さて殺せ!殺せ!
全て根こそぎ奪え!
「遅い」
そう言って遠くにいるマン・ロディ、おそらくヒューマンデブリの機体を狙撃で仕留める。相手からすれば緊張しているときに急にコックピットに弾丸が入ってきてそれに巻き込まれたという感じだろう。心中お察しする。とは言えど、一人一人は弱いものの数が凄まじい程ある。JPTトラストそして火星圏と木星圏内で集められた海賊の連合軍。
迎え撃つは鉄華団を始めとした数は少ないものの、一人一人が強力なテイワズ代表精鋭。
そこには勿論、テイワズの狙撃手と言われた僕もいる。
「ヒット」
また一機仕留めた。こそこそ隠れて撃っているだけなので危険はあまりない。だからこそ、周りの状況を見れる。周りの状況はというと、最初こそ、圧倒的数で押されていたがたかが勝手に集めて、連携もろくにできない傭兵と同じく非武装の民間人ばっか狙う海賊。強い筈もなく、鉄華団の悪魔を始めとした精鋭達にその首を刈り取られていく。
最悪僕がいなくても勝てそうな勢いだ。
「アジー姉さん。もうこっちは終ったから移動するね」
「わかった。ラフタにも言っておく」
アジーに通信をして言った通りその場を離れる。もうそろそろ敵にこの居場所がバレる時間帯だから。
そして気づかれないようにそして早く。タービンズ特有のエイハブウェーブ隠しを使用してその場を離れる。
それを隠すようにラフタとアジーが少し敵を誘導する。
そして持ち場についたらまた構えて《スナイプ・モード》を使用、敵機は接近してこないので絶対の一撃を利用して遠くから狙撃すれば外したりしない限り、危険度はない。
そこまで出来れば後は簡単。敵の中で強そうなやつ、若しくは指揮をしていそうなやつを勝手に選んで(指揮官機はブレードの数を増やしたり敵の位置が見やすいところにいる確率が高い。)
そいつのコックピット目掛けて狙撃をして一撃で仕留める。そして相手が位置に混乱しているうちに他の機体を沈める。正面戦闘をしたら時間はかかる上に勝てる見込みは薄いのでバレたら逃げる。
そこまで理解して完璧に動ければいい。ただそれだけが僕の仕事。それがただ上手いだけでテイワズの狙撃手と仲間たちに持て囃された。そうして現状に甘えて、大切な物を失った。
後少しで僕も父親になるんだ。その子には見せてあげたい。戦争なんて無い世界を。だから──
「ヒット」
僕はこの引き金を引き続ける。今度は守るべき物を見失わないようにするために。
その頃JPTトラストでは。
黄金のジャスレイ号という少しダサい名前をした戦艦を中心に円形状に幾つもの戦艦、総勢6隻が数多もモビルスーツを出撃させながら状況を見ていた。
相手は精鋭とは言えど、数はこちらの半分にも満たない。戦艦で言えば3隻。でも、戦闘ばっかしている脳筋共が多いからまた寄せ集めとはいえ、海賊を呼んだ。戦艦で言えば総勢1隻あわせて総勢7隻。それが
「ユーゴー一、二、三番機被弾。戦線を離脱。加えてヒューマンデブリ一隊全滅!これにより我が方の戦力更に5%低下!」
「ちっ!あいつら...いくら金払ったと思ってんだ。ヒューマンデブリも数増やしたってのによぉ!」
ヒューマンデブリも海賊も。本来なら要らないと思えるものですら雇って買って使用しているんだ。仕事もマトモにしないんじゃ金を払った意味がない。
金持ちのくせに貧乏揺すりをしながら苛立つ。
そしてまたジャスレイの胃に穴を開けるような事が報告される。
「続いて、ユーゴー八、九、十番機破壊。狙撃と見られる攻撃です。おそらく
親父を失ったテイワズの狙撃手はマトモに戦えずタービンズも崩壊した筈。何故今動けている。しかも元タービンズメンバーを集めて。
何故だ。何故だ。あの人数を纏めあげられるほどの人がいるとは到底思えないのだが。
「おい、モビルスーツ隊!聞こえるか!数で押し潰せ!時間が立てばクジャン家の援軍、それに予め雇った海賊たちだって来るんだ!それまでは耐えろ!一対多数を維持して一機づつ潰せ!」
そう通信しながらも汗を流していた。これは危険だ。一つ間違えれば、自分が死ぬ可能性だって十分にある。
「ガンダムフレームには気を付けろ!特に一対一を避けて囲んでゆっくりと落とせ!」
ガンダムフレームという敵の脅威をとりあえず知らせる。鉄華団のバルバトス、グシオン、フラウロス。そしてタービンズのアンドラス。どれもテイワズの中で上位にいるモビルスーツパイロットが操る機体だ。実はもう一機存在しているがその機体は今確認されていないようだ。兎に角、寄せ集めの傭兵一人が到底倒せる相手ではない。
それでも数は十分なのだ。しかし鉄華団は喧嘩だけは強いからと海賊まで呼んだ。なのに、それなのにこの現状はなんだ。徐々に此方が押されている。
しかし此方にも奥の手がある。ギャラルホルンアリアンロッドのクジャン公。タービンズを潰した時のように圧倒的な差で殺してくれる筈だ。嬉しいことにクジャン公は鉄華団とタービンズを嫌っている。その二つの勢力さえ落とせれば後はそこまで難しくない。
「おい!クジャン公からの連絡は!」
「それが...まだなんの連絡も...予定の時間はとっくに過ぎているのに」
追加で雇った海賊達も来ない。おかしい。
その時頭の中に一つの考えが浮かんだ。しかし、そんなことはない。あのクジャン公がそんなことを良しとする筈がない。
「あのヘタレ野郎が...ここまで来てケツまくりやがったのか!」
肘当てをおもいっきり殴りながら吠える。いやそんな筈はない。そんな筈はない。そう頭の中で言い聞かせるがどう考えてもそれ以外の理由が思い付かなかった。
「糞!予定通り鉄華団だけが攻めてこれば!罪を全部積ませてあの狙撃手と同士討ちをさせることだって出来たのによぉ!ふざけやがってぇ!」
本当ならイオクの働きで一番の邪魔物である名瀬を消す。その後鉄華団の怒りを此方に差し向ける。それと同時におそらく精神崩壊もしくはそれに近い状態となった残りのタービンズメンバーを徴収。特に狙撃手なんてヤク漬けにすればヤクとモビルスーツの部品代なんて軽く払えるほどの金が手にはいる程の力を持っている。鉄華団が兄貴の敵討ちとかいって攻めてきた頃にタービンズメンバーと傭兵達、ありったけのデブリを激突させる。数は圧倒的に此方が上回っている上に宇宙ネズミはタービンズを撃つことに躊躇する。此方の勝ちは完全に見えている。
そしてイオクを使ってマクマードをでっち上げの罪で捕らえさせる。自分は実はその事がわかっていて潜入していましたとでもいう。そうすることで俺はテイワズのトップに登り詰める上にギャラルホルンとのパイプをもっと太くできたと言うのに。
「ふざけるなぁぁぁ!!」
その頃マクマード宅。
「礼を言わなくちゃならねぇなぁ...海賊の始末。レヴォルツ・イーオン」
盆栽の手入れをするマクマードに椅子を進められながらその椅子にゆっくりと腰かけるスーツを着こなした男。中年ではあるものの、古臭さはなく、丁寧だ。でもよくわかる。これは作られた偽物の物だと。
「いえ。そちらの内部状況があまりよくないとのことでして。非力ながら我々も力を貸させていただけないかと思いまして」
「名瀬が死んでお前がお前だと気づく人間がもういねぇからか?...いや、やっぱいい。どうせいわねぇだろ」
その男の方を振り向くとその男は時間が止まったように動かなくなっていた。おそらく押しても無駄だろう。それほどショックを受けていた。
「懸命な判断です...死をこのように利用するのは許されません」
「そうか。それで?お前の目的は?」
これはただの救援だったり、ただの商談をしに来たのではない。だからすぐに双方のこの嫌な空気が晴れた所に男が口を開く。
「我々はマクギリス・ファリドの言う革命に参加するつもりです。我々の目的はあくまでギャラルホルンの改革なのですから」
そう言ってその男は立ち上がりとある
それを無言で受け取り紙を開く。そこにはギャラルホルン革命に参加をしてほしいとの内容があった。それも直筆だ。目の前の男の血液指紋まである。この部屋には二人しかいないと言うのに慎重...言い方を変えれば無駄な手間をかけさせる。
「協力しろと?」
「彼女の息子...テイワズの狙撃手にはせめて協力して欲しいですね。なんたって彼は...いえ。この事は言わなくても良いでしょう」
その男はユウがテイワズの狙撃手と呼ばれることを知っている上に彼すら知らない秘密を知っている。本当にユウは面倒事を渇いたスポンジのように吸い込んでいく。
このまま上手くいってジャスレイを撃てたとしても、JPTトラストというテイワズの資金源を失う事になる。勿論ジャスレイに殺されてテイワズを乗っ取られるよりはマシだが、資金源を失えばテイワズというでっかい組織が弱体化すればそれに比例するように他の海賊も強くなる。ならば、この場でレヴォルツ・イーオン、ギャラルホルンと組んだ方がいいと考えられる事もある。しかしそれは危険な賭けだ。マクギリス・ファリドというのはセブンスターズとはいえ、最近聞くようになった者。大局を見るのはおそらく難しい。失敗すればテイワズは終了。残りのギャラルホルンに襲われて塵も残らないだろう。
「...希望者のみを一時的にテイワズから切り離し、戦わせて勝てたら戻し勝てなかったそのまま縁を切る」
「つまり、どちらが勝とうとテイワズにマイナスが発生しないようにするおつもりなのですね。しかしその場合、勝利したときのプラスが小さくなりますよ」
「あぁ。構わねぇ。このままだとこの組織も終わりが近い。こんなところで終わらせるわけにはいかねぇからよ」
盆栽の手入れを再開しながらそう言った。確かにユウがいたとしてもあんな多数VS多数の戦いでは現状をひっくり返せるとは思えない。でも心の中ではもしかしたらと何度も言われる。その可能性を考慮した最良の考えだ。
「承知しました。ファリド公にも伝えておきます」
後は
「ヒット」
また一機僕が葬った。ずっとヒューマンデブリとイキリちらしている海賊共の相手ばっかりなので体力が無くなってきた。モビルスーツは弾丸とガス、後は損傷部分を直すだけしかも僕は一発も食らってないので損傷パーツはない。スラスターも殆ど使ってなく、当たり前だがモビルスーツ隊の中では一番消費量が少ない。
スコープで相手の隊を見ると残りの二機がラフタ、アジーを始めとしたタービンズメンバーに呆気なく殺されていく。相手を順調に倒してこちらは損傷はあれど小破程度で犠牲者もタービンズメンバーでは0。
「姉さん、もうそろそろジャスレイの戦艦が狙える。モビルスーツを止めておくだけでいいから」
「了解!やっちゃえゆーちゃん!」
「任せてよ」
そのまま一度深呼吸をして、再びスコープを覗く。そこには黄金のジャスレイ号という子供っぽい名前を持つ船がある。その名の通り、そこにはジャスレイが乗っている。
引き金にかけた指に力がこもる。
こいつは人間、だけど人間じゃない。人間としての価値なんてない。だから殺す。
そのまま引き金を引いた。超高速で飛び出た鋼鉄の弾丸は真っ直ぐ飛んでいき、そしてその船の横っ腹を爆破させた。位置的に、スラスターの部分を当てた。元々船の見取り図は大体把握しておいたので簡単だった。
これであいつらは怯える。この戦闘に勝てないと知る。せめて愚かに命乞いをする姿を見てみたい。そう思い、ほぼ同じ部分に向けて何発か叩き込んだ。
そして丁度いい位置を探す。すると有効射程内ギリギリに入ろうとしている戦艦を見つけた。近い気もするが現在その船を先端として槍のようになっているのでおかしくはない。
それは鉄華団の船だ。団長さんなど鉄華団の重要メンバーが乗っている。
「位置を変えるよ!場所は鉄華団の船、イサリビ!」
「「了解!」」
周りは制圧しているので簡単にイサリビへと戻れる。《スナイプモード》を解除してアンドラスを動かす。もう酔って吐くなんてしたくないし、まず宇宙じゃ出来ない。その短い間にアンドラスに座標を教えて動かしてもらい、鉄華団の団長さんに通信を開く。
「おお、どうしたユウ」
団長さんは怒りがあるものの、それを見せないようにそしてそれをこちらに向けないように意識しているのがバレバレの表情で通信に応答した。
「敵の本丸を狙撃します。イサリビの上部を使わせてもらうのと、もしJPTトラスト側から何らかリアクションのが来たら通信をしてください」
「わかった。許可する」
その許可を貰いながら操縦幹を握り直し、機体を駆る。簡単な事だ。イサリビの上に立ちモビルスーツ隊の指揮を任せて後はもう一度《スナイプモード》を起動させて黄金のジャスレイ号のブリッジを狙う。そして後は待つ。幸い此方の勝ちは決まったような物で仲間達がモビルスーツ隊を蹴散らしてくれるのを見るだけだ。
その時に何かまた新しい感覚が来たので苦笑する。どうやらご不満のようだ。おそらく厄祭戦のパイロットはスナイパーではないのだろう。ガンマンだと聞いた。
「今回ばかりは焦れったい?僕だってそうだよ。でも待ってくれ、せめてあいつの命乞いくらい見ようか」
そう言うと何故か満足...はしていないようだがアンドラスがとりあえず静まる。それを待っていると鉄華団団長から通信が開かれた。時間か。
そうするとジャスレイの声が聞こえた。
「お前らの力はよーく分かった。で、どうよ、ここらで手打ちといかねぇか?もちろんタダでとは言わねぇ。お前だってただ俺を殺したってなんの得もねぇだろ?ここはお互いの利益のため...」
こいつは何を言っているんだ?それが最初に抱いた感想だった。手打ち?父さん達の戦いは逃げることすら許されなかった。それを仕掛けて影で笑って。部下だって海賊達だってみんな頭がどうであれ、戦争として正々堂々かは別として戦っている。死んでいっている。
なのに、こいつはそれを避けるか。その上手打ちときた。これは完全に仲間すら人と見ていない。道具扱いだ。お互いの利益それを大切にするのなら。
「僕はお前を殺す」
「え?え?そこに、狙撃手がいるのか...!まぁ、いい。お前だってわかるだろ?今ここで俺を殺したって良いことねぇぞ」
ちゃんとある。そう言おうとしたが、それを口から出すのは流石に躊躇った。ここでそんなこと言っては後々他の組織に手を出される可能性だってある。そこだけは隠して、出来るだけ冷酷に。残酷に。もう僕はタービンズを守れればそれでいい。もしそれでタービンズ全員に嫌われることになっても...悲しいが罪を受け入れるならそれくらいの覚悟が必要なんだ。
だから冷酷に、残酷に。殺す。
「なんだと思ってるの?僕はねぇ、お前が命乞いをする姿は面白いだろうなと思って団長さんにそれまで生かすように頼んだんだよ?ま、
これが僕だ。
もう一度黄金のジャスレイ号に標準を合わせる。
微妙だが逃げているようだ。ブリッジが動いている。でもそんなのは関係ない。僕はシステムよりも早く撃ち、それを当てる男だから。
「待った、待て!金じゃねえなら詫びか!だったら指の10本も100本も詰める!テイワズも手を引く!だから!だから...!」
その指はどうせ部下の者だろう。
そうあらぬ疑いをしながら引き金を引いた。詰める指が自分の物でも部下の物でもどっちでもいい。
死ぬんだから。
その瞬間黄金のジャスレイ号のブリッジは爆発した。ジャスレイの僕の狙い通りなら頭を弾で抉った筈だ。しかしジャスレイが椅子から離れていれば生きていたかもしれないが、どちらにしろブリッジにいることから宇宙に投げ出されて酸欠で死ぬだろう。
ブリッジの破壊が確認された後に黄金のジャスレイ号は動きを止め、待っていましたと言わんばかりにモビルスーツ隊がプルーマの如く引っ付いて中に侵入していく。その様を外から眺めながらやったよと一言呟いた。
人の死に感じる感情が亡くなったユウ。
自分はカイエル家の子孫だと名乗る謎の男ユダ。
ラスタルにエリオン家を継いで欲しいと言われたアメリア。そしてその傍にいるライル。
さて、役者は揃いましたね...
さぁ...原作分最後の殺し合いの時間ですよ
次回、玉座