「そうやってめかしこんでいるとお前さんもどこぞの令嬢に見えるな。馬子にも衣装とはこの事か」
友人であり、同僚でもある普段とは違った着飾った様子のチトセ・朧・アマツを見てヴァネッサ・ヴィクトリアは感慨深げに感想を述べる。
「ふ、当然だ。何せ私は愛の乙女なのだからな!未だ思いを自覚すらして飾り気を全く持たないアオイとは違うのだよ!」
「乙女ねぇ……あたしには食虫植物とか羊の皮を被った狼とかにしか見えないが……乙女ってのはあちらさんにいるようなのを指すと思うんだが」
そうしてヴァネッサはチラリと着飾った様子で華やかな会話をしている面々を窺う
「ヴェティちゃんったらすごいよ!まるで何かの妖精さんみたいだよ!」
めかしこんでまさしく天使という形容がピッタリな状態でミリィはそんな風にヴェンデッタへの賛辞を述べる。仮にこの場に彼女の両親がいればわが子の成長に感慨深い思いを抱いた事だろう。彼女の纏う雰囲気は恋する乙女のそれなために、父親のほうは聊か複雑な心境になったかもしれないが。
「ふふ、ありがとう。そういうミリィもとっても可愛らしいわよ。……こんな華やかなドレスを着れる日が来るなんて昔は思っても見なかったから、なんだか感慨深いわね」
そんなミリィの賛辞にこれまた常になくやや、浮かれた様子のヴェンデッタが褒め返す。
「こういうしっかりめかしこんだドレス姿をするのは久しぶりかも。ふふ、アッシュ喜んでくれると良いなぁ」
クルリとその場で華麗に一回転してナギサ・奏・アマツを頬を赤らめながらそんな事を呟く。めかしこんだ今の彼女はどこからどう見ても深窓の令嬢そのものである。仮にエスコート役の男が不在の状態で、そういった場に出ればすぐさま魅入られた男が声をかけてくる事だろう。
「ふふ、なんだかこんな風な格好で三人揃った状態だとナギサちゃんの屋敷でのときを思い出すわね」
同じくシスターであり、騎士でもあり、令嬢でも在るという複雑な経歴のミステル・バレンタインが過去を懐かしむようにそんな風に呟く。
「ああ、あったあった。アッシュが誰を選ぶかとドキドキしていたら」
「アッシュ様が結局全員と踊られて丸く収まったアレですね。……正直、お二方とはともかく私は所詮従者の立場にすぎず、まさか踊っていただけるとは思っていなかったのであの時間は夢のようでございました」
まるでお姫様と王子様のように踊る友人二人を羨まし気に眺めていたら「はい、次はアヤの番だよ。一緒に踊ろう」と俯いていた自分に思いを寄せる少年が輝かんばかりの笑顔で誘ってくれた事をアヤ・キリガクレは思い出す。
「あの頃のアヤちゃんは大人しい子だったわよね……いや、今も物静かな子ではあるんだけど時々頭がえげつないピンク色になるというか」
どこか引きつった顔を浮かべながらミステルがそんな事を言うと
「申し訳ありません、私もキリガクレの女なものですので。ですが、愛する男性と晴れて結ばれて、友情にも気兼ねする事無く国からの後押しまで受けている。この状態でその気にならないほうがむしろ不健全とさえ言えるのではないかと思いますが?」
「いや、それにしたって限度ってものがあるでしょ……」
「うん、うん。ミステルの言うとおりだよ。アヤはもう少し自重ってものを覚えたほうが良いと思う」
そんなキャッキャウフフという擬音語が聞こえるかのようなやり取りをしている5人を確認した後に目の前の肉食獣を改めて見る。やはり乙女と名乗るには色々と無理があるだろう、どちらかといえば自分と同じく漢女とかそういう風に呼ばれるほうが相応しいタイプだ。ついでに年齢的にもそろそろ乙女を自称するのは色々とキツイ
そんなヴァネッサの様子にチトセは眉をしかめて
「おい、何か言いたい事があったら言ったらどうだ。大体そういう貴様はどうなのだ、こんなところまで部下を連れ戻しに来た辺り人の事をとやかく言えんのではないか?言っておくが部下だの何だのと理由をつけて、その手の感情に蓋をしていると後悔することになるぞ」
そんな風にかつての自分を思い起こしつつ本人なりのアドバイスめいたものを送ってみたが
「お前さん、自分がそうだったからと言って恋愛脳になりすぎだぞ。別にわたしはあいつが自分の金で遊ぶ分にはとやかく言うつもりはないし、言ってもいない。だけどホライゾン利用して国費で遊ぶ気ともなれば、流石に止めないとならんだろ」
ヴァネッサ・ヴィクトリアはどこまでもだるそうに答える。現状の彼女にその手の色気は一切無い、それはドレス姿で着飾った6人に対して一人だけ常と変わらぬ軍服姿なのが示すとおりである。
「でも、兄さん達本当に来るんでしょうか?兄さんやグレイさんはともかくアッシュ君は真面目だから誘われても断るんじゃ……?」
ミリィがそんな風にヴァネッサの言葉に応じる。天使である彼女からすらこんな認識な辺り、ゼファー・コールレインの信用の無さが伺える。
「うーん、アッシュ君のことだから渋りはするだろうけど……」
「あのお二方相手だとなんだかんだで押し切られてしまいそうな気がします、お優しい方ですから」
「うん……ゼファーさんにはある種の恩みたいなの感じているし……」
そんな風にアッシュをよく知る幼馴染三人は答える。
「……うちの子が本当にごめんなさいね、何かと言うと録でもないことばかりアッシュ君に吹き込んでいて本当に申し訳ないと思って居るわ」
完全に真面目な好青年を悪い遊びに誘う悪友ポジと化している己が愛する男の事を考えながら、そんなまるで母親のような謝罪の言葉をヴェンデッタは口にする。ここまで誰一人としてゼファーとグレイがアッシュを強引に誘うという構図を疑っていない辺り、日頃積み重ねた信頼の差がよく出ている。
「む、どうやら噂をすれば陰というか予想通りにゼファー達はコチラに向かって居るようだ。ホライゾン殿は渋っていたが、結局ゼファーとハートヴェインの奴が土下座を敢行したために押し切られた様だな」
アッシュの護衛として密かに酒場に忍ばせておいた部下からの報告を聞いて、チトセはそんな言葉を零す。
「兄さん……」
「あの子は本当にもう……」
あまりにあんまりな予想通りの己の愛する男の行動に二人はため息をつく。わかってはいたが、もしかしたらと期待してしまうのが恋する乙女の悲しき性という奴だろうか。
「それでは手筈どおりに頼むぞイヴ」
そんな二人を他所にチトセ・朧・アマツは不敵に笑いながらそんな事を告げる。愛している故逃がさない、お前のその欲望私が余す事無く受け止めてやろうじゃないか我が狼よと準備万端で待ち構える
「ええ、任せて。ゼファー君たちが来たらこのVIPルームに四人を案内すれば良いのよね。それじゃあ行って来るわ」
そうして意気揚々と待ち構えられている事も、自分達の会話が他ならぬイヴによってVIPルームに筒抜けな事も知らずにイヴとの歓談を行ない始めた四人。そうして
「全くどっかの毒舌ロリオカンはせめてお前くらいのオッパイになってから出直して欲しいぜ!!!」
というゼファーの言葉を聞いた瞬間からヴェンデッタの顔がとてもにこやかな笑顔で固定され
「うふふふふ、女性を胸で判断するのは良くない事だっていう初歩的な事すら忘れたのかしら」
と笑顔のまま絶対零度の雰囲気を纏い、あまりの恐ろしさにレイン達はゼファーの冥福を祈り
ミリィは少しだけ気にしたように自分の胸を触った後に少しだけため息をついて
「兄さん……やっぱり大きい胸の人が好きなのかなぁ」
と呟いたり
「ふ、どうやらあの御曹司殿と同じ趣味だったという事はないようだな、安心したぞ」
などと呟きながらまるで獲物をロックオンした肉食獣のような笑みをチトセが浮かべ、アマツのお嬢様に興奮するゼファーに益々舌なめずりを行い
「俺が真実愛しているのはあの三人だからです」
というアッシュの言葉を聞いた瞬間に
「えへへ、私はアッシュを信じていたよ!」
などと言いながらナギサ・奏・アマツは満面の笑みを浮かべたり
「そりゃナギサちゃんは以前にあんなにも情熱的に口説かれちゃったもんねぇ……でもそっか。アッシュ君、本当に私たちの事大切に思ってくれているのね」
そんなナギサをからかいつつも自分も満更でもない表情をミステル・バレンタインは浮かべたり
「ああ、アッシュ様……アッシュ様……」
アヤ・キリガクレは恍惚とした表情で感極まったようにアッシュの名前を呼び続けたりして、かくして桃源郷へとたどり着いた男達に対して、自らの言動に対する審判の時が訪れるのであった………
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「裏切ったなああああああああああイヴうううううううう!!!」
そんなゼファー・コールレインの断末魔が木霊する。即座に所有していたアダマンタイトを抜き放ち星と感応して発動値へと移行、その場から離脱しようとするが……
「うふふふ、どこへ行く気かしらゼファー」
愛しい人どうか後ろを振り向いて、死想恋歌の星がゼファーの星をかき消す。そうして出鼻をくじかれたところを
「おいおい、どうした。巨乳のアマツのお嬢様を抱きたいのだろう?ほうらここにいるぞ、存分に貪るが良い我が狼よ」
そんな事を言いながら笑顔を浮かべて自らも愛刀を抜き放ち星を纏ったチトセ・朧・アマツがゼファーの武器を弾き飛ばし、その場で羽交い絞めにする。どう考えても深窓の令嬢の行なう事ではない。
一方予期せぬところで予期せぬ三人と出会ったアッシュは慌てて弁解の言葉を口にする
「ち、違うんだよ三人共!俺は決して浮気しようとか、そういう気はなくて!!!」
傍から見ると慌てた様子で言い訳しているようだがその内容は紛れも無い真実な事を告げるアッシュに三人は苦笑して
「うん、わかっているよ、ゼファーさんとグレイに強引に連れてこられたんだろ?」
「はい、アッシュ様が自らの意志でこのような場所に来られる方ではないことは私たちは良く知っております」
「もしもアッシュ君がその気なら今までだっていくらでもチャンスはあったもんね。だからそんな慌てなくても大丈夫よ」
ちゃんとわかっている、私たちは貴方を信じているからという言葉を受けて目を丸くするアッシュに対して
「でも……ちょっとだけ不安になったんだからな……」
「信じているけど、それでもひょっとしたらってなる気持ちはどうしても出ちゃうものなのよね、アッシュ君だったら大丈夫って想ってても」
「なのでアッシュ様、お願いします。どうか私たちがそんなつまらぬ不安を抱かぬよう、貴方を感じさせてください」
潤んだ瞳と赤らめた頬でそんな事を告げる愛する女達。そうして
「ほら、さっききちんと想いを告げるって言っていたわよね、アッシュ君」
そんな言うべき事があるはずだと促すイヴの言葉を聞いてアッシュは
「好きだよ、アヤ、ミステル、ナギサ。もうすでに三股かけている身で何を言うんだって思うかもしれないけど、それでも俺は君たちを裏切るような真似だけは絶対にしない。俺が愛しているのは君たちだけだから」
そんな心よりの愛の言葉を紡ぐ。そうして感極まったかのように抱きついてくる三人を受け止めて、色男は三つの花を携えてその場を後にして自分たちへの家へと帰っていくのであった……今日は四人揃って燃え上がる夜を送る事だろう。
「あ、姐さん……その、あのですね……」
しどろもどろになる己の副官を気だる気に見つめていたヴァネッサだったが不意に苦笑して
「ほれ、帰るぞ。今度来るときはちゃんと自分の金で来るんだな、その分には特に何も言う気は無いさ」
言う権利も別にないしな、などと言って来る上官に対してグレイは一瞬呆けた様子を浮かべた後に
「うす!すんませんでした姐さん!国の金でこようだなんてセコイ真似はもう二度としません!」
頭を一度下げた後に、キリッとした表情を浮かべてそんな謝罪の言葉を口にする。
「おう、そうしろ。そうしろ。私もこんなつまらん事でいちいち減給だのなんだのと処罰するような真似を
そんな言葉を口にしながらスコルピオの両翼はその場を後にする。
そうして丸く収まっているところもあれば修羅場を迎えている者もいる、ゼファー・コールレインは今、窮地に立たされていた。幾度も己を救ってきた直感、その警告を無視した報いを今まさに受けていた。
「さあ、存分に貪るが良い我が狼イイイイイイイイ」
そんな事を叫ばれながらその豊かな胸を押し付けられて不覚にも発動してしまう己がアダマンタイト、このままでは貞操の危機だとばかりに助けを求めるかのようにヴェンデッタのほうに目をやると
「うふふふ、良かったわねぇ。大きな胸が好きなんでしょ、なら今はまさしく天国のようなものよね?」
「ああ、正直色々と辛抱たまんねぇ……って違う!助けろよヴェンデッタ!家族のピンチだぞ!」
そんな夫婦漫才を行なっているとヴェンデッタは冷たい瞳をゼファーへと向けて
「良かったじゃない、貴方が舌なめずりしながら喜んでいたアマツのお嬢様よ、わざわざ嫌がるアッシュ君を強引に誘ってまで来た甲斐があったじゃない」
「兄さん、兄さんがこういうところに興味あるのはその……しょうがないし、私に色々とやかく権利はないってわかっているけど、でも、アッシュ君を強引に誘うような事をするのは駄目だと想うよ。アッシュ君はもうじきアヤちゃん達と結婚するんだし」
ヴェンデッタのみならず己が天使までもがそんな己の非を指摘することを言ってきたためゼファーは慌てて
「いや、違うんだよミリィ、これはその……えーと、ほら……」
じーっとどこか怒ったような瞳で自分を見つめる己の愛する義妹を前にゼファーは上手い言い訳を思いつかず万事休すかと想ったその時
「あはははは、違うんですよレディ、そしてミリィ君。今回アッシュを誘おうって言ったのは僕が発案した事なんですよ」
辛い時にこそ助けてくれるもしもの時の友。己が最高の親友ルシード・グランセニックがそんな事を口にしていた
「ルシード……」
お前ひょっとして俺を庇ってとその親友の友情に柄にも無くゼファーは感動する。そんな感動するゼファーの傍らでルシードは言葉を続ける
「なので、叱るならばこの僕を!!!ゼファーではなく!この僕を!!!!どうか!!!僕を叱ってください!!!!」
頬を赤らめながらはぁはぁと荒い息をしてそんな事を告げる親友。その姿は百の言葉よりも雄弁に事実を示していた。すなわちルシードの発言は友情ではなく己が欲求を満たすためのものであるということを。
そんなどこまでもブレない変態の姿にヴェンデッタは毒気を抜かれようにため息をついて
「ゼファー、今回の件、ちゃんと反省している?もうこういう真似は二度としない事と、迷惑をかけたアッシュ君に対して後日ちゃんと謝罪するなら助けてあげるけど?」
「ハッハッハ、何やらお前の同居人が色々言っているがなぁに気にするなゼファー。たっぷりと愛してやるとも、お前の欲望のままにこの育った肢体貪れば良いさ。この身は全て、お前に捧ぐためにあるのだから」
甘い吐息をふきかけながら、そんな事を囁くアマツの女傑。そうして二つの狭間で揺れていたゼファーだが、不安気にこちらを見つめるミリィの姿を目にして……
「はい、もうしわけありませんでしたヴェンデッタさん。もう国費で豪遊しようだとか考えたりしません、利用しようとしたアシュレイにもきっちり謝ります」
そんな己の愛する男の言葉にヴェンデッタは笑顔を浮かべ
「というわけだからその辺にしたらアストレア、貴方だって合意なき睦言は本心ではないでしょう?」
そんな言葉をゼファーを抱き枕にして胸を押し付けている女傑に対して言うと
「むぅ……ここまで攻めても駄目なのか……」
だとするならばここは他の者に相談してなどと呟きながら名残惜しそうにチトセはゼファーの身体を離す。そんな様子を見てイヴ・アガペーは
「あら、残念。私としては四人皆でゼファー君を一杯愛してあげても一向に構わなかったのに」
と妖艶な笑みを浮かべながら告げる。かくして二人の副隊長の邪な野望は成就する事無く、終りを告げる事となるのであった……なお、VIPルームを貸し切るための金は後日二人の副隊長の給料より天引きされる事となった。
ゲームだったら多分そのままチトセネキとおっぱじめる選択肢がありますね。