シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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この作品は作者の実体験に基づくことは一切無く、全て阿片に塗れた脳によって生み出された夢になります。
例によって妄想フルスロット全開の幼少時代のアシュナギの夏祭りの話になります。
あの世界の文明や文化レベル的に現代的すぎない?みたいな部分があるかと思いますが、その辺はご寛大な心持ちでお願いいたします。

以前も書きましたが他国人の平民であるアッシュが愛娘であるナギサちゃんと仲良くなっている事を特に妨害したりした様子が無い辺り、ナギサちゃんの両親は所謂善良寄りの普通の人をイメージしています。


繋いだ手の温もり(前)

夏祭り

 

それはかつて旧暦の時代、大和において夏の時期においてされていた祝祭。毎年その時期が訪れると、大和の民はYUKATAと呼ばれる涼を得るための衣に身を包み、様々な店が立ち並ぶ中を家族や友人、あるいは恋人と言った存在と共に時間を過ごしたと言う……

 

大破壊によって大和がその姿を消して、そんな祝祭も伝聞のみで語り継がれるものになるかと思われたが、国家の要職に就く事になった日系の貴種たるアマツの文化保護や大和を神の民族として崇める聖教国によって、地域によって形を変えながらその文化は残る事となった。

そして、純血派の重鎮たる奏の家が治める軍事帝国アドラー北部の都市でもそんな祭りへの準備が着々と進められつつあった……

 

 

「~~~~~~♪」

 

見るからにとても上機嫌な様子で屋敷の主である奏の家の一粒種ナギサ・奏・アマツは詩を口ずさみながらスキップしていた。そんな多くの者を虜にするであろう天使のようなあどけなさを見せる己が主に対して、彼女の後を着いていきながら従者であるアヤ・キリガクレもまた嬉しそうに話かける。

 

「ふふふ、旦那様と奥様がご許可をくださってよかったですね、ナギサ様」

 

「うん!コレで皆と一緒に私も夏祭り行けるよ!」

 

そんな己が従者の問いかけに少女もまた満面の笑みを浮かべて答える。

ナギサ・奏・アマツは箱入り娘である。彼女の両親はそこまで厳格な性格ではなかったが、それでも一人娘である彼女をそれこそ目に入れても痛くないという形容がピッタリなほどに愛していた。そのため彼女はそうそう屋敷の外に出る事は無く、当然ながら同年代の友人達と共に夏祭りに出かけるという事も無かった。

そんな箱入り娘たる彼女が今回に限り、以前から興味を抱いていたにせよ、常に無く強い意志で両親に自分も夏祭りに出たいと我儘を言ったのは例によって彼女の大好きな少年からの誘いがあったからである。ただのお祭りというだけであれば彼女は例年の如く心配する両親の言葉を聞き入れたであろう。

だがずっと屋敷の中にいた彼女にとって、少年の語る祭りの様子と何よりも「今年は四人で一緒に見て回りたいね」という誘いの言葉はあまりにも魅力過ぎた。「友達と一緒にお祭りに行きたい」、そんな子どもならば当然抱くお願いを言われてしまえば、我が子を愛する親なればこそ叶えてやりたいと思うのが親心という者。家に仕える警護担当と裏でこっそりと協議して、陰ながら護衛をつけることを決めた上で彼女の両親は愛娘のその愛らしいワガママを受け入れたのであった。

そうして満面の笑顔を浮かべながら戻ってきた二人の様子を見て、二人の友人であるアシュレイ・ホライゾンとミステル・バレンタインもまた説得が上手く行った事を悟り、笑顔で出迎えるのであった。かくして四人の子ども達は年相応の無邪気さを見せながら、大切な友達と一緒に回るお祭りの日の計画について語りだす。

 

「ねぇねぇアッシュ、お祭りってどういうものがあるの?」

 

箱入りお嬢様であったナギサ・奏・アマツは期待に胸を膨らませながら、箱入り娘である自分達と違い、あちこちを旅してきた今回の計画の発起人である少年へと問いかける。

 

「えーっと食べ物だったらわた飴とかりんご飴とか……うーん、でもナギサ達の口に合うかなぁ?」

 

紛れも無い貴族の令嬢であるナギサ・奏・アマツとミステル・バレンタインは当然食べる物も選りすぐられたものである。果たしてそんな彼女達にお祭りで提供されるようなものが口に合うかとアッシュは心配になったが……

 

「わた飴ってどんなものなの?」

 

少女の方は気づかずワクワクとした様子で少年へと問いかけるものだから……

 

「ナギサ様、あまり事前に知りすぎても当日の楽しみが薄れてしまうかもしれませんよ?」

 

アッシュの困った感じの様子を察したのか、アヤがそんな風に助け舟を出したので主の方もそれを聞き頷く。

 

「そうなると花火を見る場所を決めておいた方が良いんじゃないかしら?」

 

花火。それは金属の炎色反応を利用した火薬と金属片によって彩られる芸術である。この新西暦においては天に存在する第二太陽、大和へと捧ぐ祈りという宗教的側面が含まれており、夜空を彩るその閃光を見ながら人々は大和へと祈りを捧ぐのが一般的である。コレまでずっと窓越しに見ているだけであったナギサと

 

「そこは大丈夫!下調べしてバッチリの場所を見つけておいたから!」

 

胸を叩いて自分に任せて欲しいと少年が告げる。そんな少年の様子にこの中で年長の少女はクスリと笑い

 

「そう?それじゃあ、その場所までのエスコートをお願いしても良いかしら、アッシュ君」

 

「もちろん!僕が三人を守ってあげるよ!だって僕は、男の子だからね!」

 

そんな事を澄み渡る青空のような爽やかな笑顔を浮かべながら告げる少年に、三人の少女は胸の高鳴りを覚えながらその日を待ち焦がれるのであった……

 

 

 

「なんで!お父様とお母様は良いって言ってたのに!!!」

 

涙を浮かべながら詰め寄る警護対象の少女に謹厳に、警備責任者たるその軍人は答える、申し訳ないが、外出して祭りに人混みの中に出ることは許可出来ません。これもお嬢様のご安全のためなのでご理解下さい、と。

何故説得の末に外出の許可を得たはずがこうなったのか?それは彼女の両親が同じ純血派の重鎮たる淡の家へと火急の要件で話がしたいと言う事で帝都へと出向かなければならずに、それに伴い夫妻の道中の警護のために当日密かに少女を警護するための人員も出払ってしまうこととなった。

 

そうなれば当然祭りの時の警護体制を見直す必要あったのだが、少女にとっては大変不幸な事に、夫妻の不在の間に屋敷の警護の責任者となった者が無能ではないものの規律こそを最上の美徳とするかのような如何にもといった風情の軍人であった。加えて急な出立であったため、少女の父親がその責任者に対して娘と交わした約束について言い含めておくのを忘れてしまっていたという不幸も重なった。

かくして責任者としてその男は一つの決断を下した、すなわち安全を確保しかねるため主君の令嬢の祭りへの外出の取り止めである。融通の利かない頑固な大人として、例え目の前の少女に嫌われようともそれこそが主君に仕える者として為すべき行いだと信じて……

 

「お嬢様のご安全の為です。もしもの事があれば旦那様と奥様に申し訳が立ちません、ご理解下さい」

 

何度お父様のご許可は頂いていると詰め寄っても冷たく返されるその言葉に、ついに少女は泣きながらその場を後にする。部屋で待っている友達になんと伝えれば良いのかと陰鬱な気持ちになりながら……

 

「ゴメンね、私行けなくっちゃったから。皆で楽しんできて」

 

涙を拭いながらそんな事を告げる少女の様子に部屋で彼女を待っていた三人は顔を見せて一体どうしたのかと問いかける。そうしてぽろぽろと涙を零して申し訳なさそうに事情を話した少女の様子に……

 

「だったらこっそり抜け出して行こうよ!ナギサのお父さんとお母さんには行って良いって言われているんだからさ!」

 

どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら少年がそんな風に告げて来た物だから、泣き虫な少女は目を丸くして

 

「で、でも抜け出してって言っても出入り口は見張られているし……」

 

そんな少女の言葉に少年は胸を張りながら

 

「実はこの間こっそり出られる抜け穴を見つけたんだ!大人じゃ無理だろうけど、僕が通れたから僕より小さなナギサならきっと大丈夫だよ」

 

そんな事を言いつつ、だから行こうとアッシュはナギサを誘う。無論アッシュとて自分のやろうとしていることがバレたらものすごく叱られる事になるだろうというのはわかっている。わかっているが、けれどそれでもなお、少年は泣いている少女を笑顔にしたいと思ったのだ。

 

「そういう事でしたら留守番役が必要ですね、私達四人が全員いなくなってしまえば気づかれてしまうでしょうし……お土産を期待しておりますので、どうぞ楽しんできて下さい」

 

「四人で一緒に居るって話なのにアヤちゃん一人じゃ、きっと話し声が聞こえなくて気づかれちゃうんじゃないかしら?ここは私も一緒に残るから二人で楽しんできて」

 

そんな麗しい友情を前にして慌てたのは先ほどまで泣いていた少女である

 

「そ、そんなの悪いよ!私のために二人がいけなくなるだなんて!」

 

と。そんな気遣いに対して二人はニコリと笑いながら

 

「主の幸せが従者である私の幸せですから。どうかアッシュ様とお二人で楽しんできてください、ナギサ様」

 

「私はお姉さんだからね、こういう時は年下を優先してあげるのが年上の務めってものよ」

 

そんな貴方の幸せが私たちの幸せだからと言わんばかりの溢れん友情を受けて優しき少女はなおも躊躇いを見せたが……

 

「どうしても気が引ける、という事であれば、どうでしょうナギサ様、ここは次回のおままごとでのアッシュ様のお嫁様の役を一回ずつ私とミステル様に譲っていただくというのは?」

 

「あ、良いわねそれ。今日はナギサちゃんがアッシュ君を独占するんだもの。その位の見返りはあっても良いわよね」

 

そんな二人の友人の言葉にナギサもまた笑顔を浮かべて頷くのであった。そんな友人三人の様子を見て、女の子ってそんなにお嫁さんに憧れる物なのかな?、などと三人が自分が相手だからこそ(・・・・・・・・・・)お嫁さん役をやりたいのだという事にまで考えが及んでいないスケコマシの片鱗を見せる少年はどこか的を外した感想を抱いているのであった……

 

 

 




やっぱり箱入りお嬢様といえば屋敷をこっそり抜け出してのデートが定番でありロマンですよね!
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