今回はZero Infinity -Devil of Maxwell-よりイヴァンの兄貴ことイヴァン・ストリゴイが
新西暦世界の傭兵として登場しています。別にバトルしたりする物騒な話になるわけではないです。
「それじゃあ、アッシュ行って来るね」
笑顔でそんな事を告げてくる自分にとって何よりも大切な少女の言葉にアッシュは一瞬何かを呑み込むように目を伏せ、強く手を握り締めながらも
「うん、気をつけてな。グレイ、ナギサの事頼むぞ」
気づかれないようにすぐに笑顔を浮かべて、そんな風に暁の海洋においてナギサと同様にエースとして最近頭角を現しつつある悪友へと大切な少女を守ってくれるように頼む。……
「おう、任せておけって。麗しいレディを守る紳士を自認しているこの俺としては、言われなくたってしっかりレインちゃんを守ってやるさ」
だからまあ安心しとけよとそんなアッシュの男の意地に対する理解を見せながらグレイ・ハートヴェインもまた笑顔で応じる。帰ってきたら一杯奢れよなどと軽口を叩きながらも。
「むぅ……アッシュってば昔のイメージ引きずってない?今の私はこれでも立派な暁の海洋のエースなんだよ。昔みたいな守られるだけのか弱いお嬢様じゃないんだから」
そんな女である自分では立ち入れない、
「仕方が無いだろう、俺にとってナギサはとても優しくて可愛くて大切な女の子だからさ。どれだけ強くなったって言っても心配に思うのはしょうがないだろ?」
本当はグレイに任せるのではなく
笑顔で見送るしか出来ない自分が不甲斐なくてたまらない。
どうして自分にはナギサやグレイのように戦いの才能が無かったのだろう?
と言った心の中に燻り続けるものを抑えながら笑顔でアッシュはそんな事を告げる。するとレインは驚いたように目を丸くした後に頬を赤らめて
「そっか……アッシュはそんなに私の事を大切を大切に想ってくれているんだ……」
そっと身体をアッシュに預けてそんなことを告げる
「ああ、君の事が本当に好きで愛おしくて、大切なんだ。君と離れていた時期は俺にとってずっと暗い闇の中にいるようだった。こうして再びまた巡り会えて良く分かったよ、俺には君が必要なんだって。絶対に失いたくない暖かな日だまりなんだって」
そう言いながらアッシュもまた愛しい少女を強く抱きしめながら告げる、この温もりを決してもう手放さないように大切に大切に。
「バカ……忘れないでね、それは私も同じなんだよ。姉さんは優しくしてくれたけどアッシュに会えない日々は本当に寂しくて辛くて、こうしてまた会えて私本当に今幸せなんだよ?まるで夢でも見ているかのようだって柄にも無く大和様に感謝した位」
そうしてアッシュの胸に預けていた自らの顔を上げて見つめながらレインは心からの想いを告げる
「アシュレイ・ホライゾンはね、私にとっての日だまりなの。アッシュの傍が一番あったかいところで、私が絶対に帰ってくる所。今までずっとその日だまりがなくて寒かったけど、今はとってもあったかい。これからは絶対に絶対にずっと一緒。だから心配しないで、私は絶対に貴方の傍に帰ってくるから」
そうして優しくそっと笑顔で口付けを交わす。
「えへへ……キス、しちゃったね。私の……ファーストキスだったんだからね?だからこれは絶対にアッシュの傍に帰ってくるって私なりの誓い」
はにかみながらそんな事を告げるレインをもう一度抱き寄せて今度はアッシュのほうから先ほどよりも強く互いを確かめ合うかのうような口付けを交わして、アッシュは告げる
「これは、君の帰ってくる場所であり続けるって俺の誓いだ。もう二度と離れたりしない、レインが寒くならないようにずっと傍にいるっていうね」
そうして満面の笑みを浮かべてレインは改めて告げる
「うん……それじゃあ行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
そんなレインをアッシュもまた笑顔を浮かべて送り出すのだった………空気を読んだグレイはどうやら途中でいち早く立ち去っていたようである。
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偵察へと赴くレインとグレイを送り出した後にアッシュは自分の仕事へと取り掛かる。そうして粗方書類を処理してそろそろ二人が帰ってくる頃合になったところで……
「よう兄弟、隣良いか?」
親しげに声をかけてきたのは傭兵団において兄貴分として多くの団員から慕われているイヴァン・ストリゴイ。その気になれば自分の傭兵団を持てるようになるだけの名声を持ちながらも、自分は将校ではなくあくまで現場の戦士でありたいという理由からあちこちの傭兵団を転々としている、この業界において知らぬものはいない歴戦の勇士である。
「はい、どうぞ。自分はこの通り仕事中ですから何も面白い話は出来ないと思いますが……」
苦笑しつつアッシュは返答する。
兄弟と彼は親しげに、仲間をいや敵ですらも呼ぶ、
「そういえばありがとうございますイヴァンさん、俺が団の皆に認められたのもイヴァンさんのおかげですので一度お礼を言っておかないといけないとならないと思っていたんです」
後方支援や裏方を担当する者を見下すような態度を取る兵士というのは少なくない。自分は命を賭けて戦っているのにあいつらは安全なところでぬくぬくしているだけだ、というわけである。ましてやアッシュの場合は入団の経緯が経緯である。傍から見れば団長の妹分を口説いてまんまと良いポジションに収まり、女に守ってもらっているヒモ野郎、そんな風に陰口を叩く輩も入団当初は少なからず存在していた。そんな中目の前の人物が
「いやはやお前さん方中々に度胸があるなぁ。ある日装備している銃が不幸にも暴発したり、補給や休息もなしに戦い抜く自信があるのか?流石の俺でもそんな状況になっちまったら詰んだと悟らざるを得ないところだが、大したもんだなぁ」
等と後方支援を軽んじるというのがどういう事かを冗談めかしながらも言ってくれたおかげでその手の陰口はめっきりと減り、今では仲間として受け入れられるようになった。この点に関してのみは自分達が言っても「女に庇われている男」などと言う風に逆効果にしかならないであろうと想っていたアリスとレインもイヴァンへと感謝していた。
「俺は別に想っていた通りの事を言っただけさ。少し考えれば誰だってわかるもんさ、味方を敵に回すってのがどれだけ馬鹿な事かってのはな」
ま、本当に極稀にそんなこともわかりもしない救いようの無いアホもいることにはいるけどな、などと言いながら
「その上で、そういう奴らに仲間としてきちんと迎えられたのはお前さんの持つ人徳って奴さ。お前さんが本当にただの腑抜け野郎だったら、俺はそもそも手を貸したりしなかったし、あいつらにしたって仲間だなんて認められなかっただろうさ」
豪快な笑みを浮かべながらそんな事を告げる目の前の男をアッシュはどこかまぶし気に見つめる。決して折れない矜持を持った歴戦の戦士、男としてこんな風に自分もなりたかったというどこか羨望めいた感情、それが胸の内に燻る。もしもアッシュが目の前の全身包帯男のようになってしまった日にはレインが盛大に泣いてしまうこととなるので思うだけに留めて欲しいものである。
「正直意外でした、俺は戦場に出るのはもう諦めた人間です。なので貴方が好む戦士ではなかったので……」
イヴァン・ストリゴイは戦場を愛している。そこで輝く本物達に偽りの無い敬意を抱いている、だからこそ戦場に出ることを諦めた自分がイヴァンの好みに合致しているとは思えずそんな事をアッシュは告げたが……
「
さっきまでの喜色に満ちた顔ではなく真剣な、まるでアッシュの内面を覗き込むかのような眼差しでアッシュを射抜きながらイヴァンはアッシュへと問いかけてきた。
「お前さんを見ているとな、俺はどうにもそんな風に想えねぇんだよ。なあ兄弟、本当は今も心の中に燻っているものがあるんじゃねぇか?本当は誰かに任せるんじゃなくて自分の手で惚れた女を守りたいんだろ?ただ無事を祈って待つしか出来ない、そんな自分が不甲斐なくてどうしようもないと一番思って居るのはお前さん自身じゃねぇのか」
まさしく今も自分の心に燻っているものを言い当てられアッシュは息を呑む。そんなアッシュの様子を見てニヤリと再び笑みを浮かべてイヴァンは告げる
「どうやら当りみたいだな。良いじゃねぇか、最高だ。その思いは絶対に間違ってなんかいねぇ。男なら、いいや男じゃなくてたって俺たち人類は問答無用に
誰かのために命を賭けるという行いは理屈ではないんだと戦鬼は喜色を浮かべたままに告げる。かつて一度だけ目にしたことがある自分が愛する本物の英雄達、そんな中でも一際輝いていた英雄の中の英雄を思い起こしながら。
「簡単な話さ、
だからお前のその思いは間違ってなんかいないのだとイヴァンは改めて今も燻るものを抱えている青年を導くように優しく声をかける
「なぁ、だからお前さんも素直になろうぜ。そうしたいのならそうすりゃ良いんだよ、他人がどれだけ無茶や無理だの無謀だと嘲笑おうが俺はその決断に心からの敬意を表するぜ。強くなりたいってんなら力になってやっても良い」
だからお前もこっちに来ようぜという戦鬼の誘いを優しき日常の陽だまりは
「ありがとうございます、イヴァンさん。ですが、俺の戦場はそこじゃないんです」
今も自分の中に燻り続けるものを自覚しながらも自分が戦う場所はそこではないと告げるのであった。そんな回答をしたアッシュに対してイヴァンは見定めるかのように問いかける
「なら、お前さんの戦いってのは一体何なんだ、兄弟?」
虚偽も逡巡も一切許容しない、お前の決意を見せてみろというその問いかけに対して
「彼女の帰ってくる場所であり続けること、そして少しでも彼女から危険が遠ざかるようにすることです」
約束したように彼女の日だまりであり続けること、そしてみすみす敵の罠の中に彼女を放り込んでしまったという事が無いように十全な下調べや依頼の精査を行なう後方支援こそが自分の戦いなのだと強い眼差しで見つめ返しながらアッシュは告げる。
本当は目の前の男が告げたように英雄になりたかった、胸を張って君は俺が守ると告げられる強い男に。だけど自分には戦いに向いてなかった、ならばいつまでもそれに拘泥し続けて大切な人を蔑ろにしてしまうことこそ愚かだろう。自分は弱い、仮に戦場へと出ても才能溢れる彼女と肩を並べて戦うことなど出来ないだろう。それどころか優しい彼女の足を引っ張ってしまう恐れの方が高い。
だからこそ、自分が戦う場所はそこではないのだとアッシュは自らの想いを告げる、臆病者の方便だと軽蔑されるかもしれない、理想を諦めた負け犬の言葉だと今も自らの美学に殉じ続けている目の前の戦鬼はバカにされるかもしれない、でもそれでもと告げたアッシュの思いに対して
「そうかい、そういうことなら今後も頼むぜ
溢れんばかりの敬意を込め、本物の男としてアッシュを認めるのだった。
「うん?何やら意外そうだな、ひょっとして馬鹿にされるとでも想ったか?」
「いや、その……ええ、まあはい」
イヴァンの問いかけに対して驚きを隠せないままにアッシュがそれを肯定する言葉を告げるとイヴァンはやれやれとばかりに肩を竦めて
「どうにも誤解されがちだけどよ、俺は戦場に出ない奴を臆病者だとか罵る気は毛頭ねぇよ。こんなんやりたい奴がやれば良いのさ」
ま、不本意ながらも巻き込まれた奴がそれでもと譲れない想いを見せるなんてのももちろん最高だがよとまたかつて見たことのある誰かを思い浮かべながらイヴァンは続ける
「一つ昔話をしようか、俺の古い戦友にある男がいた。そいつはまあこの業界の例に漏れずよくいたタイプだ、家が貧しくて食っていくために傭兵になった。そいつは普段は臆病だったけどそれでも仲間のピンチのためなら勇気を振り絞れる本物の男さ。目立った功績を挙げたわけでも、優秀ってわけでもないそれでも確かに輝きを持つ俺の大好きな本物さ」
「やがてそいつは金が貯まったそいつはこの稼業から引退。今では得意だった料理の腕を活かして故郷で酒屋を開いている」
中々評判が良くてな、今度機会があればお前さんも一緒に行くとしようやなどと告げて
「お前さんはそいつに良く似ているよ。自分が可愛くてそういう事を言っているんじゃない事くらいおれには分かる。
それにとそこで最後に付け加えるようにして
「さっきも言っただろ。人間カッコいいと想ったものはどうしたって嫌いになれねぇってよ。さっきのお前はカッコよかったぜ、アッシュ」
そんな惜しみない賛辞を浴びながらアッシュはどこか居た堪れない気持ちになりながらも、目の前の男へと礼を告げるのであった。
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偵察の後私は姉さん、もとい団長への報告を終えて私の誰よりも大切で愛しい人の下へと急ぐ。一刻も早く会いたくて
「ただいま、アッシュ!」
バタリとドアを開けて笑顔で帰りの挨拶を告げる。すると彼もまた笑顔を浮かべて
「お帰り、ナギサ」
そうして駆け寄った私をギュっと強く抱きしめてくれる。そうして感じられる彼の温もりが私はとっても愛おしくて私は蕩けてしまいそうになる
「えへへへ、あったかい。やっぱりアッシュは私の陽だまりだよ……」
そんな事を告げた後にふと私はある事に気がつく
「ご、ごめん。私シャワーを浴びたり着替えもしないままに抱きついたりしちゃって……」
羞恥で顔が真っ赤になる。アッシュに汗臭いなどと想われたりすごく、すごくショックだ。しばらく立ち直れないかもしれない。そうして慌てて離れようとする私に対してアッシュは笑顔を浮かべて
「大丈夫だよナギサ、そんなに心配しなくても」
ギュッと抱きしめる力を強くするものだから、私はその温もりが心地よくて強く振りほどくことも出来ずに
「あ、汗臭くない……?」
「全然。むしろ優しい陽だまりのような香りがするかな」
「服も汚れちゃっているし……」
「この後洗えばいいよ、それよりも今はこうして君の温もりを感じていたいんだ」
そんな甘えんぼうなアッシュを見つめてはにかみながら私は告げる
「ちゃんと帰ってくるって約束したでしょ」
「ああ、君はちゃんと約束を守ってくれた。俺の方はどうかな、ちゃんと約束を守れているかい?」
そうしてギュッと抱きしめる力を強くした彼に対して悪戯っぽい笑みを浮かべて彼の胸へと顔を埋めながら私は告げる
「う~ん、まだ足りないかなぁ。もっと強く抱きしめて……アッシュの温もりを感じられるように」
「こんな感じでどうかな」
「うん……とってもあったかい。えへへ、私今とっても幸せ」
そうして私はようやく取り戻せた暖かな陽だまりの中でいつまでもまどろむのだった………
おまけその1
いちゃつく二人のバカップルそんな様子を遠目から覗きながら双子はゲンナリとした顔を浮かべる
「……すこーし偵察に行っていたってだけなのに何やっているんだろうねぇあの二人は」
「これからレインさんが出かけて帰ってくるたびにあんなやり取りする気なんでしょうか、だとしたら壁がいくつあっても足らなくなりそうですが」
チラリとレインとともに帰還してそんなイチャツキぶりを朝にも見せられ、帰った後にも見せられアッシュへの呪詛の言葉を吐きながら壁を叩く
おまけその2
「お、レインちゃんったら嬉しそうね!」
デレっとした笑みを浮かべて今にもスキップしそうな様子で鼻歌などを上機嫌に歌っている妹に対してアリスは問いかける
「あ、姉さん。ふふ、わかる?」
そんなアリスの問いにレインはよくぞ聞いてくれましたといわんばかりの満面の笑みを浮かべて
「おお!?その幸せかつ女としての余裕が感じられる笑み、さてはついに……!?」
女になったのかと妹の成長を盛大に祝福しようとすると
「うん!この間ついにアッシュとキスしたんだ!!!」
どこまでも初心な義妹はそんな子どものような事を告げるのだった
「………キス?」
呆れたような顔を浮かべる姉の様子に気づかずウカレポンチは笑顔のまま告げる
「うん……えへへ、幸せだなぁ。私本当に今幸せだよ……」
「ヘーソウナノーヨカッタワネー」
そんな妹の様子に姉は呆れながらまあこれだけラブラブならすぐにでもその時が来るだろう、その時が来たら盛大にからかってやろうと遠い眼をするのであった………
軍人辞めて酒場の店主やっている戦友の事も馬鹿にしたりせずに尊敬している辺がイヴァンさんのそこらのバトルジャンキーと一線を画すところですよね。
ちなみにイヴァンさんはこの後、アリス姉さんとアッシュの方針でローリスクローリターンな仕事をこなす暁の海洋に名残惜しさを感じつつも
より激しい戦場を求めて別の傭兵団へと移り、おじさんと糞眼鏡が対消滅した戦いで大暴れして満足気に笑いながら逝きます。