女子だけあべこべ幻想郷 ~UnderGround~   作:アシスト

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彼の名は

 

 

 

 

*——————*

 

 

 

 

 

「開斗は良いよなぁ、運動も勉強もできて、何よりイケメン。人生イージーモードって最高じゃん」

 

 

 

高校生のころ、クラスメイトにそう言われたことがある。僕自身、その自覚は確かにあった。

 

並大抵のことは何でもこなせたし、真面目に授業を聞いていればテストも100点。努力してできなかったことなんて、今まで一度もない。バレンタインに下駄箱や机からあふれるほどのチョコを貰った経験上、世間一般的には顔も良い方なんだと思う。

 

 

大体ことは上手くいく、障害物のない下り坂を走るだけの人生。傍から見て羨ましく、そして妬ましく思う気持ちもわかる。

 

 

けど。

 

 

「イージーモードで楽しいのは最初だけだろ。人生でもゲームでも、何だかんだでルナティックなのが一番面白いと思うぜ」

 

 

高校生のころ、ゲームが狂うほど好きな親友に言われた言葉。

 

ゲームと人生を同じ目線で語るのはどうかと思うが、ボクも彼と同意見だ。

 

 

苦労とストレスのない人生ほどつまらないものはない。大事なのは起伏だ。何でもかんでも上手くいってしまう、頑張る必要のない人生になんて、ボクは価値を見出せない。

 

 

 

けれど、そんなボクにも一つだけ、ルナティックなことがあった。

 

 

 

『ずっと前から好きでした!ボクと付き合ってください!』

 

 

 

それは、初恋である。

 

 

大学一年の春、ボクは生まれて初めて告白をした。

 

 

告白されたことは数えきれないほどある。初めて告白されたときこそ緊張したが、回数が二桁になる頃には、心の中で”またかぁ…”とため息をつくこともあった。

 

しかし、初めて告白する側に立って、そんなことを思っていた自分を恥じることとなる。振られることへの不安感、逃げたくなるような緊張感、それら全てを抱えて告白へと乗り切ることを決めた人たちに、自分はなんて失礼なことを思いながら相対していたのかと。

 

 

声が震え、足も竦む。親友である彼に見守ってもらわなければ、ボクも逃げ出していたかもしれない。けどボクは逃げなかった。ちゃんと言い切った。自分の気持ちを素直に伝えたのだ。

 

告白のセリフと同時に頭を下げ、相手が握ってくれることを願い、右手を差し出す。

 

相手が答えるまでの、永遠ともとれる数秒間。受け入れられるか、振られるか、二つに一つ。胸のドキドキを必死で抑えながら、ボクはそう思っていた。

 

 

………そう思っていたのに、相手の口から出た答えは、全く別のものだった。

 

 

 

『つきあうってなあに?おにいちゃん』

 

 

その人は、ボクの告白にキョトンと首を傾げたのだ。

 

 

 

僕の初恋がルナティックな理由。

 

それはボクの初恋の相手は、恋のこの字もわからない、15歳も年の離れた実の妹だったからだ

 

 

 

 

――――話は変わるけど、ちっちゃい女の子って、なんであんなにも可愛いんだろうね。

 

 

 

 

 

*——————*

 

 

 

「………ここ、どこ?」

 

 

 

妙に重く感じる身体に違和感を感じながら、その青年は目を覚まし、身体を起こす。

 

彼の目に最初に移ったのは、薄暗い洞窟内を提灯の光が照らしている光景。少なくとも彼の住んでいた世界では簡単に観られないような光景が広がっていた。

 

 

「……ボク、なんで濡れて……この人たちは一体……?」

 

 

周囲を確認する彼の頭には大量のクエスチョンマークが浮かぶ。

 

 

気が付けば見知らぬ地で全身ずぶ濡れになっており、自分の周りには顔を真っ赤にしながら白目で気絶している3人の少女と、スヤスヤと寝息を立てて眠っている女の子がいる。

 

彼がいくら頭脳明晰であろうとも、理解できることは何一つなかった。

 

 

「おはよう! もうおきたの?」

 

「はぇ?」

 

 

右も左もわからない状態で突然声をかけられれば、変な声も出てしまう。彼に声をかけたのは、先程まで隣で眠っていた少女だった。

 

黄色と緑を基調とした服装に、薄緑色の髪と瞳。青色の奇妙な装飾品を身に着けた彼女は、先程まで枕代わりにしていた大きな帽子をかぶり直し、彼の近くにしゃがみ込んで目線を合わせる。

 

 

「……………」

 

「あれ、もしもーし。聞こえてる? わたし今、あなたの目の前にいるよー?」

 

 

ぶんぶんと、小さい身体を揺らしながら彼女は彼の目前で手を振る。

 

 

 

 

――――なんだ、この少女は。

 

 

 

 

「きーこーえーてーまーすーかー?」

 

 

 

 

――――なんだ、この幼女は。

 

 

 

 

「………やっぱり気づかれないかぁ。まぁいいや。またね」

 

 

 

 

 

――——なんだ、このSweet(スイート) Little(リトル) Angel(エンジェル)は。

 

 

 

 

彼が雷に打たれたような衝撃を感じる中、寂しさを隠すように微笑みながら、彼女――――古明地こいしは立ち上がり、彼の目の前から立ち去ろうとする。

 

 

 

「———————ま、待って!」

 

「………え」

 

 

 

しかし、それは彼によって阻まれた。

無意識のうちに、彼はこいしの服の袖を掴んでいたのだ。

 

 

彼女は驚いた。自分でも気づかないうちに、彼が自分に触れていたことに。

 

 

こいしは再び彼の傍にしゃがみ込み、彼と目線を合わせる。

 

 

「その……ごめん。すぐに返事できなくて。少しボーっとしちゃってたんだ」

 

「そうなの? なら許してあげる! 次からはすぐに気づいてくれなきゃ、めっ!だよ!」

 

「うん、約束するよ。ボクは開斗って言うんだ。君の名前を聞いていいかな?」

 

「わたしはこいしだよ。古明地こいし!」

 

「こいしちゃん………うん、すごく良い名前だ。こいしちゃん、君と出会ってまだ間もないことは自覚してる。でも、どうしても君に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」

 

「?? なになに?」

 

 

 

 

 

 

「今この瞬間、僕は貴女に一目惚れをしました。結婚を前提にボクとお付き合いしてください」

 

 

 

 

 

 

 

彼の名は、阪村開斗(さかむらかいと)

 

 

小学生になった実の妹に振られ、絶賛傷心中。

 

 

心の底から幼女が大好きな、ロリータ・コンプレックスを患うイケメンである。

 

 

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