シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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前話の続きです。例によって総統の幼馴染ちゃんの名前や口調などは独自のものです。
アオイちゃんが本編でアルバートのおっちゃんに対して辛辣だったのは幼友達にも関わらず
総統と袂をわかったことが原因だったので、二人の友情が続いているこの世界では
尊敬する主君の友人であり自分にとっても軍の先輩と言うことで敬意を抱いております。


アドラーの一番長い日(上)続

その日アルバート・ロデオンは何時ものように店の支度のために仕入れを行なっていた。買出しに訪れた馴染みの店の店主と一言二言世間話を交わして、その日の食材を仕入れる。そうして街を歩いていると見るのは多くの人々の笑顔。パクス・アドラー、祖国に齎された繁栄と平和の時代。その幸せをアドラーの民は噛み締めて、これを齎した偉大なる英雄が居る限り、こんな時代が永遠に続くのだと確信している。そうしてふと路地の方を見ると子ども達が何やら言い争っている、どうやら誰が総統閣下の役をやるかで喧嘩をしているようだ。そんな光景に苦笑しつつアルバートは思う

 

(なあクリス、お前は本当にすげぇやつだよ)

 

子どもの頃に思い描いた誰もが幸せに暮らせる世界、そんな夢をついに実現させて子ども達から、いやアドラーの民から一身に憧憬を集める親友の姿を思い浮かべる。血統派との抗争の最中におった戦傷、それが原因でもはや親友と肩を並べることが出来なくなった我が身に一瞬忸怩たる思いを抱いたが……

 

(だけど、肩を並べて戦うことだけが友情じゃない。そう俺にマリアが教えてくれたもんな)

 

思い起こすのはずっと日常の陽だまりとして馬鹿をやる自分達の帰る場所であり続けてくれた自分にとっての最愛の女性。もはや親友と肩を並べることが出来なくなり、失意の最中にあった自分を支え、癒してくれた太陽のような女性だ。

 

(誰もがあいつの事を稀代の名君ヴァルゼライド総統と讃えている)

 

御伽噺からそのまま現れた絶対的な英雄、それがアドラーの民がヴァルゼライドに抱く想いであり、それは概ね正しいし間違っているわけではない。だが、それでもとアルバートは思う

 

(俺やマリアにとってはやっぱりお前はただのクリスなんだよ)

 

どこまでも頑固でガキの頃から変わらない決して譲らない大馬鹿野郎、地位も立場も何もかもが変わったがそれでも自分達のこの友情に関しては不変なのだとアルバートは信じている

 

(さて、仕入れも終わったことだし店に帰ってマリアと一緒に支度するか。腹をすかせた野郎共とたまにふらりと飯時が終わった時間帯に仏頂面で食いに来るかもしれない総統閣下様(・・・・・・)のためにもな)

 

そうしてただいまーと声をかけながら家に入ったアルバートを……

 

「待っていましたアルバート殿。本日私がここを訪れたのは他でもない、貴方とマリア殿に聞きたいことがあるからです」

 

何やら血相を変えた様子のアオイ・漣・アマツが出迎えていた。

 

 

「それで私たちに聞きたいことってのは一体何なの、アオイちゃん」

 

マリア・ロデオンがまるで妹を見る姉のような微笑ましげな表情でアオイに対して問いかける

 

「……マリア殿、前から言っている事ですがその呼び方は辞めて頂きたいのですが」

 

しかめっ面をしながらアオイがそう答えるもマリアはどこ吹く風とばかりに

 

「あら、そんな事言われても私にとってはアオイちゃんはアオイちゃんだもの。あまり仰々しい呼び方じゃ他人行儀だし、かといって呼び捨てにするのも気が引けるし、私は軍人じゃないんだからアオイちゃんがどれだけ偉くてもそんなの関係ないもの」

 

そんなマリアの言葉にため息を吐きながらアオイはもう好きにしてくださいと言うのであった。端的に言ってアオイ・漣・アマツはマリア・ロデオンを苦手に思っていたーーーあくまで嫌っているのではなく苦手に思っているのである。ヴァルゼライドに対するアオイの忠誠を女性としての愛と認識して度々そのことを尋ねてくるという点では従姉妹と同じなのだが、どうにもこのほわほわとした女性が相手だとあまり辛辣になる事も出来ずに、その上彼女の敬愛する上官の幼馴染ともなると邪険にする事も出来ずに、このような度々結婚を勧めてくる姉をうっとおしく思って居る仕事一筋の妹のような距離感となっているのであった。

そんな空気を振り払うかのようにアオイはゴホンと咳払いをして真剣な表情をして

 

「私が本日貴方方の下を訪ねたのはヴァルゼライド総統閣下の事であなた方にお聞きしたいことがあるからです。……あの方は平時においてはどのような方だったのでしょうか。つまりはアドラーの総統としてではない貴方方の友人としてみた場合というか」

 

その言葉を聞いた瞬間に夫妻の顔が一瞬驚いたようなものから何やら微笑ましいものを見つめる顔へと変わり、顔を突き合わせながらヒソヒソと話し始める

 

「ねぇねぇあなた、総統としてではないクリスの顔が知りたいってこれはつまりもうどう考えてもそういう事よね」

 

「ああ、そういう事だろうな。色々と見ていてまどろっこしい関係だったが、彼女が自覚したのならようやく決着がつきそうだ」

 

夫妻がニヤケ顔で思い浮かべるのは常に仏頂面を浮かべながら「涙を笑顔に変えるのだ」だとかなんとか言って女にはとんと興味が無いような姿だった共通の幼馴染の姿。思春期を迎えてアルバートがマリアの事を異性として意識しだしたときもあの男は全く変わらぬ様子であった

 

「でも実際に脈はあると思う?」

 

マリアが思い浮かべるのは雨に濡れて自らの肢体が露になった際にも常と変わる事無く紳士的に上着を差し出してきた幼馴染の姿。そこに異性を意識してドギマギするようなラブコメ要素は欠片も無かった。鋼の心に一切の緩みはなしである。別にそういう目であの幼馴染に見られたかったわけではない、というかそういう目で異性を見るところが欠片も想像できない男ではあるのだが、それはそれ。どこか女としてのプライドを傷つけられた記憶がある。

 

「……クリスだしなぁ」

 

アルバートもそんな風にため息をつきながら答える。愛の言葉を女性に囁く親友の姿、笑顔でわが子を抱き上げる親友の姿。うん、全く持って想像が出来ない。爽やかな笑顔をして「座右の銘は諦めなければ夢は必ず叶う!」とか宣言している常連(ゼファー)以上に想像が出来ない。攻撃力に全フリしているようなステをしている癖にこと異性関係に関してはまさしく鉄壁。少なくともやっちゃったから責任取る為に僕に娘さんを下さい!とか言って薔薇の花束を抱えて翌日実家訪問するどこかの童帝のような可愛げなどは欠片もないだろう。

 

「……お二方とも、聞こえていますよ。お忘れかもしれませんが、私もエスペラント。当然ながら聴覚も常人のそれではありません」

 

そんな言葉を聞いて二人が慌てて振り向くとそこには青筋を立てたアオイの姿が会った。

 

「……何度も言っていますが私があの方に対して抱いているのはあくまで忠誠であり、そういった低俗な感情では……失敬、決してお二人の関係を侮辱するつもりはありません。失言でした」

 

アオイは常と変わらぬ厳粛な、と彼女は信じているが夫妻から見ると真面目なクラスの委員長が〇〇君の事が好きなんでしょう~とはやし立てられて必死にそれを否定する小学生のような表情、で答える

 

「……ああ、もうこうなると言葉で説明するよりも見て頂いた方がわかりやすいですね。百聞は一見に如かずとは良く言ったものです。申し訳ありませんがお二方とも、至急セントラルにまでご同行願います。事はこの国の行く末に関わりますので拒否権を与えることは出来ません」

 

その言葉に目を丸くしながら久方ぶりに訪れたセントラルにて夫妻はかつてない衝撃を味わう……

 

 

「ふわーあ、あーお帰りアオイちゃん。みんなに俺が総統辞めるって話しておいてくれた?」

 

一体何事かと思いセントラルを訪れ、「良く来てくれた。すまんがお前達に火急の用件がある」などと見知った威厳に満ちた表情と声が迎えるとばかり思っていた二人を迎えたのはそんな、どこにでもいるおっさんのようなだらけきった声であった。

 

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「アレ?アルにマリアじゃん。一体どうしたの?ひょっとして総統辞めた俺を迎えに来てこれから養ってくれるの?持つべきものは良い幼馴染だなぁ」

 

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「も~う、アオイちゃんたらこんな手の込んだドッキリしちゃって驚いちゃったわよ」

 

「いやぁ全くだぜ。よくもまあこんなクリスにそっくりの外見した人がいたもんだよなぁ」

 

ハハハハハハと現実逃避気味に乾いた笑いをしている夫妻に対してアオイ・漣・アマツは気持ちはわかる痛いほどにわかる!とでも言いたげに沈痛な表情を浮かべ、首を振り告げた。

 

「信じがたい事に……それはもう信じがたい事にそのお方はヴァルゼライド総統閣下ご本人です。閣下と同じ星辰光を使用したところを私がこの目で確認しました」

 

さーてそれじゃあアルの家に行くとするか、でもなんか立ち上がるのも面倒くさいなぁなどと言っているヴァルゼライドのような何かを他所にアオイは夫妻に衝撃の事実を告げていく

 

「いやいやいや、冗談をよせよ。このどこにでもいるようなただのおっさんがクリス!?冗談がきついぜ!!!」

 

「そうよ!似ているのはパッと見の外見くらいで雰囲気から何から何まで違うじゃない!!!」

 

ぶっちゃけその外見すらパッと見似ていると思わないかもしれない。何故ならばクリストファー・ヴァルゼライドが常に身にまとう圧倒的な覇気、一目でこの人は自分などとは違うとはっきりとわかるヴァルゼライドをヴァルゼライドたらしめている存在感とも言うべきものを目の前の人物は欠片も有していないからだ。

 

「……その反応を見るに総統閣下の普段のあの御姿は公人として無理をなさっていただけで、私人としての素顔が実はこのようだったというわけでは」

 

「あるわけないだろ!俺の知って居るクリスは常にあんな感じだったよ!餓鬼の頃からだるいだとか面倒くさいだとか一言たりともあいつがこぼしたところを見たことがねぇよ!」

 

「私も物心ついた頃からの付き合いだったけどクリスはもうその時からああだったわよ。正直物心つく前の赤ん坊の頃からあんなだったんじゃないかとすら思って居るわ」

 

ヴァルゼライドは生まれた頃からヴァルゼライドであった。仮に大和昔話の世界に生まれていれば、桃から生まれた等といった特別な出自など一切持たずとも鬼退治に赴いたり、邪知暴虐なる王に激怒して政治をわからぬままに殺しても混乱を招くだけと思い、完全な形で王位の簒奪と改革を成し遂げる男であろう。

 

「……そうですか、そうですか」

 

自分でも理由が判らぬままに、心の底から安心したと言わんばかりに安堵するアオイ。さてそれならば何故ヴァルゼライドはこうなってしまったのかとその場の誰もが疑問に思った瞬間

 

「漣殿、閣下がお風邪を召されたというのは本当かな?いやはや信じがたい事もあるものだが、ならば早急に帝国随一の名医に見せるべきだろう。クリストファー・ヴァルゼライドはアドラーの誇る至宝なのだから。その身には万一すらあってはいけない」

 

あ、と現れた人物の姿を見た瞬間にその場に居た三人の想いが一つになる。よりにもよって今のヴァルゼライドに一番会わせてはいけない人物が来てしまったと

 

「俺ってこの国の至宝だったの?じゃあ年金とか出るのかなぁ。確か旧暦の大和だと人間国宝とか認定された人物はそんな風にお金が出たよね。となるともう働かなくても良いじゃん」

 

やったーなどと相も変わらずゴロゴロしながらヴァルゼライドのようなナニカが呟く

 

「ちょうど良い所にきてくれたねギルベルト君も、アオイちゃんから聞いていると想うけど俺今日で総統辞めるから後はよろしくね」

 

そんな言葉を聞いた瞬間ピシリとギルベルトと呼ばれた偉丈夫の眼鏡にヒビが入る。

 

「ハーヴェス殿……その今の閣下はなんというかその……」

 

「あー俺らも何でこうなったのかは理解出来ていないんだけどよ……ひょっとしてお前なら何か予想出来たりとか……ギルベルト?」

 

「……ショックのあまり立ったまま気絶しているわこの人」

 

常々「閣下ほど完璧な方はこの世にありはしない。ヴァルゼライド総統閣下は唯一無二の絶対的な光だ。故に常人に倣えるものではない。だからこそあの方は真に至高なのだ」とヴァルゼライドへの崇敬を露にする為に、一部ではそっち(・・・)の趣味なのではと疑われてさえいるアストレアに次ぐアドラーのNO3と目されている審判者ギルベルト・ハーヴェスはかくしてその日ヴァルゼライドと同じく急病により、業務を休む事になった。

NO1とNO3が同時に機能を停止するという地味にアドラーにとってかなりのピンチとなったその頃、NO2(チトセ)もまた危機にあるのであった………




この世界のギルベルトは
「しゅ、しゅごいヴァルゼライド閣下すごい!閣下は唯一無二のお方なんだ!こんなの他の誰も真似出来るわけがない!」
「ヴァルゼライド閣下だから出来たぞ?ヴァルゼライド閣下だから出来たぞ?ヴァルゼライド閣下だから出来たぞ?他の人間は無理だけどヴァルゼライド閣下だからこそ出来たんだぞ!」
みたいな感じでヴァルゼライド閣下を絶対の光として崇めているからこそ他人に真似出来るわけないわと判断してエリュシオン思想拗らせていません。
多分総統閣下が死んだら殉死して後を追います。ただ総統はそれに備えてチトセを補佐してこの国を頼むといった遺言を残しているので、その言葉を神からの託宣のように守ることでしょう。
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