女子だけあべこべ幻想郷 ~UnderGround~ 作:アシスト
何故こっちの続きを書いたんでしょうね私は……。
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「で、あんたたち。なんであんな所で寝てたんだ?」
「いやぁ……何でだろ。釣りをしてたと思ったら、いつの間にか気を失ってたんだよ。ねっキスメ」
「うん。でも不思議と悪い気持ちはない……むしろ、愉悦?」
「なんだいそりゃ」
頬の火照りが未だに引かないヤマメとキスメは、首をかしげながらも質問に答えていた。
昼夜問わず客の入る静寂を知らない地底の居酒屋で、妖艶な着物を身にまとう鬼の四天王『星熊勇儀』は、片手に巨大な杯を持ちながら、彼女たちと酒盛りしていた。
ヤマメとキスメは、何故あそこで倒れていたのか思い出せずにいた。それもそのはず、男にすらあまり耐性のない彼女たちにとって、彼ほどのイケメンを間近で見ることは、太陽を望遠鏡で覗くことと同等の行為。ギリギリ失明は免れたが後遺症は強く、気絶する前の数分間の記憶が完全に吹き飛んでしまっていた。
「つまらないぇ。せっかく酒の肴になると思って介抱してやったのに」
「まぁ私たちはつまんないけど、パルパルはつまんなくなさそうだよ。ほら」
「ねったーましィ!!」カーン!
「いえー!」
「ねったーましィ!!」カーン!
「フゥー!」
「……なにやってんだいアイツらは」
店の柱に藁人形を括り付け、右手に持った小槌を力強く振るって五寸口を打ち込むパルスィと、合いの手をいれるこいし。打ち込むたびに柱からミシミシと軋む音が店内中に響き渡るほど、彼女は妬みに嫉んでた。その様子をカウンターに立つ大将が『止めたいけど命は欲しいからね……』と、半分諦めた様な悲しい目で眺めているのは、今日に始まったことではない。
そんな光景に勇儀は苦笑いしながら、ヤマメとキスメに質問する。
「『気を失っていたにも関わらず、謎の幸福感が胸に満ち溢れている! 何なのコレ!? 嫉妬姫の私にとってあるまじきことよこんなの!! 私は私が嫉ましぃいいいい!!』だって」
「……いわゆる自家発電」
「パルスィも随分レベルを上げたねぇ……古明地妹の方は?」
「ノリでしょ。きっと」
「うん! ノリだよ! あー楽しかった!」
「うおっ!? 何時の間に隣に! なんか飲む?」
「ビールのみたい!!」
いつの間にか隣にいたこいしに口では驚きつつも、冷静にあたりを見回し、近くにあった未使用のコップにビールを注いて渡してあげるヤマメ。こいしはコップを受け取ると、ジュースを飲む子供のようにクピクピと飲み始める。
こいしの神出鬼没っぷりは地底でも有名である。飲み屋でこいしが現れたらとりあえず飲み物を聞くことは、彼女たちの中での暗黙のルールとなっていた。
「おーいパルスィ、その辺にしときなよ。この店はお気に入りなんだ、物理的にでも潰れたら困る」
「ぷはぁ、パルスィさんは構ってほしいんだよ。友だちも彼氏さんもいない独り身だからさみしいんだよね。ブサイクってせつなーい」
「せつなーい」
「せつなーい」
「うっさい! 外野も! アンタらにブサイクとか言われたくないわよ!!」
五寸釘を打ち込む腕を休めることなく、パルスィはそう言ってヤマメたちを睨みつける。
言われれば腹こそ立つが、パルスィはブサイクであることを指摘されても否定はしない。何故なら、妖怪として生を受けた以上、それは言われるまでもない事実だからだ。
ツヤのあるサラサラの金髪に、シミ一つない澄み切った白い肌。着やせするタイプだが胸も相応にあり、くびれもある。加えて顔のパーツも整えられており、ダメ押しに透き通るような声も持ち合わせている。
それが、ブサイクと呼ばれたパルスィの外見であり、妖怪のお手本の呼べるような醜い外見でもあった。
そう、この幻想郷では貞操概念と『女性』への美醜概念が逆転している。
『美人薄命』。それが幻想郷においての美人の定義である。肌は荒れ、逆ボンキュッボン、福笑いで作ったような顔立ち。『女性は不健康な姿が美しい』というのが、この幻想郷の常識であった。
霊力、法力、妖力等。特別な力を身体に宿すものは、それが『生き残るための力』として身体に現れる。その力が強ければ強いほど、それは如実である。
つまり、強い力を持つ彼女たちのような妖怪は、どう頑張っても不健康な身体になれないのだ。
しかし、妖怪でありブサイクと言えど、彼女たちも『女』である。妖怪の三大欲求は人間のそれと比べても強いため、当然、いろいろな意味で男は欲しい。
少しでも男に良く見られるために自分磨き(暴飲暴食)やお化粧(特殊メイク)を何十年と繰り返してきたが、結果は未だ
どうあがいてもモテない上に、境遇はみんな同じ。地上のような住み心地の悪さもないため、次第に自分磨きをする者も減っていき、彼女たちはすっぴんのまま出歩くことが多くなった。そんな妖怪たちが
そんな中でも、未だに男を諦められない者もいる。
「ブサイクがなんぼのもんよ! こっちは恐怖の土蜘蛛様なんだから怖くて当然だっての! それでも男は欲しいけどね! キスメも同じ気持ちでしょ!」
「……私は大器晩成型。これからの成長に期待。成熟しきってるヤマメちゃんとは違う」
「なにおぅ!?」
「まー確かに、キスメはまだ小っちゃいからねぇ。男ができるかはともかく、歳の割には妖怪としての力も申し分ないし、将来有望なのは間違いない。鬼の私にも勝るような大妖怪に成長したりしてな!」
「勇儀さんみたいにはならない。そのおっぱいは論外」
「あ゛ぁん!?」
ギャアギャアわあわあと騒ぎ始める純潔妖怪たち。今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気だが、ここは居酒屋。アルコールの力を持ってすれば、数分後には笑い話に変化していく。
これが彼女たちを含め、地底に住む全ての純潔妖怪の日常風景である。
「……ん? 何だか外が騒がしいね」
「ケンカ?」
「にしては妙だ。なんの力も感じない」
勇儀が杯に入った12杯目の冷酒を飲み切ったタイミングで、店内にいた客は外の”騒ぎ”に気づいた。
悲鳴も聞こえなくもないが、その声色には恐怖も興奮も感じられない。妖力同士の衝突も感じられないため、少なくとも、拳を交え、血が飛び交うような騒ぎでないことは彼女たちにも予想できた。
その”騒ぎ”は徐々に勇儀たちのいる居酒屋に近づいてきたが、居酒屋の入り口まで着た途端、その”騒ぎ”はピタリと止まった。
一人を除き、店内の誰もが不思議に思った。賑わっていた店内も静まり返り、店内にはパルスィの小槌の音と柱の軋む音だけが立ち込める。
全員が注目する中、入り口の引き戸をガラリと開く。
暖簾を潜って入ってくるのは、間違いなく”騒ぎ”の元凶。刺激に飢えている彼女たちは、一体どんな妖怪が入ってくるのかそれぞれ予想しながら、元凶の姿を確認する。
当然、その予想が当たったものなど一人もいなかった。
「御免ください。ここに、ボクのこいしちゃんはいませんか?」
彼の低音ボイスは、彼女たちの耳から入り、脳に未知なる快楽物質を分泌させるほど甘美なものだった。
彼の顔は、彼女たちが無意識のうちに、自分がこの時代に生まれたことを神に感謝し涙を流すほどのイケてるんメンズだった。
彼の脳内は、『ここからこいしちゃんの濃厚な香りが漂ってくるなぁ。……むっ、他にもちっちゃい女の子の気配を肌で感じる。あの桶からかな?』と、平常運転だった。
瞬間、店内にいたすべての女性客が黄色い悲鳴を上げたのだった。
超久しぶりに書くついでに、一話目から改めて推敲し直しました。セリフやキャラ付け(特にキスメ)が大きく変わっている部分もあるので、もしよければ読んでいただけると嬉しいです。
でもきっと続かなーい。