マクギリス、ガンダムバエルを手にして演説。
ユウ(16)がライル(32)に暴行を受ける。
三日月不憫
「すまないな。ボードウィンさんよ」
「気にするな」
ボードウィンの乗るガンダムヴィダールと接触回線を開いて通信をする。自分が乗っているランチには仮面を取ったガエリオ・ボードウィンが覚悟した顔でいた。それを見ながらあくびをして、ノーマルスーツのヘルメットを外してランチ内に放り投げる。
「俺はあいつの気持ちを理解してやることが出来なかった」
覚悟した顔を全く崩さずにいるが悲痛な声が小さく聞こえる。こいつだって思うところがあるだろう。親友であるマクギリスに裏切られその復讐の為に武器を握り、先程なんて演説をしたというのに。
「人の気持ちを完全に理解することなんて出来ない。出来る筈がない。だから気にするな」
「本当にお前という人間は...いや、いい。兎に角エリオン公と合流しよう」
ランチとヴィダールの回線が切れる。接触回線が開かれていたわけだから離れれば切れるのは当たり前だ。しかしすぐに軽い衝撃を伴ってヴィダールがランチを掴んだ。
「なぁ、お前あんだけ言って家族はどうするんだ?」
「妹はマクギリスの嫁だ。父親がいまボードウィン家を率いている。どちらとも俺が生きていた事に驚いているだろう」
ボードウィンはため息をつきながらそう言った。覚悟はしているので家族の話題を出したって何も起こらないだろう。
そして、その後何も会話の無いまま、青い閃光を出しながら革命軍の防衛圏を抜けた。
「大丈夫?ユウ」
そう声をかけられて目を覚める。目を開いた瞬間に飛び込んでいた情景に目を疑う。
先程まで自分がいたバエル宮殿は殆ど崩壊していていて、壁と天井にはひびが入り、時折塗装が剥がれて落ちる。勿論ロクに質量を持たない物体なので痛い訳ではないがもう完全に崩壊して、潰されるのではないかと思ってしまう。
声がかけられた後ろを振り向くとバルバトスが何事もなかったように立っていた。傷も少なく、まるでセブンスターズのガンダムのように当然といった様子で棒立ちしていた。
痛む腹を押さえながらゆっくりと立ち上がりバルバトスの方によろよろと寄っていく。
なんとなく状況は理解した。ライルと謎のモビルスーツはバエル宮殿を荒らすだけ荒らして宇宙へといってしまったようだ。
「ユウ、動ける?」
バルバトスから声が出てくる。普段のバエル宮殿ならトンネルのように響いていた筈だ。しかしここまで壊されてしまうと筒抜けだ。
「なんとか...兎に角アンドラスがいないとここから動く事すら出来ません」
この場にアンドラスがいないとここから逃げる事が出来ない。最悪バエル宮殿の崩壊に巻き込まれて犬死だ。そこまでする前にバルバトスが動いてくれると思うがアンドラスがいた方が色々と自由だ。
すぐにアンドラスを呼ぶように念ずる。念ずるとはいっても頭の中でアンドラスを呼ぶだけなのでそんなに変わったものではないが。
するとそう時間がたつ前にバエル宮殿のぽっかり開いた穴からアンドラスが入ってくる。水しぶきを上げて豪快に着陸する。彼女らしくない動きだ。
「あれ?新手?」
「バルバトスさん。そいつは仲間なんで攻撃しないでください」
見たことのある機体とはいえそれがパイロット無しで動いていることを不思議に思ったのかバルバトスさんがそう言った。当たり前だろう。普通モビルスーツが動くということは生体ユニットであるパイロットが必要なのは当たり前だ。そうでなければ動かない。動くとすればそれはもうモビルアーマーの分類だろう。
今のアンドラスはモビルアーマーと似て非なる存在。モビルアーマーが積んでいる生体ユニットの代わりであるAIとは違う。悪魔がアンドラスにいるのだ。名前は機体名と同じアンドラス。ガンダムの中には悪魔というAIと違う、しかし生き物とも違う何かが入っている。
今アンドラスを動かしたのはそれだ。つまり、
勿論、モビルスーツパイロットよりうまく動けるかと言われると違うので戦闘にはあまり使えないが、移動だけなら眠らない、離れないの二つが揃ったアンドラスの方が適している。
「悪いな。また新しい仕事だ」
アンドラスの装甲を撫でながらそう言った。アンドラスは仕方ないなぁとでも言いたそうな感じをこちらに与えてくる。彼女はそういう悪魔なのだろう。
それを感じ取ってアンドラスを撫でるのを止めたあと、アンドラスのコックピット内に入る。
計器の調整をしながら周りの確認をする。そこにはいる筈の機体、ガンダムバエルがいない。やはりマクギリスに持っていかれたのだろう。あの状況でバエルに乗らなかったらなんのためにここにきたと言うことになる。自分がそういわれかねないような動きをしているのだが。
しかしこれで決心がついた。ギャラルホルンの状況なんて考えている場合ではない。自分がみんなが安心できるように大きくなる。強くなる。その為にギャラルホルンとのパイプ、テイワズでの地位向上は必要不可欠だ。
「行きましょう。ここにいたってなんにも出来ない」
アンドラスに動こう。と一言言ってレバーを握る。
アンドラスはそれに答えるように温かく包み込む。
リアクター、正常。スラスター、正常。各部間接負荷、許容内。残弾、最大。
「ユウ・タービン。ガンダムアンドラスで出撃します!」
それから数日後。
ギャラルホルンの大半は今回の戦争に関与しないことを決定した。
戦争をするのはマクギリス・ファリド率いるグラディウスを代表としたギャラルホルン革命軍、元テイワズ精鋭、そして本当はギャラルホルンに反する組織。レヴォルツ・イーオン。
目的はギャラルホルンの革命、もしくはギャラルホルンとのパイプ作り。
対するはラスタル・エリオン率いるアリアンロッド。
中でもラスタル・エリオンの妾の子という
目的はギャラルホルンの膿と称する革命の制圧。
世界を管理するギャラルホルンの内部戦争なので反ギャラルホルン組織は勿論、世界中が注目している。マクギリス・ファリドが勝利をすれば世界中は変わる。もしラスタル・エリオンが勝利してもギャラルホルンの内部は変わる。その後ゆっくりとではあるが世界も変わっていく。
変わり方は勿論違う。その詳しいことは知らないだろう一般人も仕事で身体をボロボロにしながらもニュース画面を注視している。
一人の男も端末を持ちながらニュースを睨んでいた。
「さあ、潰し合えギャラルホルン。その角笛が壊れるまで」
とある研究所でその男は大笑いをした。その後ろでは何機かのガンダムフレームの機体があった。
そしてまた別の場所。
何機ものプルーマとアーラが飛び交いながら鉄屑やエイハブリアクターを運んでいく。
だんだんと形になっていくそれは近くにモビルアーマーを侍させてその大きな翼をゆっくりと開く。
その横をひときわ小さなプルーマが通る。それと通信をしながら完成していく天使は喋った。
まもなくだ
まもなく 世界は変容する
人類が殺し合いを 繰り返すと言うのなら
それは
──覚醒の時が 遂に来た
翼を完全に開きながらそれ──ガブリエルは完成したすべてのカメラを起動させた。
アグニカ・カイエル
厄祭戦の英雄 ワタシの仇敵
アナタだけは いや アナタだけでも──
そんな者達が動こうとしていることを知らず、その戦争の渦中に居るものたちは、準備をしていた。
アリアンロッド。
アメリアに案内されながらライルがナイフで遊びながらモビルスーツデッキへと行く。ほぼ無重力だと言うのに重力があっても危険なナイフ遊びをエイハブリアクターの疑似重力があるといえ、ほぼ無重力の空間でナイフでペン回しするように遊んでいる。
「んで、用ってなんだ?アメリアさんよ」
「...貴方のグレイズ...先の戦いで負った損傷が大きく整備士が投げ出してしまいました」
勿論嘘だ。これはライルに別の機体を渡すためのいわば言い訳。そういうことはライルもすぐにわかった。グレイズクルーガの損傷といったら腕が一本さよならしたくらいなのだから。といっても今それを言う気にはならない。
どうせレギンレイズだろう。まさかジュリエッタの使用しているジュリアを使ってもいいなどプライドが高い彼女が許すわけないし、二機目があるとは聞いてない。
レギンレイズは彼女の使っていた物もあるし、余りも数機あった筈だ。それを俺ようにカスタマイズしてくれるのだろう。と胸を踊らせる。こういう時は少年のようにイキイキしているのはおそらくモビルスーツパイロットのさがだろう。
しかしそうしていると馬鹿にされるだろう。だから落ち着きながらアメリアが希望するであろう言葉で繋げる。
「んじゃ新しい機体を用意してくれよ。とっておきが、あるんだろ?」
「ええ。あります。この先に格納されていますがヴィダールの換装作業も合って完璧とは言えませんが」
アメリアはそう言いながら悲しい顔をする。まるでこの機体を使用する、ということが死を意味するように感じる。アメリアがどこまで自分の事を理解しているかわからないがその目は全てを見透かすように見えている。
こいつは司令官として必要な物が一つ足りない。それは残虐性だ。自らの目的の為に残酷に動くことが出来ない。と言うか自らの目的、マクギリスのような胸に籠った野望と言うものがない。足りないのはそれと、それの為なら全てを投げ出せる覚悟。それだけだ。
そう考えているとモビルスーツデッキの奥につく。
そこには整備士が群がりながら一つのモビルスーツが今か今かと待っていた。
黒いモビルスーツ。そのバックパックはおそらくヴィダールの物を転用したのだろう。そのバックパックパーツの両端のスラスター部外側に太刀がそれぞれ一本、合計二本ラックしてある。腰パーツの前と後ろはまんまヴィダール。つまり、そこの材料はないと推測される。
黒いモビルスーツと今言ったが勿論それ一色というわけではない。所々にある灰色のパーツが輝く。
「この機体は...」
圧倒的されながらもそれだけを返す。頭ではなんとなく理解できている。この機体は、この構造の機体は世の中で一種類しかない。このフレームはそう。ずっと自分が敵として戦ってきた機体と同じ。
「ガンダムフレームの機体、個体名はベリアル。ここまで言えばわかりますね?我がエリオン家秘蔵のモビルスーツです」
ガンダムベリアル。初代セブンスターズ、ドワーム・エリオンの乗機。ドワームは指揮もしながらモビルアーマーを狩っていたのでセブンスターズ内でもそこまで上というわけではないがセブンスターズというだけでエリート中のエリートに違いない。
「何で俺にそんな機体を用意しているんだ。そっちの家の誇りを踏みにじるような物だぞ」
ほとんどの兵はこの決断に反対するだろう。この戦いはアメリアの指揮能力さえあれば十分勝てる。俺に自分の家の誇りを使わせてまで動くような戦いではない。
しかしアメリアは明後日の方向を見ながらうずくまった。
「私はエリオン家を継ごうと思います。しかし、私はモビルスーツを扱うことが出来ません」
ラスタルは一般兵並みにはモビルスーツが扱えると聞いたことがある。ガンダムを使えないことはないがそこまで強いというわけではない。それと比べるとアメリアはもっとひどい。一度グレイズを使わせたらしいが、移動だけで精一杯だったのだ。ガンダムなんて使えない。
「だからと言って俺に渡すことはないだろう。俺はレギンレイズだと思ったのだが」
レギンレイズも性能が高いモビルスーツだ。グレイズにひけを取らない性能。勿論グレイズクルーガなんて性能から見れば天と地ほどの差。そこで満足だったのだ。
「貴方じゃレギンレイズでは足りないでしょう...それにこの戦いは激しくなります。周囲の目は私が何とかします。だからお願いします。使ってください」
アメリアが初めて、頭を下げた。心からのお願いというのは誰でもわかる。勿論周囲の目なんて俺からすれば関係無いので願ったり叶ったりなのだがアメリアはそれで本当にいいのだろうか。妾の子だから、自分の家に誇りがない。なんて言われた日にはエリオン家の威光も無くなっていく。
しかし、そんなことをアメリアが考えない筈ないのだ。彼女は優秀な人間であり、いつかこのアリアンロッドも継ぐ。
その前に確認したいことがある。
「顔を上げろ。上司が部下に頭を下げては威厳が無くなる。なぁ、アメリア。最後に聞きたいことがある」
「なんですか?」
アメリアはゆっくり顔を上げてそう言った。夢も希望もある一点だけを見ていた俺がこの機体に乗るためには一つだけ大切な事がある。
「お前、この戦争が終わったら、エリオン家を継いだらどうする。まさかマクギリスの件を終わらせてやり直しにするというのか」
強めの声で脅すように言う。大義の無い。もしくは行き着く道が同じ人間はいつか裏切るときが来る。その時に、その家を代表していたモビルスーツには乗りたくない。
「平和。と言っても今とは違う世界を作りたいんです。でも、お父様の目指す世界とは違う。産まれや階級で差別されない...夢物語でしょうか」
──夢物語でしょうか。すみません!その、こんな立場だからって...
──良いと思います。いつか叶えましょう。
「私達で」
遠い記憶が重なって何故かこんな張り積めた時だというのに笑えてしまった。結局どうあがいても俺は、彼女を忘れられない。ずっと...愛しているのだろう。
「ライル?」
そう見るとアメリアの一つ一つの仕草が彼女と重なる。
俺の新たな姓をくれた。一生を誓った相手に。
もう終わりだ。此方も覚悟はもうできた。俺は水先案内人だ。人の夢の為の道を繋ぐ。その為の事はもうほとんど終わった。
ならば俺に出来ること、最後に出来る事は。
「わかった。ありがとう」
彼女の意思を尊重するのみだ。
ライルがゆっくりと過去に戻っていく。
あれ?最強じゃね?どうするの?ねえ?ガンダムまで手にしちゃうし...ベリアルって...グラムどこ行ったの?次回!機動戦士ガンダムテイワズの狙撃手!
思いの交差(後編)!
お楽しみに!