シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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今回は主にヴェンデッタ勢のバレンタインデーの話になります


乙女にとっての勝負、男にとっての審判の日(中)

 バレンタインデー。それは乙女にとっての勝負の日、チョコレートと共に自らの好意を愛する者へと伝える日である。

 バレンタインデー。それは男にとっての審判の日、送られたチョコレートの数はすなわち明確なる男としての優劣を突きつける。

 そんなバレンタインデーが、今年もまたアドラーにやってきたのであった……

 

 

 

 

「これが今年の分か」

 

 

「は、今年の総統閣下に贈られてきたバレンタインデーの贈りものとなります!」

 

 

 眼鏡をギラリと輝かせながら何時になく不機嫌そうに呟く己が上官にアリエス副隊長クロ・ウニン少佐は胃をキリキリと痛めながら答える。アオイ・漣・アマツ中将は尊敬に値する立派な上官である。厳格な性格から決して親しみ易いというわけではないが、卓越した実務能力に管理能力に部下に対する公正無私な人物で凡そ良き上司と言うべき相手であった。

 だが、そんな彼女が何時になく不機嫌な日が存在する、それはあの日とかいうセクハラ的なものではなくむしろ世間的にはある種のお祭りとも言える日なのだが……

 

「例年通り、全て処分せよ。アドラーの至宝たる総統閣下に何が入っているかもわからぬものを渡すことなど到底出来ぬのだからな」

 

「は、心得ております」

 

 それがこのバレンタインデーであった。この日のアオイ・漣・アマツはそれはもう機嫌が悪い、ものすごく悪い。この日だけは絶対にアオイの逆鱗に触れるような事をするな、あったとしても緊急性が低いならば報告を後日にしろというのはアリエスの隊員達にとって暗黙の了解となっている。

 

「全く以って世の中あまりに頭の働かぬ者が多すぎる、そうは思わんか少佐。少し考えれば総統閣下にどこの誰とも知れぬ者から贈られたような者をお渡し出来るかどうか考えればわかりそうなものを」

 

「全く以って仰るとおりかと想います」

 

「にも関わらず!既製品どころか手作りのチョコレートなどという代物まで贈ってくるものまで居る始末!全く以って馬鹿げている!!!そもそも何故手作りなどに拘るのか、餅は餅屋、プロの作った品質が保証されているものよりも何故か素人が自分で作ったものを心が篭っているなどと持て囃す風潮など全く以って理解に苦しむ!!!」

 

「いちいち隊長の仰る通りかと想います」

 

 アオイ・漣・アマツは貴種の出である、加えて彼女はアリエスの隊長という国家の要職にある身。それ故幼い頃より所謂料理や菓子作りなどといった料理作りには興味を示さず、当然ながら手作りで菓子を作った事等もない。それ自体は別段責められることではない、人にはそれぞれの適性というものがあるのだから。

 彼女の敬愛して止まぬ主君クリストファー・ヴァルゼライドにしても己が副官に求めるは家事や菓子作り等ではなく、優秀な統率者、管理者国家の重鎮としての能力と仕事である。故にこそ、アオイは平時であればそのような事は特に気にも留めていない。しかし、それでも本人自身も気づいていない時点で奥底に秘められたコンプレックス、それがバレンタインの日にはこうして表に出るのであった。

 

「そもそも元を正せばバレンタインデーなどという日自体が……」

 

 そんな風に長々と告げられる愚痴に相槌を打ちながらウニン少佐はそっと天を仰ぐのであった……

 

 

 

 

「はい、兄さん。私からのバレンタインデープレゼントだよ!」

 

「うおおおお、ありがとうミリィ!兄さん超感激だよ!!!」

 

 天使のような笑みを浮かべながら渡された綺麗にラッピングの施された、それを拝むかのような勢いでゼファー・コールレインは受け取る。

 

「えへへへへ、喜んで貰えて良かった。兄さんのだけ、皆のよりも豪華に作った特別製なの」

 

 もじもじとはにかみながらそう告げるミリィにゼファーはドキンとさせられる。護衛任務から知り合った妹のような少女、そう想い接してきたのだがそんな彼女も今では一人の女性として立派に成長して、そんな彼女を見ているとなんというか色々とウズウズするものをいかんと思っているのに感じてしまっていて……

 

(いかんいかん、静まれマイサン。相手はミリィだぞ、ミリィ)

 

 ゼファーはそう己に言い聞かせる。ミリィ is 天使。天使は穢してはならない、尊き者の破滅を祈る傲岸不遜な畜生王にもそう思う程度の良識が存在した。

 

「あ、あのね兄さん……兄さんに伝えたい事があって……」

 

 モジモジと恥ずかしそうにした後にミリィは意を決したように大きく深呼吸して

 

「私、ミリアルテ・ブランシェは貴方の事が大好きです。妹としてじゃなくて一人の女の子として。そんな気持ちを込めて今回のチョコレートは作りました、どうかこの想い受け止めてください」

 

 そう、どこか大人びた表情で告げる可愛い妹分の姿にゼファーはドキリとさせられ、言葉を失う

 

「へ、返事は今すぐじゃなくてホワイトデーの時で良いから!そ、それじゃあ!!!」

 

 そうして逃げるかのように走り去っていくミリィの姿を見送り、しばし呆然としていると

 

「全く、お姉さまにしてもミリアルテ様にしてもこんな男のどこが良いのやら」

 

 苦虫を噛み潰したようなしかめっ面をしながらサヤ・キリガクレが現れていた。チトセラブのガチレズ忍者たるサヤ・キリガクレ、当然ながら野郎に渡す義理チョコも本命チョコも存在せず、渡す相手は主であるチトセ・朧・アマツへの本命チョコのみである。だが、そんな愛しい主君からの本命チョコは目の前の冴えない男のものである。それがサヤ・キリガクレには悔しくてしょうがない、ギリリと歯軋りしつつ見つめてくるサヤにゼファーは辟易とした思いを抱く

 

「さてねぇ、その辺は俺にも良くわからんわ。もっと良い相手がいるだろうにと俺自身思っているわけなんだが」

 

 ただの相棒そのはずだったなのに何故かある時を境に熱烈なアプローチをしかけてくるようになった上官にゼファーは言うと困惑を隠せない。嫌なわけではない……多分、きっと、おそらく。だがなんというか色々と重たいのだ。ああまで肉食全開で迫られると、生物的な本能というべきかこちらとしては逃げたくなるわけで……

 

「隊長がお呼びです、執務室までいらしてください」

 

 ああ、また今年もかとゼファーは呼び出しの言葉を受けて処刑階段をのぼる罪人のような心境で執務室へと向かうのであった。

 

 

 

「お前を呼び出したのは他でもない、渡したいものがあったからだ」

 

(ほい、来た)

 

 執務室へと呼び出されたゼファーは己が上官からのその言葉を死刑宣告のような面持ちで聞いていた。

 脳裏に過るのは昨年の惨状、恥じらいなどかけらもなくさあ私がプレゼントだ存分に貪るが良い!などと告げてきた光景。

 いつでも逃げ出せるようにすでにいつでもアダマンタイトと感応して発動値へと移行できるようにしている。

 

「その渡したいものというのはコレだ」

 

(………アレ?)

 

 手渡されたのはきれいなラッピングの施された帝国でも有名なブランドのチョコレート。そのあまりに真っ当すぎるプレゼントにゼファーは困惑を隠せない。

 

「手作りのほうが気持ちが伝わるという話も聞きはしたのだがな、どうにも私はそういったものには不慣れだし、何かと忙しい身故に練習に割く時間もない。ならば専門家が作って品質の保証されているものを用意することこそが誠意ではないかと思ったわけなのだが……どうだ、気に入って……貰えただろうか?」

 

「あ、ああ……まあ甘いものも嫌いってわけじゃないし、嬉しいぜ。それこそ餓鬼の頃はこういうのに縁がない生活を送っていたわけだしよ」

 

(あれーーーーなんだこのしおらしいチトセはーーー夢でも見ているのか俺は?)

 

 やけにしおらしい様子でチョコを渡してくるチトセにゼファーは困惑を隠せない。一体何が起こっているんだあるいは自分は何らかの星辰光の攻撃をすでに受けているのではないかとそんな馬鹿な考えが頭を過るが……

 

「そうか、それは良かった。お前に喜んで貰うためのものだったからな。喜んで貰えたようで何よりだよ」

 

 そうどこか気恥ずかしそうに微笑むチトセにゼファーは少しだけドキンとさせられる。その肉食ぶりに引いたりしたが、チトセ・朧・アマツは紛れもない美人である。しかも軍務の際にはまさしく女傑という名に相応しい辣腕ぶりを見せている。そんな女がはにかみながら微笑んでくれば、健全な男としてはそりゃもうイチコロである。ゼファー・コールレインは決してチトセ・朧・アマツの事を嫌っているわけでも憎んでいるわけでもないのだから……

 

「それでだゼファー、今日が何の日か、そのプレゼントがどういう意味か当然お前もわかっているだろう?」

 

「お、おう今日はバレンタインデーだよな。何だかんだで長い付き合いだし、上官としての義理チョコってやつだろ。嬉しいけどあんまりホワイトデーのお返しは期待してくれるなよ、アマツのお前さんが満足できるようなプレゼントなんてこちとらそうそう用意できねぇんだからよ」

 

 チトセが義理チョコなどを配るような女ではないとわかっているはずなのにゼファーはどこか逃げるようにそんなふうに答える。そんなどこまでもヘタレな愛しい男にチトセはしょうがないやつだとクスリと笑って「ホワイトデーのお礼などお前の下の方から出す白くて濃いもの貰えれば十分だ」という発言をすんでのところで飲み込んで

 

「いいや、それは紛れもない私の本命チョコというやつだよゼファー」

 

 そうして逃さないとばかりにゼファーの頬を両手でつかみしっかり見据えながら

 

「好きだゼファー、一人の女としてお前の事を愛している。これは決して冗談でも何でもない、私の真実の思いだ」

 

「お前はこう言うと俺なんかと卑下するのかもしれないが、私チトセ・朧・アマツはゼファー・コールレインをこそ愛している」

 

 そう思いを告げて逸る気持ちをどうにか押さえ込んでチトセはそっと身体を離して

 

「返事は今すぐでなくても構わない。ただ私のお前に対する思いが紛れもない真実である事はどうか信じてくれ」

 

 そっとはにかみながら告げるチトセにゼファーは呆然とするのであった……

 

 

「それで、二人の美女から告白されたわけだけどどうするのかしら色男?」

 

 ポツリとそうゼファーにヴェンデッタは語りかける。その様子は我が子がモテる事を喜ぶ親のようにも、あるいは夫の浮気を目撃して不機嫌な妻のようにも見えるものであった

 

「い、いやどうするったってそれはだな」

 

 一体自分はどうしたいのだろうか、とゼファーはひとりごちる。ミリィしてもチトセにしてもその気になればよりどりみどりなはずなのになぜ自分なんかをという思いがある、嬉しくはあるし、薄々と勘付いてはいた、だが複数の女性にこうも真っ向勝負で告白されるなどゼファー・コールレインの人生には今まで存在しなかった。故にどうして良いかわからずに途方に暮れる。

 

「全く、散々アッシュ君をからかっておきながらいざ自分も複数の女性に告白されたらこの様だなんて、一体どの口で言っていたのやら。少しは彼を見習ったらどうなの?」

 

「う、うるせぇな!そういうお前もちっとはナギサちゃんの素直さ見習ったらどうなんだよ!何時も口を開けば小言ばかりじゃねぇか!」

 

 私も相手がアッシュくんならこんな小言をいちいち言わないで済むんだけど、などと反論が来るのを予想したゼファーだったが何故かヴェンデッタは考え込むような素振りを見せて

 

「そうね、たまには私も素直になろうかしら」

 

 そうしてまるで月の女神かなにかと見間違うような微笑みを見せて

 

「愛しているわゼファー。貴方のことを心から、この世界で何よりも貴方の事を大切に思っているの。貴方が幸せになってくれる事を私は心の底から祈っているわ。貴方はチョコレートよりもお酒の方が良いって言ってたけど、でも私にとってもこういうお祭りはずっと私には縁のないものだと思っていたから、どうか私の我儘に付き合うと思って受け取って欲しいわ」

 

 そうしてヴェンデッタから差し出されたのはグランセニックの御曹司ならばそれこそどれだけの金をだしても惜しくないと思うであろう手作りのチョコレート

 

「夢だったの、こうして好きな人にバレンタインデーにチョコレートを渡すのが。愛しているわゼファー」

 

 そんなはにかみながら告げられた言葉にゼファーはまたしてもドキリとさせられるのであった。

 

 




チトセ「ヴェティ嬢!ミリィ嬢!我々でゼファーに告白ジェットストリームアタックをかけるぞ!」


ゼファーさんが3ヒロインの告白にどう答えたかは皆様の心の中に……(考えていない)
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