その後、イプシロン一行は歳星に戻ってきた。
生憎、父さんは別の仕事があるため歳星にはいなかった。
みんなは買い物等用があるだろうが僕にも用がある。
「おー。よくきたな。ユウ。どうだ?たまにはモビルスーツの操縦以外の仕事をしているのも」
そう言って僕の目の前に座っているのがテイワズのボス。マクマード・バリストン。
「正直言って疲れますね。集中して狙撃した方が楽チンだ」
一番疲れるのは目上の人との会話だが。鉄華団との仕事なんて色々な意味で大変だった。
「はは!やっぱりおめぇは面白い!流石は名瀬の子だな」
そう言われていると菓子が出される。
僕はテイワズの中ではモビルスーツ戦なら指折りのパイロットの上に、狙撃戦が得意ということからテイワズの狙撃手と言われている。
その二つ名とテイワズの中でそれなりにデカイ企業であるタービンズの長である名瀬・タービンの息子でありそして、その下部組織であるイプシロンの代表なのだからそれなりの力はある。
ということで話している間は菓子も茶もでるし対応もしてくれる。
「お祖父様。今回はロークスコロニーについてなのですが...」
その一言でマクマードの顔が変わる。この人は商売なら物凄い人だ。その言葉にもピンと来るものがあるだろう。
「他のコロニーの作業環境、反乱レベルを考えてみますと、相当大きな反乱が起こる可能性があります」
「ああ。知っている。けどな今回はロークスコロニーから地球への物資の配達だ。反乱は別に避けても構わない」
確かにそうだ。鉄華団のドルトコロニーの場合はクーデリアが望んだからあのような展開になっただけであり、見過ごす事も終わるまで籠ることも出来た。
今回はそちらの手を使えば良いと言うことか。
「その許しが出ただけで十分です」
「ああ。そう言えばあの小娘が言っておったぞ。言われた物を見つけたとな」
小娘とはクーデリア・藍那・バーンスタインだ。頼んでいた物...あれか!
「!!そうですか!ありがとうございます!では...」
「ああ。頑張れ」
その言葉が聞こえたので、菓子を少し貰ってユウは部屋を出る。その後、マクマードはユウがクーデリアに頼んだ物を思い出して笑った。
「ユウの奴。ビックネームを引っ張ってきたな...アグニカ・カイエルか...面白くなってきたな」
そこから約一週間は歳星にいた。
別に物資の調達程度ならすぐに終わるのだが歳星には少しでも長く居たかった。
「姉さん達はショッピング。ジョーカーはかつての仲間と飲みに...だってよ」
だってよ。といったのは伝えるべき相手がいたからだ。
「やっぱり...ユウ...お前は母さん達になんかしているだろう」
「そんなことはないって。兄さん」
「ふふっ」
笑った相手は正真正銘兄貴だ。とはいってもその兄さんも誰の腹から産まれたかはよくわからない。
名をエスト・タービンという。
地球の方でモビルスーツに関する工学について勉強していたが、タービンズに行ってその後イプシロンに流れてきた。
それなりにモビルスーツが動かせる人材だ。
これで戦場で上手く戦えるパイロット三人に、僕か。
合わせて四人となったエースパイロットは上手く使えれば、海賊も落とせそうだ。
「じゃ、よろしく」
「あいよ」
そう言って手を握り会う。これでエスト・タービンは晴れてイプシロンのモビルスーツ隊だ。
モビルスーツデッキに着いたとき、エストが呟く。
「それで、二年たったのにあんまり変わらないな。あのモビルスーツ」
確かに。鉄華団のバルバトス、グシオン等と比べればあまり変わってないように見える。(その二機も外見はあまり変わらないが)
「変わった点と言えば武装か。どうせ整備長がお前の戦闘データ云々で作ってくれたんだろ」
改良の際に整備長が「この際だし、装甲も変えちゃおっか」とか言っていたが、全く変わっておらずいい感じではある。
個人的にアンドラスのこの感じが好きだしな。
その時独り言が口から溢れ出た。
「アンドラス。見せてくれ僕たちの...未来を」
「なぁ。ジョーカー」
暗いバー。そこで酒を飲んでいるジョーカーの横には何人かの男たちがいた。皆JPTトラストの傭兵達だ。
「ん?どうした?」
「戻ってくる気はないか?」
戻る。それは何度か考えたことはある。元々ジョーカーは戦力がまだ無かったイプシロンでモビルスーツ隊を鍛える為に頼まれただけなので今からでも抜けて戻る事は可能だ。イプシロンにもそれなりに慣れたが、やっぱり時間とは怖いもので嫌な筈のJPTトラストの方が居心地がいい。
「ああ。考えとく」
「頼むよ。ウチのエースパイロットさん」
手に持っている酒を飲み干した。
そのグラスから氷がグラスに当たる音が響いた。
イプシロンが歳星についてから約一週間歳星にいた。その間エストを迎え入れて、歳星にて息抜きをしたあと、ロークスコロニーへと向かう。
そして、地球へと行く手筈だ。
また地球か...とフュンフの窓から宇宙を見る。
すると、アガーテが来る。
「ゆーちゃん」
「アガーテ姉さん。どうかしたの?」
そう言うと、端末を出してきて、資料を見せてくる。
「前回の海賊戦の戦利品ほとんど売却したけど、こんな値段になったって」
端末を見ると、それなりの金がある。
「へぇ。今回はそれなりにいい値段になったね」
「うん。モビルスーツは大抵鹵獲したからエイハブ・リアクターを大量に取れたって言うのが大きいと思うけどね」
この二年間でモビルスーツの数が爆発的に増えた。それは事実だがそれと同時にエイハブ・リアクター不足が出てきた。つまり、売ったのはテイワズに向けてだがそれなりの金は取れた。これで弾代等の消耗品とモビルスーツを二、三機買ってもお釣りが出てくる。
金は十分。モビルスーツも十分...だろう。けど、まだやりあう事は無理だろう。
重い口を開いた。
「なぁ...アガーテ姉さん」
「?どうかしたの?」
窓の近くにある手すりに体重を乗せて言う。
「もしもロークスコロニーで反乱が起こったりしたら...どうする?」
聞きたい事がある。それは反乱の対処だ。勿論逃げたり隠れたりするのも可能だ。おじいちゃんにもそれは許されたし、別に反乱に参加しろ等の声も出てこない。けど...
「あそこにいるのもちゃんとした人なんだ...反乱を起こせば必ず負けるだろう。あの辺りにはアリアンロッドが居座っているから」
アリアンロッドとはセブンスターズの一人、ラスタル・エリオンが率いるギャラルホルン統制局直轄の宇宙艦隊であり、 月の公転軌道外を管轄とし、主に敵対勢力の地球圏侵攻を阻止する事を任務とする。
ギャラルホルンの中で高い士気と練度を誇り、部隊規模もハーフビーク級戦艦のみでも40隻以上と、ギャラルホルンの中では最も大きい。
反乱を起こせば十中八九皆殺しだ。そんな結果僕は望んじゃいない。
「ゆーちゃんの弱点だよね。相手を人だと考えると撃てなくなるってやつ」
顔を背けるしかなかった。アガーテの言うことは正しい。
実際二年前の変なグレイズを使うやつを人だと思ってしまった為見逃してしまった。
狙撃手としていけないのはわかっている。けどそのときは引き金が引けないのだ。我ながら馬鹿馬鹿しい。
「...でもね。それはゆーちゃんの良いところでもあると思うよ」
「アガーテ姉さん...」
「ほらほら。顔を背けてないで上げる!大丈夫。お母さん達もみーんな揃っている。ゆーちゃんはゆーちゃんの選択をして」
実際。みんなには色々と救われている。十年前から救われっぱなしだ。子供なら仕方ないとはいえ、この年齢から見ても一人で出来ることが僕には出来ない。甘やかされて育ったのだろう。ならばせめて、せめて僕が出来る狙撃でみんなを助けてあげたい。
「うん。わかった。アガーテ姉さん」
次の仕事は大変になりそうだ。ユウはもし反乱になったらどうするか心に決めることにした。
まぁあれだけ女性が入ればユウの兄貴や姉貴も何人かいるだろう。との予測です