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今回はエスト・タービンについてです。地味にアフターストーリーで大切な点があるのでこの回覚えておいた方がいいですよ。
ここはどこだ。
暗い。一つの光もないその空間でそう思った。自分という存在がいつからここにいるのかなんてわからない。けど気付いたらそこに立っていてそう考えていた。
いや、たっているかどうかもわからない。寝ているのかもしれないし、座っているのかもしれない。体に感覚が無いからそう思ったのだ。
──俺死んだのかな?
いや、そんな筈は無い。あの後誰かわからない声に引き上げられてそして敵を打ち、そして気を失った。
ではまだ眠っているのか?そういえば戦いはどうなった?父さんは?母さん達は?
タービンズは?
光も体の感覚も奪われた世界で俺は唸った。何もかもがわからない。考えることすら、この空間では邪魔な気もする。せめて、一筋でいい。光があれば。そこへ走っていけるのに。
体の感覚もないので喋ることも出来ず、ただ頭でここはどこだと考え続けた。体感時間だと1週間はたった。もしかしたら何年もたっているのかもしれない。
でも、その世界に光はなく、全てが奪われた悲しい世界が広がるだけだった。
──やっぱり俺、死んだんだ
長い時間を過ごして俺はそう考えた。ではここは天国だろうか、地獄だろうか。そう聞かれるとおそらく地獄だろう。全てが無に満たされたここで一生どころではない永遠に住み、そしていつか頭で考えることをやめて精神が崩れて全てが停止してまた無に還るのだ。
ではここでなにかを考えるのは無駄なのではないか。結局そうなんだ。あるべきものが無いところで手を動かしたって何も起こらないのは当たり前。そうだ。声も出せなければ音も聞こえない感触がなければ運動もない。熱いもなければ寒いもない。
全てが無で全てが無駄なんだ。
これが死だと少ない人生の経験を使い感じた。人間が死んだら仏様になると教えれたことはあるがもしかしたら仏様とは無なのかもしれない。思考も動きも全てが停止した者。
あとどれくらい続くのだろう。だったら早く楽になりたい。考えるのを、感じるのを辞めて楽になりたい。無駄な事はしたくない。したって何も起こらないのだから。
──殺してくれ
死んだ筈の空間でそう考えた。殺せと。この空間からも消してくれと。しかし頭の何処かで嫌だと誰かが言った。俺はこんなところに居たくない。帰りたい。家族がいるべき場所に。
頭が回らなくなってくる。そして全てが他人事のように感じてきた。
マイナスな自分がゆっくりと動きを停止していくなかでもう一人がゆっくりと立ち上がる。
そして動きを停止していく俺の肩を叩いて言った。
──君はもどりたくないないのかい?
──だって戻れないじゃないか。俺は死んでしまったんだ。駄目じゃないか。死んだ者が出てきちゃ...
──死んだなんて誰が決めた?君だろ?誰かが言ったのか?貴様は死んでいると
そう俺に話しかける俺はゆっくりと体制を戻していく。
それと同時に頭が戻っていく。何故何も見えないこの空間で俺が立ち上がったのがわかった?何故感覚がないこの空間で肩を叩かれたとわかった?
そう考えているといつの間にか自分が座っていたとわかる。いつ座っていたんだ?絶望したとき?何故座れたんだ?
そう頭で考えているともう一人の俺がいう。
──君はどうしたい?いや、俺はどうしたい?
──こんなところにいるのは嫌だ。俺は...生きる!
そうだね。じゃあ...戻ってみようよ。本当にいるべき居場所に。
そういうともう一人の俺が俺の中に入る。そして一人の人間が再び出来上がる。そうだ。これこそが自分だ。
両足をおもいっきり使って飛び上がる。すると重力が無いのかそれは止まらずに進み続ける。
──俺は生きる!どんな障害があっても生き延びて見せる!
そうしているとゆっくりと白い者が見えていく。
光だ。これを何年も待っていた。この瞬間を待っていた。
その光に手を伸ばすするとそこから出てきた腕が俺の腕を掴み引き上げた。
目が覚めると知らない天井が視界に入ってきた。というのは嘘ですぐに今の場所を思い出す。ここは歳星の病院だ。そうだ。まだよく聞こえない耳でうっすらと聞こえる音は間違える筈もない、病院だ。
つまり、あの戦いのあと歳星に来て俺を入院させたということ。
「た、戦いは?」
声がよくでないが、それでも声を出してそれが聞こえるという現象に感謝しながら身体を起こそうとした。
寝ていた間全く動かなかった体が少し悲鳴を上げたが想像より痛みは無かったのでそのまま上手に起き上がる。もし何年も眠っていたら体も動かないと思うというのと身体中の細かな傷から眠っていたのは長くても2、3ヵ月程度だろうと推測する。
回りを見渡しているとその部屋の扉が急に開いた。そこにはアガーテを含めた数人のイプシロン、タービンズメンバーが入ってくる。その中にはイプシロンではないメンバーもいたので全滅ではなかったととりあえず安堵する。するとアガーテが急に抱きついてきた。
「ちょっ...アガーテ母さん?」
「もう...心配したんだからね?ゆーちゃんにも後で連絡するよ!」
そういう彼女はとても嬉しそうだその両目から涙が溢れている。本当に俺も愛されている。なのに彼の空間にいて諦めようなんて考えた自分を一度殴りたくなった。
とりあえずそう言うことから思考をずらしてアガーテに問う。
「じゃあ、戦いはどうなった?父さんは?他の母さん達は?」
そう言うと場が急にしんみりとする。みんな顔を伏せて言葉を失った。そうか。死んだのか。元から無茶な作戦だとは思ったがあの弟ならなんとかなるんじゃないかと思ってしまった俺も俺だ。さしずめこれは俺がこんなボロボロになるまで戦ったのに成果が得られなかった事を悔いているのだろう。
「その...名瀬さんとアミダとジョーカーが...」
「そうか...わかった。ありがとう。他のみんなは無事だったんだよね」
「うん...なんとか」
アガーテが俺を強く握りながら言う。声から耐えているということがわかる。
父さん、アミダ母さん、ジョーカーが死んだことは勿論悲しい。けどそれでも他のみんなが生きているんだ。これだけでも今回動いた価値があった。
「ありがとう。生き延びてくれて」
そう言いながらアガーテの頭をゆっくりと撫でる。それに合いの手を打つように涙がこぼれる。
もう死んだ人の事を悲しんで。俺たちの行いは無駄では無いはずだ。沢山の人を救えたのだから。
そう思いながら、もう死体すら無いだろう家族の事を考えた。
──大丈夫。安心してくれ。タービンズは俺たちが守る。少なくとも、ユウが上手く出来るようになるまでは俺がしっかりと引っ張ってやる。なんたって兄貴だからな。だから任せて見守ってくれ。父さん。大きな母さん。
こうしてエストが復活した。医者の話だとモビルスーツの操縦はまだきついらしいが整備くらいなら何度でもなるらしい。本当にパイロットという仕事がどれだけ体力を使うのかを考えさせられた。しかし、それくらい使うのなら僕の体ももう少し筋肉がついてもいいんじゃないかと関係ない事を少し思ってしまったのは蛇足だ。起きたばかりで悪いがエストも作戦に組み込まれることを頭の中で決めた。
出発の数日前。
流石に妊婦であるシュインを行かせる訳にはいかずシュインは作戦のメンバーには入れなかった。他にも弟、妹達とそれを育てるためのメンバー。戦闘向きではないメンバーは置いていくつもりだ。マクマードさんも残りのメンバーはちゃんと守ってくれるらしい。僕はその男を信用した。とにかく、組み込まれなかったことにシュインは不服があるらしく呼び出された。
「ねぇ、ゆーちゃん。本当に行くの?」
「うん。マクマードさんも仕事柄僕達に隠していることはまだあるとは思う」
言った通りだ。マクマードさんも部下の僕達には口が裂けても話せないのような事、いくつもある筈だ。今回の件だってギャラルホルンのマクギリスの護衛とした聞いてないがそれ以外の理由があるのは明確だ。そうでなければテイワズの精鋭なんて集めようとはしないだろう。
「だったら...!」
「でもね。この賭け乗ってみてもいいと思う。最悪護衛はしたのではいさよならと言えば帰ってこれるし、戦果によっては幹部のなかでの僕の扱いが変わる」
簡単に言えば軽く切り捨てられる立場から逃げたいと、そういうことだ。無理に突っ込む気は無いがこれは千載一遇のチャンス。それを逃せば認められるまで長い時間を要する。僕には時間がないのだ。いつ死ぬかわからない戦場に降りたって銃を握って狙撃をして動く。もしかしたら明日死ぬのかもしれない。今やらなくてはならないのは僕が死んでも良くすることだ。父さんが死んだときに思ったのだ。父さんは死んでも僕らがテイワズとして活動出来るように調整してくれた。もし闇討ちされたとしてもイプシロンとタービンズが融合するだけで終わっただろう。それほど立場を安定させたというのにそれを一度僕は崩してしまった。だから、次は僕がそれを積み立てる。そのための時間はあまり無いのだ。
だから、最短で行くしかない。もし僕が死んでも問題ばかりで涙を流す暇さえないのは嫌だ。
「確かにそれは成功すれば確実に景色は変わるよ。でもね、それは成功すれば。失敗したらテイワズどころじゃない。死ぬよ」
「いつだってそうだ。同じくらい苦しむなら上がりは高い方がいいに決まっている。」
賭けるチップの価値が同じなら報酬は多い方がいい。勿論今回もまだ何かしらあるだろう。ただ地球まで護衛してはいさよならで逃がしてもらったとしてもマクギリスがギャラルホルンで何かしらやらかせばこっちまで影響がある。
そう考えていると端末にメッセージが来た。シュインに断って端末を見る。そこには今回の依頼主マクギリス・ファリドに聞いた今回の仕事内容を細かく記載したものがあった。マクマードが話してくれないのなら依頼主に聞けばいいじゃんと何処かのお姫様が思い浮かびそうな案が頭の中に出てきてそれを見る。その中にはギャラルホルンのクーデター、そしてバエルを使用しセブンスターズの大半の勢力を味方につける。最悪足掻く者がいたとしても今回雇った護衛、地球外縁軌道統制統合艦隊と残りのギャラルホルンを使えば戦力差は二倍三倍どころではない。
あのときのか。
それは記載された情報を見てユウが最初に思ったこと。あのとき、とは鉄華団地球支部の救援に言ったときにマクギリスから話があったのだ。アグニカ・カイエルになりたいから力を貸せと。あのときは交渉するのはあくまで鉄華団団長だったので彼を無理矢理押さえ込むことで話を終わらせたが強引に来た。よほど僕たちの力が欲しいのだろうと感じる。しかしテイワズの精鋭全員でも月外縁軌道統制統合艦隊、アリアンロッドには及ばないだろう。二倍とは言わないが圧倒的な戦力差がある。そこまで欲するもので無いはすだ。つまり本当の狙いは過剰な戦力ではなく、アグニカ・カイエルの意思を感じた僕らを戦わせること。なのだろうか。よくわからないが勝手にそう判断する。そして気になる点がもうひとつ。
最後の仕上げ。
ガンダムバエルに搭乗してアグニカの魂がマクギリスを選んだ人間としたということを世界に広げる。
300年前の人物と言えど現在でも最高幕僚を務め、正式なトップとなっているアグニカ・カイエル。彼がもしマクギリスを選んだとすればマクギリスがギャラルホルンのトップとなることも難しくはない。
これが自分がアグニカ・カイエルになると。そういうことか。彼の中ではバエルに乗るものとアグニカ・カイエルは同じ存在なのだろうか。少し違う気がするがそんなことをしても堂々巡りを繰り返すだけなのでここで一度停止する。
そう考えながらもぼくの頭の中にはひとつの考えが浮かんでいた。
それはバエルをマクギリスに渡していいのだろうか。ということ。
確かに今回起こす予定のクーデターを正当化するにはバエルに乗るのが一番手っ取り早い。勿論乗れるのであればだが。しかしマクギリスだってそんなに馬鹿じゃないいままでバエルに乗ろうとしたパイロットが沢山いたことも、それが全て失敗していることも知っているはずだ。それでも挑むと言うことは確証があるのだろう。自分なら行けると。バエルを動かせると。
だからこそ思ったのだ。アグニカ・カイエルの魂をマクギリス・ファリドに渡していいものか。例えば僕がバエルを手にしたとしてもアンドラスはあるし、アグニカ叙事詩を読んでわかったバエルの大体の性能から僕に向いていないことはあきらかだ。ではなぜこんなにも嫌な感じがするのか。目指していたゴールを横から奪われるような感じ。
「ゆーちゃん?」
端末を見ながら考え事をしているとシュインが後ろから覗きながらぼくの肩を叩く。それで現実に引き戻された。
「何?」
「無理はしちゃ駄目だからね。絶対に帰ってきて」
わかっている。だけどいままでの行いからわざわざ無理な方向に進んでいる気もする。結局ここまで来てもまた落とされるだけ。そんな結末になる可能性だって十分あるし、おそらくそちらの方が確率は高いだろう。
無理だって、みんながそういえば僕は引き下がったのかもしれない。でも、このままじゃ駄目なんだってこともよくわかっている。
その事をわかっているから帰ってきてと言ったのだ。危険な事に脚を突っ込むのだから。勿論成功すればテイワズも僕らも安定を得ることができる。父さんが与えてくれたのに気付かず、そして捨ててしまったものを取り戻すことができる。
「わかっている。けど戦場に絶対なんてない」
「知ってるよ。けどね、諦めちゃ駄目だよ。私はずっとここで待っているから、何年たってもずっとゆーちゃんだけを。だから必ず帰ってきて」
本当は彼女だって戦いたい筈だ。しかしそのお腹が柵となり、彼女を歳星から出れなくしてしまう。憎むだろうか。その子を。しかしそうしてはいけないのだ。だからこそ、絶対に生きて帰らなければならない。いいことにここに帰ってくるだけでみんなに会えるんだ。
これがうまく進んだら死んでもいいと考えた筈なのに死にたくない理由が出てきてしまった。本当に、彼女はずっとそうなんだろう。意思を揺らがせる。
もしかしたらこれが終われば切った貼ったから卒業出来るかもしれない。少なくともみんなを卒業することは可能だろう。
「わかった」
意思は決めた。後は貫くだけだ。もう心配することは何もない。僕ははじめから一人では無いのだから。
死んだオルガと生きたエスト...2人の違いって一体...