く御曹司(ルシード・グランセニック)

 

「そうかい、それじゃあ仕方ないね」

 

さっきまでの張り詰めた雰囲気が嘘のように苦笑して

 

「君が野望だとか復讐だとか、そんなものよりもとにかく奥さんの事が大事な奴ってのは良くわかったよ。ああ、うん。これじゃあ仕方がない」

 

やれやれようやく同志に巡り会えたとばかり思えたんだけどねなどとルシードはやたらと芝居がかった様子で

 

「まあでも、もう君のところの会長さんには話が行っているからしばらく滞在していくと良いよ。心配しなくても、もうさっきのような勧誘をする気は一切ない。ただの客人としてもてなさせてもらおう」

 

だからそろそろ矛を収めてくれないかなと大切な夫を侮辱されて怒りの瞳でこちらを睨みつけているナギサへとルシードは告げる

 

「わかりました、そういうことでしたお言葉に甘えさせてもらいます、グランセニックさん」

 

「ルシードで構わないよ、代わりに僕も君をアッシュと呼ばせてもらうからね」

 

君みたいな馬鹿はそんなに嫌いじゃないなどとルシードは先ほどまでの態度が嘘のように心からの笑みを浮かべて握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 




ルシードが帝国に恨みを抱いているように見せかけたのは当然ながら炙りだしのためのプラフです。ルシードとアッシュって父親がエスペラント技術の持ち出しやろうとして帝国に親父が殺された(ルシードは自分もだけど)って点で同じじゃね?ということにふと気づいてネタが膨らみました。
次回こそアヤさんとの再会を描きます。
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