女子だけあべこべ幻想郷 ~UnderGround~ 作:アシスト
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「幻想郷……地底……妖怪……。なかなか信じ難い話ですね」
「『でも信じます』ですか……随分素直に受け入れるのですね。変態のくせに」
「ボクがここに至るまでを振りってみると、それぐらい非現実的な内容のほうが」
「『逆に納得しやすい』ですね」
「………心を読まれるって妙な感じだなぁ」
このままでは、何も話が進まない。そう直感した私は、とりあえずこの変態……開斗さんを客室に招き入れ、彼が知らないであろう幻想郷のことを話しました。
ここに案内するまでは、相も変わらずこいしのことしか頭になかった変態ですが、話はちゃんと聞いてくれました。話の通じる変態でよかったです。
開斗さん曰く、眠ろうとしてベッドに飛び込んだら、いつの間にか水中にいて、気がつけば地底にある橋に打ち上げられていたとか。まったく話が繋がっていないように聞こえますが、それはサードアイで見た彼の記憶と一致していた。つまり、嘘は付いていないと言うことです。
おそらく、いえ間違いなく。彼の幻想入りの原因は八雲紫のスキマでしょう。たまたま彼のベッドにスキマが生じ、たまたまそれが地底につながっていた。要は偶然です。
心を読まれたくないからか、八雲紫が私の目の前に現れることは滅多にありません。妖怪の賢者はいったい何を考えているのやら。
「……うん。とりあえず、自分が置かれている状況は把握しました。それで本題なのですが」
「『元の世界に帰る方法』ですね。それなら地上の」
「どうしたら、こいしちゃんとの婚約を許してもらえますか?」
「…………」
心底思う。
神は何故、こんな男の顔をイケメンにしたのでしょうか。
ええ、わかっていましたよ。この男、元の世界に戻る気なんて更々ない。と言うより、こいしのことしか頭にないのはサードアイから筒抜けでした。
でもお願いです。私は貴方に速やかに帰ってほしいんです。変態と言われて否定できないような男は、妹の視界にも入らないでもらいたいのです。
「…………一応、一応聞いておきます。開斗さん、何故貴方は元の世界に戻ろうとお考えにならないのですか?」
「愛する人がいない世界に戻る必要って、あります?」
「あります」
少なくとも、私は帰ってほしいです。
手を振ってお見送りしてあげますので。嬉しいでしょう?
「うーん……幻想郷とボクのいた世界を自由に行き来できるって言うのなら、一度ぐらい戻っても良いですが」
「二度と戻ってこなくて結構です」
「時間は有限、ボクは0.1秒でも長くこいしちゃんの傍にいたいんです。戻ることに時間を費やすぐらいなら、古明地家に婿入りする方が余程有意義だと思いませんか?」
「想像するだけで吐き気がしますね。うっ」
「安心してください。こう見えてボク、薬剤師の資格を持っているので。吐き気止めの調合ぐらいならパパっとできますよ」
「そういう問題じゃないですよ糞野郎」
はっ。私ったらなんて汚い言葉を。
頭に血が上りすぎました。反省します。
はぁ………この男と話をしていると頭と胃が痛いですね。なんだかもう、まともに相手をするのが疲れてきました。
少し冷静に考えましょう。顔の偏差値が90を超えていることを除けば、この男もただの人間。妖怪である私やこいし、ペットたちに何か仕出かそうとしても、抵抗は容易です。寧ろ正当防衛という大義名分も得られるので、その方が都合がいいのかもしれません。
この変態が地底で何をしようが知ったことではありませんし、最悪勇儀さん辺りが何とかしてくれるでしょう。
「(お燐。念のため、彼の見張りをお願いできますか? 変なことをしたら
「(本当ですか!? さとりさま太っ腹!)」
私の膝の上で丸まっている猫形態のお燐に小声でお願いする。やけにお燐の気合が入っているのは『あの変態、死体なら死ぬほどイケメン』と思っているからでしょう。気持ちはすごくわかります。
さて。これ以上、開斗さんを地霊殿に縛る理由はなくなりましたね。最低限の知識は教えたので、あとはこの男の自由です。
「開斗さん。貴方の行動を制限する権限は私にはありません。幻想郷は全てを受け入れます。あとは貴方の自由にして構いません。……先に言っておきますが、再び婿入りとかほざく様なら命の保証はありませんよ」
「……いえ、ボクの方こそ少し焦っていたのかもしれません。思えば、ボクはまだこいしちゃんから返事すらもらってないですから。婿入りは、数年の交際を積んでから、ということで」
ふむ。いっそ今殺してしまった方がいいのでは?
「それでは、ボクはこいしちゃんを探してきます」
「探すって……手がかりもなしにですか?」
こいしは『覚の瞳』を閉じた代わりに『無意識を操る程度の能力』を手に入れました。
気が付けばそこにはおらず、気が付けばそこにいる。どこで何をやろうかなんて、こいし自身も考えて行動しているわけじゃない。現に、私が彼に幻想郷について説明している間に、こいしはフラフラっと消えてしまいました。
手がかりも碌にない状態から、こいしを見付け出すなんて不可能です。
「手がかりならありますよ。ココに」
「………?? 何もないように見えますが」
しかし、彼は手がかりはあると言い出した。
彼がここと指さすのは、特に何かあるわけでもない地霊殿の床。
「あるじゃないですか。微かですが、まだ新しい足跡が。この歩幅に足のサイズ、足跡の模様。間違いなくこいしちゃんのものです。それに、僅かにですが薔薇の香り……もとい、こいしちゃんの残り香も嗅ぎ取れます。こいしちゃんはこの館の外に向かってますね」
「待って待って待って待って待て」
何と言った。この男、今何と言った。
足のサイズ? 歩幅? 残り香? え、うそでしょ? 何で知っているの?しかも残り香って、もしかして嗅いだの? 記憶するまで嗅いだのこの男?
「……うん。
「え、ちょ、待ちなさい変態!」
彼は私の言葉も聞かず、走り去っていきました。
非常に由々しき事態です。妖怪に個人情報がないと思ったら大間違いです。妖怪にだってプライバシーの侵害ぐらい存在します。
「お燐!今すぐ彼を追いかけて!」
「にゃーん!」
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阪村開斗が『天才』と呼ばれる所以は、彼の人並外れた感覚神経にあった。
視覚、聴覚、直覚、味覚、嗅覚。それら全てが並の人間の何十倍も優れており、それらの微弱な違いを把握できるほど、彼の脳も優れていた。
故に、彼は声だけで相手が誰なのかを判断できるのは当然のこと。顔が見えず声が聞こえなくとも、身長や体格、足跡や歩幅、香りでそれが誰かを見分けることができるのだ。
そして彼の脳には既に、古明地
相手が幼女なら無意識の内に、それらを覚えてしまう。
それが、阪村開斗が『ヤバイやつ』と呼ばれる理由の一端でもあった。